岡幸二郎にインタビュー~ スペシャル・プレミアム・コンサート「ベスト・オブ・ミュージカルIII」

2017.3.2
インタビュー
舞台

岡幸二郎 (撮影:高橋定敬)


ミュージカル界で華々しい活躍を続ける岡幸二郎が、フル・オーケストラをバックにミュージカルの珠玉の名曲を歌い上げるスペシャル・プレミアム・コンサート「ベスト・オブ・ミュージカルⅢ」。今年初演から90周年を迎える名作「ショウ・ボート」をコンサート形式で取り上げるなど、今回も盛り沢山に送るこのコンサートへの意気込みについて聞いた。


――このコンサート、「ベスト・オブ・ミュージカル」も今回で第三回目となりました。

もともとは、2014年、デビュー25周年を記念したCD「ベスト・オブ・ミュージカル」の発売と共に企画されたコンサートなんです。それまでもオーケストラをバックにしたミュージカル・コンサートには出演したことがありましたが、これだけの大人数のオーケストラをバックとなると、経験がなくて。オーケストラをバックにして歌うから、後ろからものすごい圧は来るし、指揮者は見えないし、音の返しも普段とは違ってほとんどないし。舞台で緊張することってあまりないんですが、このコンサートの第一弾のときはさすがに緊張して、一曲歌い終わるごとに水を飲まなくちゃいけないくらい喉がからからになって。終演後、誰が楽屋に面会に来てくれたかも覚えてないくらい(笑)。二回目ともなるとだいぶ慣れてきましたね。

CDを発売するときにそもそも考えていたのが、作曲家、編曲家の意図した音を、電子音なしに譜面通りに再現すること、つまりオーケストラを活かしたナンバーを選ぶということでした。ただ、我々はマイクを持って歌うことに慣れている。そして、ミュージカル・ファンの方だけではなく、オーケストラのファンの方もいらっしゃいますし、コンサート・ホールでの上演ということもあって、音響さんは音作りに毎回苦労されていると思います。

岡幸二郎 (撮影:高橋定敬)

今回、第一部では「ショウ・ボート」をコンサート形式でやります。2015年に富山のオーバード・ホールでミュージカル版の上演があり、僕も出演しましたが、東京ではまだ上演されていない。将来的には東京でも上演したいという思いがあるんですが、まずはコンサート形式でと思っていたら、ナレーションやセリフなども盛り込まれたそれ用の譜面が見つかって。作品のテーマは普遍的で、今見ても決して古臭くない。そして壮大でクラシカルな楽曲は、今聞くと逆に新鮮なんじゃないかなと。昔のミュージカルはメロディラインが心地いいものが多いですよね。それだけに、ブレスを長くとらなくてはいけないとか、ノリでごまかすことはできないとか、歌う方にとっては大変だったりする。僕は大学で教えていますが、その際、昔のミュージカルの楽曲を取り上げた方が勉強になると感じますね。第二部では、これまで二回のコンサートで取り上げきれなかったCDからの曲を歌います。

ゲストには毎回、歌と作品の役と、その両方に合う方をお呼びしたいと思っています。全員共演した方ばかりですね。ちあきしんさんは歌の上手い方で、宝塚時代から舞台を観ていて、「マイ・フェア・レディ」では僕のお母さん役を演じた方。土居裕子さんは2015年の富山の「ショウ・ボート」で相手役を演じた方。三戸大久くんは武蔵野音大を出て初めて出たミュージカルが「キャンディード」で、そこで共演しました。その後クラシックの方で研鑽を積んでいて、昨年は一年ウィーンに行っていて。中井智彦くんは東京藝術大学を出て「レ・ミゼラブル」の司教を演じたときに共演して、その後、彼は劇団四季に行ったんだけれども、お互い舞台を観ていて。渡辺大輔くんは昨年「1789」で共演して、今年「ロミオ&ジュリエット」でも共演しましたが、この間にものすごく伸びたなと感じて。非常に真面目な人ですし、オーケストラをバックに歌う経験は勉強になるんじゃないかなと思って呼ぶことにしました。自分自身、親にミュージカルをやりたいと言っても何のことだかわからないような田舎から、ミュージカルをやりたいという一心だけで出てきて、その思いで今も続けてきていて。事務所にも入ってないし、何の後ろ盾もなくやってきているわけで、だから、頑張っている人を見ると応援したくなるんですよね。

岡幸二郎 (撮影:高橋定敬)

――世間にはまだまだ、ミュージカルなんて……という方も多いと思いますが、そういう方たちにミュージカルの魅力をアピールするとしたら?

そういう方、ごまんといると思いますよね。このコンサートについていえば、ミュージカルにもこんなにきれいな曲がたくさんあるんだよということを知っていただきたいなという思いがありますし、ミュージカル・ファンにも今後、オーケストラのコンサートに行ってほしいなという思いがありますね。

ミュージカルの魅力、それは非現実的なところじゃないですかね。いきなり歌い出したり踊り出したりして気持ち悪いというタモリさんの言葉がありますが、それってつまりは感情が一番盛り上がる瞬間ですよね。そして、例えばとてもうれしいことがあったりするとき、人は何かしらそれを表現しているんじゃないかと思うんです。家事しながら鼻歌歌ったりとかね。もしかしたらちょっと歌ったり踊ったりもしているかもしれない。そう考えると、あながち日常生活にないことだとは言えないと思いますし、それのちょっとオーバーなのがミュージカルかなと。

――ちなみに岡さんは日常生活で、そういったミュージカル的表現をしていることはありますか。

(笑)僕はだいたい自転車なんですけど、乗ってるときはずっと歌ってますね。歌えないから電車にはあんまり乗らない(笑)。役者仲間で車通勤の人で、乗ってる間ずっと歌ってるっていう人もいますよ。

――それにしても、いきなり歌い出したり踊り出したりが気持ち悪いと言われてしまうのって何故なんでしょうね?

役者のせいだと思いますよ。僕たちのせい。やっぱり、セリフから自然に歌う、踊る、その“自然に”ということができていないんだと思います。だから僕、昔から逆算して組み立てていて。この歌を100%のテンションで歌いたいと思ったら、このシーンの最初はこれくらいのテンションにしておこうとか。それを、十分にテンションが上がり切らないままいきなり歌うときに上げてしまうと、その無理した部分が不自然に映るんだろうなと。

岡幸二郎 (撮影:高橋定敬)

――となると、物語があって役作りがあってという普段のミュージカル作品と、今回のようなコンサートとではまた取り組み方が違ってくるのでは?

そうなんです、そこが難しいところで。下手したら全部のナンバーが、作品も違う、キャラクターも違う、国も違うとなってしまうので、一曲一曲ごとにどれだけ盛り込んでいけるか、曲が鳴った瞬間にどれだけお客様にその曲の世界に入っていただけるか、それが勝負ですよね。そのあたり、歌手の方と、我々ミュージカル役者が同じ曲を歌っても、違ってくるところかもしれない。かと言って、その作品を前に観た方だけが世界に入れるというのでもいけないし。どうやってすべてのお客さんに入ってもらえるかですよね。それに、ミュージカルって物語の流れの中でその楽曲があるわけで、全体から一曲だけピックアップしたときに、それって何のこと? と言われないようにしなくてはいけないから、そこも難しい。だから構成も非常に考えますね。

第二部では、今年「レ・ミゼラブル」が日本初演から30周年なので、その曲をフィーチャーするんです。2012年にミュージカル版の映画化があって、それ以来、若い方にも受け入れられるようになったところがあるなと感じていて。ただ、クロード=ミシェル・シェーンベルクの曲って、一曲だけピックアップするのが難しいですね。アンドリュー・ロイド=ウェバーとか、フランク・ワイルドホーンとか、案外キャッチーで持ってきやすいんです。ただ、スーザン・ボイルが「夢やぶれて」を大ヒットさせたから、「レ・ミゼラブル」からも若干ピックアップしやすくなりましたよね。

――ちなみに、岡さんが初めてミュージカルに恋した瞬間は?

15歳のとき、劇団四季の「コーラスライン」を観に行って、開演となって明かりがぱっとついた瞬間、ぞくっと来て、「これやろう」と思ったんですよね。観終ってからとかじゃないから自分でもよくわからない(笑)。ここに入ろうと思って、大学を出たときにオーディションがあったから受けたら入っちゃって。歌も踊りも勉強してないのに。

――その15歳のときの直感は正しかったと。

本当に好きでやっているので苦になったことは一度もないですね。おもしろいです。未だにおもしろい。新しい作品に入るともちろんまた違うおもしろさがありますが、「レ・ミゼラブル」なんて800回以上出演していても未だにおもしろいですよね。それは作品の魅力なんでしょうね。好きだから、商売としてやってないんです。フリーのいいところで、やりたくないことはやらないし、おもしろそうでやりたかったらどんなに小さな舞台でも出るし。お客さんは騙せない。出ている側が、これっておもしろいよって自信をもって言えることが一番だと思うんですよね。

もともと歌が好きだったということもあるのかな。ミュージカルの舞台に立っているとね、音の中で自分の人生が始まり、終わっていく、そんな感覚があるんです。そうやってずっと音の中にいるから、家に帰ると逆に音楽はかけないですよね。

岡幸二郎 (撮影:高橋定敬)

取材・文:藤本真由(舞台評論家)   写真撮影:高橋定敬

公演情報
岡幸二郎 スペシャル・プレミアム・コンサート「ベスト・オブ・ミュージカルIII」
 
■会場:東京オペラシティ コンサートホール (東京都)
■日程:2017/3/28(火)19:00
■出演:
岡幸二郎(ヴォーカル) 
竹本泰蔵(指揮)/日本フィルハーモニー交響楽団(管弦楽)
ゲスト:ちあきしん/土居裕子/三戸大久/中井智彦/渡辺大輔
■曲目:
第1部 ミュージカル『ショウ・ボート』<コンサート形式上演> 
「オール・マン・リヴァー」/「メイク・ビリーブ」/「ユー・アー・ラブ」/「あの人を愛さずにいられない」ほか 
第2部 『ベスト・オブ・ミュージカル』 
「夢やぶれて」/「スターズ」(レ・ミゼラブル)ほか 
※演奏曲目、曲順は変更となることがございます。あらかじめご了承下さい。
■公式サイト:http://www.ints.co.jp/best-of-musical2017/index.htm

 
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