『GS近松商店』鄭義信&観月ありさが大阪で会見
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「できるだけ希望というものを失わずにやっていきたい」(鄭)
2010年になんばから上本町に移転した劇場[新歌舞伎座]が、今年で5周年を迎える。その記念として、関西生まれの劇作家・演出家の鄭義信が2006年に発表した群像芝居『GS近松商店』を関西で初上演。しかも数々のドラマで活躍し、最近は舞台にも挑戦し始めた観月ありさが、鄭作品初出演を果たす。この2人の合同取材が、大阪で行われた。
本作は2006年に、劇団「椿組」の野外公演のために描き下ろされたもの。江戸時代の人気作家・近松門左衛門の代表作『女殺油地獄』『曾根崎心中』を掛けあわせ、しかも舞台を現代の関西の田舎町に置き換えている。この舞台設定と、近松が大阪ゆかりの作家ということもあって、鄭はかねてから関西での上演を望んでいたという。
「新歌舞伎座さんから話があった時「こういう作品があるんです」とお願いしました。近松の原作は、人間関係の部分であまり書き込まれていない所があるんです。それで『女殺…』の部分では、主人公のGS(ガソリンスタンド)の女と男がどう歩み寄るのかなど、そういう所を随分書き足しました。近松の作品は『曾根崎心中』でお金のために身を持ち崩していく所など、現代に通じる部分がすごく多い。ただこの作品は、日々殺人が繰り返されていく世の中で、生きていることの意味みたいなものを考えてみる…という所が、原作とちょっと違う要素のような気がします」(鄭)
観月が演じるのは『女殺油地獄』のお吉に当たる菊子。GSを切り盛りする人妻で、彼女が吃音の青年・光(渡部豪太)と親しくなったことで、悲劇の幕が上がることになる。
「私の役どころだけでなく、他の役もそれぞれの立場や愛が描かれていて、全体的な世界観がすごくある作品です。菊子は、周りがいろいろヤンチャしても流されないという一方で、外の世界に対する強い憧れもある。私はドラマだとすごくストレートな役が多いんですが、今回はそうではないですね。他の役者さんたちとよく見えるバランスを考えながら、舞台ならではの見せ方ができたらいいなと思います」(観月)
そして最大の見せ場となるのは、菊子と光が油まみれで格闘するラストシーン。これがどんなものになるのかは、鄭も観月も大きな難関になると予想しているよう。
「ト書きだと一行ぐらいでしか書かれてないけど、これがどの程度もみ合う感じでしょうかね? 人生の中で、油にまみれるってないですから(笑)」(観月)
「油は大量に使いたいと思ってるので、ずいぶん油まみれになると思いますよ(笑)。油にまみれるというのは、ある意味すごくエロティシズムであり、スペクタクルですよね。ただ演出よりも、それぞれの人間のぶつかり合いみたいな所でダイナミズムが見えればなあと。どんどん閉塞感に向かっていく現代日本の中で、僕はできるだけ希望というものを失わずにやっていきたい。この割と暗い作品の中で、どう希望を持ってもらうかという所を、これから役者さんたちと一緒に模索していきたいと思ってます」(鄭)
大阪が生んだ不世出の作家・近松門左衛門の世界が、現代の大阪でどのようによみがえるか。江戸時代も現代も大して変化などしていないかもしれない人間たちの、愛と死の葛藤の果てに生まれる“希望”の姿を目撃しに行ってみよう。