小さな老舗ライブハウスの偉大な歴史――NOKKO、miwa、マンウィズら出演のshibuya eggman35周年武道館ライブ

2017.3.8
レポート
音楽

LIVE EGG BUDOKAN -shibuya eggman 35周年大感謝祭-

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LIVE EGG BUDOKAN -shibuya eggman 35周年大感謝祭- 2017.2.19 日本武道館

1981年のオープン以来、若手アーティストの登竜門として音楽シーンを支え続けてきた老舗・shibuya eggmanの35周年記念ライブが日本武道館で行なわれた。当日はeggmanに縁のある全7組のアーティストが出演したほか、渋谷のeggmanでもスペシャルライブを同時開催。東京カランコロン、テスラは泣かない。らが出演したステージとも中継を繋いだり、福山雅治やEXILEの関口メンディーからのお祝いコメントが届くなど、4時間におよぶ長丁場を様々な企画で盛り上げるスペシャルな一夜となった。

トップバッターのmiwaはサンバのリズムにのせて透明感のある歌声を響かせる「君に出会えたから」でライブをスタートをさせた。「日ごろのストレスは溜まっていますか?そのストレスを発散しますか!?」という言葉からビビットな照明が光るなか、アッパーなバンドサウンドをバックにフリをつけて歌う「ストレスフリー」へ。初っ端から武道館を元気いっぱいに盛り上げていく。miwaにとってのeggmanは2010年3月3日にメジャーデビュー記念ライブを行なった“はじまりの場所”だ。「eggmanでスタートできて、いまの私がいます」。そんなMCに続けて披露されたデビュー曲「don't cry anymore」は、当時19歳だったmiwaが“強くならなきゃ”と、自分に言い聞かせるように綴った決意のナンバーだった。その曲を初心に返るように丁寧に届けると、フライングVに持ち替え、浮遊感のあるシンセと4つ打ちのビートが心地好い「ヒカリヘ」でライブを締め括ったmiwa。「最後まで楽しんで行ってください!」と言い、続くsumikaへと笑顔でバトンを託した。

まるでサーカスか遊園地に足を踏み入れたような心踊るSEはPlus-Tech Squeeze Boxの「Dough-nut's Town's Map」。その曲はハッピーで賑やかなバンドサウンドを奏でる4人組ロックバンド・sumikaにぴったりの登場だった。小川貴之(Key/Cho)が奏でるキラキラとしたピアノのフレーズとカントリー風のハートフルな演奏とが絡み合う「Lovers」から、躍動感溢れるライブアンセム「ふっかつのじゅもん」へ。目まぐるしく展開を変える楽曲にフロアからは一斉に手が挙がった。sumikaが武道館に立つのはこの日が初めて。MCでは片岡健太(Vo/Gt)が、「ぶっちゃけるとワンマンライブじゃなかったら、武道館でライブをするなんて嫌でした」と明かしつつ、家族のように支えてくれたeggmanの仲間たちの想いを背負うことで、彼らはそのステージに立っていた。ラストソングの「「伝言歌」」では、「マイクはいらない!」と、演奏を止めて生声でお客さんと一緒に大合唱を巻き起こしたsumika。「今日この光景が明日から生きていく活力になりなりますように!」(片岡)。心を尽くした“伝えたい”の想いは、彼らを初めて見た大勢のお客さんにもきっと響いたはずだ。

Czecho No Republicもまたeggmanには特別な想いを抱いていた。「バンドを結成して初めてのライブがeggmanで、メンバーチェンジの後初めてライブをしたのもeggmanだった」(武井優心(Ba/Vo))。バンドの大事な節目を共有したライブハウスへの感謝を爆発させるように、1曲目の「Amazing Parade」から熱の込もったライブを届けていく。山崎正太郎(Dr)が繰り出すパンキッシュなビートを軸にした祝祭感の溢れるアンサンブルに、武井とタカハシマイ(Cho/Syn/Per)の男女ツインボーカルが優しくメロディをなぞる。砂川一黄(Gt)が性急なギターを刻んだ「No Way」、八木類(Gt/Cho/Syn)のシンセベースがボトムを支えたEDMナンバー「Firework」。チェコ鉄板のセットリストで最高にハッピーなムードを会場に作り上げていく。圧巻だったのはラストの「ダイナソー」。“恐竜”の名を持つスケールの大きなタイトルのとおり、広い会場でみんなと一緒に歌うために作ったナンバーが武道館に特大のシンガロングを巻き起こした。彼らもまた本音を言えば、武道館は「ワンマンでやりたい!」と言っていた。「こんなに大勢の前で宣言したので、いつか絶対に叶えたいです」(武井)とも。続くSUPER BEAVERもチェコもsumikaも、この日の武道館は恩人の35周年を祝う場であると同時に、いま、少しずつ手繰り寄せつつある夢への新たな決意を固める舞台でもあったのかもしれない。

柳沢亮太(Gt)、上杉研太(Ba)、藤原”28才”広明(Dr)の楽器隊がスタンバイしたあとに、最後に渋谷龍太(Vo)がステージに飛び込んでくると、衝動的でパワフルなバンドサウンドを爆発させた「秘密」から、SUPER BEAVERのライブはスタート。お立ち台に足をかけ、身を乗り出すように歌う渋谷が容赦なく浴びせかけていく歌には、“好きなことに胸を張って口にすることで未来は開く”というメッセージが込められていた。聴き手に対して“あなたたち”ではなく、必ず“あなた”という一人称で届けるビーバーの一対一の想いは、どんなに広い会場でも直接心に揺さぶりかけてくる。ラスト1曲を前にして渋谷は語りかけた。「何かを成し遂げるためだけに、何かを積むわけではなく、自分が歩いてきた道のりで一体何があったか、誰が手を差し伸べてくれたか、果たしてそれに自分が何を返せたか、それを覚えていることのほうが大事だと思う。それを大切にした結果が、この35周年なんだと思う」と。そんな泥臭くて熱い、彼らしい祝辞に続けて届けた「人として」は本当に素晴らしかった。人としてかっこいい生き方とは何か。それをメンバー4人が運命共同体となって表示する意志のナンバーはあまりにも誇り高くて美しかった。

5匹のオオカミたちが登場するや待ってましたとばかりに喝采が武道館を包み込んだ。サイレンのような警告音が鳴り響き、「DON’T LOSE YOURSELF」から次々にへヴィなロックサウンドを投下。MAN WITH A MISSIONのステージが幕を明けた。ジャン・ケン・ジョニー(Gt/Vo/Raps)は「今日ハ懐カシイ曲シカヤラナイノデ、思ウ存分カカッテ来ナサイ!」と、宣言。この日はまるでeggmanへ捧げるような初期曲中心のセットリストだ。DJサンタモニカ(Djs/Sampling)のスクラッチが炸裂した「NEVER FXXKIN’ MIND THE RULES」からスクリーンに巨大なミラーボールを映し出した「DANCE EVERYBODY」へ。凄まじい破壊力とダイナミズムを武器にいまや世界へと突き進むバンドの原点も、全て渋谷の小さなライブハウスから始まったと思うと感慨深い。MCではジャン・ケン・ジョニーが「コノライブハウスガナカッタラ我々ハイマセン。コレカラモ日本ノライブシーン、バンドシーンノ中心トシテ、音楽ヲ生ミ、育テ、見守ル、素敵ナ箱デイテクダサイ」と真摯に35周年を祝福すると、ラストは最大級の盛り上がりを見せた「FLY AGAIN」で貫禄のフィニッシュ。お客さんが頭上高くに掲げた腕を一斉に左右へと振る素晴しい光景はこの日のハイライトだった。

総合司会として転換の時間もトークで楽しませてくれたISEKIのステージでは、ジャン・ケン・ジョニーとmiwaを迎えたスペシャルセッションで、キマグレンが解散してから初めて「LIFE」が披露された。パーカッシヴなサウンドにのせて会場がタオル回しで一体になると、ISEKIと入れ替わりでトリのNOKKOがステージに現れた。

カミカゼ・ボーイ(Ba/Cho)を含むスペシャルなサポートバンドが繰り広げるポップでダンサブルな「76th Star」を皮切りに、80年代にREBECCAのボーカリストとして一世を風靡した、あのパワフルな歌声が武道館に響きわたった。「リアルエイティーズ、NOKKOです!」。会場の若いロックファンを意識したであろう自己紹介のあと、タイトルをコールしただけで大きな歓声が湧いたピアノバラード「Maybe Tomorrow」、スタンドマイクを蹴り上げるパフォーマンスでも魅せた「RASPBERRY DREAM」、上着を脱ぎそれをパートナーのようにして踊った「人魚」。名曲の数々を惜しげもなく披露するベストセレクションなライブは「フレンズ」でフィナーレを迎えると、そのままステージに出演者が全員呼び込まれた。最後に届けたのはeggmanの名前の由来になったというビートルズの「I Am the Walrus」。総勢20名を超える出演者たちがズラリと並んだ贅沢なセッションでは、お客さんが大ジャンプをして、頭上には銀テープが舞い、最高の祝祭感に満ちた大団円となった。

この日のライブの途中でeggmanの歴史を振り返る年表がスクリーンに流れる場面があった。そこには、桑田佳祐、X JAPAN、プリンセス プリンセスといった錚々たるアーティストが下積み時代に、その場所で経験を積んできたことが記されていた。キャパシティは350人ほど。そのフロアは武道館で言えば、ステージから最前列の間のスペースに収まってしまう小さいハコだ。だが、そんなライブハウスで35年間大勢のスタッフが愛情を込めて若いバンドを育んできた歴史が、いまの音楽シーンの礎となっている。そんな素晴らしい場所がこれからも50年、70年と続いてほしい。と同時に、eggmanのみならず、大勢の人がライブハウスに足を運んでみてほしい。それがライブを観終えて抱いた心からの願いだった。


取材・文=秦理絵

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