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音楽がすっと心に響く、居心地のいいバーを紹介 『よい音楽で、よい時を』#9 The Adirondack Cafe

2017.5.5
特集
音楽

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NY仕込みの粋なマスターがいる食堂

音楽をよりよい環境で聴くために、こだわって作られたミュージックバーやジャズ喫茶などを紹介する本特集。今回は、人生のすべてをジャズを中心とした音楽に捧げてきた、こだわりのマスターが営む食堂『The Adirondack Cafe(アディロンダックカフェ)』。深い知識から生み出される“空気を読んだ選曲”に包まれながら、メニュー豊富なカジュアル料理とドリンクを楽しむ。そんな最高にヒップなお店なのだ。


 

本当はライブなんてやるつもりはなかったんですよ

古本をはじめ、スキーやアウトドア用品など、古くから専門店が並ぶ神保町(東京都千代田区)。最近はカレー店の激戦区としても知られている。この街は自然とこだわりの強い人を集めてしまう引力があるのかもしれない。神保町の駅から徒歩5分ほどの雑居ビルにある『Adirondack Cafe』もまた、マスターはかなりのこだわり屋だ。店内はカウンターとテーブル席を合わせて24席。ジャズに関連したアイテムが多く飾られているが、雰囲気はジャズ喫茶というよりも気軽なアメリカンダイナーといった感じだ。ここでは、毎週火曜と土曜にはライブがおこなわれ、月に1回のSP盤コンサートも開かれる。
「うちは食堂だから、本当はライブなんてやるつもりはなかったんですよ。でも、たまたまピアノをもらう機会があって、そうしたら奥の壁にぴったり収まっちゃって。そのうちにレコード屋時代からの常連さんでジャズプレーヤーの人が”ライブをしよう”って言い出してね」と、マスターの滝沢 理(おさむ)さんは早口で語った。

アディロンダック・カフェ・レコードを立ち上げ、店内でのライブ音源をCD化。ジャケ写は続木力『DOXY』。写真はカメラのマミヤ創業者である、間宮精一氏が撮影した1930年代のNY。


 

デザインやフォント含め、滝沢さんがもっとも気に入っているポスター。映画『RHYTHM AND BLUES REVUE』(1955年)のもの。しかし、この映画はまだ観れていないとか。


レコードを買い付けながらNYで20年

じつは滝沢さん、その経歴がなかなか変わっている。ジャズを聴くきっかけになったのは、中学時代に友人宅へ遊びに行ったときのこと。最初は音よりもレコードジャケットのデザインに魅了されたという。以来、アメリカのデザインが好きになり、インテリアなどすべてにおいて影響を受けていった。
その後、青年期を迎えると昼間はジャズ喫茶で働き、夜は有線放送でレコードをかける仕事をするようになる。当時の有線放送はターンテーブルが2段になってずらり並んでおり、そこで波の音を流しながらビーチ・ボーイズをかけるなど、本来は禁止されていたがMIXしながら曲をかけたりもしていた。そんな生活を続けているうち、ついにジャズ熱を抑えきれずに1970年代半ばに渡米。西海岸から徐々に移動し、NYに腰を据えてからは料理人として働きながら、休日になるとレコードを買い付ける日々。買い付けたレコードは日本向けにオークション形式で通販をしていたという。そんな生活を20年間続けたことで日本では名の知れたコレクターとなっており、NYまでジャズ専門誌の取材が来たほど。
「アメリカに行かないとわからないことがあるんですよ。いまは若い人もどんどんNYに行って体験しているでしょ、素晴らしいですよね。向こうは当時、その辺にビル・エヴァンスやディジー・ガレスピーが歩いていて、気軽に挨拶したりとか身近だったから。そういうことを経験しているからこそ、レコードだけじゃなくて、雑誌やポスター、チラシとかジャズに関わるすべてのもの売っていたんです。音楽だけでなく、ジャズ文化全体を日本に紹介したくて」

ターンテーブルはガラード401を使用。現在、アンプはソニーPA-F-3000を使っているが、クラウンとダイナゴの修理が終わったので時期に復活する予定。スピーカーはJBLのランサー99。


 

レア盤のレコードを売る前に、ジャケットのスキャンをしてきれいな状態でCD-Rに保存していた。そのストックが大量にあるため、店内では基本的にCDをかけていることが多い。


とにかく若い人に来て欲しいんです

その後、90年代半ばに帰国し、神保町で『Adirondack』という名の輸入レコード店をオープンさせる。そこはオリジナル盤しか扱わない店としてマニアから高い支持を集めた。気になる店名は、家族で旅していたときに訪れたニューヨーク州にある自然公園の名前から付けられている。
「都会では聴けない自然の音をそこで聴いたんですよ。その思い出が強くて、日本に帰ってきたときに妻がつけたんです」
神保町にあったこともありアウトドア店と間違えられることも多かったというが、2008年にレコード店をやめ、現在の場所にカフェをオープンしてからもその名前は受け継いだ。
「とにかく若い人に来て欲しいんです。彼らを通じていまの音楽を知りたいから。音楽をMIXしていくDJカルチャーとかも大好き。でも、そういうところに行くチャンスがなくてね。何をかけるかは、その人がどんな人生を送ってきたかが出るでしょ? 本当はそういう人たちと知り合いたいんだよ」
滝沢さんは、いまでも音楽に対しては変わらずに貪欲だ。ラジオを中心に新しい音楽に触れ、お店では客層や雰囲気に合わせて選曲を楽しんでいる。店内には世界中のレア盤ジャズCD-Rが大量にストックされている。それらはレコード屋時代、売る前にダビングしていたものだ。
「ジャズについてなんて語れないよ。ジャズっていう字体は簡単だけど、そこには凄過ぎるほどのアメリカ文化の重みがあって、一言でなんか言い表せられない。音楽だけじゃなくて、そういう文化も背負いながらお店をやってるから」


もう歳だし、またNYに住みたいね

取材が少し長引き、お店のオープン時間になった頃。平日ながら店内には続々とお客さんがやってきた。そこで最後に、これからやってみたいことを聞いてみた。
「もう歳だし、またNYに住みたいね。人生の半分はアメリカだったけど、振り返ってみるとあっという間だったから」
現在はランチ営業をお休みしているが、食堂と語るだけあって食事のメニューは豊富。一番人気はアディロンダックバーガー。美しい音に包まれる店内は居心地抜群なので、まずは気軽に仲間と来店することをおすすめしたい。それが音楽好きの若者であればなお良しだ。

フードの一番人気は「アディロンダックバーガー」¥1,000。その他、ロコモコ丼やガッパオライスなどもある。オリジナルのロゴが入ったコーヒーカップにも注目。


 

カウンターとテーブル席が並ぶ細長い店内。毎週火曜と土曜にはライブも行われる。音でいっぱいになるように、あえてスピーカーとスピーカーの距離を離しているとか。


 

取材・文=富山英三郎 写真=JAMANDFIX(REALROCKDESIGN)

店舗名 The Adirondack Cafe
住所 東京都千代田区神田神保町1-2-9 ウェルスビル4F
営業時間 15:00~23:00
定休日 日曜・祝日
電話番号 03-5577-6811
オフィシャルサイト: http://ameblo.jp/adirondackcafe
 
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