三宅裕司&藤原紀香インタビュー! 熱海五郎一座 『フルボディミステリー 消えた目撃者と悩ましい遺産』
三宅裕司/藤原紀香
昨年は約5万人を動員した“東京喜劇”の代表格・熱海五郎一座が、2017年6月2日より新橋演舞場で、新作『フルボディミステリ― 消えた目撃者と悩ましい遺産』を上演する。今年のゲスト女優は藤原紀香。豪華キャストが顔をそろえた爆笑の製作発表会見の後、座長の三宅裕司とゲスト女優の藤原紀香がSPICEのインタビューに答えてくれた。
『熱海五郎一座』は、2004年に伊東四朗が旗揚げした『伊東四朗一座』をベースにした東京喜劇の演劇ユニット。伊東が出演できない年の公演は、三宅裕司が座長をつとめ『熱海五郎一座』を名乗る。ちなみに熱海五郎とは、“伊東ならぬ熱海”、”四朗ならぬ五郎”と置き換え、三宅が命名したもの。
熱海五郎一座は、最高。
―― 今回のタイトルにある『フルボディミステリー』にはどんな意味が込められているのですか?
三宅裕司(以下、三宅) 重いミステリー。そして芳醇な笑い。ここがワインのフルボディと重なるイメージですね。同時に、フルボディにはもともと「肉感的な」という意味があります。つまり、緻密で重くて深い謎を、芳醇な笑いとともに、グラマラスな魅力あふれる女優・藤原紀香さんが解き明かすミステリーですね。
―― 藤原さんあっての『フルボディミステリー 消えた目撃者と悩ましい遺産』なのですね。紀香さんには、いつごろオファーをされたのでしょうか?
三宅 去年の5月の終わり頃ですね。前回の公演中かその少し前でした。
―― オファーを受けて、藤原さんはどう思われましたか?
藤原紀香(以下、藤原) 新橋演舞場に出させていただくのは初めてなので、ドキドキ、そしてワクワクしていますよ!
―― 初挑戦となる、東京喜劇の舞台公演。迷いはありませんでしたか?
藤原 熱海五郎一座は、最高です! そう、お客さんとして観るのは爆笑につぐ爆笑で(笑)。でもあの舞台にあがって、人を笑わせることにはハードルの高さを感じます。自分にできるのだろうか、と。でもミュージカル『南太平洋』を観に来てくださった三宅さんから「あなたの新たな一面を見せるから」とおっしゃってくださいまして。
―― 製作発表の会見で三宅さんは「紀香さんを最高のボケ女優にします」ともおっしゃってました。
藤原 ハードルの高いチャレンジはとても怖いけれど、こんなにありがたいことってないですよね! あの珠玉のメンバーの中で色んなことを学ばせていただき、その先の何かも学び得て変化した自分を想像したら、その楽しみの方が勝ったんです。もっと稽古を!もっと努力を!と思い、「ぜひ!」とお答えしました。
―― 藤原さんの快諾に、一座の皆さんの反応はいかがでしたか?
三宅 実はメンバーには、発表までなるべく教えないようにしていました。リーダー(渡辺正行)とかに言うと、ぺらぺら喋っちゃいますから(笑)。でも知らせた時には、それはもうみんな「ええ?!」ってなりましたね。驚きと喜びでした。それから小倉(久寛)や昇ちゃん(春風亭昇太)は、「横に並べばおいしいんだろうな」とかすぐに“落差”を考えたんじゃないですかね。常に「笑い」のことを考えているメンバーですから(笑)。
東京の笑いは、落差の笑い
―― 会見でも藤原さんの「落差」に期待されるとおっしゃっていました。
三宅 東京喜劇は、落差、高低差の笑いです。紀香さんは美しさやステイタスなど《上》の部分をすでに完璧にお持ちです。こんな美人の女優さんがツンツン歩いてきてバナナの皮で滑って転んだら、それだけで落差が生まれます。「美人女優」というイメージが、お客さんの中で強ければ強いほど、滑って不格好な形で着地する落差が、大きくなりますから、笑いも大きくなるわけです。だからといって、今回バナナの皮で滑ってもらうわけではありませんよ。
一同 (笑)
三宅 お客さんがその女優さんに持つイメージと、逆のイメージが生まれるシーンを、脚本の中に用意していくんです。
―― 過去の公演で、大地真央さんがアイドルソングを歌われたように?
三宅 あれもひとつの落差です。しかし、あれをそのまま藤原紀香さんにお願いしたら、無理矢理なおもしろさになってしまいますよね。アイドルソングを歌っていただいたのは、あの物語の中でのフリがあり、意味があり、なおかつ、大地さんのイメージとの落差を作るためです。歌も踊りもアクションもギャグも、無理矢理ではないところに意味があるんです。
―― たしかに、大地さんのアイドルソングは物語の中で必然性がありました。切ない展開なのに絵的にはおかしくて、なんで涙が出るのか分からなくなるシーンでした。
三宅 そういうことですよ。そうなるように無理矢理ではない落差ができる脚本を、作家と一生懸命考えるんです。
―― 一方で、三宅さんは、いつも格好良い役どころ、という印象があります。
三宅 ええ、僕は演出家ですから(笑)。実際には僕は全体をパトロールして、失敗があったらすぐにそれを拾って元に戻す役なんです。たとえば誰かが出トチリしたら、お客さんは「これでこの芝居はうまくいくのかな?」って心配になります。そこで僕が出て行って「大丈夫ですよ、全然僕らは動揺してませんよ」と、見せる役ですね。さらに失敗した人をツッコめば、お客さんも安心します。
喜劇だからこそ真剣に
―― ラサール石井さんも会見でコメントされてましたが、本番は台本通りで、アドリブはほとんどないそうですね。
三宅 率先してアドリブをいうことはありませんね。稽古中は、ありますよ。全員が意見を出しあって作り込んでいきます。喜劇だからこそ真剣にやればやるほど面白くなる。そうなる台本を、本番までに作らないといけない。ゲストの女優さんにも、力づくの笑いをお願いしたりはしません。女優さんとして、お芝居をしていただく。お芝居の結果として笑いがついてくる。そうなるように、綿密に準備するんです。
藤原 (大きくうなずく)
三宅 さらに今回は、紀香さんだからこその何か、笑いが好きで学生時代に落研だったことや、関西のご出身で大阪の笑いも知っているセンスが、スッと乗っかると笑いがさらに大きくなる。そこを期待しています。
―― そんな藤原さんは、落研(落語研究部)時代に高座名はおありでしたか?
藤原 ありましたよ。私が通っていた学校が神戸親和女子高校だったので、親和亭かつお。
―― かつお?
藤原 かつお。(一同、爆笑)
三宅 今のぶっきらぼうな言い方! おもしろいでしょ? 「かつお」って。 こういうところですよ!(笑)
そこはみんなプロですから
―― 今年も約1カ月、全37ステージと長期戦です。体力維持など、意識していることはありますか?
三宅 37ステージって、どうにかなりませんかね? 大変ですから(笑)。僕の場合、公演期間中はお酒を飲まなくなりました。良い眠りを得るために軽く飲む、とかはありますけれど、次の日に残るような飲み方はしないです。紀香さんは、ありますか?
藤原 私も、公演中はお酒を控えますね。でもよく食べます。食べ過ぎないように、規則正しく。顔も浮腫みますし、体調も不安にもなっちゃうので。
―― 不安に?
藤原 なります、なります。公演期間中は、起きたらまず「体はどうかな? 大丈夫かな? 声が出るかな? アー、アー、あ、でる。ほっ」と。そういうところから朝がはじまります。
三宅 前の日の記憶がないくらい飲んで、起きて“こんな声”(※天龍源一郎さんの声をご想像ください)になってたらどうしよう!って思いますよね。“何があったんだろう!”って。
藤原 もう、こわいです、こわいです! 恐ろしいです!(笑)
三宅 若い頃はありましたよ。劇団(SET)を作ったばかりの頃は毎日必ず飲みにいって、そこでずっと芝居の話をしていました。青春でした。
―― 熱海五郎一座も、伊東四朗一座旗揚げから数えると13年目。いつも和気あいあいとされているイメージがあります。仲良くありつづけるコツはありますか?
三宅 仲良いのは、当然なんですよ。チームワークがないと良いものは作れませんし、そこはみんなプロですから全員が良いものを作ろうという気持ちで集まっています。仲が良いのが自然なことかもしれません。
―― さすが、一流の喜劇を作るプロ集団ですね。
三宅 コツと言えば、悪口は陰で言うってことですかね。
一同 (笑)
何も考えずに楽しみに
―― 最後に公演への意気込みをお聞かせください。
三宅 爆笑の連続で、音楽、歌、ダンスの入った、東京喜劇の最高のエンタテイメントを作るつもりでいますので、何にも考えずに楽しみにきてください。生の藤原紀香をみるだけでもいいですよね。「そしたらこんなにおもしろかった!」となっていただけるはずですから。
藤原 はい! 踊り、歌い、飛び、芝居するアクションコメディミュージカル。日々稽古をがんばって、お客さんによろこんで頂けるようにがんばります!
三宅裕司/藤原紀香
取材・文:塚田史香
『フルボディミステリー 消えた目撃者と悩ましい遺産』
■日時:2017年6月2日(金)~27日(火)
■会場:新橋演舞場
■構成・演出:三宅裕司
■出演:
三宅裕司 渡辺正行 ラサール石井 小倉久寛 春風亭昇太 東貴博(交互出演) 深沢邦之(交互出演)
劇団スーパー・エキセントリック・シアター
■ゲスト:藤原紀香
■公式サイト:http://www.shochiku.co.jp/play/enbujyo/schedule/2017/6/_1_154.php