『水曜どうでしょう』ディレクターの藤村忠寿、自らの劇団「藤村源五郎一座」を語る。

2017.3.28
インタビュー
舞台

「藤村源五郎一座」の藤村源五郎こと藤村忠寿。 [撮影]吉永美和子

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演劇は絶対廃れさせちゃいけないし、やり続ける方が得だと思ってます。

DVDが累計450万枚以上ものセールスを記録している、北海道発のモンスターローカル番組『水曜どうでしょう』のディレクター・藤村忠寿。現在も北海道テレビ放送の社員として働く一方で、演劇活動も積極的に行っている彼だが、2015年には大阪の時代劇集団・笑撃武踊団とタッグを組む形で「藤村源五郎一座」を結成。「世界一ハードルの低い時代劇」というキャッチフレーズで、これまで2本の本格時代劇を上演している。次回作では、あの織田信長にすら「物騒な者ども」と恐れられた、3人の悪名高い戦国大名を題材にした芝居に挑戦。「今や大阪は第二の本拠地」と言うほど、この劇団に力を入れている藤村に、次回作の内容や演劇への思い、そして『水曜どうでしょう』新作についてもチラリと語ってもらいました!


■くだらないことから始めて、ボロ泣きさせて帰すことを目指しています。

──まず、なぜ藤村源五郎一座を結成しようと思ったのですか?

2年ぐらい前に、何かのイベントで笑撃武踊団の芝居を観たんですね。最初は「何か暑苦しいなあ」と思ったんですけど、やってることは非常に熱心だし真剣だし、しかも「なぜ今まで埋もれていたんだ?」と思うぐらい時代劇として一流だったんです。それで話を聞いてみたら、公演とかはあまりやってなくて、イベントでの活動が中心だというから「それはもったいない」と思って、このまま乗っ取ってしまおうと(笑)。そこから勝手に「藤村源五郎一座」というのを作って、僕が座長になりました。

──座長ということは、当然藤村さんが作・演出をする……わけではなさそうですね。

そうですね、僕は面倒くさいことが嫌いなんで(笑)。笑撃武踊団の5人は、脚本や殺陣も全部自分たちでできるので、まずは彼らにある程度作ってもらう。そこからこっちがいろいろ意見を言うというやり方だから、みんなで作り上げるという感覚が非常に大きいです。でもまあ、なんせ時代劇ですからね。美術や衣裳もお金をかけないといけないし、刀の所作もちゃんと覚えてないと、殺陣というよりただのチャンバラになっちゃう。でも大人の人が満足できる時代劇にするには、やっぱり大河ドラマぐらいの格調でいかないとダメなんですよ。でも彼らには、それができる。そこが他所とは全然違う点だと思います。

──確かに殺陣一つとっても、最近の舞台の殺陣はどうも軽くて「その太刀さばきじゃ人は死なないよ」というリアリティのなさを感じることが多いです。

あれはやっぱり、アニメからそのまま来たみたいなことなんでしょうね。踊りとしては非常にカッコイイとは思うけど、当然我々はそれをやりたいと思ってるわけではないし、毎回いろいろ挑戦していますよ。たとえば今回は、黒澤明監督の『用心棒』にヒントを得て、とにかくどんどん人を斬っていく殺陣を付けています。殺陣ってよく最初に刀を正面からカシャ! カシャ! って合わせるけど、本気で相手を殺そうと思ってる時にはそんなことしないでしょう、と。スポーツみたいに、フェイントをかけて後ろから斬るとか…これを僕らの中では「ラグビー戦法」と言ってます(笑)。僕と(笑撃武踊団の)佐々木みつるはラグビーをやってたので、今出演者にいろいろ教えてますよ。「そんな動きはしない。ラグビーだったら、目を見ながら横に動く」とか。

『戦国梟雄烈伝-信長が恐れた三人の男達-』チラシ。 (C)藤村源五郎一座

──でもそうやって、格調とか殺陣のリアルさにこだわっている一方で「世界一ハードルの低い時代劇」ともうたってますよね。

このチラシだけを見ると、えらく難しそうな感じがしますけどね。でも最初に投げ銭とか掛け声とかをやらせたりと、非常にくだらないことから始めるんです。

──投げ銭の様子を動画で観ましたが、思った以上にバンバン飛んでて驚きました。

投げ銭があんなに痛いものだとは思わなかったです。100円以上入れろって指定してるんですけど、500円玉はやっぱり痛いんですよ。軌道がまっすぐに来ますから。でも当たったとしても、それはお金の痛みなので、多少ケガしてもいい(笑)。でもそうやって最初にお客さんの気をゆるめて「ああ、こんなもんだろう」と思っていた人たちを、ボロ泣きさせて帰す(笑)。くだらない雰囲気から始まって、最後はいい感じに泣いてもらうというのが、うちの劇団の目指していることなんです。

──あとユニークなのが、『水曜どうでしょう』仲間でもある嬉野雅道さんの講談が入る点ですよね。

なるべくクライマックスから、芝居を始めたいんですよ。だったら最初に、前段の必要な所を嬉野さんにしゃべらせればいいだろうと。「この人はこういう人で、こんなことをして、今はこうなってる」っていう所から、ワーッ!! と始める(笑)。講談はずるいですよね、芝居としては。でも観てる方には、その方がわかりやすくていいだろうと。

──確かに歴史が苦手な人には、その方が絶対親切だと思います。

そうなんです。事情を全部説明して「あ、こういうことなんだ」という所から始まるんで、非常に観やすいと思います。特に今回は、斎藤道三と松永久秀と宇喜多直家が3人一緒に出てくるんじゃなく、それぞれが独立したオムニバスになってるんで。だからその間を、講談で埋めていくというやり方にしています。

藤村源五郎一座『戦国褌烈伝』(2015年)より。長篠の戦いで活躍したある足軽の姿を描いた。 (C)藤村源五郎一座

 

■努力家の道三、寂しい人の久秀ではなく、直家が自分に一番近い。

──今回、斎藤道三と松永久秀と宇喜多直家の3人を取り上げようと思ったのは?

悪い人たちというのは、題材として非常に面白いんじゃないかと思ってこの3人の資料を調べたんですけど、調べれば調べるほどそんなに悪い人だと思えなくなってくるんですよ。まあ、のちのち信長とかが天下を取っていけば、彼に逆らった人たちは悪者扱いになって、そうして歴史は塗り替えられていくんです。むしろ天下を取った側の方が、よっぽど悪いことをやってたりしてますから(笑)。でもそうやって、世間一般には“悪い人”と思われる人って、現代でもたくさんいると思うんですね。その人たちのことをちゃんとじっくり見てみれば、彼らなりにすごく真剣だというのがわかってくるんじゃないかなあと。

──それぞれの3人を、どういう風に描いていこうと思っていますか?

僕もサラリーマンなんで、全員サラリーマンに例えました。斎藤道三は、高卒とかそこら辺で一流企業の下請けになって、そこから営業成績をどんどん上げるという凄腕。松永久秀はすごく真面目でオタクな人だけど、会社の人に評価されようとするあまりいろいろやり過ぎちゃったり、偉そうに振る舞ったことで自滅していく人。宇喜多直家は周囲から吸収合併される前に、一番リスクが少ないけどひどい方法で、自分の会社を守ることだけを考えた中小企業の社長…というように。道三は熱意のある若者が「マムシ」と呼ばれるようになった過程、久秀は最後に自分を反省しながら死んでいく姿、直家は家を守るために家臣にある策を申し渡す所を、それぞれ20分ぐらいの芝居で観せていきます。

──そうやって例えられるだけで、早くもこの人たちに親近感が湧いてきますね。

源五郎一座って、メインターゲットはおっさんなんですよ。おっさんたちを泣かせたい(笑)。というのもあって、サラリーマンだったらすごく共感できる話にしました。「できた人たちじゃないか、この人」って、逆に思われるような。この人たちに共通するのは、信長みたいに天下を狙ったわけじゃなくて、自分の身の回りや自分の考えだけを信じて行動していたということ。それがすごく、人間的な感じがするんです。だから最終的にはこの悪人たちに対して、何か物悲しくもあり、すがすがしくもありみたいに感じてもらえるようになればいいかなっていう。

──その中で、藤村さんが宇喜多直家役を選んだのはなぜですか?

選んだわけじゃないけど、この3人の中では一番考え方が近い人だから。道三は努力家だから嫌だし、久秀も寂しい人だからそれも嫌だし(笑)。直家は世間には嫌われてるけど、家臣に裏切られたことが一度もないんです。多分周りからはすごく慕われた人だったんじゃないかと思えるんで、その辺りもいいなあと。ただ暗殺とか謀略ばかり考えて、正面から戦わない人だから、今回僕は役柄的に殺陣がありません(笑)。

藤村源五郎一座『戦国褌烈伝』(2015年)より。講談師の嬉野雅道。 (C)藤村源五郎一座

 

──歴史に詳しい人にとっては「あ、そういう解釈があるのか」というのをキッチリ楽しめるものにもなりそうですね。

そうそう。さっき言ったように、歴史って何が真実かは、今の僕らにはわからないんですよ。でもその分いろんな解釈ができるから、この芝居を観た後には「ああ、その考えもありだな」「いや、自分は違う」って、歴史を語り合う機会ができるだろうと。ただのファンタジーな芝居を観るよりも、アカデミックな気持ちになれるっていうのもちょっと狙ってるというか、時代劇のすごくいい所だと思うんです。だからなるべく史実は曲げず、でも大胆な解釈を加えるという本作りをしています。

 

■映像は作る方が楽しいけど、演劇はプレイヤーになる方が楽しい。

──藤村さんは、ミスターこと鈴井貴之さんの演劇ユニット「OOPARTS」にも出演するなど、最近かなり演劇づいてますけど、どこに一番魅力を感じているんでしょうか?

最近映像ってみんな動画サイトで、しかもスマフォであまた見れるじゃないですか? その中には面白いものがたくさんあるんですけど、舞台を観に行ってそこで生の演技を観て、観客も一緒に笑ったり泣いたりするという、あの空間自体は絶対に映像では表現できない。僕は映像を自分でやってるからこそわかるんですけど、どっちかっていうと映像よりも演劇の方が、人の心を動かす力は上だと思っちゃってるんです。同じ一時間半でも、劇場で生の芝居を観る時間と、スマフォの小さな画面で短い映像をザッピングして過ごす時間とでは、感性の刺激のされ方に雲泥の差がある。これは絶対廃れさせちゃならないし、むしろこれからますます注目されると僕は思っています。

──世間では「そのうち人は劇場に足を運ばなくなる」と言われてますが…。

それは逆だと思いますね。人間ってバカじゃないんで、感性が少しでも揺さぶられるものがあれば、絶対そっちに行くんですよ。ずっとスマフォの映像しか観ていなかった若者が、演劇を一個観たらきっと「うわ! これすっごい面白い」って感性を揺さぶられて、足を運ぶようになると思う。だからお芝居はやり続けていた方が得だと、僕は思ってます。

──あとディレクターの方って演出に興味を持ちそうな気がするのですが、藤村さんは役者としての活動の方がメインですよね。

映像だったら完全に、プレイヤーよりも作る側の方が楽しいんですよ。でも芝居の場合は、演出は面白くない(笑)。というのも、全体を考えるというのが面倒くさいんです。テレビだと、ただ泣いている人をアップで撮っておけば済む所が、芝居だとその横にいる奴は笑わせておけばいいのか、一緒に泣かせるのか? というのまで考えなきゃいけない。それよりは僕自身がプレイヤーになって、こいつが泣いている時に俺はどういう顔をしようか? どう動こうか? というのを考えるのが完全にスポーツみたいで、それが面白いんです。スポーツは監督するよりも、プレイする方が断然楽しいですからね(笑)。

──逆に演劇の世界に「もっとこうしたらいいのに」と思うことはあるんですか?

こんなこと言ったら、演劇の人たちにバッシングを受けると思いますが(笑)、演劇ばっかりやってる人は狭いですね、考え方が非常に。すごく小さな国内で争ってる集団みたいに見えるんです。でも芝居ってなかなかお金にならないし、カツカツの中でやっていくには、自分たちの気持ちを頑なに守らなきゃいけないみたいな所がある。だから心が広くなれないし、それに同情もするんです。でもだったら俺は、どうやったら演劇をお金もうけにできるかというのを、ちゃんと考えたい。それは自分がここで一緒に芝居を作っていけばいつか思いつくことだろうし、それでこの劇団が回っていけば他の劇団も同じようにできるはずだという。それはありますよ、すごく。

藤村源五郎一座名物の投げ銭タイム。双方が存分に楽しむためにも、あらかじめ細かいお金を用意しておこう。 (C)藤村源五郎一座

──もしかすると藤村さんが『どうでしょう』に大泉洋さんを抜擢したり、ヨーロッパ企画と一緒に番組を作ったりしたのも、彼らが回っていくきっかけを与えたいという狙いもあったんですか?

いや、与えるのではなく、自分がもうけたいだけなんですよ。俺はそんなに心が広くはない(笑)。やっぱり「金脈がある」と思わなければ、ここ(藤村源五郎一座)には来ないですから。でもこれがお金になるまでには、まだ時間がかかると思います。『どうでしょう』もそうでしたからね。最初の方はみんな「これ、何やってる番組なの?」と思いながら見ていて、ある時に何となく「これ、面白い!」ってことになって、バッと人が来たという。そうしてあの番組がお金になるまでには、10年はかかりました。結局人って評価で動くんですよ。だからこの劇団も、誰かが「あれ、面白かったよ」と評価するようになったら、多分あっという間に人が集まるようになると思います。

──では最後に、観に来る人にメッセージを…というと、やはり投げ銭の準備ですかね。

そうですねえ。投げるかどうかは自由ですけど、100円玉10枚、500円玉2枚を一応用意してくださいと。ということはこれで2,000円になって、代がいつの間にか(前売4,000円から)6,000円になるというシステム(笑)。この投げ銭システムが上手くいけば、演劇界の常識を壊していけるんじゃないかと思います。でも本当に、本格的な殺陣や美術…今回は本物の甲冑を使うんですよ。そういうもろもろを楽しんだ上で、最後に「だまされたー!」って感じで気持ちよく泣いていただければと思います。

──あとついでにおうかがいしたいのですが、2017年中に放映されると噂されている『どうでしょう』の新作はどうなってますか?

ロケには行ったんですけど、映像を作る段階には入ってないです。材料はあるけど、まだ(追加撮影を)やろうかなあと思ってるんで、それをちょっと考え中なんですよ。年内に放映できるかどうかは…まだわからないですねえ(笑)。

[撮影]吉永美和子

公演情報

藤村源五郎一座『戦国梟雄烈伝-信長が恐れた3人の男達-』

■日時:3月31日(金)~4月2日(日) 31日=19:00~、1日=14:00~/19:00~、2日=13:00~/18:00~
■会場:道頓堀ZAZA HOUSE
■料金:前売4,000円 当日4,500円
 
■出演:藤村源五郎(藤村忠寿)、藤澤アニキ、御竹龍雪、佐々木みつる、黒羽さえり、Licaco 
■講談師:嬉野雅道
■お問い合わせ:06-6225-8930(officeCMC)
■公式サイト:http://syogeki.com/(笑撃武踊団)

 

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