より自由に、楽しく。結成10年目、Zepp DiverCityに観たねごとの進化
-
ポスト -
シェア - 送る
ねごと 撮影=AZUSA TAKADA
ねごとワンマンツアー2017「ETERNALBEAT」 2017.3.24 Zepp DiverCity
中野雅之(BOOM BOOM SATELLITES)、益子樹(ROVO)をサウンドプロデューサーに迎えた『アシンメトリ e.p.』でこのバンドが打ち出した新機軸に驚き、引き続きエレクトロ路線を踏襲した最新アルバム『ETERNALBEAT』を聴いて確かめたいことができたため、ねごとの全国ツアー『ねごとワンマンツアー2017「ETERNALBEAT」』、そのラストを飾るZepp DiverCity 公演に行ってきた。確かめたかったことは主に以下のふたつ。
①『ETERNALBEAT』は約2年ぶりのフルアルバム。それまでは“ねごとらしさ”をもとめるがゆえに多彩なアプローチに繰り出していた彼女たちがここまでコンセプチュアルな作品を生み出したのはなぜか。そして4人はこの変化を、どのようなテンションで鳴らすのか。それが知りたかった。
②<交差するため息に埋もれてしまわないように/ありったけの感情をさらけ出すんだ 今すぐ>(「cross motion」)、<弱くたっていいよ/いつだってそのままでいいよ>(「PLANET」)、<当たり前だった今日も そのまま全部愛して/理想ではない未来でも そのままをきっと信じて>(「凛夜」)などのフレーズが象徴するように、このアルバムは“踊る”というテーマが根幹にありながら、“自分らしくあれ”というメッセージを内包している。それが実際にライブハウスという場所でどのように表出してくのか。それをこの目で見てみたかった。
ねごと 撮影=AZUSA TAKADA
開演時刻を少し過ぎた頃、ゆるやかに場内が暗転。真っ青な照明にステージが包まれるなか、オーディエンスの手拍子に迎えられ、蒼山幸子(Vo&Key)、沙田瑞紀(G)、藤咲佑(Ba)、澤村小夜子(Dr)の4人がステージに立つ。
普段の担当楽器のほか、沙田はシンセサイザーや多種のエフェクターを、藤咲はシンセベースを駆使するなど、新たな音像の構築を目指していった今回のツアー。早速沙田がシンセを弾く1曲目「PLANET」からその変化は表れていて、浮遊感たっぷりのサウンドがゆっくりと場内を満たしていった。フロントの3人は時にステップを踏みながら、ゆらゆらと横に揺れて演奏する。音を“浴びせる”というよりかは“沁み込ませる”という言い方が適当だろうか。そのくらいナチュラルな温度感だ。
ねごと 撮影=AZUSA TAKADA
ねごと 撮影=AZUSA TAKADA
そして「いけますか、東京!」と蒼山が投げかけ、「DESTINY」へ。ビビッドなライトがひかると4人のサウンドもエッジが増し、ここでグッと勢いを加速させるのかと思いきや、逆にテンポは一段階落ちる感じが面白い。その後は沙田のコーラスとともに蒼山の歌声が放物線を描いていく「Ribbon」、その歌に他の楽器が絡んでいくような展開が堪らない「holy night」と続くのだが、もうこの冒頭数曲だけでねごとというバンドの特異性を思う存分堪能することができた。例えば、ギター&キーボード&シンセが紡ぐきらめくような旋律のループ。ストップ&ゴーの手法を巧みに生かしたリズム隊のビート。どこまでも伸びていく歌の昂揚感。フェスの隆盛とともに台頭したいわゆる四つ打ちロック的なノリとは異なり、一歩先の予測がつかないような展開で内側から熱量を高めていくような演奏。そういうやり方ができるのは、冒頭でも書いたようにこのバンドに“アイデンティティを模索するがゆえに様々な音楽に挑戦してきた”というバックヤードがあり、その過程で4人の演奏技術や表現力が鍛え上げられていったからだろう。しかし、4人それぞれの意思で以って音を“選んで”鳴らしている感じが演奏の端々から伝わってくるのがこれまでとは大きく違うところ。悩み足掻いた日々さえも結実させるような、結成10年目のねごとの音。ステージ上の4人は心底楽しそうで、その表情は活き活きとしていた。
ねごと 撮影=AZUSA TAKADA
ねごと 撮影=AZUSA TAKADA
そういうバンドの温度感をライブから読み取ることができたのは、演出の力によるところも大きい。アルバム発売日の2月1日に行われたツアー前哨戦『ねごとワンマンツアー2017 「ETERNALBEAT」-ZERO-』ではLEDスクリーンに映像を投影し、ほぼMCなしで収録曲を完全再現したというが、ツアーでの演出はもっとシンプルに。レーザー光線やミラーボールなど、Zepp規模の会場ならば通常に備え付けられているような舞台装置。しかしそんな中でも、レーザーを縦横斜めにクロスさせて雨のように見せた「cross motion」、ステージ上で回る2つのミラーボールにより光の粒が降り注いだ「endless」、オーロラのような七色の照明が綺麗だった「アシンメトリ」と、センスの光る演出が多く、フロアからは度々「おーっ!」と感嘆の声が上がっていた。その場にあるものを使って最大限の工夫をしていくやり方が、“4ピースのロックバンドがダンスミュージックを鳴らす”という今の時代にありふれたフォーマットと思われる中で、ねごとが独自の存在感を発揮させた現在地と重なっているようにすら思える。
ねごと 撮影=AZUSA TAKADA
音と光で魅せるシンプルな構成は、バンドの肉体面や常温のままの4人のキャラクターを浮き彫りにさせていく。そのため、ライブ自体もリラックスしたテンションで進んでいった。この日は何度か蒼山が「踊れますか?」とオーディエンスへ投げかけていたが、その「踊れますか?」も、腕を突き上げろとか、その場で一斉にジャンプしてみましょうとか、そういうことではない。基本的にメンバーはフロアを無理に煽らず、だからオーディエンスも思うがまま音に身を委ねているし、何ならあまり身体を動かさず、静かに楽しんでいる人もいる。こういう場所では目に見える盛り上がりなどは大して意味を為さない。バンドが演奏で粋な遊び心を見せる→オーディエンスのテンションが上がる、という極めて健全な関係性がフロアとステージとの間に築かれていき、セットリストが進むにつれて、その熱量はじわじわと上がっていった。逆光の照明を背に、左手を掲げ、<アシンメトリー アシンメトリー/もっと好きにさせて>と高らかに唄う蒼山はまるで自由の女神のよう。この場に溢れる開放感を象徴するように彩り豊かな照明が輝く中、本編ラストに届けられたのは「ETERNALBEAT」。自由を求めるその鼓動は決して鳴り止むことがないのだという、華麗なる宣言だ。
ねごと 撮影=AZUSA TAKADA
この日のライブはとても素晴らしかった。しかしここまで書いてきたように、そういうライブになった最も大きな理由は“4人が自由になれたから”という部分にあり、つまりダンスミュージックに傾倒することも、『ETERNALBEAT』というアルバムを生み出したことも、ある意味そのためのひとつの手段にすぎなかったのかもしれない。だから今後もねごとがこの路線を貫き通すかというと、きっとそうとは限らないだろう。実際「変化と更新をし続けるバンドだと自分たちでも思ってるんですけど……これからもねごとをよろしくお願いします!」と改めて挨拶した藤咲をはじめ、「バンホーテン飲み過ぎて飽きた」発言が波紋を呼んだ澤村は「2年前(のツアーファイナル)に来てくれた人は分かると思うけど、全然違うバンドだったでしょ?」とはにかんでいたし、沙田はツアーと併行して制作を行っていることを明かしながら「とにかく私たち、前に進もうと思って」と前のめりな意識を語っていたし、メンバーは既に次のステージを見ているようだ。そんな3人のMCを踏まえて蒼山は「きっと飽きさせないよ?」「今日を経てまた変わっていくと思うけど、もっとカッコよくなることは約束します」と頼もしく笑う。そうしてアンコールには、ねごと初のオリジナル曲を今の4人なりにアップデートした「ループ」、<はだかになって/わたしになって/理想ではない未来でも 生まれたての夢がほしいの>と唄う「凛夜」が届けられたのだった。
飾らない“わたし”でいるために、“わたし”自身にときめき続けるために。ねごとの冒険は、これからも続いていく。
取材・文=蜂須賀ちなみ 撮影=AZUSA TAKADA
ねごと 撮影=AZUSA TAKADA
1.PLANET
2.DESTINY
3.Ribbon
4.holy night
5.天使か悪魔か
6.school out
7.シンクロマニカ
8.cross motion
9.mellow
10.メルシールー
11.君の夢
12.シグナル
13.endless
14.アシンメトリ
15.ETERNALBEAT
[ENCORE]
16.ループ
17.凛夜
会場:下北沢440
開場 / 開演:18:30 / 19:00
w / la la larks aco-duo / 成山剛 (sleepy. ab)
※Vo/Key:蒼山幸子のみの出演となります。
会場:渋谷CLUB QUATTRO
開場 / 開演:17:00 / 18:00
w / LILI LIMIT
会場:宮城県・みちのく公園北地区 エコキャンプみちのく
会場:恵比寿LIQUIDROOM
開場 / 開演:18:00 / 19:00
w/???
会場:梅田CLUB QUATTRO
開場 / 開演:18:00 / 19:00
w/???
in stores now!
01. ETERNALBEAT
02. アシンメトリ(cafe & pancakes gram CMソング)
03. シグナル
04. mellow
05. 君の夢
06. DESTINY(テレビアニメ「銀魂゜」エンディングテーマ)
07. cross motion
08. holy night(映画「マイナビpresents TOKYO CITY GIRL -2016-」挿入歌 & 東京/大阪版エンディング主題歌)
09. Ribbon
10. PLANET
11. 凛夜
【通常盤】(CD) KSCL 2839 ¥2,870(+ tax)