GLIM SPANKYは何故いま“孤高であること”を高らかに宣言したのか

2017.4.6
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音楽

GLIM SPANKY 撮影=風間大洋

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再生ボタンを押すとまず飛び込んでくるのは往年のサイケーー中~後期のビートルズにあるような音だ。聴き進めていってもアグレッシヴなロックサウンドは前面に出て来ず、フォーク、カントリー、さらには歌そのものを聴かせるアプローチなど、これまでのGLIM SPANKYのパブリックイメージを覆すような楽曲たちが並ぶ。が、それがたまらなく良い。これまでも公言してきているように、これらの音楽性は2人のルーツに確実に存在するものであり、いわばとてもナチュラルにアウトプットできてしまう音。なぜこのタイミングでそれらを解放したのか、そしてこれまでグリムが掲げてきた「ワイルド・サイドをともに行こう」というメッセージとは一見して相反する『I STAND ALONE』というタイトルの意味とは。全て語ってもらいました。

――『I STAND ALONE』、すごくいい作品だと感じると同時に、意欲作……ある種の問題作という感想を持ちました。

2人:あはははは!(笑)

松尾レミ:いろいろ挑戦しましたからね。

亀本寛貴:でも、最初にまず「良かった」って言ってくれた人、初めてです。(他のインタビューは)みんな「今回は変えてきましたね」みたいな感じから入らない?

松尾:確かにそうかも。そうだね。

亀本:だから初めて最初に「良かった」って言ってもらえた気がする(笑)。

――そんな作品を作り終えての感想から聞きましょうか。

松尾:もう、作ってて超楽しかったですね。「楽しんでやっちゃったなぁ」っていうくらい。

亀本:これまでは「ここに行きたい」というポイントを目指すよりも、とにかく曲をどんどん作ることで結果として辿り着いているような感覚だったんですけど、今回はわりと明確に「こう行きたい」という意識をもって作っていて。レコーディングをたくさん経験してきたこともあって、僕としてはより完成形が見えた状態で一曲一曲を作っていけました。

松尾:『Next One』っていう前回のアルバムをレコーディングしてすぐぐらいから3rdアルバムに向けて、その前にあるミニアルバムをどういう内容にしていくかを話し合ってたんです。3rdアルバムを想定した上で手前にあるものっていう意識で、計画的に作りました。

――計画的であると同時に、楽しくやりたいようにやれたっていう部分は、一見矛盾するようでもありますけど。やりたいようにやるっていうこと自体が計画だったと?

松尾:そうです。その計画自体がそもそも自分のやりたい計画で。

亀本:戦略性はゼロ(笑)。

松尾:つまりは自分がやりたいことを、いかに貫き通すか。どういう風に世間にわかってもらえるように表現していこうかっていうことで。ワクワクする計画を立てて臨みました。

亀本:遠足のしおりみたいな、ね。

松尾:そうそう(笑)。一日目は東京観光して、二日目はディズニーランドで……みたいに。

――2ndを作り終えてすぐそういうモードになったということは、なにか2ndの制作時に感じたことも影響しているんですか。

松尾:私の感覚としては、2ndで“グリムの土台”は終わらせようと思ってたんです。その土台っていうのはシンプルでどストレートなロックで、その土台があれば「GLIM SPANKY=ロックしているバンド」っていう自己紹介はもう終わったな、そこからもう一歩深みに入ったものを出したいなぁと『Next One』を作っているあたりから思っていたんですけど、それは2ndではあえて出さずに。その時点から自分の中で遠足の計画が始まっていたのかもしれないですね。

亀本:そうだね。自分たちとしては、2ndはとてもキャッチーな盤になったと思っていて。楽曲も音自体も非常にわかりやすいロックサウンドだったと思うんです。だからこそ、より色々な要素を付け足していかないと「単調でつまんねえな」とも思われかねないし、むしろ「どんどん面白いことしてくるな」って思われたい。そのために考えていった結果が今回ですね。

松尾:『Next One』は『Next One』でやりたいことをやりまくったんですけど、そのやりたいこと自体がもう一歩深くなったという感じです。今は。

――だからか、二人の中からすごくスムーズに出てきたような、ルーツでもあるような曲たちだな、とも感じました。

松尾:あ、それはそうですね。多分、今回の盤が一番ナチュラルかもしれない(笑)。

亀本:タイアップ(が先行の曲)も無いし。

松尾:何もお題が無い状態で作っていったので、もともと自分たちがナチュラルにやったらこうなるっていう部分、そして今の自分たちがハマっているものを反映させるっていう両方を、うまい具合にバランス良くできた感覚はあります。

亀本:2ndではタイアップのために書き下ろした曲も多かったので、自分の好みがどうこうよりも映像とかを観たインスピレーションから作り出すことをしていて、そこは根本的に違うかもしれないですね。

――前作で意図的に取り組んでいたテンポの速い曲も、今作は無いですしね。一番ヘヴィな2曲目にしても決して早くはない。

松尾:ミディアムくらいで。でも、あれがわたしたちにとっての「速い」(笑)。だから、いかにデビュー前の自分たちが遅い曲を当たり前と思ってやっていたかっていう。

亀本:今リスナーとして聴くものも、そんなに速い曲って無いんですよ。大体BPM120~140ぐらいがアルバムで一番速いとか、そういうアーティストを聴いていて、なかなか160とか170は無い。それこそこの前買ったライアン・アダムスなんか、多分ほとんど二桁(笑)。

――前作と比較して、精神的な部分ではどうですか。歌詞にも表れているかもしれないけど。

松尾:大きなタイアップを経験しても満足していないぞ!っていうことが伝わる歌詞にしたいなとは思いました。どこにいるかじゃなくて、自分が何をするかだ、みたいな。いくら環境が良くてもそこで何もしなかったら終わりだし、いつまでも尖っている、GLIM SPANKYとして世間と戦っているっていうことをシンプルな言葉で表せたらいいなって。あとは爽やかな曲はとことん爽やかに、あえて青臭い言葉を使っているんですけど、それってボーカルの実力が問われると思うんです。簡単な言葉を使って歌ったものがちゃんと説得力をもって聞こえるか、クサく聞こえるのか。そういうシンプルな言葉を「わたしが歌ってやる」くらいの感覚で歌って、しっかり説得してみせるっていう心意気はありました。「美しい棘」っていう曲なんかは、「大人になったら」と同じくらいシンプルにできた曲ですね。

――この曲は素晴らしいですよね。実際、歌の強さを感じますし、言葉がしっかり入ってくる。

松尾:ありがとうございます! 実は『Next One』の段階から既にあって温めていた曲なんですけど、今回がその時なのかなと思ってリード曲にして。これまでは「褒めろよ」とか「怒りをくれよ」みたいな激しめな曲をリード曲にしてきたんですけど、もっとわたしたちの素の部分がちゃんと見える曲にしたくて、この曲をリードに作品を作りました。

――さきほど「精神的」という聞き方をしたのは、ひとつ気になったからで。『I STAND ALONE』というタイトルとメッセージは、「ワイルド・サイドを行け」で歌われた「みんなで道無き道を行こうぜ」というメッセージとは一見相容れないようにも見えたんですよ。

松尾:うんうん。それは(理由が)あるんですよ。「ワイルド・サイドを行け」は、仲間と未来をこじ開ける、仲間と行けっていうことで、でも今回は“孤高”じゃないですか。それは、たとえ仲間と一緒にいようが、良いチームというのは一人一人が孤高で戦っていて、独立していて、そのプロフェッショナル達が集まったときに最大の力が生まれるっていうことなんです。自信が無いからってとりあえずみんなで集まって行こうとしても……

――「みんなで渡れば怖くない」的になっちゃいますよね。

松尾:そう。それだと道は切り拓けない。そこでわたしが伝えたいことは、仲間といようが何をしていようが、一人の人格として孤高に尖って戦いながらしっかりと立って、その心の断面を見たときに『I STAND ALONE』であれっていうことで。だから、「孤高で行け」と「仲間と行け」って全く違うことにも見えるんだけど、わたしとしては仲間といようがどこにいようが、自分は自分と戦っているという。そういうことを歌ったし、一曲目にもしました。

――「自分たちはこうやって音楽をやっていくんだ」っていう宣誓のようでもあって。

松尾:そうですね。そうやって「アイスタンドアローン」の歌詞のように生きようと生きてきたし、これはナチュラルなわたしの感情で、音楽性にも反映されてると思うし、生き方にもなっているんじゃないかと思います。だからこれは頑張って書いた歌詞でもなくて。実は、“I STAND ALONE”っていう言葉は――高校3年性のときに、わたしはグリムとは別に一人でも活動してたんですけど、その一人で活動するときの名前が“I stand alone”だったんですよ。

――へえ!

松尾:だから当時からわたしはこの言葉に感化されていたんです。でもそれは周りを排除することじゃなくて、集団の中にあってもしっかり自分を確立するっていう心意気で。今はアコースティックでライブをするときもGLIM SPANKYとして二人で出るようになったので、“I stand alone”の活動は無くなっていったんですけど、この言葉はいつか使いたいなって思っていて、そのときが今だったっていう。

――それだけ温めてきた言葉を使ったということは、キャリアにおいても重要なポイントだと思うんですけど、それがこのタイミングだったっていうことは、「いま大事なことを言っておきたい」っていうことですか。

松尾:そうですね、すごく。やっぱり大きなタイアップをやった後っていうことが大きくて。そこで甘んじているんじゃなくて、それでも戦っているという姿勢を見せたかったですね。

――タイアップで認知度も上がり、大きい会場でのライブ、フェス出演なども増えました。

松尾:少しずつ規模が大きくなっていっているので、そこは良いことだと思います。

亀本:フェスとかに出られる機会を与えていただけるのは光栄なことですけど、そこの場所の雰囲気に合わせて演ろうみたいな意識も別にないし、僕らは自分たちのやりたい音楽、やりたいライブっていうことだけをやるだけ。それがたとえそのイベントの空気に合っていなくても別に構わないんです。何千人の人が観てるっていうことは、気になってくれる人の数が確率的にも高いわけであって、いわゆるJ-ROCKシーンのフェスとかに自分たちが出て行くと、正直な話、音楽性が合ってるとは全然思わないですけど、それでも出ていく意味はある。そこで「こういう音楽もあるんだ」って思ってくれる人がいたら嬉しいし、自分たちのワンマンにつながればいいなっていう、僕はそういうシンプルな考えで出ていますね。

――しかも、どんどん積極的に出てますからね。

松尾:そうなんですよ。日本の音楽シーンのためにも出ていきたい。やっぱりJ-ROCKシーンをジャンルで分けたとして、分けられる種類が少ないなと思っていて、例えばSuchmosみたいな音楽が出たことで一個引き出しが増えましたけど、それでも日本におけるロックの引き出しがまだまだ少ない気がしてるんです。だからそれを増やすためにも、できるだけ拒まずに出ていこうと思うし、かといってそこで迎合するわけでもなく、自分たちの音楽をやることに意味があると思っているので。だから私たちと全然違う客層であっても怖くないし、逆にそっちの方が美味しいっていうスタンスで色々出てます。

――そういう意味でも“I STAND ALONE”かもしれない。でも実際、年末の某フェスで、ブルエンのTシャツ着てる子がグリムのライブで踊っていたりもするわけですよ。

松尾:そうなんですよ! それが面白いんです。「絶対グリムの曲一曲しか知らないでしょ?」みたいな子でも、フェスになると来てくれる。そこもなんだか面白くて。そういう子達が増えていったら、もしかしたら5年後10年後の会場で新しいノリが増えているかもしれないし、どんどん自分たちから投げかけて反応を見るっていう。そこがすごく楽しいです。

――そういう場に、今作の曲たちを持っていったときの反応も興味深いです。

松尾:気になりますよね。一曲目とか、どうやってノるんだろう?(笑) 10代の子とかは。

亀本:そうだよねぇ。

松尾:そこでもしかしたらポカンとなるかもしれないけど、そこでポカンとしてるってことはわたしたちが新しいものを提示できたっていうことだから、それはそれで幸せだし。そこから興味を持ってもらえたら。ロックに。

GLIM SPANKY・松尾レミ 撮影=風間大洋

――とりわけそこの部分にフォーカスを当てたわけではないにせよ、そういう背景も踏まえたアルバムではあると思うんです。そこがとても良いと思うと同時に、既成のシーンにウケることはあまり意識していないんだろうなぁということは、音を聴いた時点で思いました。そういう意味での冒頭の「問題作」という発言だったわけですけど。

亀本:あははは(笑)。結論から言うと、自分たちがどうしていったら良いんだろう?って考えたときに、合わせにいったら終わりだなと思うんですね。圧倒的に異質で尖った、根本的に違うところにいかないと、ダメなんじゃないかと。外タレのライブを観てよく感じるんですけど、アーティストごと、バンドごとに音楽のバックボーンや作り方、楽器の鳴らし方が全部違うんですよ。もう方程式が全く違う。だから自分たち独自の方程式を持たないとっていう考えが頭のどこかにはあってこういう音になっていったし、2ndを作っているときまでの僕だったら「これは違うかな」っていうことを、今は「いや、こうじゃなきゃだめだ」って思えるようになりました……でも、レミさんは最初からそう思ってたかもしれん。

松尾:うん(笑)。わたしが「もっとこういう風に」って言ったことに対して、今までの亀は「それはちょっと今のシーンに対して戦いすぎじゃない?」って言っていたけど、だんだん亀にも「いいね」って言われるようになってきてて。そこは尖ってきたかもしれないです。

亀本:だからといってポップネスを失いたくないので、そこはしっかり。テーマやリフはちゃんとキャッチーでわかりやすいものを作ろうっていう意識はマストで。その上でバランスをとりましたね。

松尾:そうだね。ロックなんだから他と違うものでありたいということはすごく意識しましたし、あとレコーディングでは「下手に弾け、下手に弾け」って亀に指示してましたね(笑)。

――へえ、それは何故?

松尾:上手くなっていくんですよね、レコーディングを重ねていくと。で、普通だったらギターにしてもボーカルにしてもすごくビブラートを増やしたり、手数を増やしたりとか、世間的に高級と言われるような音にしがちなんですけど、そことは真逆にいこうというやり方で、とにかくリズムがちょっとズレてるくらいを弾け!って言ったり。でもそれってちゃんと弾ける上でやらないといけない。下手に弾くって、上手く弾くより難しいというか。

――確かに。本当に下手だったらそもそも成立しないですからね。

松尾:そうなんですよ。それに亀はギタリストなので、上手く弾きたい気持ちもあるんです。だけどわたしが「下手に弾け」って言うことで中和されて、ちょうどいいバランスになって。ちゃんと聴けるし崩れてない。

――いわゆる遊びの部分ですよね。

松尾:そうそう、隙というか。

亀本:何回も聴ける作品って、そういう部分があるんですよね。例えばギターソロにしても、サラッとしたものをまた聴きたいとは思わなくて、何かしらガツンとくる印象があった方が中毒性が高い。キース・リチャーズとかジミー・ペイジとかのソロにしても、すごくちゃんとしてるワケではないけど、また聴きたくなる、また体験したくなる不思議な感覚があって。そういうニュアンスは自分も出したいし、一回聴いて「よかったね」で終わらずに「またこの人の演奏を聴いてグッときたい」と思わせられるようになりたいなって意識して作りました。

松尾:日本でいうと、ゆらゆら帝国の坂本さんとか、絶対すごく上手いのにワザと外して弾いてる感じ。音楽を何も知らない人が聴くと「このギター下手くそじゃない?」って言われるかもしれないけど、詳しい人が聴いたら表現としてやっているって分かってもらえる、それくらいを狙ってレコーディングしていきました。

亀本:あと、音にも表れていると思うんですけど、今回はいわゆるモダンな音を出せるアンプとか、一切使わなかったんですよ。『Next One』までは必要に応じて現代的なアンプとかも使っていたんですけど……まあ、スラッシュとかヴァン・ヘイレンとかが使ってたようなタイプだから、今思えば全然現代的ではないのかもしれないけど(笑)。僕の中ではその“ちゃんと歪むアンプ”は今回は無しにしようと思って、そこも振り切っていきました。

――ただ、音作りそのものはかなりこだわっている風に聴こえました。

亀本:そうですね。今回は特にこだわりました。「怒りをくれよ」あたりは、「良い音ならいいか」っていう感覚でハイゲインのアンプを選んでレコーディングしてたんですけど、レミさんが言うところの香ばしいオールドの香りが足りない面もあったと思うんですね。それはそれで曲に合っていたんですけど、今回はそうじゃなくて、ちゃんとオールドスタイルでありながら曲にバチっとハマる音を目指そうと思って、試行錯誤しました。かなりマニアックなことだと思うんですけど、自分でも「いやぁこの音アツいなぁ」とか思いながら(笑)。

――ヘタウマの話もそうですけど、チープ感とかローファイの美学っていうことなんでしょうね。

松尾:そうそうそう! 亀のギターソロも、(テイクを)選ぶのはわたしの役割なんですけど、何回も弾いてもらった中から絶妙にズレているテイクを選んだものもあるし、逆に……これは亀としてはすごく珍しいことなんですけど、1テイクしか弾かずに全部OKだったものもあって。

亀本:しかもそれ、セッティングが終わってヘッドホンのボリュームを確かめるために「とりあえず一回弾きますね」っていうやつだからね。

松尾:もう、一回聴いて「ハイ、これでOK!」ってなって終わりましたね。

――ちなみにどの曲なんですか?

亀本:2曲目のソロですね。実際、少ないテイクの鮮度っていうこともレコーディングをたくさんしてくる中ですごく感じたし、そこも楽しめました。

松尾:クリエイティブなことをたくさんできたレコーディングだったなと感じます。

GLIM SPANKY・亀本寛貴 撮影=風間大洋

――なるほど。今回、レミさんが個人的に意識したことはあったんですか?

松尾:歌に関していうと5曲目の「お月様の歌」っていう曲は、どれだけ包容力のある声で歌えるかっていうところで、一番難しかったですね。

――この曲は新しかったです。母性とか女性的な雰囲気が出ていて。

松尾:皆さんにそう言ってもらえるし、新しい感覚で聴いてほしくて入れたんですけど、実は自分的には「これこそが自分なんじゃないか」っていうくらい、すごくナチュラルな曲だと思っていて。

亀本:いやあ、これは新鮮だよ?

松尾:そう、みんなにとっては新鮮かもしれない。

――GLIM SPANKYとしてはね。

松尾:そうなんですよね。今までずっと、「褒めろよ」や「怒りをくれよ」を歌っている攻撃的なときでも、常にこういうテイストはわたしの中に流れていたのに、出していなかったから世間は知らなかった。それを今出してみて「新鮮だ」って言ってもらえるのは、すごく面白いし、ひとつまた新しい自分を提示できたかなっていう点でも嬉しいです。

――これ、なんだか童謡みたいにも聴こえるんですよ。

松尾:そういうイメージですね。あとは1930~40年くらいの映画音楽とか古いディズニー音楽みたいな、ああいう……ポップスとかいう概念もなかった頃の普通の流行歌とか、何かのテーマソング的な曲がもともとすごく好きなんですよ。クラシックのメロディっぽく作られた、日本でいうと童謡みたいな感じの、古き良き時代の美しいメロディをなぞるっていう。

――今まではもうちょっと明快にポップス寄りにしていたと思うんですけど、ごくシンプルなアレンジで。

亀本:アルバムに入れるぶんには、こういう曲は他と差が付くしアリなんだろうなと思って。もっと色々足したらシングル曲として成立するかもしれないんですけど、この曲に関してはそうじゃなく弾き語りと弦のみにして、この盤のために存在する曲にしようと思いました。

――こうして伺っていくと、あらためて盤としてのバランスが良い作品だなぁと感じます。再生ボタンを押して一曲目のイントロ……あのビートルズ期サイケ的な音の衝撃はあるにせよ(笑)。そういえば、あれはどうしてああなったんですか。

亀本:まあ、好きだからああなったとしか言いようがないんですけど(笑)。ただ単純に、ギター2本とベースとドラムっていうバンド編成にプラスαを乗せることも、バンドの作品が増えていく中で必要になることが多いじゃないですか。そこにいわゆるオーセンティックな楽器、ピアノだったりオルガン、ストリングスなんかを足して世界観を広げていくっていうやり方もありなんですけど、せっかく僕らは60年代とか70年代のサイケ要素のあるロックが好きなので。だったらこういう音で世界観を広げるのは普通にアリだし、大きいステージを目指していく中でも役立つんじゃないかなと思って、取り入れ始めた感じですね。

松尾:もともと好きだったから、いつかは(こういう曲を)作りたいという計画が自分の中にはあって、その時をずっと狙っていたという感じ(笑)。

――音の面でいうと、「E.V.I」で存分に弾きまくっている亀本くんのギター、サビの後ろで動いてるギターが当たってるか当たってないかのギリギリのラインをいい感じに攻めてるなぁと。

亀本:あ、僕は割と普通に合うなと思って弾いてたんですけどね(笑)。

松尾:でも言われてみると確かに。それが不穏な空気を良い感じに醸し出しつつもちゃんとノレるギターになっていて、そこに高揚もあって。

――この曲、歌詞カードを見るとむちゃくちゃ漢字が多いんですけど、耳で聴くとすんなり情景が浮かぶ感覚もありました。

松尾:確かに文面で見ると硬いんですよね。歌詞的にはあまり感情が入っていなくて、◯◯が何をしている、とか、どこにいて、とかそういう表現だけで完結しているんですけど、ちょっと怪しさを出すためにわざとそうした部分もありました。そこの部分と、ダンスできるくらいのビート感が合わさって良い感じになったんじゃないかと思います。

――「Freeder」はアンセム感のあるコーラスが入りながら、曲調としてはフォークやカントリーで。

松尾:そうですね。これは完全にアメリカ感を突き詰めた感じですね。今まではこんなに爽やかに突き抜けたことがなかったので……

亀本:僕はすごく好きだけどね。歌やギターもそうなんだけど、この曲のドラムの音がすごい好き。こういう硬くなくて四つ打ち感がしっかり出る感じの音にしたいとはずっと思っていたんですよ。しかも爽やかなカントリーロックで、アメリカの……LAとかニューヨークじゃない感じ?

――つまり、真ん中らへんですね。

松尾:(笑)。

亀本:そう、そのアメリカの“普通の人”が普段聴くような感じというか。そういう人が「良い」って言ってくれたら嬉しいなっていうのがコンセプトでした。

――カッティングも軽やかで。

亀本:ああいうのって見方によっては「チャラい」と思われるじゃない? 四つ打ちで、しかもちょっとキラキラした“ショボいシンセ”が鳴ってて……

松尾:そう! あのショボさが良いんですよ! ショボいシンセが鳴ってる中であのカッティングをするのは、アメリカの商業っぽさもあるけど、それをわざとやるっていう。

亀本:そういうのがすごく好きでよく聴くんですよ。ケンタッキーで流れてる感じの(笑)。

松尾:あえてシンセの音も絶妙にダサい感じに作っていて。それが味を出しているし、それによってアメリカの風が吹いてる音になる気がしていて。ザ・バンドみたいなガチのカントリーにはしたくなかったんですよね。

亀本:都会っぽくもしたくないし、ちょっと時代遅れな感じ。そこで意味のわからないすげえダサいシンセが……

――“ダサいシンセ”、何回出てくるんですか(笑)。

松尾:あははは!(笑)

亀本:ダサいシンセ、大事なんですよ!(熱弁) シンセはダサくてナンボみたいな。

松尾:わかるわかる。それが良いんだよね。

――太字にしときますね(笑)。そして、今作リリース後には東阪の野音があります。

松尾:初めての野外の自主企画なので、セットリストを組むのが今からすごく楽しみで。天候や時間帯によっていろいろな景色が観れるんだろうし……例えば月が出たらそれが自然の舞台演出になるし、飛行機が通ったらその音もバンドサウンドの一部になる、そういうミラクル、その時しか無いライブ感がすごく楽しみです。まだ野外でやったことも多くないので、自分たちの新たな一面を発見できたらいいなっていう気持ちでいますね。

亀本:いつもそうですけど、今回の曲たちをライブで披露することでどういうリアクションがあって、どういう景色を作る曲になっていくのかが楽しみですね。アーティストはみんな言いますけど、曲は大事な我が子なので。それをライブでみんなの前でやるのは子供の大事な晴れ舞台みたいな感じで、親としては本当に楽しみな気持ちでいっぱいです。

松尾:そうだねぇ。入学式かな。

亀本:そうだよね(笑)。

――グリムに野外は合いそうですからね。特にフォーク要素の曲なんかは。

松尾:うんうん。……気持ち良いだろうなぁー! 楽しみです。あとは、6月なので雨が降らないように願いつつですね(笑)。


取材・文・撮影=風間大洋

GLIM SPANKY 撮影=風間大洋

リリース情報
ミニ・アルバム『I STAND ALONE』
4月12日(水)発売

初回盤

【初回限定盤(CD+DVD)】TYCT-69115 ¥2,700 (+tax)
(CD)
1.アイスタンドアローン
2.E.V.I
3.Freeder
4.美しい棘
5.お月様の歌
 
≪DVD≫
「Next One TOUR 2016」(2016.10.30新木場STUDIO COAST)ライブ映像約60分収録!
・NEXT ONE
・ダミーロックとブルース
・闇に目を凝らせば
・grand port
・時代のヒーロー
・いざメキシコへ
・風に唄えば
・怒りをくれよ
・大人になったら
・ワイルド・サイドを行け
・リアル鬼ごっこ
 
【通常盤(CD)】TYCT-60098 ¥1,800(+tax)

通常盤

 

ライブ情報
「GLIM SPANKY 野音ライブ 2017」
6/4(日)  (東京)@日比谷野外大音楽堂

6/17(土)(大阪)@大阪城音楽堂