英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2016/17『ウルフ・ワークス』フェリ熟練の演技が魅せる革新的なバレエ

レポート
クラシック
舞台
2017.4.1
ウルフ・ワークス『波』 ⒸROH

ウルフ・ワークス『波』 ⒸROH


好評の英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2016/17の7作目はウェイン・マクレガー振付によるバレエ「ウルフ・ワークス」だ。今世界でもっとも注目を集めている振付家の一人であるマクレガーが英国の女流作家ヴァーニジア・ウルフの作品と生涯にテーマを得て、2015年に発表した作品で、主演に往年のスターダンサー、アレッサンドラ・フェリがカムバックしたことでも注目された。さらに音楽はマックス・リヒターが作曲。ダンス、美術、音楽に文学もが融合した本作は大きな反響を呼び、批評家協会賞の最優秀クラシック振付賞、ローレンス・オリヴィエ賞の最優秀ニュー・バレエ賞などを受賞する話題作が3月31日(金)から、ついに日本で公開となった。

ウルフ・ワークス『ダロウェイ夫人』 ⒸROH

ウルフ・ワークス『ダロウェイ夫人』 ⒸROH

■3部構成の物語を通しウルフの真髄に迫る

作品はヴァージニア・ウルフの短編と手記をモチーフとした3部構成となっている。1部は『ダロウェイ夫人』をモチーフとした「今の私、かつての私」、2部は『オーランドー』をベースとした「形成」、そして3部では『波』にウルフ自身の手紙やエッセイ、日記などを加えて構成した「火曜日」だ。それぞれが独立した短編でありつつも、3部すべてを通して作家の世界観や多面的なキャラクターを表現し、そして59歳で世を去った作家へのオマージュともいえる内容となっている。

ウルフ・ワークス『オーランドー』 ⒸROH

ウルフ・ワークス『オーランドー』 ⒸROH

ヴァージニア・ウルフは1882年というヴィクトリア王朝華やかなりし時代に生まれ、1941年、第二次世界大戦のさなかに亡くなった、ポストモダニズムの作家だ。彼女が生きた時代は世界自体が近代から現代へ大きく変わっていく時代でもあった。蝋燭の灯りが電灯となり、馬車に変わり車が登場してやがて飛行機が飛び、世界を巻き込んだ大きな戦争が起こった。大きく揺れながら変わる世界で生きた彼女は、登場人物の心理描写や意識を深く掘り下げた作品を次々発表する。表現は詩的であったり象徴的であったり、あるときは韻文で書かれたりと、様々な実験的な要素を取り込んで、自身の繊細な心を表現しようとした。バレエの制作スタッフが「彼女は言葉で踊っている」と語る彼女の文章の魅力が発揮されるのは、3部の冒頭。ウルフの有名な遺書の朗読とともに踊られるダンスは、まるで音楽に乗って踊っているかのようにも感じられる。

ウルフ・ワークス『波』 ⒸROH

ウルフ・ワークス『波』 ⒸROH

■物語に深みを与えるフェリの熟練の表現力

そしてこの「ウルフ・ワークス」に深みを与えるのが、齢50を越えたアレッサンドラ・フェリの熟練の表現力と存在感だ。といっても圧倒的なオーラを放ってそこにいるわけではない。彼女が登場するのは1部と3部のみだが、時にはダロウェイ夫人に象徴される「私」であったり、ウルフ自身であったりと、静かな存在感を放ちながら、そこにいる。舞台の物語が進むにつれ、この役は年輪と経験を重ねたダンサーならではだとしみじみ思わせられる。

ウルフ・ワークス『ダロウェイ夫人』 ⒸROH

ウルフ・ワークス『ダロウェイ夫人』 ⒸROH

また英国ロイヤル・バレエ団(ROH)のダンサーたちによるパフォーマンスも見事だ。エドワード・ワトソンやギャリー・エイヴィス、日本人プリンシパルの高田茜、スティーブン・マックレーなど演技達者でそれぞれに個性的なお馴染みのダンサーたちが、コンテンポラリーならではの表現力の幅や身体能力など、古典作品とは違う魅力を存分に見せてくれる。特に男性主人公が300年のときを旅し女性へと変化する2部「形成」はダンスの動きや衣装共々、斬新かつ革新的。電子音楽とオーケストラを融合させたリヒターの音楽も、さらに物語の世界を広げる。新しい芸術を創造しようとする(ROH)の並々ならぬ意欲すら感じられ、圧巻だ。

「マックス・リヒター 3つの世界 ウルフ・ワークスより」

「マックス・リヒター 3つの世界 ウルフ・ワークスより」

「ストーリーがないからなかなかわかりづらい」とも言われるコンテンポラリーだが、真に表現力のあるダンサーたちが踊るものは、やはり物語が見えてくる。3部は胸に迫るものさえ感じられ、圧巻だ。世界の最先端ともいえる作品、ぜひこの機会に見ておきたい。

上映情報
ロイヤル・バレエ『ウルフ・ワークス』
 
■振付:ウェイン・マグレガー
■音楽:マックス・リヒター
■指揮:クン・ケッセルス
■出演:アレッサンドラ・フェリ/サラ・ラム/ナタリア・オシポワ/高田茜/スティーヴン・マックレー

■上映時間:3時間8分
■上映劇場:
北海道    札幌シネマフロンティア    2017/4/15(土) ~2017/4/21(金)
宮城    MOVIX仙台    2017/4/15(土) ~2017/4/21(金)
東京    TOHOシネマズ日本橋    2017/3/31(金) ~2017/4/6(木)
東京    TOHOシネマズ六本木ヒルズ    2017/3/31(金) ~2017/4/6(木)
千葉    TOHOシネマズ流山おおたかの森    2017/3/31(金) ~2017/4/6(木)
神奈川    TOHOシネマズららぽーと横浜    2017/3/31(金) ~2017/4/6(木)
愛知    TOHOシネマズ名古屋ベイシティ    2017/3/31(金) ~2017/4/6(木)
大阪    大阪ステーションシティシネマ    2017/3/31(金) ~2017/4/6(木)
神戸    TOHOシネマズ西宮OS    2017/3/31(金) ~2017/4/6(木)
福岡    中洲大洋映画劇場    2017/4/1(土) ~2017/4/7(金)

■公式サイト:http://tohotowa.co.jp/roh/movie/woolf_works.html

 

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