cinema staffが新譜『熱源』に至るまでの道――30代を目前にした“現在のシネマ”は何を思うのか
-
ポスト -
シェア - 送る
cinema staff 撮影=風間大洋
正直、極端から極端に突っ走ってるようにも見える。昨年、cinema staff がリリースした前作『eve』がバンドの可能性を大きく広げるポップで明快な意欲作だとしたら、フルアルバムとしては1年ぶりにリリースされる今作『熱源』は、ライブハウスでエネルギーを爆発させながら、混沌とした世界を描いてきたシネマの原点を取り戻すような作品だ。今回のインタビューでは、「なぜバンドが原点回帰とも言えるモードに向ったのか」を訊いたが、それは遡れば、メジャーデビュー以降、いや、それ以前からシネマが抱き続けてきた、このバンドはどんな音楽を鳴らすべきなのか?という問いへの、答えそのものだった。今年でメンバー全員が30代に突入することも、今作には影響を与えているという。衝動で突っ走るには若くはないが、自分に見切りをつけるにはまだ早い。以下のインタビューからは、そんな30代目前のメンバーが抱く葛藤が生々しく伝わってくると思う。
――『eve』を出してから、今作の間に『Vektor E.P』があったから、その流れを汲んだロックなアルバムだとは思ってましたけど、予想以上に振り切ってきましたね。
久野洋平:『eve』を作り終えたときに、次をどうしていくかっていうのを、みんなで考えたときに、バンドもポニーキャニオンの制作チームもみんな一致だったのが、まず、前作『Vektor E.P』の方向性だったんですね。好き勝手やってる感じというか。
――いわゆる初期のシネマらしい破壊力のあるロックサウンドですね。
飯田瑞規:そう。『eve』を作ったときは――その前の『WAYPOINT E.P.』のときも、『SOLUTION E.P.』のときも含めて、プロデューサーに入ってもらって、より間口を広げることをやったんです。振り返ると、僕らはずーっとそれ(間口を広げること)が目標だったんですよ。いろんなお客さんに聴いてもらえるような曲を目指して、リリースすることが多かった。それを『eve』でやり切れた感じがあったんです。スタジオで話したときも、次はこういう方向性でやりたいねっていうのは、すんなり決まりましたね。
――シネマがより大衆性を求めた『eve』への流れっていうのは、その前の『WAYPOINT E.P.』と『SOLUTION E.P.』も含めて、1年ぐらい試行錯誤を続けてきたことだったじゃないですか。その期間っていうのは振り返ってみて……?
三島想平:しんどかったですね。「俺は何がやりてえんだろう?」っていうのは、ひたすら考えました。自分でもわからなくなっちゃって。その答えをプロデューサーの江口(亮)さんっていう第三者に託した部分があったんですよ……もちろん擦り合わせながらやるんですけど。これは良いのか、悪いのか、どうなんだろう?みたいなことを自問自答してたのが、去年なんです。もちろん、そうやって作った作品は良かったと思うんですけど。
飯田:最近思ったんですけど、『eve』の曲って、結果的にあんまりライブでやってないんですよ。作品として良いものができたし、ライブ用のアレンジもして、ツアーに挑んだから、音源の再現はできてたけど、ツアー後、そこまで『eve』の曲をやってなくて。
――作品としての素晴らしさと、それがライブに向くかっていうところが違ったんですね。
飯田:だから、今回のアルバムを出したらアルバムの曲をガンガンやりたいというか、新曲でお客さんを楽しませたいっていうところはあったんです。
――ということは、『eve』を経て、やはりシネマはライブを大事にしたいバンドだし、だからこそ初期衝動に返るものになったのが『熱源』という感じですか?
三島:初期衝動とまでは、自分ではそんなに思わないですけどね。やっぱり整理しちゃうから、昔のようにはできないなって思いましたから。言い方が変ですけど、前作は(ポップに)江口さんとやるっていうことが明確だったので、正解がある程度ある。自分のなかでジャッジが簡単だったんです。でも、今回は“昔みたいなっていうテーマ”があるわけですよ。好きにやればいいじゃんってなったんですけど、好きにやるってなんだ?って問いがあったんです。
――制限があるほうが難しいのかと思いきや、昔みたいに自由であるほうが、気がついたら、逆に難しいことになってしまってたと。
三島:そうなんですよ。たとえば昔だったら、和音が当たっちゃってダメだったところも自分たちらしくて良かったんですけど、『eve』はそれを整理する作業だった。とにかく丁寧にやれって言われたんですけど、それを1年後に崩すことになったから、混乱しちゃってたんです。何も考えずに作った感じですね。
cinema staff 撮影=風間大洋
――バンドのモードが明らかに変わってるなというのは、1曲目でリード曲の「熱源」からも感じますけど、これはアルバム制作としてはどのぐらいの時期にできましたか?
三島:これは今年の初めだから……アルバムの半ばぐらいですかね。
――この曲が1曲目にあることでアルバムの方向性を決定づけてますよね。
三島:作ったときも思いました。これを作るまでは、さっき言ってたような「何がいいんだろう?」っていう感じだったんですけど。これができて、軸ができたんです。「俺は自分でこの曲を心の底からかっこいいと思ってるわ」って思えたんですね。
飯田:(三島から)「この曲はこういうイメージで」っていうコメントありきで、デモが送られてくるんですけど、その段階から明確にやりたいことが伝わってきましたね。こういう新しくて、ワクワクする感じは、今回のアルバムの全曲で感じたんです。「熱源」も含めて。
辻友貴:たぶん、いまどき完全にオリジナルな音楽って難しいと思うんですけど、いま、僕らがやってるフィールドに、こういう音楽をやってる人はあんまりいないんだろうなっていう曲だったんですよ。そこは挑戦というか。僕らは平均を目指すんじゃくて、ハミ出てることを目指すんだっていうのがわかった曲ですね。
――うん。つまり“昔みたいに”っていうテーマはあったものの、それがわからなくなってた。でも、「熱源」ができて、好き勝手やるシネマの良さに帰れたんですね。
三島:完全にではないですけどね。今回の制作時と同じ気持ちになった作品が1個あって。それがインディーズのときに出したセルフタイトル『cinema staff』だったんです。今回のアルバムでどういう質感を出せばいんだろうなと思ったときに、まずあの作品を参考にしたんですよ。あれを振り返ってみると、演奏はそれこそインストでも成立するんですけど、難しいチャレンジとか、思いつきをガンガン入れようとしてて、音に無駄が多いんですよね。それに対して、無駄のない美しいメロディがのせたいっていうのはあって。
飯田:だから、2曲目の「返して」とかも、いらないアレンジが多いんです。でも、それも消さずに使おうっていう。そこですよね。僕らの好きなUSインディーとかも、その場所って必要なのか?でも、それがかっこいいなっていうのがあって。そういうわかりづらさが、何度も聴きたくなる衝動に駆られるんです。
三島:フックっていううことですよね。しかも、そのフックを考えて設けるんじゃなくて、最初から自然にフックしてたやつを消さないっていうことなんです。
――なるほど。
久野:でも、今回あのときと違うのは、『eve』までにやってきた経験が足されてることですよね。やっぱり、あれ(『cinema staff』)をもう1回作るのは無理なんですよ。いろいろな経験をしちゃってるから。一度、昔やってきたところから離れて1周したからこそ、昔やったことに意味を足せてると思うんです。僕らは毎回アルバムごとに目指してたものがあって、それを1個ずつ獲得していった感じがある。それを今回のアルバムでは詰め込んだ感じがします。だから、ここまでやってきて良かったかなと思いましたね。
――歌詞についてもサウンドと同じように意識の変化があったんですか?
三島:『eve』とか『blueprint』では、共感してもらえるような、いちばんわかりやすい言葉で書いてたんですね。それが『eve』ではちょっと緩和されて、でも、具体的に言ってることがすごく多かった。でも、今回いちばん最初にディレクターに言われたのが、「昔みたいな歌詞がよくない?」っていうことだったんです。
飯田:実は、僕も三島に同じことを言おうと思ったら、ディレクターが先に言ったんです。『blueprint』も好きなんですけど……けっこう遡っちゃうんですけど、『SALVAGE YOU』(2012年ミニアルバム)を出したときに、三島が最初に書いてきた歌詞をいろいろ整理して、第三者に書き直してもらう作業があって、できあがったものが本チャンで使われた歌詞だったんですけど、僕はもともと三島が書くフィクションというか、物語みたいな歌詞にすごくドキドキするんですよ。三島にしか書けないものだし。
――抽象的なんだけど、すごくヒリヒリとしたものがありますよね。
飯田:そう。絶対に他のバンドではやってないことですよね。だから、『SALVAGE YOU』のときに、最初に書いてた歌詞は良かったなって、いまだに忘れられないぐらいだったりするんですけど。『eve』を経て、『blueprint』もあったうえで、これはちょっと言いづらいけど、言おうかと思ったときに、ディレクターが言ったんですよね。
三島:それって難しいじゃないですか。結果論だったりもするし。俺は、もちろん良かれと思って、(わかりやすいように)矯正して変えてたんです。もともと俺はニュアンスで書いてた人なので、それこそメジャーにいったタイミングで、作詞の勉強をしたりいろいろな人に聞いたりして、歌詞として何が大切なのかを考えた。ざっくり言うと、シネマは売れたいんだろ? 売れたいんだったら、売れる歌詞があるから。俺は、そうしなきゃいけないと思ったんですよ。でも、今回「昔が良かった」って言われて。……本当に周りは無茶苦茶言いますよね(笑)。
――そうですね(笑)。
飯田:「前のほうが良かった」っていう言い方ではないんですけどね。次にやるんだったら、前みたいな歌詞なのかなっていうのはありましたよね。
三島:「じゃあ、お前が書けよ」って、禁断の言葉を言いそうになりました(笑)。
cinema staff 撮影=風間大洋
――そういう意識で三島さんが作ってきた歌詞について、メンバーはどう思いましたか?
飯田:俺は好きだなと思いましたよ。デモと同じで、シネマにしかできないものだっていうのは感じたんです。今年30歳になるんですけど、最近、歌詞と、やってる音楽とがマッチしてきたなと思ってるんです。いまのほうが(歌詞を)理解してもらえるというか。説得力が出てきた。そういうなかで、この「熱源」の歌詞は良いと思うんですよ
――<いつ生れるか分からないが それでも種は蒔ける そして熱は産まれる>とか、良いですよね。若い頃とは違う、30歳を迎えたいまならではの熱があって。
飯田:もともと三島が歌詞を書いてきたときに、この曲は「自分に言いたい決意の歌だ」って書いてありましたね。だから、いま歌うべき曲だなと思いました。
三島:自分の悪いところばっかり書いたんですけどね(笑)。
――間もなく30歳になるっていう年齢的なことは、作品に向かうにあたって、どのぐらい意識したんですか?
三島:すごく意識しました。「熱源」に関しては、それそのものですよ。「殻を破らないと」っていう。いままでの歴史を考えるんですよ。偉大な人たちが30歳で何をやってたか。ミッシェル(THEE MICHELLE GUN ELEPHANT)は30歳のときどうだったのか?
飯田:ブッチャーズ(Bloodthirsty butchers)の話もしたよね?
三島:そうそう、ブッチャーズは『kocorono』を29歳のときに作ってるんですよ。だから、もう僕らも半端なものは作れないっていう、まず大前提があったんです。若手の“ザ・勢い”みたいなものは作りたくないし。とはいえ、初期衝動を感じてもらえたように、原点回帰もありますし。そういうバランスは考えながら作りました。
――結果、シネマは30歳を前にこれだけ尽きない衝動があるんだって作品になった。
三島:それは感じてもらいたいですよね。「若いね」って言われたいところもあるし(笑)。でも、これと同じようなことは20歳の小僧にはできないっていう意識はありますし。
飯田:20歳でこの曲を歌ったら、嘘っぽく感じそうですよね。
――久野さん、辻さんは、30歳になることについてはどうですか?
久野:僕は焦らなくなったかな。昔のほうが「若いうちに何かを成し遂げないと」みたいな意識のがあったというか。最近は逆に、時間はあるし、良い曲を作っていけばいいのかな、みたいな感じになってきてて。ここからは生き急がずに冷静にやりたいです。
辻:20代中盤になってきたときに、下のバンドがどんどん売れたりして、けっこう焦ってた時期もあったんですよね。でも、去年あたりから、「cinema staffを聴いてました」みたいなことを言ってくれる若いバンドと、よく(ライブを)やるようになって。それで意識が変わったというか。もっとドッシリした音源を作りたいっていう感覚が出てきたんです。
久野:そう、それだ。俺もそれが言いたかった(笑)。
三島:辻の言ったことは、すごく「そのとおりだな」って感じますね。
飯田:うん、良いこと言った。
三島:今までそういう内部からの焦りを、俺は一身に曲を入れてたのかもしれないです。だから(辻が)言ってることにすごく納得した。『blueprint』、『eve』……いや、その前からかな。『Drums,Bass,2(to) Guitars』のころから、その突き上げをすごく感じてて。
久野:俺は20代で焦らんかったら、いつ焦るんだと思ってたんですよ。
三島:しかも、俺は『望郷』で1回燃え尽きちゃったんですよね。
――メジャー1stアルバム。
久野:俺は、それで焦ったんですよ。三島が燃え尽きてる感じに。
――なるほど。けっこう話が遡りますね。
久野:メジャーデビューぐらいから、三島が調子が悪くて。『into the green』(メジャーデビューミニアルバム)から『望郷』ぐらいまでが、僕から見ると、三島の調子が悪かったんです。いまそんなふうになったら、20代が終わっちゃうじゃんって。
三島:俺、すごい辛かったんです。
cinema staff 撮影=風間大洋
――メジャーデビュー期は「売れなきゃ」って気持ちが強かったんですか?
三島:うーん……でも、意外と俺はその意識が希薄だったんですよ。セールスに対しては、そんなに。だから逆に、周りに対して、「なんでそんなにやらなきゃいけない?」っていうのが先行してた。でもいまは、そこのバランスもうまくとれてきた感じじゃないですかね。
――つまり、メジャー以降、『望郷』も『Drums,Bass,2(to) Guitars』『blueprint』にしても、よりたくさんの人に聴いてもらうには?っていうことを、ずっとシネマは模索してきた。で、『eve』でそれを極限までやり切ったうえで、ようやくシネマがやるべきことを掴んだと。
三島:そうかもしれないです。
久野:『eve』があったから、自分らがどういうバンドかわかったんですよね。
三島:cinema staffは何をやりたいのかわからないって、もう永遠に言われ続けるんですよ。歌ものなのか、演奏をバキバキやるのか。いろんな大人に言われてきた。それでも「何なんすかね……?」とか言いながら、自分で課題を見つけてやってきたから。いまは「cinema staffとやりたいんですよ」って言ってくれる若い人たちもいてくれたりして、報われた気持ちになったんです。あ、間違いじゃなかったなって。良いのか、悪いのか、売れるのか、売れないのかって悩みながらやってきたことが、曲がりなりにも評価されてるんだなっていうのを学んだりすると、それだけで「やってて良かった」っていう結論にいたって。それを継続していくには、ナチュラルにやるのがいちばんじゃないかと思ったんです。
――個人的にも、今作を聴いて、やっぱりシネマはこれだなと思いましたからね。
三島:そう言ってもらえると、うれしいです。
――もう少し収録曲について訊けたらと思いますけど、まず、「pulse」。これは、それこそシネマの歌ものに収まり切らない、バンドとしてのかっこよさが出てます。
久野:これはライブをいちばん意識した曲ですね。三島のデモがあがったときも、ライブでキラーチューンになりそうなやつが来たよ、みたいな感じだったので、それぞれのアレンジを考えてるときも、よりライブを想像できるようにした感じです。よく考えたら、CDを出す前のころってライブでやるために曲を作ってたんですよ。でもいつの間にか、その順番が「音源を出したからライブをやる」に変わってた。だから、この曲ではそういう昔っぽい作り方をしてたなっていうのはありますね。
――そうなると、「pulse」はリード曲でもあるし、「熱源」と並んで、ライブ感のあるシネマを取り戻す意味では、作りながらも手応えはあったんじゃなですか?
久野:でも、意外と「pulse」はダークホースだったんですよ。最初はそんなふうになるとは思ってなかったというか。
三島:俺は「pulse」の評価は低いなと思ってたよ。シングル候補だぐらいに思ってたけど、メンバーのリアクションがそんなでもなくて。
久野:え? 俺は、三島がそういう感じじゃないと思ってた。
飯田:俺も。とりあえず、激しくてライブでやりやすいっていう感じのニュアンスだと思ってたから、出来上がって、ミックスが終わったら、「お、めちゃくちゃかっこいい!」と思って。だから、三島だけが完成形を見えてたんでしょうね。
―― pulseっていうのは“脈動”という意味で、歌詞には“俺たちの脈は止まっていない”っていうフレーズがあるのも印象的です。
飯田:俺のなかで、歌詞は『Vektor E.P』の3曲目「ビハインド」が終わったあとに続く、4曲目みたいなイメージなんです。『Vektor E.P』は裏テーマとして戦争であったり、攻める側、攻められた後、みたいな話があったんですけど。三島がイメージしてるのが、オスプレイが飛んでくる街に大人が残されてる、みたいな物語で。その延長だと思います。
cinema staff 撮影=風間大洋
――争いがテーマなのは、今作でも「メーヴェの帰還」とかで感じますけども、なぜ、戦争であったり、争いみたいなものをテーマにするんですか?
三島:政治的にどうこうっていう言うつもりはないんですけど。わりとフィクションの歌詞を書くことが多いなかで、今回は誰が主人公か明確にしようと思ったときに、たまたま戦争のドキュメンタリーを見たとか、そういうレベルですね。あとはグアムに旅行に行ったときに、横井庄一記念館に行って、考えるタイミングが増えたとか。グアムでは現地の書き方で戦争が語られてるから、解釈が(日本とは)全然違うんですよ。「やっぱり、そうだよな」と思って。物事をどこかで見るかでかたちが変わる。そういう同じようなテーマを『Vektor E.P』から連作でやってみたかったんです。
――そのテーマを掲げることで、何を伝えたいと思いますか?
三島:具体的に「強く生きようぜ」とか、そういうことは全然なくて。抽象的なんですけど……メンタリティとして、自分がどういう立場にいるかは、他の人には見えないじゃないですか。たとえば、いまの時代だと、戦争にどういう理由があって、そこで人が何を考えてたかなんて、それを当事者として考えることはないと思うんです。でも、それ以外のことでも、他人の立場になって想像力を働かせたら、解決することはあるというか。
――ええ。わかります。
三島:だから、「返して」っていう曲では、戦争で「街を出て行け」って言われちゃったけど、理解してるのか、してないのかわからない年頃の子たちが、なんとなく街の雰囲気を察して、「あ、出て行かなきゃいけないんだな」って感じてる、そういう悲哀を書いたりしたので。いままで見えてなかったことに心を合わせて考えてほしい、みたいなことだと思います。でも、本当に今回は抽象的なので。それぞれが何かを感じてほしいです。
――あと、「波動」は美しいバラードで、赤ちゃんが生まれる瞬間みたいなものが書かれてますが。この曲はすごくエネルギーを感じました。
三島:これは、知り合いに子どもが生まれたこともあって、何かが誕生する瞬間の、波紋がぶわーって広がっていくような感じを出したいなと思ったんです。
久野:これは、デモから一番かたちが変わりましたね。
三島:最初のデモはもっとアレンジがポップスで、ザ・バラードみたいな感じだったんです。で、久野くんに「これは良くない」って言われて。
久野:唯一、この曲だけそう思ったので、正直に言いました。誤解を招きそうだったんですよ。(前作『eve』の)「YOUR SONG」の延長みたいな、シンプルな感じだったので。
――ああいう曲が今回のアルバムのなかにあると、ブレるかもしれない。
久野:そう。でも、今回は明らかに『eve』からはモードが切り替わったぞっていうアルバムにしたかったから、誤解を招くことはやりたくなかった。でも、メッセージとしては入れたものだって言うから、やるんだったら、アレンジをザ・cinema staffみたいなものにしたいと思って。イチからやり直していきましたね。
飯田:それで、メロディは聴きやすいバラードで印象的にはわかりやすいのに、やってることは難しいっていう曲になったんです。これ、耳コピできないだろ、みたいな。
――いわゆるシネマの持ち味が発揮されてた曲ですよね。
久野:僕らはこういうエモい感じのバラードは得意なのに、やり過ぎないようにしてたんですよ。同じような曲ばっかりになるのが嫌だったから。それも、今回は惜しまずに出していこうって。「また、この感じかよ」っていうのを恐れずにやった感じですね。僕らが天然でやるとこうなるっていうのを、もう隠す必要はないなと思って。
――結果、アルバムにはなくてはならない曲になったと思うし、繰り返しになるけど、年齢的に30歳を迎えて書ける曲ですよね。命についての歌っていうのは。
三島:そういうのって、若いときに「いつか書くのかな?」と思ってたんですよ。でも、それはちょっとダサいなと思ってたんですけど。「やっぱり書くんだな」っていうのに気づきましたね(笑)。そういうことを目の当たりにすることも増えましたよね。
cinema staff 撮影=風間大洋
――で、アルバムを締め括る「僕たち」は、物事の終わりを歌うんだけど、それが始まりでもあるというメッセージも、今作にふさわしいなと思います。
久野:「僕たち」が最後になるのは、最初から決まってました。この曲は、僕と三島くんが大学のときにやってた、もう1個のバンドのセルフカバーみたいな感じで、僕がすごく好きな曲だったんですよ。さっきの歌詞の話に近いんですけど、何も考えてない……いや、何も考えてないわけじゃなかったと思いますけど、天然でやってた頃の曲で。それを昔、三島くんに言ったら、「これは技術がないから気に入ってないんだよね」って言われて、ショックだったんですよね(笑)。でも、技術がないときでないと、出てこない感じも好きなのになーと思ってて。いつか、この曲はやりたいなと思ってたんです。
――それがこのタイミングで陽の目を浴びることになったと。
久野:この曲の歌詞は、自分に重なるものがあるんですよね。今回のアルバムに入れることで、激しく終わるんじゃなくて、壮大に終わりたかったんです。
――じゃあ、歌詞はその当時のままなんですか?
飯田:いや。そもそも歌詞は、あるところはあって、ないところはない、みたいな曲だったので、けっこう書き足してはいます。
三島:この曲に関しては、僕は美しく墓標を立てておきたかったんですけど、こういう無法者が掘り起こしてきやがって(笑)。
久野:僕も当時ドラムだったので、言う権利はあるかなと思ったんです(笑)。
三島:最初はすごく複雑でした。当時、僕がギターボーカルだったので、自分で歌ってたんですよ。それが引っかかってたんですよね。人に歌わせたくなかったというか。でも、埋もれてるほうが、曲に失礼だろう、みたいなことを言われたので。
久野:せっかく良い曲なのに、サークルの人たちしか知らないのが、もったいないじゃん。
飯田:ずーっと前にも、この曲の話が出たことがあったですけど、そのときも(三島は)「この曲は嫌だ」って言ってて。その気持ちもめちゃくちゃわかるし、本当に大事な曲なんだろうなって思いながら歌いましたね。
――わかりました。今回のアルバムは総じて、すごく前に向かってる感じがするし、生命力が溢れてる。ここから新しいシネマが始まっていく予感もします。
三島:やっぱり30歳になって、周りではバンドを辞めて行く人たちもいるし、人生の岐路に立ってる人も多いんです。そういう影響もありつつ、俺らも新しい体制でバンドがスタートができてて。だから、紆余曲折は死ぬほどあったと思うんです。でも、バンドとしてちゃんと飯を食えてて、安定した飛行ができてるところを幸せに思うし、だからこその責任を持ちながら、かっこいいものをやらなきゃいけないですよね。いまはバンドが楽しくてしょうがないですから。
――良いですね。では、最後に、今作を引っさげた『「熱源」Release tour 『高機動熱源体』』が6月から始まりますが、どんなツアーになりそうですか?
久野:久しぶりにやる対バンツアーになるんですけど、それもいまの気持ちの表れですね。僕らはもともと、相手に負けないライブをするっていうところにモチベーションを持ってたバンドだったから。それは対バンツアーじゃないと味わえないものじゃないですか。自分たちでツーマンをやってみたい相手を呼んで、それを倒す!みたいな。そうやって試練を乗り越えていくツアーになるんじゃないかなと思います。
取材・文=秦理絵 撮影=風間大洋
日付:2017年5月19日(金)
場所:東京キネマ倶楽部
時間:開場17:45/開演18:30
出演:cinema staff、Age Factory、SHE'S、PELICAN FANCLUB
一般発売
発売開始:4/15(土)~
2017年5月17日(水)発売
価格/品番:初回限定盤(CD+DVD)¥3,800(本体)+税/PCCA.04537
通常盤(CD only)¥2,600(本体)+税/PCCA.04538
M1「熱源」
M2「返して」
M3「pulse」
M4「souvenir」
M5「メーヴェの帰還」
M6「波動」
M7「el golazo」
M8「diggin’」
M9「エゴ」
M10「僕たち」
全10曲収録
初回DVD収録予定内容
・前衛懐古主義 part1 東京編@2016.10.17 LIQUIDROOM
・「エゴ」Music Video
・「返して」Music Video
・「ビハインド」Music Video
・Music Video Document Movie