竹中直人&玉山鉄二『野武士のグルメ』インタビュー 久住昌之作品への想いと「居心地のいい」作品の魅力
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撮影=岩間辰徳
ドラマ『孤独のグルメ』のスタッフが集結したドラマ『野武士のグルメ』(原作:久住昌之、作画:土山しげる)がNetflixにて現在配信中だ。定年退職した主人公が、粗野な野武士のように「自分が好きなものを好きな時に食べる」ことを決意し、昼間に飲むビールやラーメン、スパゲティなどを楽しむ日常を描いている。主人公・香住武を演じるのは竹中直人。そして、香住の心の中に登場するワイルドな野武士を玉山鉄二が演じている。久住作品に惚れこみ自ら企画を持ち込んだこともあるという竹中と、竹中と一緒の現場に「ほっ」としたという玉山。作品同様に、肩肘を張ることなく共演したという本作の魅力と、二人が作品同様に通う店の”味”について語ってもらった。
竹中直人の久住昌之作品への想い
竹中直人 撮影=岩間辰徳
――竹中さんは原作者・久住昌之さんのファンで、過去にはご自身でたくさん映像化の企画も提案されたそうですね。
竹中:『かっこいいスキヤキ』(編注:泉昌之著。原作:久住昌之、作画:泉晴紀のコンビ名)が出版された頃から大ファンなんです。「『孤独のグルメ』を映画化したい」って、有名になる前に出していたくらいです。
玉山:(驚きながら)そうなんですか!
竹中:そうなんだよ。『かっこいいスキヤキ』、『天食 - 晋遊舎』(編注:泉昌之著)も映画化企画を出したくらいさ。『天食』は現代にお侍さんが普通に生きているってお話なんだ。企画を出した頃は、久住作品を読んでいる人が少なかったのかな。
――そうすると、本作にも思い入れがありますね。『野武士のグルメ』の魅力はどこだと思いますか?
撮影=岩間辰徳
竹中:主人公の人間性が小さい感じが好きです。気が小さくてちょっとビクビクしている感じがいいです。
玉山:(うなずく)
竹中:香住は特にそうですが、周りの目ばかり気にしている。そのなかに代弁者の野武士がドーンと現れる。
玉山:(香住は)日本のお父さんの代表ですよね。はたから見る日本のお父さんの3、4割はこんな感じなんだろう、と誰もが共感できるキャラクター。
竹中:偉そうなオヤジじゃないのがいいですよね。
――ゲストの方も豪華ですね。
竹中:すごいキャスティングでしたよね。「なんで温水洋一が君いるんだよ」ってね(笑)。キャスト表を見ないで現場に行くのが楽しみでした。
竹中直人×玉山鉄二 10年数年ぶりの共演に感じること
撮影=岩間辰徳
――玉山さんは、香住とは対照的に無表情な野武士を演じてらっしゃいます。演じるうえでお互いを意識しましたか?
竹中:玉山君とは以前共演(編注:2002年の映画『恋に唄えば♪』)していますし、久しぶりの競演を楽しみにしていました。
玉山:(笑)僕もそこまで意識はしなかったです。十数年ぶりに竹中さんとご一緒させていただいたんですが、現場でなんだか「ほっ」としますよね。すごく穏やかだし。香住とのシーンはありますが、絡みという絡みが無いんです。1カットだけ目くばせするシーンがあるんですが、あれは痺れましたね。
竹中:あれ、予告編でも使われているよね。綺麗だよね。
――では「名場面を挙げるなら」と聞かれたら?
玉山:僕は、そこですね。
竹中:僕も、そこですね。カウンターのところだよね。
玉山:僕は豪快に「おう!」ってお酒を飲むんですが、竹中さんは香住のキャラクターもあって、小さい声で「おっ」って控えめにするのがキュートで。
竹中:ロマンチックなシーンだね。
――ではお好きなシーンは?
竹中:玉山くんとデパートの屋上で会うシーンが面白かった。玉山くんが屋上のベンチに座ったり、寝っ転がっているのがね。たまらない。
玉山:僕は大好きな話があるんです。香住が姪っ子に気を遣う話(シーズン1エピソード4『焼肉モラトリアム』)なんですが、姪っ子や店員からいろいろ言われているのが、かわいくてかわいそうで(笑)。「ああいう人いるな」って、あれは絶妙だと思います。僕は4人兄弟の上3人が姉で、親父が姉とお袋に板挟みになっていたのを見ていたので「凄いリアルだ!」と思って、お腹を抱えて笑いました。1回はかっこつけるんですよね。「どうだ!」って(笑)。
撮影=岩間辰徳
――久しぶりの共演でしたが、いかがでしたか?
竹中:最初に脚本をいただいたときは、野武士も僕がやると思ってたんです。玉山くんが決まる前だったので、誰がやるのだろうって思っていたら、「おぉ。玉山君なんだ」って、うれしかったです。僕が2役やっていたら大変でした。だって倍食べなきゃいけないしね。
――玉山さんはいかがでしたか?
玉山:実は、原作で野武士は毎回“名言”を言うんですが、香住役を竹中さんがやると聞いていたので、「(竹中に対して)僕では若い」って思ったんです。それで一度(監督に)「自信がないです」とお伝えしたんですが、「玉山さんはワイルドに、自由に飯をかきこんでください」って言葉をもらって“やってみよう”と思いました。
撮影=岩間辰徳
――そんなエピソードがあったんですね。どんな役作りをされたんでしょう?
玉山:僕の中では、体重を増やして、髭を生やして、あえて荒さが出るようにしたいと思っていて、監督から自由にさせていただいたのが本当に良かったです。野武士を演じている自分は本当に居心地がよくって、自然と現場に入ると「若干訛ったほうが野武士っぽい」とか、自分の中でいろいろなアイディアが出てきたのは嬉しかったです。
――竹中さんは、香住と似ているところはありますか?
竹中:僕も香住と一緒の性格で周りのことがすごく気になるほうですね。心のなかで「ふざけんな!」って思っていても言えない。でも僕自身は、寂しがり屋だしひとり飯はできないですね。お互いに「美味しいね」って言える人がそばにいてほしいし、いろいろなメニューがあるところでは、ひとりでは食べきれないけれど、何人かいてくれたら食べられる。そういうのを含めて、僕はひとり飯はできないです。何人かで食べて「おいしいね。おいしいね」って言いたい。でも気の小ちゃさは一緒です。
『野武士のグルメ』に出てくるお店は、居心地がいい
竹中直人 撮影=岩間辰徳
――竹中さんの食べっぷりを見て「飯テロ」かと思いました。
竹中:本当に? よかった。よかった。
――誰もが一度は口にしたことがある料理が登場するのもポイントですね。
竹中:マニアックないやらしさもなく、本当に素朴な感じの店が多くて、居心地がよかったです。唯一高級なところは吉祥寺のイタリアンくらいでしたが、あれも“思い切って行った”という設定だったので、よかったです。
撮影=岩間辰徳
玉山:僕も小洒落たお店よりもB級グルメみたいな、シンプルだけど突き詰めている感じのお店のほうが好きなので、ちょっと煙たいようなお店だとほっとする部分もあります。そこの空間の歴史というか、ドラマを感じる。
竹中:「流行りじゃない」っていうのがいいですよね。誰もが知っている人気店じゃないのもね。
――では最後に、お二人それぞれにうかがいます。香住のように昔食べた忘れられない味や今でも通っているお店はありますか?
玉山:僕はラーメンが大好きなんですよ。定期的に行くところが決まっていて今は4軒をルーティンで回して、気になったところは間に入れるという感じです。ちょっと煮干しが強めの魚介が好きなんですよね。お店は……言いたくないなぁ(笑)。
竹中:じゃ、3番目で(笑)。
玉山:そうですね。2番目だったらいいですよ。すごい有名なお店なんですが、渋谷駅の「はやし」っていうラーメン屋さんです。「はやし」は魚介+鳥で、本当においしい。実は裏メニューもあるんですよね。
撮影=岩間辰徳
竹中:僕は2浪して多摩美(編注:多摩美術大学美術学部グラフィックデザイン学科卒)に入ったんです。通ったのが上野毛ではなく八王子キャンパスでした。それで、八王子の街を初めて歩いたときに、開店したばかりの「インドラ」ってカレー屋さんがあって、そこで初めてインドカレーを知りました。今は以前の建物が古くなって引っ越して、女性も多くなってきれいなお店になってよかったんですが、昔は変なおじさんが多く、マニアックな店で落ち着きました。たまに落ち込んだりすると、お店に行って学生時代の自分を思い出してホッとするんです。
撮影=岩間辰徳
ドラマ『野武士のグルメ』はNetflixにて配信中。
取材・文=Hirayama Masako、撮影=岩間辰徳
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Netflixオリジナルドラマ『野武士のグルメ』
出演: 竹中直人 玉山鉄二 鈴木保奈美
原作: 久住昌之/土山しげる「漫画版 野武士のグルメ」(幻冬舎刊)
監督: 藤井道人/星護/宝来忠昭
制作プロダクション: 共同テレビジョン 製作: Netflix
【ストーリー】
仕事一筋で生きてきた香住 武(竹中直人)は定年を迎え、時間を持て余していた。ある昼下がりの散歩中、香住は、平日の日中に飲むキンキンに冷えたビールのうまさを知ってしまう。何事にも囚われず、気が向いた時に好きなものを自由に飲み食いすることの楽しさに気づいた彼は、戦国の世を自由に生きる野武士(玉山鉄二)に自分を置き換え、心に潜む野武士と共に、お腹と心を満たしてくれる至福の美味しさを探し始める。「定食屋の昼ビール」「悪魔のマダム」「ココロのコロッケ」「さすらいのイタリアンランチ」など全12話。