SHE'Sが満員の赤坂BLITZで示してみせたライブの楽しさとライブバンドとしての姿
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SHE'S 撮影=西槇太一
SHE’S One man Tour 2017 “プルーストの欠片” 2017.4.9 赤坂BLITZ
シングル「Tonight / Stars」のリリースの際、井上竜馬(Vo/Key/Gt)はライブについて、「僕らは別に踊らせたいワケじゃないし、“みんな手を挙げよう!”とかそういうワケでもないけど、自由がある上での楽しみ方を提示したい」と話していた。そんな想いのもと過ごした去年1年間で、「よりライブバンドであろうとした」「今の自分たちに足らない部分として、ライブで映える曲を作りたい」と感じた彼らが作り上げたのが、アルバム『プルーストと花束』だった。つまりこの作品は、彼らが自身のライブ観や理想像と常に向き合いながら作り上げたものであるということ。彼らがなりたかった姿、ライブ会場に描きたかった/観たかった景色とはどんなものだったのか。赤坂BLITZにその答えを探しにいった。
アルバムのリリースツアー、そのファイナルとして自身過去最大の会場で行われた今回のワンマン。だが、実はアルバムリリース前には既に
SHE'S 撮影=西槇太一
オープナーは「Morning Glow」。青く浮かび上がるステージが一気に明転し、ステージ中央に据えられたキーボード前に屹立した井上は鍵盤を叩きながら気迫のこもった歌唱をみせる。フロアに向けた先制パンチでもあり、自らを鼓舞し緊張を振り払うためでもあっただろうか、いきなりアクセルを踏み込んでいった様子に一瞬、このまま突っ走ってしまうのでは?とも感じたが、笑みをこぼしながら音を重ねる服部栞汰(Gt)と木村雅人(Dr)、いつものポーカーフェイスを崩さない広瀬臣吾(Ba)の様子を見るにその心配はなさそうだなと一安心。事実、「海岸の煌めき」、「Freedom」と『プルーストと花束』からの楽曲を続けるうち、アンサンブルの安定感は増していき、井上の歌声もどんどん伸びやかに響くようになっていった。鍵盤を弾かなくていい箇所での両手でジェスチャーを加えながらの歌唱には、これまで以上の表現の幅を感じる。冒頭のブロックのうちに惜しげもなく投下された「Un-science」では、木村の踏みしめるバスドラがフロアを高揚へと誘い、コーラスを振られたオーディエンスの反応も上々だ。
SHE'S 撮影=西槇太一
ここまで一気に走り抜け、アウトロを背に「よろしく!」とクールに言い放ったかと思いきや、直後のMCで「ブリッツ〜、元気か〜い?」と拍子抜けするくらい緩んでしまうのもSHE’S流。いずれの会場でも相当数いたというこのツアーで初めて観に来た人からはもれなく「こんな感じかと思わなかった」と言われる、とネタにしていたが、本当に関西出身なのか疑わしくなるほど足元のおぼつかないトークを好き放題に展開する井上とそれに冷静に突っ込む広瀬、やや天然気味の服部、それをにこやかに見守る木村、という関係性は見ているうちにだんだんクセになってくるから不思議だ。これまで以上の規模で大きな期待を背負っての晴れ舞台に挑む心境については、その事実よりも「自分に勝つプレッシャー」の方が大きいのだと語った井上だったが、それでもこの日のために尽力してくれたスタッフや集まったファンの存在が後押しであると語り、「勝てそうです!」と力強く宣言してみせた。
SHE'S 撮影=西槇太一
最初にも書いたが、ライブでどう機能するかを念頭に置いて制作された最新アルバムの楽曲たち。井上がギターに持ち替えて、英詞とマイナー調のコードによる疾走感を演出した「Running Out」、ビターな低音ボイスとサビでの盛大なシンガロングのコントラストが映える「Say No」、アメリカンポップス調の軽やかな音に身体を揺らす「グッド・ウェディング」など、それぞれが狙い通りに鮮やかな色をつけていく。共通して言えることは、別段「こう盛り上がれ」という形を定めてはいないこと。おそらく曲を作る段階ではオーディエンスがどうノるのかを想定しているはずなのに、現場でそれを強要はしない。それはつまり自由にノッて楽しんで欲しいから、そういうライブの姿がベストだと信じているバンドだから。その表れだ。その中で唯一、何度もステージから投げかけられたメッセージは「一緒に歌おう」ということ。前述の「Say No」、コール&レスポンスコーナーが設けられた「Evergreen」、今日一の大きな歌声が響いた「遠くまで」、セットリストを追うごとに歌声が増していき、それによって互いの体温を感じあうかのようにライブが加速していく。井上は「初めてのライブハウスがSHE’Sだった」という意見がとても嬉しいのだとも話していたが、こうやってライブハウスに集まってみんなで音楽を共有し、日常も羞恥心も吹っ飛ばして“歌う”という行為の楽しさを体現して「こういうの良いでしょ?」と提示する。SHE’Sはそういう存在であろうとしている。
SHE'S 撮影=西槇太一
心の病に罹った友人に向けて書きはじめ、昨年の熊本地震を経たことで、広く聴き手の救いや支えでありたいと願う曲になったという「Tonight」、ひときわ高い音圧でドラマティックに慣らされた「Ghost」と、バラード楽曲を並べて緩急をつけてから、ハンドマイクに持ち替えた井上が「まだまだ一緒に歌えるか!」と「Stars」へとつないでライブは終盤へと向かっていく。締めくくったのは「プルースト」。橙色に染まった場内に、名残を惜しむかのようにセンチメンタルなメロディが響く。これで本編のうちに最新アルバムの収録曲を全て披露したことになるが、同作は匂いという些細なキッカケをトリガーに記憶が呼び覚まされる“プルースト効果”から名付けられ、実際に井上が自身の記憶と向き合うことで制作された作品である。その名の通り、このアルバムが、楽曲が、この日の一瞬一瞬もまた、いつか思い出したとき心に灯を灯す大切な記憶になるに違いない、そんな確信とともにライブは幕を下ろした。
SHE'S 撮影=西槇太一
色とりどりの楽曲たちが並んだ本編だったが、そこにチグハグな印象はなく、全てSHE’Sの音として鳴っていた。それはきっと、井上の優しい低音からよく通る高音まで操る歌声と、随所にアクセントとして差込まれる服部の直球ロックギター、今どき珍しいほど前に出ることなく気の利いたフレーズとプレイで支える広瀬のベース、SHE’Sの醸し出す洋楽テイストとダンサブルな要素に大きく寄与する木村のドラム、という各パートのバランスにおける黄金比がすでにしっかり構築されているからではないだろうか。そういう意味では、アンコールで初披露された、サウンド的には新機軸といえる新曲「Over You」もちゃんとSHE’Sの音。この日発表された同曲を含む新ミニアルバムも、ストリングスを率いての今秋のホールツアーも非常に楽しみになった。
本編MCでは散々(滑り気味の)笑いを誘ってきた井上だったが、最後の最後に大切な想いを明かしてくれた。
「こんなに人を好きになると思わなかった。愛情を渡したくなると思わなかった。あなた方がいたから愛を知れた。人のために何かしたいという気持ちが知れたよ」
大好きなリスナーに対してできること、愛情を伝える手段、彼らにとってそれは音楽に他ならない。それを直接手渡しできるライブという場を大切に思うがゆえに、そこで描きたい景色ができ、『プルーストと花束』が生まれた。思い描いた理想を再現する場であったこの日のライブ。「あなたに、歌います!」と歌われたオーラスの「Curtain Call」がこれまで以上にエモーショナルに聴こえたのも、きっと気のせいではないだろう。自分たちはなぜ音を鳴らし、何を表現したいのか。存在意義と決意をブリッツのステージに刻んだSHE’Sは、ここからまた歩みを進めていく。
取材・文=風間大洋 撮影=西槇太一
SHE'S 撮影=西槇太一
1. Morning Glow
2. 海岸の煌めき
3. Freedom
4. Un-science
5. Running Out
6. Isolation
7. Say No
8. Night Owl
9. グッド・ウェディング
10. Evergreen
11. パレードが終わる頃
12. Tonight
13. Ghost
14. Stars
15. 遠くまで
16. プルースト
[ENCORE]
17. Over You(新曲)
18. Voice
19. Curtain Call
2017年6月21日発売
CDのみ、TYCT-60099 税抜 1,700円-
収録楽曲:「Over You」ほか 全7曲収録
OPEN 18:30 / START 19:00
問:HOT STUFF PROMOTION 03-5720-9999
OPEN 15:30 / START 16:00
問:HOT STUFF PROMOTION 03-5720-9999
OPEN 18:30 / START 19:00
問:SUNDAY FOLK PROMOTION 052-320-9100
OPEN 17:00 / START 18:00
お問い合わせ:サウンドクリエーター 06-6357-4400
料金:全席指定4,320円(税込) 一般発売:7月29日(土)~[e+/ぴあ/ローチケ]
◆SHE’Sオフィシャル先行◆
ぴあ 2017年4月9日(日)21:00~4月17日(月)23:59
受付URL :http://w.pia.jp/t/she-s-of/ PC(スマホ) ・携帯共通
※お申込にはぴあ会員登録(無料)が必要となります、予めご了承ください。
※当選者は、受付期間終了後、厳選なる抽選の上、決定させて頂きます。先着順ではございませんので、期間内に余裕を持ってお申し込みください。
◆ツアー特設サイト:http://she-s.info/shes-halltour2017