ウソツキはなぜ最新作『惑星TOKYO』で大きな飛躍を遂げたのか 4人全員に訊く

2017.4.14
インタビュー
音楽

ウソツキ 撮影=風間大洋

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ウソツキの2ndフルアルバム『惑星TOKYO』が素晴らしい。成長著しいとはまさにこのこと。ライブを重ねることで身につけてきた力をスタジオワークに反映させ、“らしさ”と“新境地”の塩梅もちょうどよく合わさった会心作となっている。エレクトロな音を上手く取り入れたリード曲「惑星TOKYO」、ウソツキ史上最高にファンキーな「人生イージーモード」、初のディスコナンバー「コンプレクスにキスをして」、70年代のフォークを想起させる「どうかremember me」、ロックバンドとしての本領発揮曲「ハローヒーロー」、ボーカル・竹田の思いが沁みるミディアム・バラッド「本当のこと」……。このようにアルバムは実に多様でありつつ、現代のポップとして非常に洗練されてもいる。どうしてウソツキはこんなにいいアルバムを作ることができたのか。メンバー4人にがっつり話を聞いた。

——新作『惑星TOKYO』。素晴らしいですよ、これ。

4人:ありがとうございます!

——2ndフルアルバムだけど、1枚飛び越して3rdフルアルバムができたように思えるくらい飛躍的な進化を見せている。大自信作でしょ?

林山拓斗(以下、林山):そうですね。

竹田昌和(以下、竹田):やりきった感はありますね。もちろん、まだまだやりたいことはいっぱいあるんですけど。

——なんでここまでいいアルバムになったんでしょうね。

竹田:ミニアルバム(『一生分のラブレター』)を出してから9ヶ月くらい経ってますから。期間があいたので、いろいろと研究することもできたし、各々が“こうしたらこうなるんだ”ってわかってきたところもあって。今までやってきたことがここで実を結んだってことだと思うんですけど。

林山:うん。経験が大きい気がする。

竹田:目指してるところは、これまでの(ミニアルバムを含めた)4枚と一緒なんですけど、経験が効いてるんだろうなって思います。今回は作っていて、クエスチョンがあんまりなかったんですよ。

藤井浩太(以下、藤井):“こうしたいから、こうする”みたいな感じで、わりとスムーズに。

——確信をもって作れたと。

竹田:そうすね。

——最初のミニアルバム『金星人に恋をした。』の頃はまだ、スタジオ経験自体が浅かったと前に言ってたでしょ。

竹田:自分たちの音をスタジオで録るってことをそれまでしてなかったので。だからあのときは、ただただガムシャラに歌ってましたし。今はそういうところをだいぶコントロールできるようになったなって感じてますね。

——スタジオ経験を積んだことで機材と自分たちの距離感が近くなったというか、手足のように使いこなせるようになったというのも大きいのでは?

竹田:ああ、そうですね。前は音決めにすごい時間がかかってたけど、今回は早かったよね。

林山:ドラムテックの人がいたこともあって。Recが今までに比べると段違いに早かった。

竹田:しかも、エンジニアも『スーパーリアリズム』のときから同じ人なんですよ。森川さんといって、その方も初めの頃は実験的な感じでやっていたところがあったんですけど、今では僕らが目指す音だとか、アレンジに見合った音色の作り方というものを、すごく理解してくれている。だから本当に早かったよね。

——今ではその人ともツーカーな感じ?

竹田:ツーカーっすね。もっと進化させるために「こういうふうにしよう」って提案もしてくださいますし。目指しているところが僕らと完全に一緒なので、「そこをそうやると前作の感じに戻っちゃうよ、吉田くん」みたいな。

吉田健二(以下、吉田):そんな偉そうにはしてないけどね(笑)。

——とにかく今作はサウンドがすごく洗練されたという印象があって。それと「惑星TOKYO」のようにエレクトロっぽいサウンド要素を取り入れた曲もあるんだけど、それにしたって奇をてらってる感じがまったくない。

竹田:作りながら「こういう音が入ってたほうがかっこいいよね」とか言いつつセッションする感覚で作り上げていったので。だから、それをいざライブでやってみようってなると、「あれ?  手が足りない」ってなるんですけど(苦笑)。

吉田:録ってる間は、ライブでどうやるかとか考えてないですからね。そのときに浮かんだアイディアが面白ければ、そのままやって録ってみるって感じだったので。

林山:楽器以外の音も入れたくて入れたというか、わりとその場の感覚でやってみて、そうなってる。その場で思いついたことをやってみるっていうのは、前作までと一緒なんですけど、今回は思いついたことが1レベル上がったってことなのかもしれないですね。

——最初から「今回は新しい音をいろいろ取り入れよう」と話していたわけではなく?

林山:なく。ただ、「ウソツキがやらなさそうなことをやろうよ」っていうのは、前からテーマとしてずっとあって。「ウソツキのサウンドはこうだ」って決めつけたくないんですよ。

——初めからこうしようと決め込んで作るのではなく、スタジオでアイディアを出しながら柔軟に音を足していくやり方なんですね。

竹田:そういう部分もたくさんありました……けど、今回の特徴として、逆にいろいろ外していったところも多くて。例えばギターアンプの前にあったエフェクターを一個なくしてみたりとか。前作『一生分のラブレター』では、実は同期じゃないけど、バスドラのドン!って音よりもっと低くしたいからってことでサンプルの音をかぶせたりとかもしてたんですよ。今回はそういうのを一切やってなくて、そういう意味ではよりシンプルになった。アレンジも一緒で、「人生イージーモード」のようにバッキングギターがない曲もある。それはまあ、録ってみて、やめようって結論になったんですけど。だから、外すことがうまくなったというか。保険で入れておく音みたいなものが前はあったんですけど、それが無くなりましたね。無駄なことをしなくなった。それによって、かっこいい音になったと思うし、全体的に太い音になったなと。

——その曲にとって本当に必要な音がなんなのか、わかるようになった。

竹田:そういうことですね。あと、自分たちが焦らなくなった(笑)。それも大きいです。

ウソツキ・竹田昌和 撮影=風間大洋

——エド・シーランの新作、あるでしょ。彼は基本的にアコギで曲を作って、ライブもアコギ1本でやるわけだけど、大ヒットしてる新作『÷(ディバイド)』を聴くと、ものすごく多様性があってポップだなと感じられる音作りをしている。ウソツキの場合も4人のバンドサウンドがまず基本にあるわけだけど、同じ音の鳴らし方はしないで、曲ごとに見せ方(聴かせ方)を変えている。ストイックにロックバンドとしてのサウンドを突き詰めるというよりは、洗練されたポップとして聴かせることを今回は特に意識してたんじゃないかと思ったんですよ。

竹田:いやもう、まさに、ですね。前作でもそういうのを目指していたけど、うまく形にできてなかったというのが正直なところで。納得がいってなかったわけではないけど、それこそ最近の洋楽で流行っているような、“音数を極限まで減らしながらノレる音楽を作って、しかも抑揚がある”という作りにうまくできなかったんです。それが今回はできたと思っていて。だからガチガチに意識してますね。あ、エド・シーランをってことではなくて、そういう最先端の洋楽にあるような洗練されたポップさというところを。だから、エド・シーランはオレらと同じところに目をつけたなって僕は思ってるんですけど(笑)。

——はははは。

竹田:エド・シーランの「SHAPE OF YOU」の“タッタッタ”って始まるところあるでしょ?  あれ、僕の勘ですけど、アデルの去年のアルバムの2曲目(「SEND MY LOVE(TO YOUR NEW LOVER)」からとってきてるんじゃないかと思ってて。僕もあそこから思いついたんですよ。

——そうなんだ?!  じゃあ洋楽もいろいろ聴いて参考にしているわけですね。

竹田:以前は僕、洋楽をほとんど聴いてなかったんですけど、ウソツキを始めて、ある時期から聴くようになって。ライバルはマルーン5とテイラー・スウィフトとケイティ・ペリーだって言い続けてるんです。

——言い続けてるの?!

竹田:それは『スーパーリアリズム』のときから言ってますね。全然追いついてないですけど。全然できてない。相当すごいことやってますからね、あの人たちは。

——でも、ウソツキもライブを重ねるなかで個々の演奏力が各段にアップしていて、それが今作のレコーディングに反映されたってところが大きいんじゃないかと。例えばリズム隊なら、タテノリにおいてもヨコノリにおいても竹田くんが気持ちよく歌えるリズムを出しているし。

林山:けっこうドラムとベースで役割分担してるところはあるんですけど、それはドラムとベースで二通りのリズムを出すってことじゃなくて、ドラムがここを担当するからベースでここを埋めて、っていう感覚でひとつのリズムを作れている。それがちゃんとできたのは今作が初めてな気がしますね。あと、曲によってリズムのアプローチの仕方が全然違う。似ているタイプの曲でも、実は全然違うリズムのアプローチをしてみたりしてるんです。

——端的に言って、リズムの幅がだいぶ広がっている。

藤井:いろいろ試しましたし、いろいろ挑戦しました。特に「惑星TOKYO」のリズムは、僕、最初弾けなくて。「これ、無理やぁ」と思ったんですけど、頑張って練習して形になったときに「すげぇ、かっこいいじゃん」って思えて。

——「こういうリズムを出すんだ」というゴールが明確にあって、そこを目指してやってみたんですか?

藤井:いや、この曲に関しては試行錯誤でいろいろやってみましたね。それこそ最初は「SHAPE OF YOU」みたいな感じでやろうともしたし、8ビートでもやってみたけどやっぱ違うなってなったりもしたし。で、最終的にあの形に落ち着いて。

——そもそも、リズム隊のふたりがもともと得意としていたスタイルはどういうものだったんですか?

林山:僕はもう、“ドンタン・ドドタン”みたいな基本のパターンをとにかくデカい音で叩きたいというのがあって。小難しいことをやるより、ストレス発散できれば良かったんですよ。

——「コンプレクスにキスをして」のようなディスコっぽいノリとか、「人生イージーモード」のようなファンキーなノリとかは、前にもやってたことがあった?

林山:いや、やってないですね。「コンプレクスにキスをして」は4つ打ちの曲ですけど、ドラムはかなり16分(音符)が意識されてて。そういう感覚はゆっくりと身についていったというか。『スーパーリアリズム』の段階ではまだ、そこまで洗練されていなかったと思います。

——だと思うんですよ。例えば「旗揚げ運動」はダンサブルな1曲だったけど、リズムはまだロックバンドのそれだったし。

林山:そうですね。あれはかなり8分(音符)というか。

藤井:ノリ方が違う。ヨコではなくタテっぽいですね。

林山:うん。だから今回「コンプレクスにキスをして」で、叩いてないところに16分の音符が感じられるようにできたこととかは、すごくわかりやすい進化だと思います。

——藤井くんはどういうベースを弾くタイプだったんですか?

藤井:僕はもともとハードロックが大好きで、8ビートが大好き。大好きっていうか、それしかやってなかったんです。けど、ウソツキを始めて、特に『スーパーリアリズム』の頃からどんどん洋楽を意識するようになって。その頃は「ベースで16分(音符)を出そう」みたいな話になったときに、自分としては苦手だったし、そもそも自分の中にないものだったので妥協せざるをえなかったところがあったんですけど、この1〜2年はそういうヨコノリの部分をもっと練習しようっていうのを課題としてやってきて、やっと身についてきた感覚がある。それこそジャミロクワイとか、ああいうのを最近はよくコピーしていて。

——邦楽でもSuchmosとか、ブラックミュージックのノリが身についてるバンドが人気の昨今ですからね。

藤井:そうですね。だからやっぱ、ファンクとかそういうのも身につけないとダメだなと思っていて、今はそこに力を入れてる感じですね。

ウソツキ・吉田健二 撮影=風間大洋

——バンド全体としてはどうなんですか?  ヨコノリの部分をもっと強化していきたいという気持ちがやっぱりある?

竹田:いや、そこまでヨコノリっていうのを意識しているわけではなくて。どっちかというと、“にわか感”っていうのを僕は気に入ってるんですよ。別に本気のファンクじゃないし、それをやろうと思ってもできないけど、自分たちっぽく取り入れることができるのがウソツキの強みかなと思っていて。僕自身、すごく“にわか”の人間なんですね。洋楽とかも好きだけど、聴き込んでるわけじゃないし。そもそも今流行ってる洋楽のかっこいいサウンドやリズムと、J-POPにある独特の哀愁みたいなものって相容れないものだと思うけど、ちょっとずつ取り入れて両立させながら、ウソツキ色として出すことはできるかなって。そういう感じっすね。

——「オレたち、こんなのもやっちゃいました」的な照れの感覚をダンサブルなサウンドに混ぜ合わせているところがよかったりしますもんね。「旗揚げ運動」の面白さは、“気の利いたステップなんてわからないさ”というリリックをダンスサウンドに乗せて歌ってるところにあったりするわけだし、今作の「コンプレクスにキスをして」にしても、それこそブラックミュージックのフィジカルな強度に対するコンプレックスを、ああいうサウンドで逆説的に表現しているようにも思えるし。そういうユーモアがあるのがいいところで。

竹田:そうすね。そこをちゃんと伝えたいがための“にわか感”、みたいな(笑)

——で、吉田くんのギターについては、前々から例えば汽笛の音をギターで出すとか、いろいろ面白いことをやってきてたわけだけど、今作では1曲1曲「これをよりよく聴かせるために自分のギターのどういうところが必要なんだろう」ってことをすごく考えて弾いていたんじゃないかなと思ったんですよ。「オレのギターはこういうスタイルだぜ」って主張するのではなく、あくまでも曲の背景を際立たせるためのギターを弾いているというか。そこ、どうですか?

吉田:はい。その通りです(笑)。僕はもともとエリック・クラプトンとかを聴いてギター始めたタイプなので、ああいうブルース・ロックのギターが大好きだし、今までのアルバムではそういうのをちょいちょい入れてきてたんですね。けど、『一生分のラブレター』でそれは結構やったので、今回はもういいかなって。『一生分のラブレター』は5曲中4曲にギターソロがあったし、それで満足しちゃったんです。で、今回は“いかにウソツキらしくない面白いことができるか”っていう部分に共感したので、そのへんを踏まえてやってみたんですけど。

——だからギタリストとしての我は、今回あまり出てないよね。

吉田:出てないですね。例えば「コンプレクスにキスをして」にしても、僕はもともとファンキーな音楽が大好きな人間なので、テンションコードの曲とかも好きだし、ホントはナインスとかをコードで入れようかなと思ったんだけど、結果的に今回はナシにしようってことにして。

竹田:それが“にわか”のいいところだよね(笑)。やってはみたけど、ちょっとウソツキにはかっこよすぎるわ、みたいな。恥ずかしくなる。

吉田:サーティーンスも入れたし、オルタードもやってみたんだけど、「これじゃちょっとオシャレすぎるね」って。で、「“ウソツキらしいファンキーさ”のある曲をやりたいね」って言って完成したのが「コンプレクスにキスをして」。あれはだから、ダサカッコイイというか。

竹田:そう。ダサいところがいいんだよね(笑)。

——バラード曲においてのギターもまた今回はすごく特徴的ですよね。

吉田:「夢屋敷」はバラードなんですけど、自分でも今まで聴いたことのないようなギターを弾いてますね。

林山:この曲、ウソツキにしては珍しく1番と2番でリズムがまるっきり違うんですよ。これをやるのはウソツキの哲学に反してないかと悩んだんですけど、吉田のギターがああいうふうに入ったことで成立したところがすごく大きくて。

吉田:今回はみんないろいろ試行錯誤しながら、けっこう高いレベルのことをやってみてるんですけど、それをやったことでこの先どんどん曲がよくなっていくんじゃないかって思えるんですよ、今。特にグルーブの部分で。

——うん。まさしくグルーブが違う。というのが、今回大きいなと思った。

林山:そこまで言われると、若干恥ずかしいな(笑)。

ウソツキ・藤井浩太 撮影=風間大洋

——そして竹田くんはといえば、言葉とメロディの幅が今回また広がったなと感じました。

竹田:そこはそんなに意識してないんですけど。広がってました?

——広がってた。というか、ウソツキはこういうバンドだからこういうことを歌ったほうがいいんじゃないか……というようなところに囚われることなく書いてるんじゃないかと。

竹田:ああ、なるほど。そうですね。今まで言いたくなかったこともちゃんと言わなきゃって思うようになって書き始めた曲もあったりするので。「本当のこと」って曲に一番それが出てますね。あと「コンプレクスにキスをして」もそう。自分自身のパーソナルなところを歌詞にするのは今まであんまりしてこなかったし、嫌だなと思ってたんですけど、ウソツキのライブは自他ともに認める“ぼっち参戦”の人が多くて、「辛い時期もあったけど、ウソツキの音楽があるから、なんとかやっていけます」と言ってくれる人もいて。そういうふうに、観てくれる人がすごく正直に向き合ったりしているのに、僕自身がそれに対して曝け出さないままいることが、なんだか恥ずかしいことに思えてきたんです。「コンプレクスにキスをして」でも歌ってますけど、上っ面な優しさじゃ何も伝わらないし、今ウソツキを好きだって言ってくれる人も何年かしたら離れていってしまうかもしれない。やっぱり僕自身が作品の中で曝け出さないと。っていうところから「コンプレクスにキスをして」と「本当のこと」を書いて、その2曲を書き終えてからもう一度ほかの歌詞を見直して、けっこう書き直したりもしたんです。

——あともうひとつ、バンドの演奏力がアップした分、歌も自由になっている。単純に言って、前より楽しんで歌っているように感じました。「人生イージーモード」ではマイケル・ジャクソンみたいな裏声を出したりもしてるし(笑)。

竹田:あははは。まあ、そうですね。むちゃくちゃ遊んでるっていう。今までは歌の録りで煮詰まることもあったんですけど、今回はそこも早くて。

藤井:早かったね。

——そのへんはやっぱり、ライブをたくさん重ねてきたことの成果なんでしょうね。

竹田:そうだと思います。

——それにしても本当に多彩なアルバム。曲を作ってる段階からそういうものにしようと思っていたんですか?

竹田:そこはもう、ハナからあって。でも今回は1ヶ月半くらいのなかで全曲書いてるんですよ。11曲中2曲は前に録ってますけど、9曲はアレンジも含めて本当に短期間で作った。それはまあ、僕がそれまで書けなかったからなんですけど。

——竹田くんからあがってくる曲を聴いて、3人はどんなふうに感じてました?

林山:基本的に全部かっこよくて。でも、とにかくそれまで曲ができなかったですからね。ヤバいよなって感じで。

——そんなにできない期間が長ったの?

藤井:長かったですね。

林山:だから「もうミニアルバムにする?」みたいな話もでたんだけど、その段階でミニアルバムに変える時間もないから、とにかく頑張れと。そしたら、そこからかっこいいデモがどんどんあがってきたんですよ。で、少しずつ形になっていくなかで、アルバムとしてどうにか一定のレベルにはもっていけそうだなって感じになったんですけど、でもどうしても傑作と呼べるものにはならないんじゃないかっていう不安もあって。そんなときに、最後に「コンプレクスにキスをして」と「本当のこと」があがってきて、「あ、これで大丈夫だ」と思いました。

——確かにその2曲があるのとないのとでは、全然違う。

林山:そうなんですよ。やっぱ、かっこいい曲だけっていうのは、僕のなかではかっこよくないというか。情けなさとか、そういうところもないと。だって、竹田がかっこいい人間じゃないってことをオレたちは知ってるから(笑)。

藤井:そう。その部分が足りないなって思ってたら、そういう曲ができてきた。

竹田:「竹田の情けないところはこれだよ」と(笑)。

林山:そう。「この気持ち悪さがほしかったんだよ」みたいな。

竹田:どういう見方だよ?!(苦笑)

——ははは。じゃあ初めに20曲くらい作って、そこから絞って11曲にしたみたいなことではなく。

竹田:そんな余裕はないですね。ウソツキは毎回そう。いつもギリギリでやってるので。常にストックはゼロです。毎回出しきってますから。

——だけど、そうやってギリギリで作ったアルバムにしては、曲と曲とに繋がりがある。コンセプトアルバムとは言わないまでも、1枚通して流れがあるし、多彩でありながらデコボコしてる感じはまったくない。そこがすごいなと思って。

林山:それ、不思議だよね。なんでだろ。たぶん、曲を作る人のそのときのモードみたいなものがあったとして、それが一貫してるってことなんじゃないかな。例えば恋をして、ふられて、っていう長いスパンのなかで書いていたらモードも違ってくるだろうけど、限られた時間のなかで集中して書いてるから……っていうのが僕なりの分析ですね。

竹田:それもあるんだけど、僕としては前作が『一生分のラブレター』ってつけたくらいラブソングだけで攻めきったものだったから、その反動というのもあって。あのミニアルバムを作り終わったときに、今度は“ひとりのシンガー・ソングライターとして、メロディと歌詞と歌だけで何ができるか”ってことに挑戦しようと思ったんですよ。新しいサウンドとかそういうことを考えるよりも前に、まずそこをちゃんとしないとって思った。まあ、そのおかげでだいぶ行き詰まったりもしたけど、そこを突き詰めて考えたときに、結局本当に自分が力を入れて歌いたいことは最初の頃とそんなに変わってないってことに気付いたんです。それは例えば夢だったり、諦めたくないって気持ちだったり。そんな感じで歌いたいことがハッキリしていたので、一貫性を感じてもらえるものになったんじゃないかって気がしてますけど。

ウソツキ・林山拓斗 撮影=風間大洋

——なるほど。ではここでそれぞれの推し曲を挙げて、「この曲のこの部分を聴いてくれ」みたいなところを順に話してくれますか。まずは吉田くんから。

吉田:はい。えっと、5曲目の「どうかremember me」。このアルバムのなかで僕が一番気に入ってる曲であり、ギターのアレンジも新しいことができたなって思ってる曲です。サビのいいメロディのギターに、さらにスライドギターがそこでハモっているという。あと、曲自体のちょっと懐かしい感じをより引き出したかったので、それに関してもいろいろ試行錯誤して弾きました。この手法で弾いてる人は、僕はあんまり見たことないです。

——ほお。では藤井くん。

藤井:どれにしようかな。さっき言ったように「惑星TOKYO」のリズムを頑張ったっていうのも大きいんですけど……「夢のレシピ」で。今回はいろんなことに挑戦しましたけど、結局僕はロックが好きだし、速弾きをしたいっていうのがあって(笑)。普通、ベースの速弾きなんて必要ないし、だから今まで入れなかったんですけど、今回「夢のレシピ」にぶちこんだんですよ。それがすごく快感で。やっとやりたかったことを音源として残せたっていう。それがすごく嬉しかったですね。

竹田:じゃあ、もっと速弾きできる曲を作ろうか?(笑)

——はははは。続いて拓斗くん。

林山:はい。「人生イージーモード」ですね。ほかの曲は叩いたことのあるリズムなんですけど、この曲は初めてやったリズムで。ハイハットがテンポに対して2分(音符)で入ってる。1拍目・3拍目にしか叩いてなくて、スネアが2拍目・4拍目にくるから、そこだけ切り取るとすごくヘンなリズムなんですけど……(以下、リズムに関してのマニアックな話がしばらく続く)。まあとにかく、一個一個の音符をパズルみたいにバラバラにしてから組み立てたら、すごく新しいものになったんです。で、「オレ、こんなこともできるんだ」って思って。今まで絶対できなかったんですけど、やってみたらできた。それは発見だったし、まだまだいろんなことがやれるんだなって自信にもなりましたね。

——はい。では、竹田くん。

竹田:「本当のこと」についてはさっき喋ったので、「惑星TOKYO」。“みんなエイリアンだよ”ってことは今回言いたいこととしてあって。前に「転校生はエイリアン」(『スーパーリアリズム』に収録)って曲を書いてますけど、僕のなかでエイリアンというのは孤独だとか疎外感とかを象徴する感じのもので……。

——僕が『スーパーリアリズム』のライナーノーツに書いたようなことですよね。

竹田:そうです。読ませていただいて、オレが言いたかったのはまさにそれ!って思って。たぶんそこにも影響受けてると思うんですけど、今回この「惑星TOKYO」を書いているなかで、改めて“そういう気持ちがあるからオレは曲を書いてるんだな”ってわかったんですよ。やっぱり疎外感っていうのは自分にとってすごく大きなもので、「ハローヒーロー」で歌ってることも疎外感だし。で、「惑星TOKYO」を書きながら、自分が人とうまくコミュニケーションをとれない気持ちとか、誰かと繋がりたいって思う気持ちとか、全ては僕のなかにエイリアンがいるからなんだなと思って。

——うん。

竹田:その“僕のなかのエイリアン”が、自分が大人になってもまだいるってことは、きっと誰しもが東京で孤独とか疎外感を感じて生きてるんだろうなって思ったんです。まあそれは東京じゃなくて福岡でもなんでもいいんですけど、人がたくさん集まる街では、きっとみんなが“自分のなかのエイリアン”を感じることがあるんじゃないかって思ったんですよ。そう考えたときに、エイリアン歴で言ったらオレ、誰にも負けてないなと(笑)。だから「オレもエイリアンなんだよ」ってちゃんと言えるようになりたいと思ったし、自分のなかのエイリアンを感じている人たちに対して「でもみんな、なんとかそうやって生きてるんだよね」って言いたかったし。まあだから、ある意味、エイリアンたちの応援歌というか。

——なるほど。この曲はサウンド的にもウソツキの新機軸が表れているし、今作のリード曲に非常に相応しい。

藤井:そうですね。アレンジも今っぽいし。

林山:リード曲の候補はほかにもいろいろあったけど、やっぱりこの曲はアルバムのシンボルになるから。

——まさに。じゃあ、このアルバムを携えてのツアーも楽しみにしてますから。

吉田:はい。このアルバムをレコーディングしてたときの僕らからさらにレベルアップした演奏を聴かせられると思うので、みなさん、ぜひ。

竹田:録ってたときより今のほうが全然上手いからね(笑)。

藤井:“ウソツキの本気”を見てほしい。

竹田:うん。「待ってろよ、全国のエイリアンたち!」って感じです。

林山:僕としては「オレはエイリアンじゃねえよ、一緒にすんなよ」ってやつにこそ観に来てほしい。そういう人の化けの皮を剥がすじゃないけど、「いや、違わないぞ」って言えたらいいなと思ってます。僕自身がどっちかというとそういうタイプなんですよ。「オレは竹田とは違うんだよ」って言っておきながら、竹田からあがってくる曲全てに胸を打たれてるんで。だからまぁ、ちょっとでも気になってる人は、観に来てくれたら言ってる意味がわかると思うので。ぜひ来てください。


取材・文=内本順一 撮影=風間大洋

ウソツキ 撮影=風間大洋

リリース情報
ウソツキ『惑星TOKYO』
発売中

『惑星TOKYO』

KDZ-0181
価格:¥2,500(+税)
<収録曲>
01.惑星TOKYO
02.人生イージーモード
03.一生分のラブレター
04.コンプレクスにキスをして
05.どうかremember me
06.地下鉄タイムトラベル
07.ハローヒーロー
08.心入居
09.夢のレシピ
10.夢屋敷
11.本当のこと

 

ツアー情報
「惑星X」星跨ぎツアー
・5/13(土)広島CAVE-BE
・5/14(日)福岡Queblick
・5/19(金)仙台enn 2nd
・6/09(金)名古屋CLUB UPSET
・6/10(土)松本ALECX
・6/17(土)札幌COLONY(※ゲストバンドあり)
・6/24(土)梅田Shangri-La
・7/07(金)渋谷区文化総合センター大和田 さくらホール
 
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