『無限の住人』殺陣師・辻井啓伺氏インタビュー 木村拓哉と三池崇史監督が持つ特異なアクションの“間”とは

2017.4.28
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『無限の住人』殺陣師・辻井啓伺氏

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4月29日に映画『無限の住人』が公開される。原作となった沙村広明氏による同名漫画は『月刊アフタヌーン』(講談社)にて連載され、全30巻の単行本が刊行された人気作。江戸時代の日本を舞台に、細胞を甦らせる‟血仙蟲”を宿して不死身の身体となった男・万次(木村拓哉)が父親を殺された少女・凜(杉咲花)の用心棒となり、異形の集団・逸刀流や公儀と繰り広げる戦いを描く作品だ。2000年に米国で「コミックのアカデミー賞」と呼ばれるウィル・アイズナー漫画業界賞の最優秀国際作品賞に輝くなど海外でも高い評価を受けてきた。

そんな本作の核となっているのが、多彩な武器と激しい殺陣が特徴のアクションだ。三池崇史監督がスクリーンに具現化した異色の時代劇は、『十三人の刺客』から7年を経てさらなる進化を遂げている。SPICEは、『無限の住人』殺陣師・辻井啓伺氏にインタビューし、三池監督のアクション演出からキャストの魅力まで、じっくりと語ってもらった

 

『ZIPANG ジパング』から『無限の住人』へ繋がる縁

(C)沙村広明/講談社 (C)2017 映画「無限の住人」製作委員会

――ほとんどの三池作品でアクションを担当されていますが、そもそもどの作品で三池監督と出会われたんですか?

『岸和田少年愚連隊 血煙り純情編』が最初にご一緒した作品ですね。三池監督が撮られたVシネには関わっていないです。三池監督はもともと殺陣・アクションは自分でやられていたんですが、過激な方なので前作の現場でけが人が出てしまったらしく。『岸和田少年愚連隊 血煙り純情編』は役者同士の喧嘩シーンも多いから安全対策が必要、ということでプロデューサーに呼ばれて参加しました。

――そこからはずっと辻井さんが三池作品のアクションを担当されて、リメイク版の『十三人の刺客』にも殺陣で参加されています。同じ時代劇の『十三人の刺客』を経て、今回の『無限の住人』ではまた新しい要素も入ってきたように思いますが……アクションのコンセプトみたいなものは三池監督と話されたんでしょうか?

今回は特殊な武器がたくさん登場するので、これをどう見せるかというテーマはありました。この武器でやるならこう戦うだろうな、ということですね。ただ、監督も見ないと納得しない人なので(笑)。だから、監督にも木村さんにも(立ち回りを)見せる。それでまた変わるので、常に木村さんのキャラクターが動きやすいように、というのは意識しました。CGを使わないといけない場面もあるので、画コンテみたいなものはあるんですけど、ほとんどは臨機応変に現場で、芝居の流れとして立ち回りをやろう、と。そういう意味で、緊迫感は大事にしました。そういうものは役者さん同士の息の問題で、現場でのぶつかり合いの迫力なので、なかなか練習をやれば出来るというものでもない。立ち回りをやって、手合せして、本番……それが慣れてきて、だんだん面白くなくなるというのは避けたかったので、臨場感みたいなものは常に大事にしていました。

――武器の面白さと臨場感がアクションのテーマなんですね。色々な武器が登場する映画といえば、原作の沙村広明さんは『無限の住人』を描かれるうえで、林海象監督の『ZIPANG ジパング』に影響を受けた(※映画秘宝COLLECTION/映画秘宝編集部・編著『漫画家の選んだ至高の映画』より)らしいですよ。

へえ! そうなんですか。

――辻井さんは『ZIPANG ジパング』に参加されてますよね?

参加してます(笑)。当時は殺陣師の補佐で付いていました。(『無限の住人』は)『ZIPANG ジパング』みたいだな、とは思っていましたが……10本刀の100人斬りシーンとか、林海象監督もアイデアマンでしたよ。画コンテを描いてらっしゃったのは雨宮慶太さんです。

――そんな不思議な縁もあるので『無限の住人』は辻井さんと相性が良かったんだろうな、と納得できました。『無限の住人』には「殺陣師」としてクレジットされていますが、役割は現代劇のスタントコーディネーター(※編注:振付や細かなアクション演出から、安全面の確保、スタントマンなどのキャスティングなどを包括的に行う役割)と同じと考えていいんでしょうか?

 

(C)沙村広明/講談社 (C)2017 映画「無限の住人」製作委員会

 

そうですね。ぼくはいつもスタントコーディネーターとして参加していて、アクション監督としては入っていないです。三池組の場合には、まず画コンテを監督が描いて、それをどうするかを考えます。(『無限の住人』の)ラストの立ち回りなんかは、画コンテはあるんですが、その間の流れは画コンテにできないので、監督に「こっちを向きながら万次がこっちにくる、という流れを作りましょう。今度はこっちから入る流れにしましょう」と話しながら作りました。昔の殺陣師はカット割りもやっていたんですけど、今はカット割りは監督さんがします。

――クライマックスの1対300人の立ち回りは、単なる大規模なアクションじゃなく、橋の下を移動したり建物の遮蔽物を利用したりと目まぐるしく場面がかわって、しかも生々しかった。どういう経緯でああいったアクションになったのでしょうか?

監督があそこにオープンセットを立てよう、と言い出したんです。逆にそこから「何をやろう?」というのが決まっていきました。ここでこういう立ち回りをするから、ここに橋を作るという発想じゃなくて。ここには廃墟があって、壊れた橋があって、家があって……という美術さんがイメージして作ってから、こういう建物があるから、屋根から移動して、中から外に出てきて、戸田(恵梨香)さんが上に立って……という風に。オープンセットが出来てから監督が画コンテの相馬(宏充)さんとシナリオハンティング(編注:ロケ場所を確認しながらシナリオを考えること)していったんです。

――三池監督は本当にアクションがお好きなんですね。バイオレンスのイメージを持たれがちですが、アクションの撮り方が本当に上手い方だと思います。

好きですね。ただ、基本はバイオレンスの人ですけどね。立ち回りは、いわゆる立ち回りじゃなくて、バイオレンス。喧嘩のシーンでも、「バイオレンスに、リアルに」ということは常におっしゃいます。

 

木村拓哉と三池崇史監督がもつアクションの”間”

(C)沙村広明/講談社 (C)2017 映画「無限の住人」製作委員会

――武器の重さが感じられる立ち回りが印象的でした。

構えるシーンでは本当の鉄身のモノを持っていますから。木村さんが刀を一本持つときでも、極力鉄身を持ってもらっています。軽いものを持ったときも重みを出せるように、というのは、木村さんはすごく気にされていました。

――そう指導されたんですか?

役者さんとしてのスキルがあるからそう見えるんじゃないですかね。「(重みが見えるように)やってください」とこちらが言わなくても、「こうやったほうがいいんじゃないか」ということがわかっている。ぼくらが立ち回りをやって見せて、手(殺陣)をつけたら自分なりに解釈して、自分なりの間を作ることができる人なので。ぼくもそれを見て、「その間でやりやすいんでしたら、この立ち回りはどうですか?」と言うこともありますし。

――木村さんはバイオレンスな殺陣なのに、見栄を切っているかのように画がキマるのがスゴイと思いました。

木村さんのポーズというのか間というのか……あれはスゴイですよ。テスト撮影で何十人と斬って止まるときでも、バミリを置いているわけでもないのにバシッとカメラのアングルに収まるところに来るんです。あれは素晴らしい。カメラマンがあわせているんじゃなくて、木村さんがカメラにあわせているんです。

――流麗な殺陣でああいった「キメの画」があるのはよく見かけますが、生々しい立ち回りでキマる方はなかなかいないですよね。

昔の時代劇は、ひきの画で主役が真ん中にいて……という立ち回りが多いですよね。最近はカメラが寄ったりしますが、別にトリミングしてるわけでもないのに、木村さんはそこにバシッと収まる。刀の長さがどうとか、切っ先までカメラに収まってるか、とかいちいち言えないじゃないですか。そこをキチッとわかっている。「この人は違うなあ」と思いましたね。

――木村さんからも殺陣の提案があったそうですね。

手(殺陣)をつけているときに、一緒になって、「俺こういくよ、次はどうする?」みたいなやりとりはありました。福士くんと(木村の)立ち回りでは、福士くんが見ていて、ぼくと木村さんが手を考えながらやる、ということもありましたし。


――木村さんは、真冬の撮影なのに着流し一枚でいらっしゃるとか、びっくりするほど役に没頭されていたそうですが。

目は片方ふさがってますし、草履だしで、本当によくやったと思いますね。

――その熱量が共演の方々にも伝わった、と。

そうだと思います。木村さんがこんなにやってるんだから、「寒い、寒い」なんて誰も言ってらんねえぞ、と(笑)。

――それと、木村さんは足の靭帯を損傷されたのが話題になりましたが。大丈夫だったんでしょうか?

いや、普通の人だったらたぶん入院してるんじゃないでしょうか。福士くんとのラストの立ち回りで怪我をされたんですが、(その後に撮った)オープニングの100人斬りは足を引き摺りながらやっています。

――福士さんも身体能力の高い方ですが、刀を使ったアクションは初めてだったそうですね?

そうですね、本当に木剣の構え方から練習されていましたから。福士くんは現代的な体型なんですけど、腰を落とすとか、そういったこともちゃんとできているから、とても初めてとは思えなかったです。まあ、練習もかなりやっていたみたいですけど。相手が木村さんということもあって、プレッシャーを感じていた部分もあったようです。もう一人の主役みたいなものですから、「負けるわけにはいかない」という気持ちがあったみたいで。

――福士さん演じる天津影久は、普通の刀以外にも頭椎斧(かぶつちおの)という、重さを利用して叩きつける武器を使いますが、なかなか扱いづらいのでは、と思いました。

福士くんは優しいので……あれ(頭椎斧)は本当に重くて止められないので、思いっきりバコーンって当てることになるんですけど、彼は優しいので気を使っちゃうんです。だから、NGを出してから、「もっとやって!」と言うこともありました(笑)。

 

(C)沙村広明/講談社 (C)2017 映画「無限の住人」製作委員会


――戸田恵梨香さん(乙橘槇絵役)もトリッキーなアクションが多いですね。武器も三節棍なので難しいとは思うんですが、それよりもワイヤーアクションが多いのでなかなか大変だろうなと。

戸田さんは1カットも吹替えを使ってないですからね。「いい姉ちゃん」って感じでしたよ。弱音は一切言わないし。役者さんはスゴイですよね。例えば、1対300のあとの(木村と)福士くんとの立ち回りなんか、周りに死体がいっぱいあるわけですよ。その中で立ち回りをやらなきゃいけなくて、木村さんも、手(殺陣)をつけているときに「こんなの、人がいたらできないでしょう……」とおっしゃっていたんですが、やっちゃうんですよね(笑)。手をつけるぼくらでもつまずいてるのに、リアルスピードでやって、しかも出来ちゃう。

――死体はどけないんですか?

俯瞰で撮る画なので、どけられないんです。でも、役者さんはすごいですよ。ストレスを与えれば与えるほど上手くなっていく。やっぱり、負けず嫌いなので、「これ、出来ますか?」って訊いたら、「出来ません」とは絶対に言わないですよね。

――監督も俳優も熱量が高いですね。ちなみに、三池組と他作品のアクション現場の一番大きな違いはなんでしょう?

三池監督はアクションのことを何でもわかってらっしゃるので、やることがわかりやすい。ほかの現場に行くと、監督に「ああいうことやりたい。こういうことやりたい」って色々言われるんですけど、時間だったり、役者さんの動きだったりを考えると、「最終的にはこうにしかならないんじゃないですかね……」となる。カット割りにしても何にしても、結局はオーソドックスなものにしかならないことが多いんです。そういうのが現場でのストレスになることもあるんですが、三池組だと、「こっちを撮ったら、次はこうなる」という関連性がわかりやすい。カット割りにしても、編集にしても、「監督がこうするだろうな」というのがイメージしやすいので、考えながら立ち回りをつけていける。“間”が合うんですよね。

――“アクションをわかっている監督”ならではの感覚ですね。

ただ、「ここいらないよ」と、アクションを平気で切られることもありますけど(笑)。(『無限の住人』も)本当は1カットで十何人も斬ったシーンもあるんですが、まるまるカットされてますからね。

 

(C)沙村広明/講談社 (C)2017 映画「無限の住人」製作委員会


――あれだけアクションだらけなのに、カットしている部分もあるんですね。観たいですね。最後に、三池監督の実写映画化のアプローチをどう思われますか?

つねに原作をリスペクトしてらっしゃるのと、それを「越えてやろう」とも考えている方だと思います。漫画の立ち回りは、(画としては)止まってるわけですから、こういうものは実写にすると面白いと思うんですよ。そういう意味で、漫画の世界観を実写化するのには長けている方だと思います。パロディ化したり、原作と違うものをやろうとする監督は多いですけど、あくまでも原作のテンポだったり、やりたいことを映像にしようとしていると思います。

 

映画『無限の住人』は2017年4月29日(土)GWロードショー。

インタビュー・文=藤本洋輔

作品情報
映画『無限の住人』
 

出演:木村拓哉
    杉咲花 福士蒼汰
        市原隼人 戸田恵梨香 北村一輝
        栗山千明 満島真之介 金子賢 山本陽子
        市川海老蔵 田中泯 / 山﨑努
原作:沙村広明( 講談社「アフタヌーン」所載 )
監督:三池崇史
脚本:大石哲也 ■音楽:遠藤浩二
主題歌:MIYAVI「Live to Die Another Day -存在証明-」(UNIVERSAL MUSIC)
製作:「無限の住人」製作委員会
制作プロダクション:OLM
制作協力:楽映舎 東映京都撮影所
配給:ワーナー・ブラザース映画
公式サイト:www.mugen-movie.jp
(C)沙村広明/講談社 (C)2017 映画「無限の住人」製作委員会
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