PELICAN FANCLUBの覚醒を告げた1stフルアルバム『Home Electronics』、めくるめく臨場感の秘密に迫る

2017.5.11
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PELICAN FANCLUB 撮影=風間大洋

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2012年に結成され、これまで3枚のミニアルバムをリリースしてきた4人組バンド・PELICAN FANCLUBが、5月10日に満を持して1stフルアルバム『Home Electronics』をリリースする。フロントマンであるエンドウアンリのピュアな感性を生かして、繊細なタッチで絵を描いたような楽曲が魅力的だった彼らだが、作品を重ねるごとに個々の楽器の表情が豊かになり、今作では楽曲の中に連れて行くような立体的な臨場感が生まれている。みんなで笑い踊れるような楽曲から、ロマンティックなラヴソング、怒りのこもったシリアスなナンバーまで、幅広い12曲が揃った今作について、全員に訊いた。

――1stフルアルバムがこのタイミングになったのは、何かしら理由があるんですか?

エンドウアンリ:曲の数が増えて、PELICAN FANCLUBのことを知ってもらうためにはフルアルバムの曲数があったほうがいいなということもあって、リリースしようとなりました。

――今までは、ミニアルバムだったけれど。

エンドウ:そうですね。今まではコンセプトがあって、ミニアルバムっていう形が一番しっくりきていたんですけど、今回は12曲のフルアルバムで、どの曲にも自分たちのルーツを入れながら、全体的に統一感を持たせていて。曲数が少ないと、色々やりたいことも多いからまとめるのが難しかったりするんですけど、12曲あるといい具合にまとまりも出せて。

クルマダヤスフミ:12曲だからこそ入れられた曲もあるし。

エンドウ:それぞれの曲に役割があるんです。例えば、1曲目の「深呼吸」は、1曲目っていう役割を持って生まれた曲で。だから、1曲欠けると全体の聴こえ方も変わってきますし。

――最初からフルアルバムを目指して曲を作っていったんですか?

シミズヒロフミ:日常的に曲は大量に生まれるんですよね。

エンドウ:最初は70曲あって。そこから、よく自分たちを見せれるのはフルアルバムだよね、でもフルアルバムだからこそ統一感は必要だよねっていう話になって。それに対してのアレンジで役割を持たせていったんです。

――70曲ってビックリですけど、曲作りには苦労しないタイプのバンドですか?

エンドウ:原型みたいなものを含めて70曲ですけどね。僕とカミちゃんが曲を作るので、単純計算で一人35曲。苦労はしましたけど(笑)。

――でも、楽しいからこそ、それだけ曲を生み出すことができるんですよね。

シミズ:そうですね。楽しいのが前提ですし、全員がアレンジもできるので。曲はカミちゃんとエンドウが作るんですけど、それをクルちゃんと俺がアレンジしたりしますし。なんで、ワイワイやってます(笑)。

エンドウ:ワイワイ(笑)。

PELICAN FANCLUBエンドウアンリ 撮影=風間大洋

クルマダ:前作のあたりから、曲の作り方が自分たちでも見えてきたっていうか。作業の仕方が変わってきて、スムーズに曲もできるようになってきたっていうのもあります。前までは、みんながスタジオで合わせていたんですけど、各々がパソコンで作って、データを共有できるようになったので、役割が明確になって、進めやすくなったっていう。

エンドウ:あと、今までと明らかに違うのは、一つのものに対してイメージの共有ができるようになったっていう。今までは、「こういう曲をイメージして作ったから、こういうアレンジに」って言っていたんですけど、今回は、一つの景色をイメージして曲を作っていったんですよね。1曲目の「深呼吸」だったら、風が吹いている大草原で、一人で深呼吸するイメージで歌詞を書いていて、それをみんなもイメージして、ドラムもギターもベースもアレンジしていったっていう。12曲全てにおいて、メンバーのイメージが一緒なんです。だから、全員が曲に対して話ができるっていうところは大きい。

――メインソングライターのエンドウさんとカミヤマさんだけではなく。

エンドウ:そうです。

カミヤマリョウタツ:僕の場合は、曲を持っていく上で、歌詞はエンドウに相談するんですけど、イメージの共有をしてから言葉を嵌めていきますし、他のメンバーにもその話をして。

シミズ:ライブでも、イメージがあるだけで、音の表現が変わってくるので。

――そのせいか、聴き手にも臨場感が伝わってくるアルバムですよね。「深呼吸」も、香りの描写があるところなども関わっていますけど、曲の中に入って深呼吸したくなるような躍動感があって。これは新たなPELICAN FANCLUBの魅力になっていく気がしています。

エンドウ:そうですね。「深呼吸」も、深呼吸の音が入っているし、より臨場感を入れるようにはしています。

――臨場感が最もわかりやすいのは「夜の高速」で。まさに一緒に車に乗っているかのような感覚を味わえますよね。

エンドウ:この曲もテーマがあって。スタジオで「夜の高速」っていうお題を出して、みんなで作ったんですけど、僕ら、いつも機材車で高速に乗ってツアーに行くので、だいたい見ている景色が一緒なんです。だから、みんながイメージしていた夜の高速が、静岡に入るあたりだったんです(笑)。

シミズ:御殿場あたり(笑)。

――具体的ですね!(笑)

エンドウ:だから、よりいっそう臨場感が出たんです。

クルマダ:缶コーヒーを開ける音も入れてね。

PELICAN FANCLUB・クルマダヤスフミ 撮影=風間大洋

――あと、ハードな曲もよりエモーショナルになっていますよね。「Black Beauty」とか。

エンドウ:この曲はライブでやっていた時期もあるんですけど、怒りやモヤモヤ、混乱をテーマにして。だから、みんながそれをイメージして演奏していました。

シミズ:笑い一切なし(笑)。レコーディングの時も、怒りをぶつけました。

――それによって、歌だけではなく楽器も、譜面をなぞるだけでは生まれない豊かさが表現できますよね。

エンドウ:そういうバンドに憧れていたんですよね。だから、今までの作曲方法を変えたいと思ったんです。歌詞について喋れるのも僕だけだったので、PELICAN FANCLUBとしての歌詞にしたいと思っていて、だからこそイメージの共有はしたかったんです。

――もっとバンドらしいバンドになりたかったと。

エンドウ:そうです。

――だんだん、エンドウさんの世界観を表現しているだけではないバンドになってきましたよね。カミヤマさんも、そういう理想を掲げて作詞作曲に携わってきたところがあるんでしょうか。

カミヤマ:前々作(2ndミニアルバム『PELICAN FANCLUB』)くらいまではエンドウのカラーだったんですけど、前作(3rdミニアルバム『OK BALLADE』)を出す時に、今までとは別の方向性を出したいっていう話になって、じゃあ僕もこういうことができるよっていう提案から始まったんです。結局、僕が冒険してもPELICAN FANCLUBに還元できることがわかって、それが今作にも生かされているっていう。だから、時系列のストーリーがはっきりしているんです。

――歴史があって、今作が生まれたっていうことなんですよね。ただ、今作の中でも、エンドウさんの世界観が強烈に出ている曲もあって。特に、<もし明日もう1つの地球が出来たなら>という歌い出しで始まる「ダダガー・ダンダント」。

エンドウ:これは、愛着に対して書いたんです。そもそもフルアルバム全体の歌詞のテーマが「君と僕」で、聴き手が主人公になれるように意識したんですけど、その中でこれは、誰かが長く使っているものに対する愛着vs新しいもの、みたいな。メンバーに共有する時は、純粋に歌詞の通りに、「もう1つ地球ができたら?」って馬鹿正直にイメージしてもらってから、その地球を何かに置き換えて考えてもらって。2番の後半に、ギターの絡みがあるんですけど、そこは宇宙遊泳しているイメージで演奏したんです。

――イマジネーションが試されますよね。

シミズ:楽しいですけどね。冒頭の歌詞のインパクトが強くて、そこからのインスピレーションでドラムのフレーズもストレートなんですけど、それに沿った感じで。

クルマダ:歌詞がわかりやすい分、サウンドもクリーンな心地よさを演出しました。

PELICAN FANCLUB 撮影=風間大洋

――エンドウさんにご説明頂いて、歌詞の発端はわかったんですが、それにしても、この発想を思い付くところが凄いなって。

クルマダ:僕も冒頭の歌詞はビックリして、早く曲を仕上げたいと思いました。

シミズ:ピュアですよね。

エンドウ:(笑)。こういうこと、よく考えるんです。一番使っているものって地球じゃないですか。そこでもう一個新しいものが出てきたらどうなるのかな?って。よく、火星に行きたいとか言いますけど、結局は今の地球がいいって、みんな言うと思うんだよな。

――さっきの「君と僕」というテーマで言うと、「You’re my sunshine」は、まさにそういう感じがして。歌詞だけではなくギターもめちゃめちゃロマンティックですよね。

エンドウ:ありがとうございます。ちょっと照れ臭いラヴソングですけど。情景が浮かぶものは意識していて。僕ら、千葉の九十九里とか御宿のイメージが浮かびやすいんですけど、それを共有して曲を作れるのは強みかなって。

――実は千葉なんですね。あと、今作には音的な面白さもちりばめられていて、特に「Trash Trace」は、歌詞のリフレインが印象的でした。

カミヤマ:リフレインは、歌声も音の一つだと思っているし、ギターでは結構ディレイを使った表現が多いので、歌もそういう表現があってもいいと思ったんです。

エンドウ:あと、歌詞を一緒に見ていった時に、カミヤマくんが大事にしているのは、問い掛ける部分なんですよね。だからリフレインは潜在的に出てきたんだろうなって。この歌詞は、カミヤマくんが書いた割合が多いですし。

PELICAN FANCLUB・カミヤマリョウタツ 撮影=風間大洋

――こうやっていろんな曲がある中で、最後の「Esper」は、笑って踊って終わるような曲調ですよね。PELICAN FANCLUBの1stフルの締め括りとしては、ちょっと意外だったんですけど、でもとてもよかったです。

エンドウ:これは決まっていましたね。(その前の)「朝の次へ」を終わりっぽくしたんですけど、僕らもひねくれているので最後は馬鹿な感じで終わらせたいと(笑)。「Esper」は絶対に必要な曲でした。

――これは、ライブで培ってきたものを感じますね。お客さんも巻き込んでいく姿勢が出ているというか。

エンドウ:それは意識しましたね。歌詞のリンク性もありますけど、<あはは>ってみんなで言う、それを音源化することによって、お客さんもそこで歌ってくれるんじゃないかなって。ライブヴを見越しての作曲を、今作は全体的に取り入れました。

クルマダ:前作を出してからツアーを廻って、もっとお客さんと盛り上がりたくなって。反応があることを実感したので、こっちからも提案して一緒に楽しもうと。

――それは、バンドを始動した時にはなかった考え方ではないですか?

エンドウ:なかったですね。はじめは、如何にステージで演劇のように表現したいものを見せられるかっていう感覚だったんですけど、作品を出すごとに、フロアとステージでどれだけいろいろなものを共有できるかっていう感覚になっていったんですよね。

――じゃあ、ファンの存在があってできあがった1stアルバムっていう。

エンドウ:ほんとにそうです。

――ライブですでにやっている曲は、さっきおっしゃっていた「Black Beauty」以外にありますか。

エンドウ:「Night Diver」、「Luna Lunatic」、「花束」……

カミヤマ:こないだ「夜の高速」も。

――特に「Night Diver」は、初めてライブで聴いても「キた!」感があると思います。

シミズ:これはレコーディングでも「キた!」感がありましたね。

エンドウ:人生で初めて、レコーディングでギターを弾いている時に鳥肌が立ったんです。レコーディングでしかできない空気感と、二度と同じことができないグルーヴだったね。

3人:(頷く)

――アルバムへの期待を高める一曲ですよね。あと、気になったのがアルバムタイトル『Home Electronics』なんですけど、意味合いが想像できないというか……。

エンドウ:アルバムタイトルをメンバー全員で考えていて。その時に12曲のことを考えて、いろいろ単語を出していったら、「家電」っていう単語が出てきたんですよ。最初、こうこうこういう理由で「家電」が出てきたって説明したら、カミヤマくんはアルバムタイトル『家電』でいいじゃんと(笑)。

カミヤマ:漢字で(笑)。

――それはそれでインパクトありますね(笑)。

エンドウ:理由が、12曲に役割があるって言いましたけど、家電も役割があるじゃないですか。レンジなら物を温める、解凍する。洗濯機なら汚れた服を洗うっていう。このアルバムも、1曲1曲がそうなって欲しいし。……僕、家電って不思議だと思うんです。こういう仕組みでこうなっているんだよって言われればわかりますけど、それこそ幼稚園児的発想をすると、何でこうなるんだろう?って思うというか。見えない魔法みたいに感じるし、音楽ってそういうものだなって。音って見えないし、でも聴いただけで気持ちが変わるし、背中を押される。そういうものがリンクして「家電」っていう単語が出てきたんです。でも、その単語をそのまま使いたくなかったんです。使わないことが、僕はPELICANらしさだと思っていて。だから、パッと聞きで家電ってわかるように『Home Electronics』にしたんです。

――なるほど! 言われてみれば家電って不思議ですよね。

エンドウ:そうなんです。未来から来たものっていう感覚があって。それこそ、100年前の日本なら、iPhoneなんて、想像くらいはできたかもしれないですけど、なかったじゃないですか。でも今この2017年にはあって、しかもなくてはならないものになっている。また、今は想像しているだけのものも、100年後にはできているかもしれないし。だから家電って、科学的なイメージですけど、僕には魅力的だし、不思議だなと思うんです。そういうものをアルバムの中に秘めたかったんですね。PELICAN FANCLUBの1stフルアルバムを置き換えてみると、3ヶ月前はなかったものが、リリースして3ヶ月後には、なくてはならないものになっていて欲しいというか。

PELICAN FANCLUB・シミズヒロフミ 撮影=風間大洋

――いろいろ繋がってきますね。

エンドウ:そうなんですよ。家電の凄さというものが――

シミズ:何の家電が好き?

エンドウ:何の家電!? ……冷蔵庫(笑)。

シミズ:俺、炊飯器(笑)。

――(笑)。家電って現実的で無機質なものに感じますけど、見方を変えるとロマンティックですよね。まさに、家電の如く、音楽やバンドの未来を照らす一枚になっていると思います。

エンドウ:そうですね。僕ら4人、確信していることがあるんです。このアルバムは、今後の基盤になるって。だからこそ、堂々としていたいと凄く思います。

――シンセ使いも未来的だし。

エンドウ:今回、シンセサイザー・アドバイザーも入ったんです。細部まで拘りたかったんですよね。自分たちが見えていない景色も、より鮮明に表現したかったし、今までやらなかったことも試していきました。見えないところまで気持ちを詰め込たかったんで、できあがった後もキーを変えて、もう一回やってみたり。

クルマダ:見ている景色を共有しましたけど、例えば景色が山でも、それぞれの山のイメージが違うので、話し合ったりして。そこから歌詞をいじって、さらにサウンドも変化したりして、化学反応がどんどん起きて楽曲が仕上がっていきましたね。

――まさにバンドマジックですね。ただ、そういう作業をすると、時間もかかりそうですが。

エンドウ:でも、僕ら合宿をしたんですけど、そこで上手くいくやり方がわかって、効率よく出来るようになったんですね。

――そういうバンドのいい状況は、ステージを通じてオーディエンスにも伝わるでしょうね。

エンドウ:そうですね。そうありたいです。

――できる曲が増えるし、ライブでの表現も楽しみになってきますね。

エンドウ:そうですね。改めて聴くと毎回発見がある12曲なんで、どこを重視して表現するかをライブで追求していきたいと思っていて。CDで聴いた曲ではあるけれど、細かい表情が違ったりするでしょうし、新鮮に聴いてもらえるんじゃないかな。ライブは今の瞬間を大事にして、必死に、死ぬ気で挑んでいます。挑むようになりました。


取材・文=高橋美穂 撮影=風間大洋

リリース情報
1st Full Album『Home Electronics』
2017年5月10日(水)発売

『HomeElectronics』

UKDZ-0183
価格:¥ 2,600(税別価格)
DAIZAWA RECORDS/UK.PROJECT inc.
1.深呼吸
2.Night Diver
3.Luna Lunatic
4.Black Beauty
5.You’re my sunshine
6.夜の高速
7.ダダガー・ダンダント
8.許されない冗談
9.Trash Trace
10.花束
11.朝の次へ
12.Esper
 
*Apple Music、iTunes は、米国およびその他の国で登録されている Apple Inc. の商標です。

 

ツアー情報
PELICAN FANCLUB TOUR 2017 “Electronic Store”
【ワンマン公演】
6/09(金) 名古屋・APPOLO BASE 
6/18(日) 大阪・阿倍野ロックタウン 
6/25(日) 東京・代官山UNIT
【対バン公演】
6/30(金) 福岡・graf (w/ さよならポエジー / Halo at 四畳半)
7/02(日) 広島・BACK BEAT (w/ odol +1 Artist)
7/03(月) 高松・DIME (w/ odol / パノラマパナマタウン+1 Artist)
7/11(火) 新潟・Reverst (w/ mol-74 / lazuli rena nicole / Scott of Grin)
7/12(水) 金沢・vanvanV4 (w/ パノラマパナマタウン / mol-74)
7/13(木) 仙台・enn 3rd (w/ The Floor / パノラマパナマタウン+1 Artist)
7/14(金) 千葉・LOOK (w/ SHE’S / パノラマパナマタウン)

【ワンマン公演】 ¥3,000(+1D) 当日¥3,500(+1D)
【対バン公演】 ¥2,500(+1D) 当日¥3,000(+1D)
 
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