「バンドのこれからを歌いたかった」――andropの意志表示たる新曲「Prism」が輝く理由
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androp 撮影=西槇太一
音も佇まいも、表情も、一段と風通しがよくなった印象を受けた。5月10日にニューシングル「Prism」のリリースを控えたandropの4人は、充実感と手応えを滲ませながら、そしてとても楽しそうに、今作の制作過程やその背後にある心境を語ってくれている。実験的でエッジィ、ともすれば内向きな印象さえ受けた前作を経て生まれた「Prism」は、なぜこんなにも瑞々しく輝くのか。バンドとしても個々のプレイヤーとしても着実に歩みを進めているandropの現在地に迫った。
──前作の『blue』は、より強い光を描くためにその真逆にある闇を敢えて描く、という性格の作品でしたが、今回リリースされる「Prism」は、まさに光そのものですよね。すごく優しくて暖かなイメージがありました。そして、今作からユニバーサルミュージック ZEN MUSICとタッグを組んだわけですけども、節目の第一弾作品としてどういうものを考えていましたか?
内澤崇仁:きっと大事な作品になるだろうなというのは、メンバーみんな感じていて。だからこそ、どういったものにするのかをすごく迷いましたね。最初から「Prism」みたいな曲を狙っていたわけではなく、本当にいろんな可能性を考えながら作っていきました。
──かなり長い期間考えていたんですか?
内澤:そうですね。『blue』をリリースする前に『best blueprint』というツアーが始まって。そこで『blue』の曲達を演奏してみて、曲の反響を得ながら、各地のスタッフの声も聴きながら、じゃあ次はどういったものにしようかと。そういう話をメンバーとも、チームとしても話し合ってました。
佐藤拓也:前作は内容が内容だったので、賛否両論というか、いつもとは違う意見が出てくることが多くてすごく発見があったんですよ。それに、あの作品を出せたことによって表現の幅がすごく広がった感覚があったから、次をどうするのかはいろいろ考えましたね。そこは、何も出てこないというよりは、いろんなことができるぞという感覚で。
──「Prism」に限らず、今回収録されている3曲は基本4人の音のみで構成されていますけど、そこはコンセプトにありました? 同期は入れずにやろう、みたいな。
内澤:特に決めたわけではなかったんですけど、4人できちんと再現できるものというのは各々考えていたと思いますね。「CDはCDとして」というものではなく、4人の個がしっかりと伝わるものというか。たとえ音数が少なくても、その音に説得力があれば曲として成立するし、そのほうが響く場合があるというのは、『blue』やツアーを通して感じたこととしてあって。その経験がこのシングルに活きてきたし、自ずとそういうものになっていった感じでしたね。あと、今回は僕のなかで歌をしっかり届けたいという気持ちが今まで以上に強かったんですよ。歌を伝えるためにはどうしたらいいのか考えながらやっていたから、自ずとメンバーも歌に寄り添うような演奏やフレージングを考えてくれていて。
──でも、なぜまた歌を届けたいと強く思ったんですか?
内澤:なぜなんでしょうね……。「僕ができるのはそこなんだろうな」と、改めて思ったというか。メンバーも、言葉は発さないものの、各々の楽器で納得させられるような音、言葉ぐらい強い音を出せるようになってきているし、僕にできるのは歌を届けることかなって。それに、ここまでいろんな経験をしてきたから、もしそれが今までと同じ言葉だったとしても、重さが違うように伝えられる気がしたというか。そこにチャレンジしてみたかったんですよね。
──なるほど。ちなみに、シングルを作るにあたってデモは何曲ぐらいあったんですか?
佐藤:一回作って、集めて、また作ってというのを繰り返していたんで、30曲近くはあったと思います。
──かなりの量ですね。
佐藤:内澤くんだけではなく、メンバーそれぞれがデモを作っていたので。
──なるほど。どんな曲がありました?
佐藤:いろいろありましたよ。結構激しくてバキバキなものあれば、ゆっくりな曲もあったり、もっと音数の少ない曲もあったり。
内澤:もう、縦ノリから横ノリまでね。本当にいろんな方向性を試して、手探りしていった感じに近かったですね。ジャンルも絞ってなかったし。
伊藤彬彦:デモを選んでいく工程がこれまでと変わったんですよ。今まではメールでデータをやり取りして各自で聴いていたんですけど、今回はスタッフ含めてみんなで集まってデモを聴いて、その都度一曲一曲みんなで話し合いながら進めていったんですよね。
──選曲の仕方を変えたことは大きかったですか?
伊藤:大きかったですね。たとえば、デモを詰めていくにしても、作曲者がもうちょっと詰めてきたほうがいいなとか、これはみんなでセッションしたほうがよさそうとか、曲によっていろんなパターンがあって。「Prism」に関しては、歌詞のメッセージもありますけど、みんなの音であったり、それぞれの色や思いを乗せることが大事だった気もしますし、各々がどういう思いでそれを弾いたのかわかっている状況だったり、自分自身がそのフレーズを選んだ経緯がわかっていることで、ライブの演奏にすごく反映されると思うんです。あのときはこう思ったからこう弾いたとか、でも今はこう思っているから敢えてこう弾くとか、頭と体がくっつく瞬間が増えるというか。そういう場面がライブで増えていきそうだし、活きてくるんじゃないかなと思います。
──前田さんは「Prism」に対してどうアプローチしていきました?
前田恭介:デモの段階から歌がすごくよかったので、メロディーをしっかり活かすことは考えてましたけど、今回は僕に専属のプロデューサーがつきまして。それがまぁ……彼なんですけど。
──隣に座っている伊藤さんが務めたと。
前田:もちろん他のメンバーもついてくれたんですけど、特に彼が客観的にいろんな意見をプリプロの段階で提案してくれて。なんというか、若いときだったら、やっぱり自分が考えたものが一番いいという気持ちもあったと思うんですよ。でも、それが歳だからなのか、ここまで活動してきたからなのかはわからないけど、いろんなことを受け入れられるようになってきたんだなって。それによって今回はアプローチがかなり変わったので、そこはすごく新しい経験でしたし、バンドじゃなきゃできないことというか。バンドをやっていてよかったなと思える瞬間を感じることができたので、いい経験でした。
──専属プロデューサーの伊藤さんとしてはどういう話をしたんです?
伊藤:いや、あの感じで僕がプロデューサーだとしたら、(前田は)相当盾突くタイプのアーティストですよ!?(一同笑)
佐藤:プロデューサーとしては見ていないというか(笑)。
伊藤:でも、おもしろかったです。僕はいわゆるコードの理論とかトーンの話はあまりわからないけど、わからないなりに自分がおもしろいと思うものを言ってみてもいいかな、ぐらいの気持ちで提案していたんですよ。「Prism」はメロディーがいいし、音数も少ないけど、だからこそちょっとしたフックは作っておきたかったし、ただフレーズを考えるというよりは、曲がAメロ、Bメロ、サビと進んでいくなかで、ストーリーがあるものにしたかったというか。でも、それをどうやればいいのかやり方がわからずに、イメージだけで話していたので、きっとみんな的には「何を言っているんだ、お前は」っていうところもあったと思うんですけど(笑)。でも、たくさん演奏していくうえで、やったことがないものをやったほうが楽しいと思うし、そういうところにみんなでチャレンジしていけたらいいなという感覚でしたね。
──という提案をすると、盾突かれることがあったわけですね(笑)。
伊藤:ははははははは(笑)。
佐藤:とはいえ、そう言いながらもやってくれるんですよ。一度出た案をすぐに否定せずに、とにかく一回やってみるっていう。
内澤:それによって自分以外のパートに対する会話が増えたしね。それに、提案されたものをすぐに具現化する技術もついてきているなと思ったし、今のタイミングだからこそこういうものができたのかなって思いますね。
佐藤:ギターに関しても、メンバーやスタッフからいろんな案をもらったんですよ。今回はイントロのフレーズを一音聴いただけで、andropの「Prism」だとわかる印象的なものにしようという話をしていたんですけど、ギターだけじゃなくて、いろんな楽器を試しに足してみたんです。バンジョーとかシタールとか、あとはピアノとか声も入れてみたりして。最終的にマンドリンとアコギを、うっすら聴こえるか聴こえないかぐらいで入れたんですけど、そうやってみんなで意見を言い合いながら作れたのはよかったし、そういう発言が出てきたのは、各々が曲を作ったり、歌詞を書く経験をするようになったことも大きいのかなと思います。
androp・佐藤拓也 撮影=西槇太一
──歌詞は<走り出した>とか<光り出した>という、今まさにここから始まる状況を描いていたものになっていますが、やはりそういう気持ちを歌いたかったですか。
内澤:そうですね。バンドのこれからを歌いたかったです。2年2ヶ月ぶりのシングルということで、今まで以上に積んできた経験が現れた音だから、すごく大切な一曲になるだろうなと思っていたので、これまでのこととか、現状のこともそうですけど、これからが見えるようなもの。ここからの意思表明みたいなものにつながる歌詞にはしたいなと思っていました。元々メロディーと一緒に歌詞も出てきたから、それは自分としても歌いたいから出てきたんだろうなと思いますね。
──カップリングのお話もお聞きしたいんですが、「Ryusei」は以前からライブでやられていたそうで。
内澤:もう1年以上やっている曲で、最初に僕がデモを持ってきてスタジオで合わせたんですけど、この曲はすぐにレコーディングせずに、ライブで育てていくことを決めてからやり始めたんですよ。実際にライブでやるごとにフレーズやアプローチの仕方とか、僕で言えば歌詞も変わっていって。それで、今回のタイミングでシングルに入れることを決めたときに、初めてプリプロに入ったんです。そこで改めてイントロの音色を決めたり、ライブではお客さんの温度にあわせて伊藤くんがBPMを変えていたんですけど、CDに入れる場合にはどれが一番いいのか、ちょっとずつ上げたり下げたりして、いろんなパターンを試しました。
伊藤:最終的にこの形になりましたけど、最初は横ノリを目指していたから(BPMは)もっとゆっくりで、リズムのアプローチも今とはまた違った状態だったんです。それをいざライブでやってみたら、お客さんが縦にのってたんですよね。それもあって、すごくノリづらそうにしていて。
佐藤:そこから速くなっていったよね。
伊藤:やっぱりお客さんが気持ちよく聴けるものにしたほうがいいんじゃないかっていうのは、image worldのスタッフからの意見もあったし、僕も見ていてそう思ったんですよ。そこはライブで実際にやってみないと気づかなかったところだったし、そういう意味でもライブで育てた意味があった曲だなと思います。結果的にこのテンポになったことで、このシングルをまとめてくれているとも思うから、そこもよかったですね。
──プリプロのお話に出たイントロのギターについてですが、音色がかなり渋めというか、80年代を彷彿とさせる感じがあって。
佐藤:そこを狙ってました。最初はああいう音色ではなかったんですけど、あれはライブスタッフに提案されたんですよ。普段だったらライブの前にレコーディングを済ませているから、ライブスタッフはもう完成している音源を聴いてライブに入るわけですけど、今回はレコーディングする前にライブでやっていたから、「この曲は絶対に変えたほうがいいよ」って言われて。
内澤:フレージング自体は変わってないんだけどね。
──個人的に、andropがあの音を出すイメージはなかったです。
内澤:僕もなかったです(笑)。でも、試しにやってみたら、これはきたね!って。
佐藤:最後のピースがはまった感じというか。
前田:今までは曲を作ってからすぐに録らなきゃいけないことが多かったんですよ。でもそうではなく、一年間やってきたことで得たお客さんの反応とかライブスタッフの意見とか、そういう時間がそのまま曲に入っているというのがすごく素敵だなと思いますね。それは、積み重ねてきたものが音に乗るということであり、自分達がやりたいと思っているもののひとつの形だなとも思ったので、今後もこういう挑戦はしていきたいです。
androp・前田恭介 撮影=西槇太一
──もう1曲の「BGM」は、映画『君と100回目の恋』の挿入歌として提供されていた曲で。原曲にはいろんな音が入っていましたけど、今回のバージョンは音数をかなり絞ったり、ハーフテンポしたり、いろんなものを抜いた形にリアレンジにされていて。
内澤:「BGM」は、バンドのことはひとまず置いておいて、映画とマッチするように作ったんですよ。でも、それで終わらせるのはもったいないなと思ったし、バンドとして消化しきれていない部分もあったので、それこそライブでもバンドでしっかりと表現できるもの、伝わるものにしたいなと思ってアレンジし直しました。音数に関しては、少なくしようとは思っていなかったけど、結果少なくなってましたね。
佐藤:音数が少ないからこそ強いフレーズが残ったし、その集合体みたいな曲になったかなと思います。そこにたどり着くまでには結構時間がかかりましたけど。
内澤:一瞬テクい方向に行ったんですけど、やっぱり歌に寄り添ったアレンジにしようって、何転かしてこの形になったので。
前田:「BGM」に関しては、ギターの人(佐藤)が専属プロデューサーだったんですよ。フレーズを作ってくれて、最初はめちゃくちゃダセえなって思ったんですけど。
佐藤:はははははははははは!
伊藤:盾突くタイプのアーティスト(笑)。
前田:でも、それをやってみたらすごくハマりがよくて、すぐに使わせていただきました。
内澤:そうそう。「ダセえな」って言いながらも、とりあえずはやるっていう(笑)。
佐藤:それぐらい意見を出しあって、いい雰囲気で制作が進んでいったし、そういうものが3曲共に入っているのはいいですよね、すごく。
androp・伊藤彬彦 撮影=西槇太一
伊藤:アレンジするにあたって、内澤くんが改めてデモを作るというわけではなかったので、今の自分達が持っているものを反映させる場面が多かったんですよ。なので、すごく能動的にフレーズを変えることができたし、このアレンジは僕的にかなりの満足度があって。だから、なんだろうな……たとえばandropが解散したとして──
──すごいたとえが来ましたね(笑)。
伊藤:たとえばの話ですからね? そのときに、これまでやってきた曲の中で、自分としていいドラムが叩けたと思う曲を選ぶならコレ!っていうぐらいのものができましたね。
佐藤:それ、わざわざバンド解散させなくても、普通に言えば大丈夫だから(一同笑)。
伊藤:だいぶ飛躍したか。
──「自分の葬式で流すなら」とかいう言い回しはよくありますけど。
伊藤:それ! それにしましょう!
佐藤:覚えとくわ。「あいつがそうやって言ってた」って俺が伝えとく。
伊藤:是非、僕の葬式のBGMはこの曲でお願いします。
内澤:だいぶ壮大な話になった(笑)。
──はははは(笑)。そして、2年ぶりのライブハウスツアー『angstrom 0.8 pm』が決まっています。今回は全国21公演とかなり多めですね。
内澤:2年前にやったライブハウスツアーは、僕らにとって初のライブハウスツアーだったんですけど、やっぱり距離の近いところでお客さんと音楽を共有できる醍醐味があったし、その場所でしか鳴らせないようなセットリストやアレンジにトライしていたんですよ。それから2年経って、我々もいろんなことを経験して、いろんな表現の仕方を学んできたので、前回よりも精度の高いもの、より距離感の近い音の鳴らし方、楽しみ方ができると思っていますし、初めてandropを観にきた人も楽しめるライブにしたくて、今、絶賛考えてますね。その場所でやる意味みたいなものをしっかり表現できるライブにしようと思って、みんなで話し合いながら計画してます。
──またいろんな挑戦を見ることができそうですね。
内澤:ライブハウスなのでフィジカル的にすごく強いもの、野太い音を鳴らしたいと思いますね。
佐藤:スタッフの人数もあえて少なくして回ろうと思っているんですよ。最近いろんなところで「音楽は人だ」って言ってますけど、まさにそういう人となりが見えてくるようなステージになると思うし、よりそこにスポットがあたるツアーになると思いますね。
取材・文=山口哲生 撮影=西槇太一
androp 撮影=西槇太一
2017年5月10日発売
*10月28日(土) 日比谷野外大音楽堂ワンマンライブ
*購入者抽選スペシャルトークイベント応募用シリアルコード封入
●初回限定盤(CD+DVD) UPCH-7258 ¥2,484(税込) ¥2,300(税抜)
●通常盤(CD) UPCH-5907 ¥1,296(税込) ¥1,200(税抜)
《CD》
1. Prism
2. Ryusei
3. BGM (single ver.)
《DVD》 ※初回限定盤のみ
・「Prism」Music Video
・「Prism」Making Video
・ live tour 2016 "best blueprint" (2016.10.16 Zepp DiverCity)
「Kaonashi」「Irony」「Digi Piece」「Sunny day」「Kienai」「Lost」
●公演日時
2017年10月28日(土) 17:15 開場/ 18:00開演
●
5,800円(税込、全席指定、6歳以下の入場不可)
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androp member page サイト会員先行、ニューシングル「Prism」特別先行のほか、
詳細は追って公式ホームページ(http://www.androp.jp/)にてご案内いたします。
お問合せ : サンライズプロモーション東京 (TEL : 0570-00-3337)
5月16日(火) 群馬 高崎 club FLEEZ
5月18日(木) 神奈川 横浜 bay Hall
5月20日(土) 滋賀 U STONE
5月21日(日) 京都 礫礫
5月23日(火) 兵庫 神戸 VARIT.
5月25日(木) 香川 高松 DIME
5月27日(土) 愛媛 松山 WStudioRED
5月28日(日) 岡山 CRAZYMAMA KINGDOM
5月30日(火) 静岡 浜松 窓枠
6月3日(土) 新潟 LOTS
6月4日(日) 福島 郡山 HIPSHOT JAPAN
6月9日(金) 熊本 B.9 V1
6月11日(日) 長崎 DRUM Be-7
6月15日(木) 北海道 札幌 PENNY LANE 24
6月16日(金) 北海道 函館 CLUB Cocoa
6月22日(木) 宮城 Sendai Rensa
6月25日(日) 愛知 Nagoya DIAMOND HALL
6月27日(火) 大阪 umeda TRAD(umeda AKASO)
7月4日(火) 東京 Ebisu LIQUIDROOM
7月7日(金) 福岡 DRUM LOGOS
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