平野良がままならぬ恋に堕ちた! 舞台『それから』ゲネプロレポート
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長井代助:平野 良
昨年からワイドショーは不倫一色。テレビドラマも毎クールのように不倫ドラマが話題を集めているが、道ならぬ恋に心燃えるのは100年前から変わらぬ性(さが)。そう、かの文豪・夏目漱石の傑作小説『それから』も、親友の妻に恋をした男の顛末を描く耽美なラブストーリーだ。
それを舞台化したのが、5月3日(水・祝)から上演の【文劇喫茶】シリーズ第一弾『それから』。明治時代を舞台にした、ちょっと退廃的な空気感は、テレビドラマでも映画でもない、演劇ならではのエッセンス。ここでは、3日に行われたゲネプロをもとに、禁忌破りの恋の行方をレポートする。
恋に堕ちた男は、かくも愛らしく、かくも狂おしい。
舞台『それから』の会場は、東京・六本木の俳優座劇場。60余年の歴史を持つ同劇場のクラシカルな雰囲気が、【文劇喫茶】と銘打つ本作の世界観に程良くマッチしている。舞台は上手(かみて)に障子戸が設えられた小部屋。下手(しもて)には色鮮やかな衣装が並べられたワードロープとドレッサーが置かれている。この対照的な和と洋のアンサンブルが、文明開化の時代の空気を象徴的に表している。
長井代助:平野 良
主人公は、実家のお金を食い潰し、定職も就かず自由気ままな生活を送る長井代助(平野良)。自らを「高等遊民」と名乗る浮き世離れした変わり者を、平野良が実に達者に演じている。
もともと実力派と名高い平野だが、毎回、出演作ごとに印象が変わるカメレオンぶりにはしばし驚かされる。今回も、その第一声からして特徴的だ。生活に不自由をしたことがなく、芸術を愛し、額に労働の汗を流すことをまるで人生の敗北とでもいうような偏屈ぶりが、話し方から伝わってくる。純文学らしい流麗な台詞回しも、持ち前の口跡の良さでさらりとこなす。メインキャストは、わずか3人。しかも代助に至っては、2時間ほぼ出ずっぱり。そんな難役もまるでそう感じさせない軽やかさに、改めて平野良の俳優としてのベースの強さを思い知った。
平岡常次郎:今立 進(エレキコミック)
そこに親友・平岡常次郎(今立進)、そしてその妻・平岡三千代(帆風成海)が代わる代わるに絡み合い、その糸は徐々に大きな1枚の布を編み広げていく。
今立は常次郎の他にいくつか別の役を兼ねるが、中でも代助の義姉・梅子役は水を得た魚のよう。演技とも即興ともつかないリアクションを随所に放り込み、客席をクスクスと笑わせる。帆風は、男の庇護欲をかき立てる病身の女性を、儚げに、しかしどこか凜とした佇まいで印象づける。
平岡三千代:帆風成海
そして本作では各回多彩なゲスト出演者が登場する。初日のゲストは、俳優の寿里。旧知の仲である平野との応酬は、役を離れて普段のふたりのやりとりを見ているよう。文芸的な趣向の強い本作の中で、肩の力を抜いて楽しめる箸休めのような役割を果たした。
初日ゲスト:寿里
物語が進むにつれ、代助の三千代に対する思慕はより鮮明に。募る恋心とともに、代助のキャラクターにも変化が訪れる。
思えば、序盤の代助は俗世に馴染むことをよしとせず、どこか浮遊感のある男だった。それが、慕う女性ができたことで、否応なしに現実と向き合うことを迫られる。そこにあるのは、「もう30歳になるのに」という親や兄からの冷たい視線。その身をくるむ「実業家一家の次男坊」という名の毛布をはいでしまえば、代助はどこにも行き場のない落伍者だった。
これまでずっと気ままに生きてきた代助が、恋に堕ちたことで、初めてままならぬ想いを覚える。その葛藤、動揺、憔悴、狂乱を、平野良が入魂の演技で見せる。子どものように邪気のない笑顔を見せたと思えば、狂おしいような色気が全身から迸る。三千代を見つめる上目遣いは子犬のように愛らしく、ひとり部屋で恋情にふける姿は、繊細で、危うく、艶めかしい。季節ごとに色を変える花のように、多彩な表情を見せる平野良に注目したい。
終演後の挨拶では、平野良、帆風成海、今立進、寿里の4人が登壇。
心身共にハードな稽古だったようで、今立は期間中「見事、5キロ減量に成功することができまして」と発表。「『それから』ダイエットを世の中に広めていけたらと思います」と笑いを誘った。
長井梅子:今立 進(エレキコミック)
帆風は、稽古当初は膨大な台詞量に追われコミュニケーションをとる余裕もなかったらしく、座組みに対して「私の方から壁をつくっていた」と告白。それが稽古が進むにつれ、すっかり親睦を深めた様子で、今立に対しては「器の大きいお父さん」、そして平野に対しては「意地悪なお兄さん」とにこやかにコメント。家族同然の座組みの雰囲気が、笑いたっぷりのやりとりからにじみ出ていた。
平岡三千代:帆風成海
寿里は、平野、帆風、今立の3人の仲の良さに驚いたと言い、「この空気感が芝居に出る。表から見たいなと今いちばん思っています」と客席での観劇を熱望した。
平野は「濃密というか濃厚な時間が流れる演劇だと思っています」と本作の魅力をアピール。その上で「普段役者としては見逃してしまいがちな細かいところも見逃さずにひとつひとつ拾いながらお芝居を積み上げなければいけない」と3人芝居ならではの難しさを語った。
また、各回のゲストについても「本当にみんな違ってみんないいというか…。この人はそもそも舞台に上がっていい人なのかなという人も中にはいましたけど」と苦笑いしつつ、「それが爆発的な効果になっていまして。出番はそんなに多くないんですけれど、その中でもこの作品がすごい跳ねるというか、ゲストが出てくるだけで活力が出る」と各ゲスト俳優陣の底力に舌を巻いた。
長井代助:平野 良
舞台『それから』は5月14日(日)まで。ゲストには、藤原祐規、宮下雄也、米原幸佑らが名を連ねている。普段は手を出さない、ちょっと大人のパフュームをうなじに忍ばせる感覚で、100年前の人々を虜にした純文学の世界に酔いたい。
(左から)寿里、平野良、帆風成海、今立進
(C)文劇喫茶ライブラリー
<日時>2017年5月3日(水・祝)~14日(日)
<会場>東京都 俳優座劇場
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<原作>夏目漱石
<脚本>田中洋子
<演出>山田佳奈(□字ック)
<出演者>長井代助:平野 良、平岡三千代:帆風成海、平岡常次郎:今立 進(エレキコミック)
<日替わりゲスト>3日(水・祝) 19:00 寿里、4日(木・祝) 14:00/19:00 水石亜飛夢、
5日(金・祝) 19:00 /6日(土) 14:00/18:00 藤原祐規、7日(日) 14:00/18:00 碕理人、
9日(火) 19:00 松本寛也、10日(水) 14:00/19:00 加藤良輔、11日(木) 19:00/12日(金) 19:00 佐藤貴史、
13日(土) 14:00/18:00 宮下雄也、14日(日)15:00 米原幸佑
◆公式サイト
http://www.clie.asia/sorekara/