つばきのフロントマン・一色德保が語る、バンド、ソロ、音楽
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一色德保
3ピースロックバンド・つばきのフロントマンとして活躍する、一色德保。10月7日(水)に発売されるソロアルバム『それでも、僕の足跡は続く』は「あえてつばきではやらないような曲をやった」と話すとおり、ギターポップありロックあり、エレクトロ風味もあり、と瑞々しく新鮮で、彼の音楽的な懐の深さを感じる仕上がりである。そして何よりポジティブなエネルギーや遊び心がアルバム全体に満ちている。大きな病気という困難を乗り越えた一色は、どのような想いでこれらの楽曲と向き合い作り上げ、そして今何を思うのか。バンドとしても個人としても多忙を極める、2015年の前半戦を振り返ると同時に、今後への展望までガッツリ訊いた。
——6月の『つばき15th Anniversary 正夢になったフェス』、めっちゃ楽しかったです。なんなんでしょう? つばきフレンズ(一色德保の手術・治療・療養中も、つばきの音楽を鳴らし続けようと集結した音楽仲間)のあの溢れんばかりの過度な愛情は。
「あはははは(笑)。正直、俺のことはあんまり考えてないと思いますよ。要は、神輿の上に乗っけて遊んでるだけなんですよ。だから俺も「しょうがない、乗っかっとこうかな」っていう(笑)。だってみんな異常だったもん、本っ当に」
——確かに、みなさん異常に楽しそうでした。
「でしょ? そしてまぁ……みんな優しいですよね(ニッコリ)」
——しかし15周年ってどうですか?
「んー、気がついたら、という感じですね。言い換えれば、辞め時を完全に見失っている(笑)。なので感慨的なものはなんにもないですね……って言ったらあれだけど、そんなに変わらないかな。もちろん嬉しいこともいっぱいあるし、辛いこともいっぱいある。そんな生活の中で淡々とやりたいことをやってるというか、どうにかこうにか楽しくやれているというか」
——ご自身の病気、バンドの活動休止を余儀なくされた期間を経ても、淡々とやれていると言えるのは幸せなことですよね。
「そうですね。あとはその、自分が必要以上に落ち込んだり、落ち込みすぎて失敗したりするのがイヤなのかもしれないです」
——そう心掛けていても、どうしてもはみ出してしまう瞬間ってあるでしょ?
「確かに。わざとはみ出したくなる時もありますしね。曲を作ったり、感情の揺さぶりが必要な時には特にそういう気持ちになりますけども。そこ以外で現実と向き合う時は、できるだけ振り幅は失くすようにしてて。いろんなことを経験していく中で、そういうふうに人格形成がされてきたんじゃないかなぁ。うまくいかなかったり、うまくいったり、やっばりうまくいかなかったり。……うん、そうだと思います」
——そのうまくいったり、うまくいかなかったりは、そのままつばきの音楽になってますもんね。
「そうですそうです。もう何曲も書いてるから、しかもこういう歌詞の書き方だから、どんどん書くことがなくなってきてて。でも同じだろうが、その時に感じてることを書けばいいと思うし。だからうまくいった時はうまくいった歌詞になるし、うまくいかない時はうまくいかなかった歌詞になるし。新しいチャレンジは常に取り入れてるつもりだけど、書いてる内容を含め、本質はできあがってるなぁと思いますね」
——すごくいいのは、どの曲にも必ず希望が忍ばせてあること。だからこそ、至極ポップな曲でも、とことん暗い曲でも、同じ熱量が込められているなと感じるし。
「うん。それは一個、ちゃんと持ってやっていきたいなぁと思ってる部分ですね」
——15周年を迎えるにあたって、メンバーで何か話し合ったりしたのでしょうか?
「6月のフェス、9月11日のリクエストライブ、11月はワンマンツアーをしようみたいな話はありましたね」
——リクエストライブのために作られた特設サイト。あれだけの数のタイトルが並ぶと壮観だし、なんだか15年の重みを感じてしまいました。
「作り過ぎですよねぇ(笑)。そうそう、あと「定番曲はみんなが入れるだろうからあえて選ばなかったんです」って人がけっこう多くて、そのせいで定番曲が本当に入ってないから、超マニアックなライブになりそうだという」
——フフフ。その話、ちょっとつばきファンっぽくていいですね。
「確かに。周りのことをいろいろ気にしちゃってね、結局、みなさん、聴きたい曲が聴けないんじゃないかな。「参ったなぁ、こんなに普段やってない曲ばっかり?!」と思ってますね。だから歌詞もなかなか覚えられないっていう(苦笑)。1位は特に……人気のある曲ではありますけど意外! 楽しみだし、かなり面白いと思いますよ」
——さらに間髪入れず、ソロのライブとアルバムリリースがあり、その先にはバンドのワンマンツアーも控えてますね。
「地獄ですね(苦笑)。7月からとにかく忙しくて。ソロのレコーディングをしてたんですよ。平行して、ワンマンツアー用に会場限定CDの曲も作ってて。おかげでギュギュッと熱のあるものができてますけど、夏の疲れも加わって、身体がけっこうヤバいです」
——ちなみに「一色德保ソロ」という動きも、15周年の流れに含まれているの?
「いや、どちらかと言うと去年出したアルバムが大きいですね。活動休止してた分、長い時間を掛けて作った感じになったじゃないですか。しかも復帰後のつばきとしてのカタチが一個できたと思ってて、あれがあるのに15周年のフルアルバムを改めて出すのはちょっと違うなと。何かを一回挟んで、新しいつばきが見せられるタイミングで制作したいっていうのがあったんで、それならソロを出してみたいなっていう。メンバーもいろんな他のバンドをやったりしてるし」
——はい。かなり激しく活動されてます。
「激しく新しいバンドをやることで、たくさん吸収してくるから、俺も新しいことをやって吸収した方がいいなって。ソロ自体はずっとやってみたかったので、今年、挑みました」
——結果、リクエストライブとワンマンツアーの間の慌ただしいタイミングに、ソロのライブとリリースがあるというね。
「タイミングに関しては後悔してます(苦笑)。ただ、音源はすっごくいいのができたんですよ」
※SoundCloudにてその他音源も一部公開中→こちらから
——チャレンジ精神と遊び心と真摯な想いが詰まった、本当に面白いアルバムですね。
「そうそうそう。かなりいいメンバーが揃ったし、できるだけバンドとは違う部分を引き出そうと思って、アレンジャー的な存在を入れたりもしてて。迷ったときは、つばきとは違う方をどんどん選んでいったので、すごいキャッチーだし、ものすごい違和感がありますよね?」
——いや、そこは違和感の妙だと思ってます。
「ね。ソロのライブもやるんで、是非!」
——ソロの話も含めて、再始動してからのつばきは、音楽性も、活動姿勢も、行動範囲も、俄然自由度が広がっている気がするんです。
「そうですね。休止前は全部自分たちでやってたから、やっぱどっかでライブのことを考えながら動いてたし。必然的に音源も幅広くというよりは、自分の歌をメインで考えて、ギター1本でも成立するイメージだったけど、復帰してからのワンマンライブは5人でやってまして。そうそう、それも音楽性が広がった理由のひとつですよね」
——3人で完結してたバンドに他の人のギターが入る。もちろん一色さんのフレージングやクセも考慮されているけれど、同じにはならない。そこはもう楽しめていますか?
「もちろん楽しめてるんだけど、まぁ悪く言っちゃうと、楽しむしかないっていう(笑)。俺は今、ギターが弾けないし、しょうがないから。でも意外と難しいんですよ、こう弾いてほしいっていう自分のニュアンスを伝えるのは」
——音楽って、言葉にできない部分が気持ち良かったりするし。
「そう。だったら逆に、全然違う風にやってもらった方がグッと来たりして」
——それが今の自然なつばきのカタチだということですよね。
「そうです。やっぱりサポートの人が「良い」と思ってるもの、その人らしいものを弾いたほうが絶対カッコいいし、そこに乗っかっていった方が断然楽しくなりますからね」
——11月に行われるワンマンツアーについて、何か見えているものはありますか?
「去年のツアーは対バンがメインで、ワンマンは東名阪くらいだったけど、今回は全部ワンマンで廻ることにして。15周年のツアーだから代表曲をいっぱいやろう、みんなで楽しもうって思ってます」
——そういう意味では、リクエストライブでみんながマニアックな投票をしてくれたおかげで、明確に差別化されましたね。
「確かに。で、またリクエストでやった曲もできるしね、改めて覚え直したから(笑)。リクエスト1位、2位の曲は普段あまりやってない曲だから、ツアーでも披露してもいいなぁと思ってます。あとは4曲入りの会場限定CDを用意してて、これからレコーディングなんだけど、それもね、楽しみにしててください」
——いいですよね。ただ15周年をお祝いする場なだけじゃなく、最新型のつばきも用意されているっていうのが。
「その感触を持って、来年、アルバムが作れたらいいなぁと思ってるんです。ただそのためには、そろそろ曲作りを始めないと間に合わない気が……」
——一色さん、自ら身を削りまくりますねぇ。
「あはははは。そこから生まれるもの、自分から絞り出るものに対してすごく興味があって。こう、空っぽになったところからが勝負なんだと思うんですよ。そういう意味でもソロアルバムを出してよかったなぁと」
——一度スッカラカンになれたから?
「そうそう。ソロアルバムには退院して復帰するまでの間、ヨボヨボしながら書いた曲がけっこう入ってて、だからそれをつばきでやるのは「ちょっと違うよな」って思った部分もあって。なので、それを作った上で会場限定CDの曲を絞り出し、本当にゼロになった現状からのアルバムはいいものになりそうな予感がしてる、その自信がすごくあるんです」
——一昨年は一色さんの復活、つばき再始動、昨年は久々のニューアルバムとそのツアー。そして今年は15周年アニバーサリーイヤー。そこを経て全部がフラットになる2016年、今日お話を聞いたことで俄然楽しみになりました。
「ありがとうございます。バンドの中でも、来年は何しようか?っていう話を最近し始めてて。一個は、10周年からずっとやってる『正夢になった夜』という自分たちのイベントをまた動かしたいねって。一緒にやったことない同世代のバンドが意外といっぱいいるんですよ。そういう人たちと合わさったら面白いよねっていう。もちろん、フルアルバムも出したいし、引き続き、精力的に動いていきたいと思ってますね。けどその前に、リクエストライブと、自分のソロと、ワンマンツアーと……頑張ります!」
インタビュー=山本祥子 撮影=風間大洋