向井秀徳、LEO今井らとともに野音のステージに刻んだ“MATSURI魂”
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向井秀徳アコースティック&エレクトリック 撮影=菊池茂夫
THE MATSURI SESSION 2017.5.6 日比谷野外大音楽堂
“段々(ステージ上の)人が減っていき、最終的に私ひとりだけになるというね。ちょっと寂しいんだけど、私ひとりになって終わるというせつなさも演出したりしてね”
今年3月、5月6日に開催する『THE MATSURI SESSION』について話を聞いたとき、向井秀徳はそう言ったのだ。そして、こう付け加えた。
“お客さんも段々減っていってしまうのは避けたいんですけどね(笑)。そうなるとだいぶ物悲しいものがあるんで”
もちろん、ジョークだったのだとは思うが、もし本気で、せつなさを演出しようと考えていたのだとしたら、向井の目論見はハズれてしまったと言わざるを得ない。せつなさなんてとんでもない! 結局、この日一番会場を盛り上げ、そして熱狂させたのは、予告通り最後にひとりでステージに出てきたディスイズ向井秀徳その人だった。
結末をいきなりバラしてしまうことになるけれど、向井が主宰するMATSURI STUDIOに群がる連中が、向井曰く地下から地上に現れ、一堂に会したイベント『THE MATSURI SESSION』は物悲しさとは無縁の大団円を迎え、イベントに参加した誰もが高揚した気持ちを持て余したまま帰路に着いたに違いない――。
吉田一郎不可触世界 撮影=菊池茂夫
オープニング・アクトはZAZEN BOYSのベーシスト、吉田一郎のソロ・プロジェクト、吉田一郎不可触世界。早速、シーケンスのトラックも流しながら、ベースの弾き語りで「ピザトースト」と「法螺」の2曲を披露。シュールな言葉を、つんのめるようなリズムや意外にメロウなメロディに乗せるパフォーマンスそのものは無骨以外の何物でもないが、その2曲が収録されている吉田一郎不可触世界名義の唯一のアルバム『あぱんだ』を聴いてみたいと思わせる不思議な味わいも感じられた。
吉田一郎不可触世界 撮影=菊池茂夫
ZAZEN BOYS 撮影=菊池茂夫
そして、「MATSURI STUDIOからやってきました。ZAZEN BOYSです」という向井(ヴォーカル、ギター)の挨拶を合図にドラムを中心に向かい合った4人が「1-2-1-2-3-4!!!!」と全員でカウントを取るというあまりにもかっこよすぎるオープニングから、ZAZEN BOYSの演奏はいきなりヒートアップ。その立ち上がりの速さが、ライブバンドとしてのZAZEN BOYSのポテンシャルの高さを物語る。「Fender Telecaster」「Fureai」「Usodarake」と高熱を放ちながら4人の演奏が絡み合うポスト・パンクなR&B~ファンク・ロック・ナンバーをたたみかけると、超満員の客席が揺れる、揺れる。「Cold Beat」の変拍子にも食らいつき、揺れる、揺れる、揺れる。再びメンバー全員で「1-2-3-4!!!!”」とカウントを取った「破裂音の朝」ではテンポをグッと落として、じっくりと歌も聴かせた。そして、オープニングから一気呵成に駆け抜けてきた4人はZAZEN BOYS流ブルース・ロックの「Sugar Man」で30分一本勝負と言えるステージを締めくくった。
ZAZEN BOYS 撮影=菊池茂夫
LEO今井 撮影=菊池茂夫
岡村夏彦(ギター)、シゲクニ(ベース)、白根賢一(ドラムス)という凄腕メンバーを従えたLEO今井(ボーカル、キーボード)は、ニュー・ウェイヴのクールさとライブならではのエネルギーが絶妙に入り混じるダイナミックなパフォーマンスで客席を沸かせた。1曲目の「Tabula Rasa」をはじめ、このメンバーで作ったアルバム『Made From Nothing』の収録曲を中心にしたセットリストに、かつて向井、吉田一郎とレコーディングしたスピーディーなロック・ナンバー「Metro」やKIMONOSでセルフカヴァーしたダンス・ロック・ナンバー「Tokyo Lights」を加えたところに彼がこのイベントをどんなふうに考えているかが窺えた。ハイライトは岡村が奏でたハード・ロッキンなリフとうねるようなバンド・サウンドが客席を圧倒した「Omen Man」。中でも、「いっせーのせ!」という掛け声とともにテンポダウンして、瞬時に白熱していった間奏のインプロヴィゼーションにLEO今井の「MATSURI魂」を感じた!
LEO今井 撮影=菊池茂夫
KIMONOS 撮影=菊池茂夫
段々、ステージの上の人数が減るというコンセプト(?)なのだから、向井とLEO今井のデュオ、KIMONOSの出番はここしかなかったわけだが、吉田一郎不可触世界による「暗渠」の演奏を挟んで、ふたりが演奏した広義のダンス・ミュージックが、緊張感に満ちたZAZEN BOYSとLEO今井バンドのパフォーマンスから一転、観客を踊らせ、気持ちをさらに解放させたことを考えると、どんぴしゃのタイミングだったと思う。 すっかり日も暮れ、観客の酒も進んできたのか、ずいぶんと「宴」感が出てきた。バラードの「Fruity Night」では、向井とLEO今井がマイク片手に掛け合い、向井がロビー・ロバートソンっぽいフレーズを弾いたアダルト・オリエンテッドな「Yureru」では、その向井が軽快なステップを踏みながらダンスしてみせた。それもまた、この日の見どころの一つだったかもしれない。
KIMONOS 撮影=菊池茂夫
開演から2時間。トリを飾ったのは言うまでもなく、向井秀徳アコースティック&エレクトリック。いきなりアコースティック・ギターをガツンと鳴らした「NEKO ODORI」で演奏はスタート。ステージの脇からモクモクと、ちょっと量が多すぎるんじゃないかってくらい漂ってきたスモークの中、ZAZEN BOYSの「6本の狂ったハガネの振動」につなげると、客席から“キャー!”と悲鳴に似た歓声が上がる。その後、アコースティック・ギターからエレクトリック・ギターに持ち替え、ループ・マシーンでフレーズを重ねた「SAKANA」を挟んで、ナンバーガールの「ZEGEN VS UNDERCOVER」「Trampoline Girl」をたたみかけた、その後の盛り上りはすでに書いた通りだ。
向井秀徳アコースティック&エレクトリック 撮影=菊池茂夫
シンガロングと“ウォー!”という歓声に加え、“向井ぃぃぃ!”という怒号が飛び交う中、向井が今日まで歩んできたキャリアの重さを改めて実感した。ここまで当たり前のように超満員と書いてきたが、掲げた手をみんなで前後左右に振ったり、“ジャンプ!ジャンプ!”と飛び跳ねたりしながら和気藹々とした空気になんて絶対ならないと言うか、演者も観客も真剣勝負を求めているようなイベントが、業界関係者とゲストに割り当てる座席がなくなってしまうほどいっぱいになるんだから、ナンバーガールとそれ以降の活動を通して、向井が日本のロック・シーンに与えてきた衝撃と影響の大きさについて今一度、考えずにはいられなかった。
アンコールより 撮影=菊池茂夫
眩い照明の下、観客のシンガロングとともにZAZEN BOYSの「はあとぶれいく」を演奏しきった向井がステージを降りても、誰も帰ろうとしなかった。それに応え、アンコールは向井がアコースティック・ギターを弾きながら、出演者全員でZAZEN BOYSの「KIMOCHI」を歌った。
“貴様に伝えたい 俺のこのキモチを”
肩を組んで歌う向井ら8人の声に観客が重ねたシンガロングは、8人がステージを降り、公演終了のアナウンスが流れてからも止むことはなかったのだ。
取材・文=山口智男 撮影=菊池茂夫
アンコールより 撮影=菊池茂夫
吉田一郎不可触世界
1 ピザトースト
2 法螺
1 Fender Telecaster
2 Fureai
3 Usodarake
4 Cold Beat
5 破裂音の朝
6 Suger Man
1 Tabula Rasa
2 Metro
3 Omen Man
4 Furaibo
5 Tokyo Lights
1 暗渠
1 No Modern Animal
2 Soundtrack To Muder
3 Miss
4 Fruity Night
5 Yureru
1 NEKO ODORI
2 6本の狂ったハガネの振動
3 SAKANA
4 ZEGEN VS UNDERCOVER
5 Trampoline Girl
6 天国
7 赤とんぼ
8 はあとぶれいく
[ENCORE]
9 KIMOCHI