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旅の感動を余すことなく伝えたい! “世界を旅する古本画家”から届く『スケッチ旅便』とは

2017.5.29
コラム
アート

Nagisa Nakauchi『スケッチ旅便』スペインのお祭り編

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多様化の時代と言われるこの頃だが、アートの世界においても手法そのものや、楽しみ方、見せ方など様々な面において多様化が進んでいる。そんな中、アーティスト発信の新しい試みが、ひとりの女性画家の熱い想いから始まろうとしている。

世界各地を旅して、旅先で手に入れた古本に旅の情景を描く古本アーティストとして知られている画家・中内渚。その国の風土を感じさせる古書というキャンパスに繊細なタッチで描かれる異国情緒溢れる風景、街の人々、草花は、美しく幸福感に満ちている。そんな旅の画家ともいえる中内が「旅を送ります」というコンセプトのもと、『スケッチ旅便』というプロジェクトをスタートさせた。

Nagisa Nakauchi《K-bina》パラグアイ

“世界を旅する古本画家”として活躍

画家・中内渚は幼少期の数年間をアルゼンチンで過ごし、その時に感じた異文化への強い興味、旅の喜びを創作の源として、世界を旅しながらその情景を描き続けてきた。その中で、旅先の蚤の市などで手に入れた古本に、そのページの構図や文字、色合いを生かして旅の情景を描くというオリジナルの表現方法も生み出した。

Nagisa Nakauchi《睡蓮》フランス

Nagisa Nakauchi《甘い生活》フランス

その後、中内は“旅する古本画家”として活躍の場を広げていく。留学中のパラグアイでの個展を皮切りに、国内はもちろんのことコスタリカ、NYなど世界各地で個展を開催。2007年にはスペイン・バルセロナのピラミドン現代アートセンターに招待アーティストとして招かれ、制作活動を行った。

Nagisa Nakauchi《お姫さまたち》スペイン

旅の喜びそのままに、サプライズ満載の『スケッチ旅便』

『スケッチ旅便』は、中内が絵画の枠にとらわれず、素直に旅のきらめきを表現したスケッチや旅行記を、一人一人に郵送で届ける新プロジェクトだ。年間購読料 7,500円(税込)で、1年に3回不定期で届けられる。それはまるでアーティスト本人から届く旅先からの嬉しい便りのように、サプライズ満載の内容になる予定だ。旅先によって旅のテーマやスケッチの雰囲気も変わり、形状も冊子、バラバラの紙の束、じゃばら、絵巻状と様々。絵自体も古書に描いたものもあれば、新しい文庫本や白い画用紙に描いたものもある(スケッチ旅便として送られてくるのは、それらを印刷したもの)。さらに絵だけでなく、時には写真や文字を中心に綴られることも。封筒も内容によって変わるという。

Nagisa Nakauchi『スケッチ旅便』左は冊子、右は紙の束形式のもの

それもすべて、彼女が旅先で出会った美しい一瞬や喜びを鮮度そのままに凝縮して届けたいがため。実際にスペインの地で食事を楽しんでいるかのように、バリ島の色鮮やかな花々に初めて触れたかのように、彼女が体感した感動がとっておきのかたちで再現される。届いてみないと分からないワクワク感は、行ってみないと分からない旅のワクワク感に似ていて、すべてが「旅」というキーワードに向かっているようだ。

Nagisa Nakauchi『スケッチ旅便』食のスペイン編

柔らかな色彩でぬくもりを感じさせる中内の絵や写真だけでなく、生き生きとした現地の人々との交流や、旅先で起こった笑える話、驚きとともに食した食事などを綴った彼女の素直な文章も、スケッチ旅便の魅力のひとつだ。他にも旅する人の役に立ちそうな現地の情報や、旅先で手に入れた資料を翻訳して得た、その土地の歴史などの情報も盛り込まれる。例えばパラグアイのミスィオネス遺跡の回では、17世紀の当時の村人たちの1日の詳細な予定表などが紹介されている。

Nagisa Nakauchi『スケッチ旅便』パラグアイ・ミスィオネス遺跡編

Nagisa Nakauchi『スケッチ旅便』冬のNY編

驚いたことに、そんな充実した制作物の数々を、企画、レイアウトから材料の調達、印刷までアーティスト、中内本人がすべて行っているのだ。「自分が純粋に100%手をかけられるので、一番見せたい形で絵を載せられるし、自分の伝えたいことを全部入れ込むことができるから」と、どこも経由せずに自分だけの力で彼女はプロジェクトを始動させた。さらに幼い子供の母でもある中内は、育児という大きな仕事も抱えている。寝る間も惜しんでプロジェクトに取り組む中内は笑顔で言う。「全然苦にならない。睡眠時間が削られていっても嬉々として作っています。本当にやりたいことに辿り着いた喜びが大きくて」。彼女のこのエネルギーはどこから来ているのか、ここに至るまでにはどんな思いがあったのだろう。

旅らしい旅をしたい、原点に戻りたい

中内が今回の新プロジェクトについて考え始めたのは、1年ほど前だ。画家として商業主義の中に身を置くうちに、妙にきっちりと完結する絵ばかり描くようになり、どこか窮屈さを感じるようになっていた。

「ある時ふと、昔のように旅らしい旅をしたいと思ったんです。額に入れる絵を描くということを突き詰めすぎて、絵を描くためにピンポイントで切り取るような旅をするようになっていました。切り取るのではなく1から100まで全部にワクワクするような純粋な旅に戻りたい、原点に戻りたいと考えるようになりました。元々私が絵を描き始めたのも、旅の楽しさ、高揚感、光り輝く瞬間を余すことなく紙の上に詰め込んで残したかったからなのに、今はやりたいことの一部分しかできていないと思ったんです」と中内は悶々と悩んでいた日々を振り返る。

旅先での中内渚

「人生で本当に自分がやりたいことはなんだろう?と掘り下げて考えていくうちに、色んな枠や規制を取っ払って、自由な表現スタイルで旅の感動がすべて詰まった作品を、直接届けようと思ったんです」

作業を進めていくと、海外に旅する度に、誰に見せるでもなく幼い頃から作り続けていた旅の記録を思い出した。それは7歳の頃に描いたアルゼンチンの絵日記に始まり、パラグアイの留学中にすべての週末を費やして一生懸命作っていた旅行記まで、ただひたすら作りたいという理由だけで作ってきたものだった。

Nagisa Nakauchi アルゼンチンに住んでいた7歳の頃、学校のノートに描いた絵日記

「そこが原点で、無意識のうちにそこだけを目指していたんだなって。個展が自分のゴールじゃなかった。スケッチ旅便は、たとえお客さんがいなくても作ろうと思うくらい、やりたいことど真ん中のもの。これだけやって生きていけたらそれでいい、と思える形に辿り着けたのが嬉しくてしょうがないですね」そう語る中内の顔は晴れ晴れとしていて、やる気で満ちている。

自由を楽しみながら進む、旅する画家としての道

「アイデアが止まらなくて、作業が追いつかない」と言う中内の頭の中は、スケッチ旅便で形にしたいこと、行きたい旅のことでいっぱいだ。イタリア・シチリア島の広場に座っているおじいちゃん達におすすめのパスタの具材を聞きに行きたい、チリのアタカマ砂漠で世界一綺麗な星空を黒い紙にスケッチしたい、きらきら光る海やギリシャの島巡りを描きたいなど、彼女の自由に旅を表現するアイデアは尽きることがなさそうだ。

Nagisa Nakauchi『スケッチ旅便』アンデス山脈をいく列車の旅

スケッチ旅便を始めたことは画廊用の作品制作にもいい影響を与えている。旅のスケッチを進めていると、1枚で完結する画廊用の絵も描きたくなって、新鮮な気持ちで楽しんで描けるようになったそうだ。新作ではないが、秋にはスペイン政府設立のセルバンテス文化センター東京にてスペインの旅をテーマとした展覧会が控えている。(9月5日から9月15日まで開催予定)。

Nagisa Nakauchi《modernismo食》スペイン

もはや彼女に「画家」という肩書は必要ないのかもしれない。スケッチ旅便はより自由になったアーティスト・中内渚の重要な第一歩といえる。絵は壁に飾って眺める高尚なもの、画家は画廊なしでは食べていけない、そんな従来の考え方とは違うベクトルで彼女の新プロジェクトは動いている。アーティスト側ももっと自由になっていいのだと。

その開放された情熱をもって制作されるスケッチ旅便は、彼女の旅に対する熱量が直接伝わってくるような感動で溢れている。進化を遂げる近年のアートの世界では、テクノロジーを駆使したデジタルアート、360°カメラを用いたWEBでの美術館観賞、SNSを利用したアート作品など新たなアートの楽しみ方が増えてきた。そんな時代でも、画家自身が体感し、胸震わせた瞬間を情熱を持って直接描き上げた作品の魅力は、時代を問わず格別の魅力を放っている。サプライズで届くところから始まるスケッチ旅便のワクワクとした感動を是非とも味わって欲しい。彼女の感性を通して、異国世界の素晴らしさ、美しさを堪能できるはずだ。

詳細情報
中内渚『スケッチ旅便』

配送スケジュール:年3回郵便にてサプライズの不定期でお届け
年間購読料:7,500円(税込)
※購読決定前にパンフレット資料をお送りすることも可能。詳細は中内渚ホームページの「スケッチ旅便」ページ( http://www.nagisa.asia/旅スケッチ便-2/ )を参照。
入会方法:
中内渚ホームページの「スケッチ旅便」ページ(http://www.nagisa.asia/旅スケッチ便-2/)の入会フォームから、またはパンフレット資料内のはがきに必要事項をご記入の上郵送下さい。
中内渚ホームページ:http://www.nagisa.asia/