鈴井貴之「芝居だからこそ表現できる事。タブー視せず、着目してほしい」Takayuki Suzui Project OOPARTS 第4弾『天国への階段』
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鈴井貴之
今や年間3万人以上、その数は交通事故死や自殺者をも超える死因=「孤独死」。そんな孤独死の現場を清掃し遺品を探すことを生業とする「特殊清掃員」にスポットを当てた舞台、Takayuki Suzui Project OOPARTSの第4弾『天国への階段』が、7月19日(水)から東京・サンシャイン劇場を皮切りに大阪、北海道、宮城、長野で上演される。
ドキュメンタリー番組の取材として過酷な現場で働く彼らを追う…という名目だったが、実はこのような仕事に赴くには、彼らの過去には何かがあったに違いない、と担当ディレクターは思っていた。悪戦苦闘しながら働く人々に向けられたカメラ。そこに記録されていくものから徐々に、特殊清掃員となる前の彼らの過去が映し出されていく――
本作の作・演出・出演を務める鈴井貴之氏に話を聞いた。
――このようなヘビーな題材をあえて設定したのは何故でしょう?
芝居ならできると思ったからです。これを映像でやるとしたら二の足を踏む人が多く、実現できないと思うんです。でも舞台ならそれが実現できる。交通事故や自殺で亡くなる方より、孤独死の数がはるかに超えているということは一般的ではなく、世間に知られていない数だと思うんです。今僕が思うのは、TVや映画が手を出さない世界-それは空想ではなく現実に起きていることなんですが、僕自身、死について考えることも多くなってきて、このテーマにたどり着きました。
今回のテーマがヘビーだとおっしゃる方も多いんですが、こういう話題がヘビーだ、ネガティブだと思われていること自体も問題なのかもしれないな、と思うんです。ネガティブだからあまり語らないようにしよう、というもの少し違う気がして。今後、この孤独死の数はどんどん増えていくはずです。一人暮らしの老人は非常に多く、行政側もいろいろと思案している。無縁仏の数は増える一方で、それをどこに埋葬すればいい?かということも問題のひとつになっているようです。
「世間への問題提起」というよりは「タブー視せず着目してほしい」という思いですね。例えば美しい風景に対して「きれいだね」「今日は良い天気だね」と思う。でもその地下には、下水道があって汚物が流れている。その世界の上に、我々の生活があるんですね。それが現実なわけですから。とはいえ、こういったテーマの作品をどれだけエンターテインメントとして舞台上でみなさんに見せることができるのか、ということもしっかり考えています。ただ暗い、どんよりとした作品では決してなく「生きる」「生きなきゃならない」と思える作品に仕上げるつもりです。”明日は我が身”と感じる方もいるかもしれません。でもそれでどれだけ前向きに生きていけるか?この芝居を観終わった後にそう感じてもらいたいです。エンディングはあくまでポジティブにしたいですね。
――今回の登場人物の中で特に思い入れのあるキャラクターはいますか?
「思い入れ」というと少し違うんですが、僕の実体験を反映したキャラクターはいます。身近な人が救急指定病院に担ぎ込まれて亡くなったことがあるんです。救急指定病院って、命があるときはそれこそ懸命に人を救おうとするんです。それがいざ死んだとなると、そこからはどこか、モノ扱いというか……。霊安室も数に限りがあるので、早く霊安室から出ていってほしい、そういう空気を感じてしまって。深夜に亡くなったので、「朝方に葬儀屋さんを呼びます」と伝えると、「葬儀屋さんは24時間体制だから、すぐ連絡してください」って警備員に言われたり…。それまでは何時間も助けようとしてくださっているのに、死んだとなった瞬間から言い方は悪いかもしれないですが「処分/処理してください」となる。そして葬儀して火葬場で焼いて…丁重に扱っているようでも、札幌の火葬場もシステム化されていて、段取りと流れ作業で進んでいる。命の有る、無しってこういうことなのかな……そういうことを感じて「特殊清掃員」という会社を立ち上げたという設定が脚本の中に出てきます。
――今回出演されるキャストの皆さんを最終的に選んだ決め手は何でしたか?また役作りについてはどのようにお考えですか?今回かなり特殊なキャラクターかと思いますが……。
今回はある意味、「目立つ」役者はいないかもしれません。ただ、「知る人ぞ知る」な人たちだからこそ、色がついてない人たちがどう色付けされて見えてくるか?それが実現できる人たちです。キャストから「この人はこういう役だろうな、物語はこうだろうな」と空想、想像されるんじゃなく、予測がつかない色付けをお見せできるんじゃないかと。
役作りに関しては、「特殊清掃員」って身近な存在ではないので難しそうに感じるかもしれませんが、逆に知らない世界の知らない物事のほうが空想で作れる分、逆に簡単なんじゃないかな?と思うんですよ。例えば「殺人者」「犯人」の役って、人を殺したことなんてない人がその心情は絶対わからないんですよね。だから、誰かから聞いたことや知識として得たことに頼るしかない。そして、様々な作品を通してそういう役柄をみているから演じることができる。「特殊清掃員」もそれと同じアプローチになるでしょうね。
――公開されているあらすじの中で、「故人が遺した遺品に特殊清掃員たちは何かしらの記憶を感じることになる」とあるのですが、こちらについては?
故人と特殊清掃員たちは、それぞれに生前に関係があって、それを間接的に思い出すんですね。だからといって、「あら、このアパートで亡くなったAさんってあのとき出会った人だ」とか、直接思い出す訳ではなく、観客のみなさんがそれに気付くことになる。当事者たちは気が付かずにその場を立ち去るんですが、それを観ている観客の皆さんは、特殊清掃員と故人、そして特殊清掃員同士のつながりにも気が付くことになるでしょう。清掃員たちのいろいろな関係が、ある時から露呈していく……それは観客だけがわかる事なんです。
結局人間はどこかで必ずつながっている、決して人はひとりぼっちじゃない。ただ孤独死を迎えたとき、晩年は一人だったかもしれないけれど、そこに至るまでの生涯では、誰かに影響を与えたり影響を受けたり、自分が影響を与えた人が成長したりしている。現実的には無縁仏として埋葬されるかもしれないけど、その人の「生涯」に着眼すれば決して無駄な人生ではなかった、無駄な人間は一人もいないんだ……そういう想いをくみ取ってほしいなと思います。
取材・文・撮影=こむらさき
2017年7月19日(水)~25日(火)
サンシャイン劇場
【大阪】
2017年8月4日(金)~6日(日)
梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
2017年8月11日(金)~13日(日)
道新ホール
2017年8月16日(水)
仙台電力ホール
2017年8月19日(土)・20日(日)
まつもと市民芸術館