「うつ」は‟心のガン”、あなたも「うつ」? 田中圭一『うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち』
-
ポスト -
シェア - 送る
Reader Storeのお気楽社員、ミケランジェロ古谷です。暖かい日が続いたかと思えば、急に冷え込んだり……。気候変動の激しい5月は、「五月病」に代表されるように‟憂うつ”という言葉がぴったりハマる季節。年中無休で常に落ち込んでいるのがデフォルトの僕でさえ、いつもよりほんのちょっぴりメランコリーな気分になります。
さて、今回ご紹介するのは、田中圭一/著『うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち』。もし自分では「うつとは無関係」と思っていても、敬遠せずに本書を読んでみてください。「うつ」は、“心のガン”。放っておくと取り返しがつかなくなる、体が全力で発する“非常ベル”です。18人の“うつヌケ”エピソードで話題の本書には、さまざまな体験談が掲載されています。
田中圭一
KADOKAWA / 角川書店
https://ebookstore.sony.jp/item/LT000070867000627957/
作者自身を悩ませた「うつ」を、
あえてポップに描く
作者の田中圭一さん自身も、10年に渡って患ったという「うつ」。完治までの長いトンネルをどのように抜けることができたのか、本書では自身の体験談や取材した17人のエピソードをベースに「うつ」との闘いをマンガ作品として描いています。
本書を見て、まず‟暖色の淡いピンクの表紙”に目が行った方も多いのではないでしょうか?「うつ」を色で例えると、黒や灰色のような無彩色、または青のような寒色を思い浮かべるのが一般的かもしれません。でも、本書の中で一色伸幸さん(『私をスキーに連れてって』脚本家)は、「うつ」について「ある日 景色から 色が 消えました」と表現しています。この表紙カラーのチョイスは、「うつ」という病で失った“心の色”を取り戻すまでの物語の象徴なのかもしれません。さらに、田中さんの描く手塚パロディのかわいらしい絵柄が、「うつ」とは正反対のポップな雰囲気を演出しています(キャラクターが抱きしめている白い物体が「うつ」です)。昨年12月の発売以来、15万部の大ヒットを記録した本書。表紙のインパクトが“きっかけ”になったとボクは思うのです。
実はこの“きっかけ”という言葉、本書の中で何度も繰り返し触れられるキーワードになっています。「うつ」から抜けたと思えば、再び闇の中へ……。終わりなく「うつ」がループするなか、ふと立ち寄ったコンビニで田中さんは『自分の「うつ」を治した精神科医の方法』(宮島賢也著)という本を手にしました。この何気ない出会いが、10年続いた病を克服するきっかけとなったそうです。「つらく苦しいうつトンネルから脱出できた者として、今なお苦しむ人を救わずにはいられない」と読者に語りかける田中さん。「うつ」を“消し去ろう”と無理を重ねるよりも、そばに寄り添うペットのように“上手く付き合う”べきだということに気付いて欲しい……と。
成功の裏で、
実は「うつ」に苦しんでいた大槻ケンヂ
取材した17人の「うつヌケ」体験者は、歌手の大槻ケンヂさん、『ヨハネスブルグの天使たち』で知られるSF作家の宮内悠介さん、フランス哲学研究の内田樹さんなどの著名人から一般人まで多岐にわたります。病に陥るきっかけも、過度な労働やストレス、幼少期のトラウマ、自然災害や大事件への恐怖など、人それぞれ。快復した体験者自身が客観的に分析して語る“うつヌケエピソード”が、本書の大きな見どころです。
なかでも、特に印象に残ったエピソードが、大槻ケンヂさんの回。大槻さんが「うつ」になったきっかけは、僕にとってとてもユニークなものでした。大槻さんは1980年代のバンドブームのさなか、「オレもバンドをやれば上手く行くのでは?」と考え、楽器も弾けないのに筋肉少女帯を結成し、あっという間に有名になりました。デビューわずか数年で武道館ライブまで成功させ、まさに絵に描いたような順風満帆なキャリアのスタートです。しかし、当時の大槻さんは「自分の人気が理解できない!」という不安に駆られ、どん底に向かって突き進んでしまいます。大きな成功を上回るネガティブな思考……、これも人気者の宿命なのでしょうか? 大槻さんは打開策として、「極真空手を習い始める」などのユニークな手法を思いつきます。彼ならではの突飛なチャレンジの連続に思わず笑ってしまうのですが、当時の本人にしてみれば‟ガチ中のガチ”。この辺も「うつ」の怖さなのかもしれませんね。
朝起きて、
まず‟自分を誉める”習慣を身につける!
数々の印象的なセリフが散りばめられている本書。私、ミケランジェロ古谷の心に突き刺さった‟ミケぬけ”ワードをいくつかご紹介させていただきます。
まずは、
『うつは「なる」ものではなく誰の心の中にも「眠っている」ものだ』
です。
きっかけさえ重なれば、誰もが突然「うつ」のトンネルに入り込んでしまう危険性を秘めています。「うつ」が常に心の中に潜んでいることを、正しく自覚することが大切だと思いました。
もう一つは、「うつ」を克服する方法として、
自分を好きになればいい
という自己愛の肯定です。
田中さんの場合、『アファーメーション(肯定的自己暗示)』という手法を実践したと言います。これは、朝起きたばかりの意識が完全に覚醒する前の時間に‟自分を誉める言葉を唱える”というもの。ボクなら躊躇してしまいそうな気恥ずかしい方法ですが、田中さんにはとても効果があったそう。宮内悠介さんの場合、彼は“いかに健康的なナルシシズムを取り戻すか”をうつヌケのテーマにしていました。
最後に、カミングアウト……。
実はボク、ミケランジェロ古谷は、ワールドクラスのネガティブ思考の持ち主であります(キッパリ)。嘘みたいに仕事ができなければ、ありえないくらい空気が読めない、まるでマンガの『ダメおやじ』。おまけに、声がこもって聞き取りにくく、否定されると勝手にスネちゃうっていう、どうしようもないポンコツ人間です。いつも周りに迷惑ばかりかけているので、この場をお借りしてゴメンナサイ、ゴメンナサイ……。いい年したオッサンのボクも、アファーメーションを実践しなければ。あぁー、嫁や娘に聞かれたら、こっぱずかしい!
でも皆さん、ある意味、ボクは正しいんですよ? 本書によると、ネガティブ思考は決して悪いものではないそうです。医師で作家のゆうきゆうさんも、ネガティブ思考は“太古の昔から危機をいち早く感じ取り回避することで繁栄を勝ち取った人間の才能”と肯定していました。うーん、いい発想の転換ですね、なんだかボクも自信がついてきました。これからは音楽プロデューサーのフィル・スペクターの如く、“ウォール・オブ・自己愛”に身を包み、「三月病」「四月病」から続く「五月病」を克服して仕事に励みたいと思います。
え? あっ、ハイ。調子に乗ってスミマセン。がんばります、ボクなりに……。
©田中圭一 / KADOKAWA