ぼくのりりっくのぼうよみ 二部構成のライブで示したボーカリストとしての存在感と可能性

2017.5.30
レポート
音楽

ぼくのりりっくのぼうよみ 2017.5.21 新木場STUDIO COAST 撮影=平田 浩基

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ぼくのりりっくのぼうよみ TOUR 2017
2017.5.21  新木場STUDIO COAST​

今年1月にリリースした2ndアルバム『Noah's Ark』を携え、初の全国ツアーを開催したぼくのりりっくのぼうよみ。そのファイナルである東京・赤坂BLITZのが早い段階から完売したことを受けて、新木場STUDIO COASTにて追加公演が開催された。ぼくりりにとっての新木場STUDIO COASTといえば、10代のアーティストによるオーディション型フェス『閃光ライオット』のファイナリストとしてライブを披露した場所でもある。わずか3年の期間を経て、彼の音楽を求める人のみによってそのフロアは満たされることとなった。

ぼくのりりっくのぼうよみ 2017.5.21 新木場STUDIO COAST 撮影=平田 浩基

定刻を少し過ぎた頃、場内が暗転。キーボードのしっとりとしたフレーズをバックに、ぼくりりが登場。スタンドマイクの前へ歩を進めると、1曲目「Black Bird」を唄い始めた。キーボードと歌の二重奏で同曲を届けたあとは、ドラマー/パーカッショニスト/DJというサポートバンドの面々がオンステージ。ドラムのリズムに合わせてフロアから手拍子が起きると場内の空気は一転、ビートを強調するようなアレンジで「CITI」が軽やかに鳴らされた。

ぼくのりりっくのぼうよみ 2017.5.21 新木場STUDIO COAST 撮影=平田 浩基

この日のライブは二部構成。第一部はこれまでにリリースした楽曲、最新曲やカバー曲を、そして第二部では『Noah's Ark』収録曲を中心に披露することが最初のMCで本人から説明された。そして9曲目「Sunrise(re-build)」までが第一部だったわけだが、この前半戦で際立っていたのは、ぼくりり自身のボーカリストとしての頼もしさと存在感である。ダブルドラムが生み出すスリルとスローテンポ箇所の緊迫感とのコントラストが鮮やかな「Collapse」、ゆったりとスウィングするリズムと“唄い上げる”タイプのボーカルが印象的だった「本能」(椎名林檎カバー)、SOIL & "PIMP" SESSIONSのタブゾンビ(Tp)と秋田ゴールドマン(B)がゲストとして参加した「Summer Love」(SOIL & "PIMP" SESSIONSカバー)、さらに、突き抜けた明るさを持つ新曲「SKY's the limit」、そして「(「SKY's the limit」は)「“こんなの、いつものぼくりりくんじゃない”ってたまに言われるので、ぽい曲を作ろうかなって。元気のないやつです」と紹介されたそのカップリング曲「つきとさなぎ」――とバリエーションは様々だったが、どの場面でも中心にあるのはぼくりりの歌やラップであったと同時に、手練れのプレイヤーたちに助けてもらっている感じや引き立ててもらっている感じもなく、ぼくりりとサポートメンバーが“バンド”として同じ呼吸感を共有しながら演奏を進めているような感じがあった。追加公演であるこの日以外に関しては、1ヶ月に満たない期間で全国8箇所を廻る、密度の高い全国行脚であった今回のツアー。武者修行のような日々を経て、ボーカリストとして鍛え上げられた部分がかなり多かったのではないかと予測することができる。

ぼくのりりっくのぼうよみ 2017.5.21 新木場STUDIO COAST 撮影=平田 浩基

第一部が終了すると、ステージとフロアの間に紗幕がストンと落とされる。直後、そこに開かれた絵本の絵が投影され、「彼は生まれた時から誰にも必要とされていませんでした」という、ぼくりりの朗読が重なっていった。10曲目「Be Noble」以降の第二部は、『Noah's Ark』の曲をほぼ収録順通りに演奏(「Water boarding -Noah's Ark edition-」直前に、同曲のトラックを制作したbermei.Inazawaが手がけた「対象a」をカバーしていた点を除く)。飾らない語り口のMCもあった第一部に対し、第二部はMCがなく、その代わりに絵本の物語を追っていくような映像演出や、ぼくりりによる朗読が曲間に挟まれ、場内は終始シリアスな空気に包まれた。オーディエンスの様子はというと、音楽にノるというよりかは、物語の展開を固唾を飲んで見守っているような感じ。望まれない命としてこの世に産み落とされた“彼”が、自分の思考を張り巡らせ、行動することが未来を作るのだということに気づいていく――そんな物語の展開に沿うように、バンドのサウンドもどんどん彩り豊かになっていったが、次第に歓声を上がるようになっていったり、手拍子の音量が大きくなっていったり、振り上げられる腕の数が増えていったり、とオーディエンスの身体的な盛り上がりが目立つようになっていったのもまた印象的だった。

ぼくのりりっくのぼうよみ 2017.5.21 新木場STUDIO COAST 撮影=平田 浩基

例えば第一部は、サポートメンバーのアドリブに対する「決めてない感じのやつって僕あんまりなかったというか。ジャムセッション的に、その場のノリで曲が変わっていくのが超最高だなって」というコメントが象徴していたように、ミュージシャンとしてのフィジカルな面を打ち出すものであったのに対し、第二部は、映像やモノローグを掛け合わせることによってライブにおける“音楽+α”の可能性を提示するようなものだった。また、曲が持つ重厚な世界観と弱冠19歳の飄々としたキャラクターとのギャップもぼくりりの特徴のひとつだが、MCを通じてそのキャラクターをそのまま出していたのが第一部であり、逆に、MCを封印することによりコンセプチュアルなライブを実現させたのが第二部だった。

今回のライブを二部構成にした背景には、おそらく、“あらゆる角度からの需要を満たしたい”というぼくりり側の意識が関係しているのではないかと考えられるが、だからこそ全国各地のファンの反応を直に目の当たりにしたこのツアーを終えて、次はどのような方向に舵を切ることに決めるのか気になるところ。10月に行われる大阪・ユニバース、そして東京・日比谷野外音楽堂でのワンマンも含め、今後の展開に注目していたい。

取材・文=蜂須賀ちなみ 撮影=平田 浩基

ぼくのりりっくのぼうよみ 2017.5.21 新木場STUDIO COAST 撮影=平田 浩基

 
セットリスト
ぼくのりりっくのぼうよみ TOUR 2017
2017.5.21  新木場STUDIO COAST​

01.Black Bird
02.CITI
03.sub/objective
04.Collapse
05.本能
06.Summer Love
07.SKY's the limit 
08.つきとさなぎ
09.Sunrise(re-build)
10.Be Noble
11.shadow
12.在り処
13.予告編
14.対象a
15.Water boarding -Noah's Ark edition-
16.Newspeak
17.noiseful world
18.liar
19.Noah's Ark
20.after that

 

ライブ情報
2017年秋ワンマンライブ
10月8日(日)東京・日比谷野外大音楽堂
10月15日(日)大阪・ユニバース
※詳細後日発表

 

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