劇団ロ字ック公演『鳥取イヴサンローラン』山田佳奈インタビュー
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山田佳奈
2011年に初演され、小劇場といえど連日満席の好評を博し、以降の劇団を支える礎になった作品『鳥取イヴサンローラン』が4年の年月を経て改稿・再演される。その間に外部での演出や、市民を対象とした公演の指導、自劇団の本公演では某webサイトの演劇賞を受賞するなど多くの経験を重ね、変化を遂げた作・演出で劇団主宰者の山田佳奈に話を聞いた。はたして4年間の“ギャップ”は本公演で凶と出るのか吉と出るのか? 楽しみな公演になる。
——再演ですね。
4年ぶりの再演です。今回だいぶ手を加えましたが初演の台本を読んでいると、完全に白黒つけたいじゃないですけど、分かりたい、分かってもらいたい時の本だなと思いましたね。
——キャッチフレーズに「鳥取の女が東京の男に負ける話」と書いてありますけど、単純な会話の中に、いろんな人の思いや関係が見えてきておもしろいですね。けっこう下ネタも多いですね。
なんかね、この頃の台本、下ネタが多いんですよ。多い、多いですね。下ネタをコミカルにやろう!みたいなところがすごい強くて。
——愛情と下ネタの話でできあがっているような気がしました。
そうですね。結局は性の話ですからね。男性と女性の。性欲が愛情だったり。でもはたしてそれが愛情なのかどうなのかというところを書いているなと思うし。自分が生まれたっていうのが父と母の愛情なのか性欲なのか、それを疑って悩んでしまったことってあるなあと。ある意味、すごく思春期の話だと思いますね。
——スナックの女性同士のやり取りで、もちろん大人の話だけど、女子高生が会話してるみたいなリズム感で。やってることや起こってることはヘビーなんだけど。リズム感、妙な軽さみたいなものがすごく生きていると思うんです。
なるべく余計なセリフだなと思うもの以外は残してますね。再演用に台本を書き直すために初演の台本を読み直すと、あの時の私と今の自分が変わっているなぁと。許せる物が多くなって、当時の許せない物につばを吐いたりとか牙をむこうと思っていた自分と。セリフとか読んでて、こんなに強がってたんだなという新鮮さを発見して。今の自分ではもうそんなセリフは書けないから、これは大事にとっておかないといけないなという気持ちで書いてますね。あと単純に脚本を書くという点において昔と比べれば今の方が経験がありますから、「こんなに言葉で説明しなくていいよ」という部分もありますね。
——女性が7、8人出ていて。なんとなく背景が見えてくるとそれぞれにいとおしい。アイドルになりたい人とか、地方から出てきて苦労している人とその友達とか、いろいろな煩悩を背負った女性が出てきますね。
みんな、なんかね、これを書いた当時、わたしスナックでアルバイトをしてたんですよ。すごく感じたのは、言葉は悪いんですけど「どうしようもねぇな」という。
——それは働いている人に対して?
そうです。どうしようもねぇなと。みんなけっこうスナックでは堂々としてたりとか、女性を武器に振る舞ってるけど、この人達スナックっていう箱から出たら、きっと日常では隅っこの方で電車を待ってるようなタイプなんじゃないかなと思っちゃったんですよね。いるじゃないですか、なんでそんなにホームの端っこにいるの?って人。男のお客さんとかも来ると女の子が話を聞いてくれるから楽しい。「おれはこんなにがんばってる」というのをすごく自慢げに言うけど、たぶん会社に戻ったらぎつぎつにやられている。結局、ここにしか集まれないんだなと思っちゃったときがあって。人間はどんなやつでもさみしいんだなって思いますよね。それが気づくタイミングが早いか遅いか、それを気にするか気にしていないかというのがあると思いますけどね。
——台本に話を戻すと、トイレが頻繁に出てきて、けっこうえぐい、ゲロ吐いたりして汚かったり。進行上のアクセントにもなっていて、汚い場所だけど、個室というかプライベートな空間? 自由になる聖なる場所?
何なんでしょうね。飲みに行ったりすると自分だけになれる空間って、トイレだけですからね。閉塞されている場所の中にさらに閉塞されているにも関わらず、解放区だなと。でもその解放区でさえ臭いって本当に逃げ場がないなって思いますね。あのスナックのアップアップな感じって。多分、自分がその場所で働いていたら厳しいなと思って。
——より状況を揺さぶるっていうんですかね。もう一つ印象的なのは場面の切り替え切り替えでいろんなアクションがありますね。
今回はいつも上演している劇場よりもだいぶミニマムな劇場なので、普段みたいなグルグル走り回るとか身体性の話じゃないなと思っていて。だからわりと今でこそ山田の演出みたいなカラーがあるかと思うんですけど、そこも一回遡ろうかなと思いますね。
——遡るというのは?
いい意味で「これもできる」「あれもできる」という今の自分ではなくて、「できない」じゃあどうするっていう私というか。この中でやるんだ、わたし、どうするっていう気持ちでやろうと思います。
——じゃあ望むところですね。
でも大変だと思いますよ。小さな劇場で上演するというのは嘘があっちゃいけないから。丁寧にお芝居していかないとつまらなくなるので。大きい劇場より小さい劇場の方が大変ですよね。ごまかしがきかない。最近思いますけど。
——本公演ではフラットな劇場は少ないでしょ? 今回は珍しく額縁というか元映画館でしすね。
最近、ありがたいことに、自身の活動では大きな劇場で演出をつけることが多くなったんですよ。けっこう200人以上入るところでしかやってなくて。不思議ですね。劇団公演だと200人なんてところはまだ未知数なんですけど、いよいよ来年東京芸術劇場に進出するということもありますし。そこで□字ックでの演出をどうつけるかがチャレンジですね。
——あとの見所は俳優たちがこれらの役をどう演じるのかが楽しみですね。
今までももちろん信頼関係を作って、高めて入っていくんですけど、今回は一方的に私が見てきた劇団の役者さんがこぞって出ているので、安心感がありますね。あの人たちなら大丈夫だという。同時にその役者さんたちと戦えるのかしらというのはありますね。自分自身に迷いがあるとすぐばれると思うし、そういう準備をあらかじめしておく戦いはしたことがなかったので。自分たちよりも圧倒的にお芝居をやってきていている先輩というか。私は後輩なので、食いついていこうという感じですね。
——演出する山田さんが役者さんに食いついていく?
はい、いっこ上の世代なんですよ、役者さんが。THE SHAMPOO HAT、キャラメルボックス、ナイロン100℃とか。自分ももちろん描きたい世界観があるからこそ演出をしてきてるんですけど、たぶん、普段の演出とは全然違うんだろうなとは思っていて。でも、みなさんとやることで思いもよらないその幅の広さとか、化学変化というか火花がバチバチっとなるものが生まれていくんだろうなと思っていて。そこが生まれるような作業にしていかないといけないなと思います。妥協したらいけないし、一人一人の相手に対しての引き出しを自分からいくつも開いていくつもりでやらないと、と思いますね。
——演出家の力量を問われる部分でもありますね。
でも今回は絶対におもしろいだろうなという自信はありますね。
——それはどこから?
再演だから一回結果は出ているし、自分の今の演出スタイルだったり、劇団があるのはこの作品がなかったらあり得なかったんですよ。それの再演だっていう安心感というか信頼感もありますし、それに上乗せして役者さんに対する信頼感も強いんですね、絶対大丈夫だって。かな? わりと普段よりは自信が強めではあります。
——俳優さんたちの個性とアンサンブルが見所なお芝居になるのかなぁという気がしますね。とても品のない言葉がすごく品よく語られている感じがするんですよ。
今後、こんなに下ネタ書かないと思いますよ。
——キャッチコピーになりますね。
いいんじゃないですかね(笑)。
——すごくデリカシーのある作品になると思います。
今、気がつきましたけど、よくあんなに下ネタだらけで、初演のときずっと満員になりましたね。立ち見まで出て。みなさんよく来てくれたなと思います。
——そういう言葉が出ただけでいやな人はいると思いますけど、そこも取り込む作品になるといいですね。最後に来て下さるお客様にメッセージを。
30歳になりまして。20代の半ばに書いた台本なんですけど、私変わったなーって。こんなこと思ってたんだってものが多くて。すごくどぎつい感情だったり、誰かを想う純粋さだったり。読み直すと相手にも世界にも自分なりの芯をしっかり通してる本でした。そういう強さはなかなかもう持てない。当時は誰かに分かって欲しい、誰も分からないだろうという両面がぐるぐるしていたと思うんです。だからこそ、そういう感情で誰かを傷つけてしまった人とか、そこを経て今大事な人と向き合おうとしているような人とかに、直視することでいやな出来事を思い出したりすることもあるかもしれないですけど、自分が変われたなというか、だからこそ今ここにいれるんだという、過去の自分に向き合える時間を、100分なのか1時間なのか分からないですけど、「鳥取イヴサンローラン」を観ていただくと、そういういろんな感情と巡り合える体験なのではないかと。それを体験しに来てもらえたらうれしいなと思いますね。
——一方で、人によってはテンポのよい楽しいコメディとしても楽しんでいただけると思いますね。
初演を思い出すと、男の人と女の人で笑うポイントが違っているのがおもしろかったですね。
【稽古場スナップ】
山田佳奈プロフィール
やまだかな〇東京を中心に活動している劇団ロ字ック(ロジック)の作家・演出・役者。レコード会社のプロモーターから演劇の世界へ。 20代、30代の男女の深層をリアルに描く『人間のナナメ読み』によるエッジの効いた戯曲と、ポップで疾走感ある演出が持ち味。閉塞的な人間関係の中で紡 ぎだされる等身大の女性の本音を深く迫る作品に、同年代の女性を中心に共感を得る。サンモールスタジオ2013年最優秀演出賞を受賞、演劇ポータルサイト 「CoRich舞台芸術まつり!2014」グランプリ、2014年度サンモールスタジオ最優秀団体賞受賞。2014年7月俳優座劇場で外部作品を演出を経 て、2015年3月穂の国とよはし芸術劇場PLATで上演された「話しグルマ」(近藤芳正 演出・構成/小野寺修二 ステージング)に脚本・演出助手・構成で参加。バンドのライブ総合演出や音楽界の『夏フェス』ならぬ小劇場界の『鬼フェス』を主催し、全団体の総合プロデュースを行うなどエンターテイメ ント業界でマルチに活躍中。
期間:9月26日(土)~10月11日(日)
作・演出:山田佳奈
出演:堂本佳世 日高ボブ美 山田佳奈(以上、□字ック) 遠藤留奈(THESHAMPOOHAT) 圓谷健太 小川夏鈴(東京ジャンクZ) 小林春世(演劇集団キャラメルボックス) 水野小論(ナイロン100℃) 鈴木理学(とくお組) 那木慧 山田ジェームス武
劇団ロ字ック:http://www.roji649.com/