主人公はソシオパス?それとも厨二病!? 『アイム・ノット・シリアルキラー』 #野水映画“俺たちスーパーウォッチメン”第二十八回

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 (C)2016 FLOODLAND PICTURES AND THE TEA SHOP & FILM COMPANY

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TVアニメ『デート・ア・ライブ  DATE A LIVE』シリーズや、『艦隊これくしょん -艦これ-』への出演で知られる声優・野水伊織。女優・歌手としても活躍中の才人だが、彼女の映画フリークとしての顔をご存じだろうか?『ロンドンゾンビ紀行』から『ムカデ人間』シリーズ、スマッシュヒットした『マッドマックス  怒りのデス・ロード』まで……野水は寝る間を惜しんで映画を鑑賞し、その本数は劇場・DVDあわせて年間200本にのぼるという。この企画は、映画に対する尋常ならざる情熱を持つ野水が、独自の観点で今オススメの作品を語るコーナーである。
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怪死事件が起きた時、近所に住むホラー作家が家宅捜索され、仕事の資料となる本をあらかた持っていかれたという話を聞いたことがある。ホラーが好きで、ホラーを生業としていると危険人物扱いされるというのは迷信ではなかったようだ。かくいう私も、ホラー好きということで、最近では「サイコパス声優」などと呼ばれることがある。失礼な! ちょっとホラーが大好きすぎるくらいのフツーのオンナノコだよ、プンプン! でも、フツーってなんだ? ホラー好きは普通じゃないのか? 今回紹介する作品でも、主人公がみんなの言う「普通」に疑問を抱いていた。ソシオパス(社会病質者)の少年とシリアルキラーがぶつかり合う、『アイム・ノット・シリアルキラー』だ。

アメリカの田舎町に暮らす16歳の少年・ジョンは、葬儀屋の家に生まれた影響か、死体や殺人に興味を持ち、ソシオパス(社会病質者)と診断されカウンセリングを受けていた。そんなある日、町で謎の連続殺人事件が発生し、死体が自宅の葬儀屋に運ばれてくる。切り裂かれ、臓器の一部が持ち去られたその死体を見て、猟奇的な殺人鬼が町に潜んでいるのではないかと思い始めるのだった。やがて、ジョンは事件を調べるうちに偶然にも殺人事件を目撃。殺人鬼の正体が隣に住む老人であることを知り、自分の手で殺人を阻止することを決意する。ソシオパスとシリアルキラーの死闘が始まるのだった。

 

“普通”ではない少年のカッコよさ

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本作は16mmフィルムで撮影されているので画質が少し荒く、主人公・ジョン役のマックス・レコーズの顔付きがどこか昔風の顔立ちに見えるのもあいまって、90年代映画のような画と雰囲気で進んでゆく。先に言っておくと、本作にホラーな雰囲気はほとんど無い。スリラー展開はあるものの大まかな道筋は、ジョンがソシオパスとして悩み、一つの決断をする青春ドラマなのだ。

そもそも、“ソシオパス”という言葉を聞き慣れない方も多いかと思う。サイコパスとの違いなども諸説あると思うが、作中でのソシオパス=ジョンは、衝動的な暴力性をはらんだ殺人予備群として描かれている。有名なシリアルキラーを題材にしたレポートを学校に提出し、先生に「普通はこんなものを書かない」と注意されると、「普通って何?」とひねくれた答えを返すジョン。いやまったくその通り! 日頃同じことを考えている私は、冒頭のこのシーンで早々にジョンに声援を送っていた。

とはいえジョンはこんな性格だし葬儀屋の息子なので、「死体くせーんだよ」などといじめっ子に突っつかれる。唯一の友だちは、ジョンが絡まれていてもあまり気に留めないちょっと変わった奴だけ。それでもジョンはそこでぐずぐずとへこたれることはない。いじめっ子に対し、「俺はソシオパスだから、お前をダンボールのように開いたりできるんだぜ?」と脅しにかかる強さを持っているのだ。イエーイ! ジョン、やっぱりカッコいいじゃん! しかしなぜ彼はアイム・“ノット”・シリアル・キラーなのか。必死に殺人欲求を抑えているからなのか? それも一理あるだろう。だが一番の理由は、実際の殺人現場に出くわした際、おもらしをしてしまったからだと私は思うのだ。

 

誰が“ノット”シリアルキラーなのか

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ジョンは、家が葬儀屋であるため、死体を見たことはあるし、いつでも人を殺せると思っていた人間。ところが、実際の殺人を見てビビッてしまうのである。この瞬間に、私の中でジョンはソシオパスではなく、ただの反抗期の厨二病少年に成り下がってしまった。

そんなジョンの対抗馬としてシリアルキラーに立候補してきたのが、クローリー老人である。演じるのは、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の“ドク”ことブラウン博士役で有名なクリストファー・ロイド。ジョンの隣家に住む“普通の”老人だと思われたクローリーは、ホームレスを一突きで殺し、取り出した臓器を摂取する。このシーンは、「殺すだけではなく臓器食べた?」「しかも殺しに使ったのはナイフ?いやもっと長物だったよね!?」とこちらの頭が混乱してしまうほど、なかなかに衝撃的である。その後も何食わぬ顔で生活を続けるクローリーに興味を持ちつつも、何とか連続殺人を食い止めようと立ち上がるジョン。殺人欲求を持っていたはずの彼が、悩みながらも正義の味方を目指してしまったのは、私としては残念なところだ。

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対するクリストファー・ロイドの怪演は見ものだった。普段はヨレヨレの華奢な老人なのに、表情一つだけで邪魔するジョンにかける「お前も殺すぞ」という無言の圧が凄まじい。「これはまた私の好きな“強いジジイ”だなー。ジョンは勝てるのかなー」とのんびり見てゆくと、その先のまさかの展開にひっくり返りそうになった! なぜクローリーが人を殺さなくてはいけないのか? そして、なぜジョンを殺さなかったのか? その理由が明確になる頃には、この『アイム・ノット・シリアルキラー』というタイトルは、クローリー老人にも掛かっているのかも、と思うのではないだろうか。

余談だが本作の原作は小説『I Am Not a Serial Killer』。さらに、ジョンを主人公にした続編小説が4タイトル、あわせて5タイトル刊行されている。今後ジョンがどんな敵と出会うのか?この後もずーっと悩んでいるのか? ちょっと気になるので、ぜひ続刊も実写化してほしいと思う。

『アイム・ノット・シリアルキラー』は6月10日より新宿シネマカリテ他全国順次公開。

作品情報

映画『アイム・ノット・シリアルキラー』

2016年/アメリカ/104分/PG12
監督:ビリー・オブライエン
出演:マックス・レコーズ「かいじゅうたちのいるところ」、クリストファー・ロイド「バック・トゥ・ザ・フューチャー」

公式サイト:http://iamnotserialkiller.jp
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