「家族だから傷つけたくなる…」 寺島しのぶが濃密な家族劇『アザー・デザート・シティーズ』の見所を語る!
-
ポスト -
シェア - 送る
『アザー・デザート・シティーズ』合同取材会にて(撮影/石橋法子)
”ウィットに富んだ辛辣さで深く心を打つ傑作”とブロードウェイで高く評価され、アメリカで最も権威あるピューリッツァー賞の戯曲部門でファイナリストに選出された、男女5人の濃密な家族劇『アザー・デザート・シティーズ』。2012年のトニー賞では5部門にノミネート、うち演劇助演女優賞を受賞した傑作舞台が日本人キャストで上演される。翻訳・台本は映画『紙の月』で日本アカデミー賞優秀脚本賞を受賞した早船歌江子、演出を俊才・熊林弘高が務める。元脚本家と元映画俳優を両親に持つ、自身も作家という長女ブルックが、家族の”暴露本”を提示したことから物語が動き出す。ブルック役について「これ、わたし!」と直感したという寺島しのぶが、大阪の合同取材会で思いを語った。
「”家族とはなにか”をシンプルに感じ取っていただける。とくに母娘の描かれ方がリアルですね」
寺島しのぶ
ーーブルック役はご自身と重なる部分があるそうですね。
リベラルな考えをもったブルックは厳格な親に反発して戦って、でもそこを乗り越えることで、家族のなかで自分の居場所を見つけ、存在を自覚していく役柄です。私も母親とは同業ですし、親に迷惑のかからないところで好きなことをしたいなとはいつも思っていました。でも悲しいかな、育った環境からは抜けきれなくて、結局はそこへ戻っていく。家族の縁は死ぬまで切り離せないですし、そのことによって自分も生きていられる瞬間みたいなものがあるんです。最初は鬱陶しい存在かもしれないけど、自分が大人になるにつれて親の気持ちが分かったり、無意識に親と似てくるところが出てきたり、そういう話なんですよね。シンプルに「家族とはなにか」という普遍的な問題を感じ取って頂ける演出にもなっているので、翻訳劇と聞いて敬遠されがちな人にも分かりやすい舞台だと思います。
ーー交わされる台詞も毒気を帯びていたり、辛辣だったり。これも家族ゆえでしょうか。
そうですね。台本を読みながら「これはちょっと…」と思う台詞がひとつもなかったことも役とリンクしている部分です。自分もシニカルなところがある人間だと思っていますので(笑)。他人だと気を遣うところも、家族や肉親だからこそ言いたくなっちゃうし、傷つけたくなっちゃう。本作では母娘の確執が強く描かれているんですけど、どこのご家庭にもあるような、これだけは互いに言ってはいけない”禁止ワード”が出てくるんです。
寺島しのぶ
ーー他方、父親や弟はどのようなキャラクターなのでしょう。
お父さんは犬猿の仲である母と娘の間でいつもクッションになっている。でもそのお父さんもお母さんの操りがないとうまくしゃべれないところがあって、少し鬱っぽくもある。家族の中では、中村蒼くん演じる弟トリップが一番全員を俯瞰で見ている。優等生だし、両親からも全然心配されていない。でもそのことが彼の中では闇となっていて、そこは深いなと思うんです。色々な悩みが折り重なって表現出来ればいいなと思います。ブルックは弟が大好きですし、最後まで自分を認めてくれる存在なので、彼が担う役割は大きいですよね。私も両親からはとくに何をするにもダメと言われることがなかったんですが、「これ以上やったらダメなんじゃない」って言う存在が弟だったので、この関係性も私とちょっと似ているかもしれないですね。
寺島しのぶ
ーーブルックが暴く”家族の秘密”が何なのかも気になる、ミステリのような展開も面白さのひとつです。
演出の熊林さんが、いかにお客さんの緊張を引っ張って途切らせずにいくのかですね。台本を読んでいる限りでは、最後は家族のあり方を見つけたような雰囲気もあるんですが、熊林さんは一筋縄ではいかないタイプの方なので、ハッピーエンドには終わらせないと思いますね。今のところ、前半はブルックが物語の語り手で、後半は弟のトリップが見ている世界になるので、そこがどう作用してくるのか。今はまだ熊林さんの頭の中ですね。
寺島しのぶ
「演劇界のレジェンドとご一緒できる、ちょっと他では観られないお洒落な舞台です」
ーー今回、演出が熊林弘高さんであることも、出演の決め手になったそうですね。
そうですね。これまでなかなかタイミングが合わなかったのですが、この台本を頂いたときに、これは出逢うべくして出逢った作品だなと思いました。中嶋しゅうさん、佐藤オリエさん、麻実れいさんという演劇界のレジェンドのような方々とご一緒できて、その方たちがみんな「熊林さんとだったら」と出演を希望されていて、とにかく知識が豊富で、緻密に緻密に演出される方なんです。色々なものを取り込んで思いもつかない動きをさせるんですよね。「こうやってやってみてください」ということが、ふっと腑に落ちたりするんです。今回のようにほぼセットがなく、役者の力量にかせられる部分の多い舞台は久しぶりで、役者にとっては過酷なんですけど、いま稽古をしていて、非常に楽しいですね。
寺島しのぶ
ーー稽古も独特で、まず稽古場には演出家と役者以外は入れないそうですね。
出演者も全員が入れるわけではなくて、今日はこのひとたちのシーンを1時間とか出番でない人は入れない。熊林さんは、お稽古って恥ずかしくないですかって仰るんです。役者ががんばって恥を晒す場所だから、そこをあえて人に見せることはないし、出来上がって完成したときにお見せすればいいんじゃないかという考えの方ですね。稽古場って色々なことを考えちゃうし、誰々がいるってことで視線が動いたりするので、そういう繊細さを大事にしてくれる。役者としてはすごくありがたいですし、稽古をしていても非常に心地いいですね。
寺島しのぶ
ーーご自身では家族のあり方についてどのようにお考えですか。
私も家を出て自立したいと思っていた人間ですが、結局は出られないままで過ごしていました。家に居る事で得している部分もあって、その辺りの感覚は子供のとき、独身のとき、結婚してから、子供を産んでからではまた違いますし、状況が変わると家族のあり方も変わってくるんだなと感じています。父と私の会話って今まではほとんどなかったんです。それが5月に息子が(歌舞伎役者として)初お目見えをさせていただいて、楽屋が父と同じだったので、息子を通じて会話が生まれたりしたんです。子供がかすがいになってくれている気がしますね。今は両親に対して感謝の気持ちしかありませんし、10代、20代のころには思えなかった心境になってきている。誰でも自分との共通点が見つかるような、家族を描いた演劇だと思います。
寺島しのぶ
ーー改めて、お誘いのメッセージを。
セットを含め、ちょっと他では観られないコンテンポラリーでお洒落な演劇になっていると思います。シンプルな空間を演技力で埋められる先輩方とお芝居できるのも嬉しいですし。新しいものをちょっと観てみようかなという感覚で、足を運んで頂けたらいいなと思っています。
『アザー・デザート・シティーズ』合同取材会にて
取材・文・撮影=石橋法子
■翻訳・台本:早船歌江子
■演出:熊林弘高
■出演者:寺島しのぶ、中村蒼、麻実れい、中嶋しゅう、佐藤オリエ
2017年7月6日(木)~26日(水)
■会場:東京芸術劇場シアターウエスト
2017年7月29日(土)~31日(月)
■会場:梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ