ハーゲン・クァルテット「モーツァルトはつねに関わっていかなければいけない存在」
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©Harald Hoffmann
モーツァルトはつねに関わっていかなければいけない存在です
故郷というのは、きっと人生の折々で立ち返る場所だ。立ち返るべきなのか、自ずと立ち返ってしまうのか。ハーゲン・クァルテットが結成されたのはザルツブルクで、それはモーツァルトの故郷でもある。モーツァルトにとっては逃げ出したかった生地だが、ハーゲン・クァルテットは愛するザルツブルクに根ざしたまま世界を席巻していった。
長兄で第1ヴァイオリンのルーカス・ハーゲンと、結成の数年後から第2ヴァイオリンを務めるライナー・シュミットに話を聞いたのは昨夏の終わりのこと。今秋の来日も含めて、ちょうどモーツァルトに立ち返り、後期作のツィクルスを展開することを決めていた。
クァルテットの長い旅路
家庭音楽の伝統を現代に伝えるように、ハーゲン一家の兄弟姉妹の4人で結成したのがその歴史の始まりで、クァルテットとしては35年もの歳月を重ねてきた。長い長い旅である、モーツァルトという人間の一生の歳月ほどに。
「私たちのクァルテットも、もうモーツァルトくらいの年齢になってしまいましたね。それでも、練習するごとに作品への見解は変わってきますし、その変化は続いている。なにがいちばんいまの私たちにとって、私たちが演奏することにとって重要かというのをつねに探していますから」とハーゲンが語ると、「このことは今後もずっと変わらないと思います。つねに私たちは探り続けているのです」とシュミットが言葉を継ぐ。
「ザルツブルクで生きてきた者にとってはモーツァルトはいつもそこにあるし、楽器を弾いているかぎり、つねに関わっていかなくてはならない存在。ですから、その両方の意味で、私たちは小さい頃からモーツァルトといっしょに育ってきたようなものです」とハーゲン。
「モーツァルトの最後の3曲は、作曲時期を知らなければ、それが晩年の作かどうかは私にもわからなかったかも知れない。いわゆる『プロシア王四重奏曲』ですが、『ハイドン四重奏曲』など以前の作品のほうが複雑で難しい気がします。加えて、最後の連作はチェリストであるプロシア王のために書いただけに、チェロ協奏曲のような性格が強く、4声が混ざり合って同時に進行していくような魅力があります」とシュミット。「対等な立場でお互いの意見をリスペクトすることで、私たちは成り立っている。4人の関係に序列といったものはまったくありません」とハーゲンも言うが、彼らにはまさにうってつけの曲だろう。
ウィーン古典派の作品の醍醐味を
故郷ザルツブルクと友好都市の関係を育んできた川崎でのコンサートは、そのモーツァルトの「プロシア王第1番」を、ハイドンのハ長調op.54-2、ベートーヴェンの第14番ではさみ、ウィーン古典派の天才たちの後期作品を出会わせる特別なプログラムだ。
「すべての作曲家は自分の時代に生きている。モーツァルトもべートーヴェンもフランス革命の時代に生き、それぞれ違うかたちで政治的背景の影響を受けた。さまざまな問いをもつことが可能です」とシュミットは語る。
トッパンホールの15周年のお祝い(10/1〜10/4)には、クラリネットにイェルク・ヴィトマンを迎えた五重奏曲とともに(10/4)、4日間でモーツァルト後期の10曲すべてを採り上げ、いずみホールでは「ハイドン四重奏曲」変ロ長調 K.458「狩」、「プロシア王四重奏曲」ニ長調 K.575に、ヴィオラの川本嘉子と初共演による弦楽五重奏曲ハ長調 K.515を組み合わせる。「モーツァルトの作品を演奏できることに、すごく感謝しています。もし私たちが演奏者でなく聴衆だとしても、同じようなことを思うでしょうね。彼のオペラを聴いていても、このような素晴らしい作品を聴かせていただけることに感謝を覚えます」とハーゲンは静かに語った。
取材・文:青澤隆明
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年8月号から)
ハーゲン・クァルテット
■9/26(土)14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
問合せ:ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040/ミューザ川崎シンフォニーホール044-520-0200
http://www.japanarts.co.jp
■9/27(日)15:00 青山音楽記念館バロックザール(075-393-0011)
■9/28(月)19:00 武蔵野市民文化会館(小)(完売)
■9/30(水)19:00 いずみホール(06-6944-1188) 共演:川本嘉子(ヴィオラ)
■10/1(木)19:00、10/2(金)19:00、10/3(土)17:00、10/4(日)17:00*
トッパンホール(03-5840-2222) *共演:イェルク・ヴィトマン(クラリネット)