シェリル・バーグと髙橋大輔がW主演『 LOVE ON THE FLOOR 2017』～愛を言葉以上に雄弁に表現する舞台が開幕

フィギュアスケートの元世界王者である髙橋大輔が、現役を引退したのは2014年。一般的に「引退」という言葉にはネガティブな印象を抱きがちだが、髙橋大輔は、今なお表現者として進化を続けている。2017年6月16日に渋谷の東急シアターオーブで開幕した「木下グループ presents LOVE ON THE FLOOR 2017」が、それを証明するだろう。

会場は、渋谷・東急シアターオーブ。「LOVE ON THE FLOOR 2017」は、アメリカのダンス界でカリスマ的人気を誇るシェリル・バーグが、構成・演出・主演を務めるダンスショーだ。2016年の初演には、高橋がゲストダンサーとして出演。スケートリンクではなく、フロアでのパフォーマンスは初めての経験だったにもかかわらず、大喝采を浴びた。待望の再演となる今回は、高橋がシェリルとのダブル主演を務める。開幕当日に行なわれたプレスコールでは、次の3シーンが披露された。

1． GLORY(PROLOGUE)

2 ．LOVE LOST（SCENE13）

3 ．THE FIRST DATE（SCENE5）

プロローグ: GLORY

プロローグは、今回初めて披露されるナンバーだ。高橋はたったひとり、緊張とも集中ともとれる表情で登場した。使用楽曲は「♪GLORY」。「栄光」を意味するタイトルだが、栄光に酔いしれる歌ではない。栄光のために戦い続けたキング牧師や黒人公民権運動を題材にした映画「セルマ」のテーマソングであり、そこには強いメッセージが込められている。

黒い衣装のダンサーたちに囲まれた、白い衣装の高橋。高橋は曲のメッセージを丸ごと受けとめ、コンテンポラリーダンスという身体表現に変換する。葛藤、不安、激情に駆られているようでありながら、あくまでもしなやかで、腕を広げる動きひとつとっても圧倒的に美しい。栄光のために歩み続けるナンバーは、たとえその歌詞を知らずとも、現役引退後も多方面での挑戦を続ける高橋に深いところでつながり、重なり、心に響いてくるだろう。

SCENE13: LOVE LOST

「LOVE LOST」と題されたSCENE13、楽曲は「♪Say Something」。メリル・デイヴィスとチャーリー・ホワイトのナンバーだ。本公演には、高橋以外にもフィギュアスケーターが登場する。クリスティ・ヤマグチ、そしてこのパートを務めるメリルとチャーリーだ。いずれも五輪のゴールドメダリストであり、昨年に続く来日を果たした。

アイスダンスで五輪を制した２人は、アクロバティックなリフトも含む躍動感あるダンスを抜群の安定感で披露した。愛の「とまどい」「迷い」を濃密に表現している。憂いに満ちたメリル、悩ましげに、しかしメリルを見つめ続けるチャーリー。２人は、セリフに頼った途端にこぼれ落ちるような、同時に存在しうる複数の入り混じった感情を緻密に表現してみせた。

SCENE5. THE FIRST DATE

背景にはカフェテリアの映像が流され、ステージにはオープンカフェにあるようなテーブルとイスが並ぶ。「THE FIRST DATE」はホイットニー・ヒューストンの「♪ I Wanna Dance With Somebody 」で始まった。そしてシェリル・バークが登場すると、ステージも客席も空気が変わった。

シェリルは、華のあるステップで、ファースト・デートの幸せを振りまく。彼女の魅力はトップダンサーとして存在感や技術だけでなく、笑顔、体、なによりパフォーマンスからみなぎる溌剌とした幸福感ではないだろうか。「今、シアターオーブがパワースポットになっていませんか！？」と、思わず誰かに声をかけたくなるステージだった。

中盤からは、ラテンのリズムのサルサに変わる。男性ダンサーがチームで誘うような演技をしてみせれば、女性ダンサー３人が駆け引きするかのように挑発的なパフォーマンスを返す。ダンサーたちは、さすがシェリル・バーグが率いて来日しただけあり、全ダンサーが自信とエネルギーに満ちていた。

LOTF！トウキョウ！！

プレスコールでは、わずか３曲でさえ、ドラマチックなストーリー性を楽しむことができた。そして、劇場に高橋、シェリル、ダンサーたちのパワーがあふれているの感じた。カンパニーの一体感と勢いを垣間見たのは、プレスコース直前。開幕前の舞台袖から、幕越しに聞こえてきたのは（おそらく円陣を組んだ）キャストたちの掛け声だった。

L・O・T・F

L・O・T・F！

L・O・T・F！！

トウキョーーウ！！！

現役時代、高橋は、日本の男子フィギュアスケーターに世界への扉を開いてみせた。そして今、頼もしい仲間たちに囲まれた高橋は、フロアでのダンスという、日本のフィギュアスケーターにとっての新境地を切り拓いてみせている。「木下グループ presents LOVE ON THE FLOOR 2017」は、6月16日より25日まで東急シアターオーブにて。

※高橋大輔さんの「高」は、正しくは「髙（はしごだか）」です。

取材・文・撮影＝塚田史香