誇り高きJ-POPユニット・イトヲカシは何故これほどまで"王道"にこだわるのか
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イトヲカシ 撮影=菊池貴裕
まっすぐなメッセージをまっすぐなサウンドで衒いなく届ける——王道と呼ばれるJ-POPの音楽とはかつて、そういうものであった。しかし、時代の流れや流行の変遷とともにその本質は見えづらくなっているのではないだろうか。尖ったことや珍しいことをやった方が世間の目を引くし、話題にもなる。そうするとネットでバズが起きる。昨今、ヒット曲を生み出す=いかにバズを起こすか?という図式が当たり前のものとなりつつあるのは、当然のことなのかもしれない。
だが、そんな2017年の音楽シーンにあって極めて稀な、あえて愚直なほどストレートに王道を極めんとする快作が完成した。イトヲカシにとって1stフルアルバムとなる同作は、その名も『中央突破』。「真の王道とは、時代や流行には左右されない」——これまでもずっと、上に述べたようなJ-POPサウンドを愛し、そのマナーに徹底的に則った楽曲作りにこだわってきた2人が、ついに音楽シーンの中央に風穴を開けようとしている。
——メジャーでは初となるアルバムという形態でのリリースですが、どのようなスタートラインから考えていきましたか?
伊東:フルアルバムは今回が初めてですし、新たなスタートというか。とにかく聴いてくれた人に自分たちのことを知ってもらうっていう、1枚目はそこが必要だと思っているので、名刺代わりになるアルバムという部分がテーマになっていると思います。
宮田:シングル2枚、計4曲だけでは、我々の音楽性を完全には分かってもらえないんじゃないかな?ということもあり、フルアルバム・10曲入りの作品を作りたいっていう気持ちになりました。バンドをやっていた頃はずっとミニアルバムだったので、フルアルバムを作るのは人生において、初めてだったんですよ。
——あ、そうだったんですね。
宮田:なので、感慨深かったですね。音楽人として単純に嬉しいです。
——しかもまずシングルを出していってから、それらが入ったアルバムを出すというのは、言わば王道のリリース形態で。
伊東:そうですね。J-POP、ジャパンの王道って感じですね!
——そこは、音楽的にジャパンの王道を進もうとしているお二人としては、意識したのかなと思ったんです。
伊東:実は、偶然なんです(笑)。でも、シングル→シングル→アルバムっていうのは日本の伝統的な流れを踏襲してますよね。確かにこれは日本で王道の流れだから、すごく自分たちにマッチした出し方だったんだなって。いま初めて考えましたけど(笑)。
宮田:確かに、そのフォーマットを踏んでリリースできるアーティストは、そんなにいないかもしれないですよね。インディーだったらまた別の形態になるかもしれないし。シングルを切れるということもありがたいことですし、そこを踏襲できたというのは、我々の活動理念からするとすごくマッチしていることなのかなと思います。
——これまでのシングルもある種の名刺代わりではあったわけじゃないですか。それがアルバムとなると、またタイプの違う曲を提示するような——もう少し変化球的であったりチャレンジする要素も増えてくると思うんですが。
伊東:アルバムのために作った曲は1つもなくて、全曲シングルにするつもりで普段から作っていた曲の中からチョイスしていて。変化球っていう意味では、今までイトヲカシとして表現してこなかったタイプの曲を1〜2曲は入れたいなっていう思いはありました。そういう意味では「ヒトリノセカイ」がその要素を担っているという位置づけで僕らは作品を作っていたんですけど、歌入れをしてレコーディングをしてみたら、すごくポテンシャルが高い曲なんじゃないかなと思ったんです。実際、今ライブでやったり、取材を受けていても、そこに評価が集まるので、意外でもあったし、そこに需要とかニーズがあるんじゃないか?と考えるキッカケにはなってますね。
宮田:日々二人で制作していく中で生まれていった曲がストックとして溜まっていっていて、どういうアルバムを作ろうかを考えているときに、それらの中から……断腸の思いで(笑)、選んでいった10曲になります。なので、他の曲にない成分っていう点は意識して選ぶことはできたかなと。
伊東:シングルではできなかったことというか、自分たちの音楽の幅をもっともっと知ってもらうことがアルバムの意義かなという意識はありました。
——僕がこのアルバムを聴いて感じたこととしては、タイトル通りの真っ向勝負で熱量の高い作品になっているなということと、全体的にメロディの強度が非常に高いという点でした。
伊東:ほんとですか! すごく嬉しいです。
——ガツンとくるメロディの、ちゃんと印象に残る曲が揃ったなと。
伊東:王道の音楽にとって一番大事なのは、どう考えても歌詞とメロディなんですよ。ギミックに溢れた作品が世の中に多くなってきたなと思うし、それがトレンドだから良い/悪いっていう話ではないんですけど、そうじゃないものもすごく大切なんだぜっていう……ある意味誤魔化しが効かないから、ひとつひとつの音とか歌詞、メロディがどういう風に動くかとか、サビはサビらしくとか、ハッキリ出るわけですよ。悪いものを作ったらボロがでる。ギミックを効かせたりとか、味付けを濃くすれば誤魔化せるものも、誤魔化せなくなるんですよ。
でも、そこを誤魔化さないで作るというのが僕たちの“王道”なので、メロディの強度にも歌詞にもとにかくこだわって、良いものだっていうものしか出さないように。イトヲカシは歌ものであるというところを全面に出していきたいと思っていました。
イトヲカシ 撮影=菊池貴裕
——前回のインタビューでは、イトヲカシらしさみたいな部分——ちょっとロック調に寄り過ぎたときに「ここまでいっちゃうとイトヲカシじゃない」「ここまでだったらイトヲカシだ」っていう模索もあったとおっしゃっていましたが、そこの基準もハッキリしてきたんですか?
伊東:「カナデアイ」のおかげで、自分たちの中でどういう音楽をやっていきたいか?ということを話すことができたので、今回入れる曲に関しては二人ともすごく納得して作ることができたと思います。
宮田:アレンジや(曲の)構築を進めていく中で、何のストレスもなかったし、「これだよな」っていうところにちゃんと置いていく作業ができたので、迷いは全然なかったですね。今回は特にポピュラーな曲が多いので、そこに関してはすごく明快でした。
——タイトル『中央突破』は完成してから?
伊東:全貌が見えてから二人で話し合って。今までもタイトルを四字熟語にしてきたし、自分たちらしい四字熟語ってなんだろうなって考えながら、結構いろんな案を出したんですよ。で、最終的には王道にいこうぜと。
今は“中央”って空いてると思うんですよ。昔はサブカルチャーだったものが王道だともてはやされていて、メロディと歌詞をシンプルに伝えることが、脇に行っちゃってるんじゃないかっていう気がしていて。そこを“突破”するっていう意味で、“中央突破”っていう言葉はまさに今回のアルバム、自分たちの気持ちにビシッと合致するなって、納得してこのアルバムタイトルにすることができました。
宮田:これらの楽曲が並んで1つのライブのセットリストだったとしても、正々堂々とした、中央突破的なアルバムだよねっていう話から、ここに着地しましたね。
——中央=ど真ん中を射抜くという。ちなみに、他の候補はあったんですか?
伊東:万理一空もあったし、あとは……あー、なんだっけ! 笑顔満面みたいなやつ(笑)。
宮田:破顔一笑……じゃないね。
伊東:ド忘れした……いろいろあったんですよ(笑)。最終的には正面突破か中央突破で迷ってて、中央突破の方が知名度があるワードだし、みんなの胸にスッと落ちるんじゃないかなとも思ってこっちにしました。
——歌詞に目を向けると、これまでのイトヲカシが持つ応援ソング的要素、風景や情景の描写に加えて、今回は、愛……「これは恋愛の曲じゃないか?」と思わせる曲も一曲ありましたけど、もうちょっと大きい意味での愛が、これまでより表に出たのかなと思いました。
伊東:そうですね。そこは人間的な成長なのかなとも思いつつ……「あなたが好き」は結構前に作ったんですよね。一昨年とか。これは女性目線なんですけど、男も女も、誰かを好きになる気持ちや、好きな人のプラスになりたい——役に立ちたいとか必要とされたいという気持ちは全員が持っているものだと思ったんです。でも、それってなかなか難しいことじゃないですか。結婚して夫婦になったとしても、疑心暗鬼になってしまう瞬間だってあるだろうし。例えそうなったときでも、「なにも出来ないかもしれないけど、私はあなたのそばにいたい」っていうすごくシンプルな気持ちがあるんじゃないかなと思って。男にもそういう気持ちって絶対にあると思うんですけど、傍にいさせてくれっていう気持ちの割合としては女性の方が高いんじゃないかなと思ったので、この歌詞は女性目線になりました。
……間違いなくこれは男女の愛を歌っている曲ではあるんですけど、ライブでこの曲を演奏すると、なんだか「これって音楽を聴いてくれる人がアーティストに対して思うことでもあるんじゃないかな?」という気持ちになることがあって。自分で作った曲なのにそんなこと言うなよっていう話ですけど(笑)、確実に力になってるから。側にいてくれるだけでなんて力になるんだろうっていうことを、すごく伝えたい瞬間が今までのライブの中で確実にあって、いろんなことをこの曲から学ばせてもらってます。すごく特別な歌になっている感覚がありますね。
宮田:逆もそうだよね。僕たちが作った音楽を、リスナーの側にいさせてほしいっていう気持ちもあるし。
伊東:本当に誰もが持っている気持ちなんだよね。
宮田:愛ですよ、やっぱり。
——その愛は、今回の作品からいっぱい伝わってくるんですよ。「半径10メーターの世界」とかもそう。
宮田:そうですね。人間愛というところにもフォーカスしてます。
——それが作用したからだと思うんですけど、本当に体温を感じる作品だなぁと。
宮田:あぁ〜、それは嬉しいです。サウンドに関しても、人の温度とか演奏者、歌い手の温度がよりダイレクトに伝わるような手法で作らせてもらったので、そこも含めてそう受け取ってもらえたんじゃないかなと思います。
伊東:あとは、等身大で嘘をつかずに曲を作ったことが関係していると思いますね。自分が思っていることしか歌詞には書かないし、自分がもっているメロディしか出すことはできないから。多分、自分が思っていないことを曲にできる人もいっぱいいると思うんですけど、そこに体温をもたせるのって個人的にはすごく難しいなって思うんですね。自分が思っている正直なことを曲に落とし込むことができたから……人生や生き様がそこには入っていて、そこを感じてもらえたのかなって、今の言葉を聞いて思いました。
——確かに、自分とは全然違う人、考え方の違う人になりきって曲を作ることもできるのかもしれないですけど、お二人の場合はそれをそのまま歌って演奏するわけだから、こういう嘘のない曲たちになっていくべきなんでしょう。
宮田:そうですね。
伊東:そこを目指してやっています。良し悪しじゃないんですけどね。歌を歌う人が全然知らない人からもらった曲を自分の解釈で歌うっていうのは、それはそれで良さがあって。
——実際、“歌ってみた”ではそれもやってますしね。
伊東:そうですね。それって、人間臭さがより出るか、それとも造形美として、作品、音楽として美しいものになるかっていう違いがあると思うんです。人間臭くやればやるほどいいっていうワケでもないと思うんですけど、今回の作品は人間臭さが出たアルバムになったなと。
宮田:楽曲提供をするときの感覚とはちょっと違いますよね。そのアーティストになりきって曲を作るときの作り方とは違う。
伊東:僕も楽曲提供をしているんですけど、自分の中では曲提供の時と、自分で作る時って手法が変わらないんです。やっぱり僕はお客さんが主たるものだと思っているから、曲を提供する時もそのアーティストを輝かせることが、お客さんの喜ぶことだと思いながら。
——そのアーティストのお客さんは何が見たいのか、何が聴きたいのか、ですよね。
伊東:そうなんですよ。この人がどんな曲を歌ったらこの人が輝くんだろう。その人が歌いたくないような曲を歌わせたら輝かないから、そこも含めて考えて曲を提供するっていう意味では、僕は普段と変わらなかったりする。
——ただ、他の人のために書く曲とこの二人でやるための曲では、やっぱりどこか違ってくる部分もありますよね。
宮田:出てくるものが違うものになってるはずですね。
伊東:一番大きな違いは、悔しいか悔しくないかってところだと思います。人に提供する曲も全力で曲を作るから、良いものしか提供したくないし、今までもそうしてきたんですけど。良いものだからこそ、提供して自分のものじゃなくなっちゃうと悔しい。でもその感覚ってクリエイターとしては正しいものだと思ってて。自分がこんなにも悔しくなる曲をあげるっていうのが本来のあり方で……いい加減に、「こんくらいでいいや」っていうことじゃないんですよ。
——自分の二軍みたいな曲じゃダメですからね。
伊東:そう! 一軍なんですよ!(笑) だからすごい悔しくて。でも、それでもいいんですよ。ただ、自分たちの曲の場合は、作った時に「まじで良い曲できたね」って言い合って、それはもう自分たちの作品だから1ミリも悔しくないっていう……そこが僕の中で大きな違いですね(笑)。
宮田:イトヲカシに関しては、自分たちの自由意思に基づいてやってるので、本当にシンプルにやりたいことを素直に表現させてもらってます。提供する曲だといろんなフィルターもあると思うんで。
——昔と比べて、置かれた環境が変わったことは今作に何か作用しましたか?
伊東:幸い、あまり変わってないです。二人の中でやりたい音楽っていうのは結構固まってて、それをやる——どんな状況になっても自分たちのやりたい音楽をやっていけるよねっていう話が、僕らの中でできてるんですよ。だから、(周りの意見を)聞いていないっていう気持ちはないんですけど、感覚としては「やりなさい」っていう風に、周りも僕らのことを見てくれているんじゃないかなと感じますね。
宮田:もちろん色んなアドバイスをもらうことはあるし、それを僕らも受け取るんですけど……なんて言うんだろう、根幹が揺らぐようなことはなくて。同じ方向を向いてサポートしてくれているんだなって思いますね。だからストレスはほぼないです。
——やりたい音楽に関しては、デビューの時点でもう固まってましたからね。
伊東:そこからも固めていく作業はやってきたなって思うんですよ。それがどんどん一つになって良くなってるっていう実感もあって。もっと成長出来るんじゃないかなとは思います。
宮田:自分たちの信念・音楽性というものをしっかり持ってないといけない……というよりは、それがあって今のイトヲカシがあるようなものなので。それがブレることは今後一切ないのかなと思います。
——結局、前回と同じ話になっちゃうんですけど、ブレなさと真っ直ぐさはアルバムになっても変わらないですね。
宮田:ブレましたー!っていうインタビューがいつかできたら面白いですけどね(笑)。
伊東:ブレてないんだったら安心しました。
宮田:毎回、このインタビューは確認会みたいになってますからね(笑)。
イトヲカシ 撮影=菊池貴裕
——そう言えば、今作の曲たちって、ライブではもうやってるんですよね? アルバムリリース前から始まってるツアーっていうのも珍しいですけど。
伊東:いろんなアーティストのライブを観る中でも、知っている曲でワーっとなる人たちって多いし、新曲を聴ける嬉しさはあっても、すんなり落とし込めない時ももちろんあるんですよ。でも、バンドの頃にやってた路上ライブでは、音楽に興味ないお客さんを振り向かせるためにやってたので、知らない楽曲でも、この曲よくない?って思わせないと足は止まらない。それが真のアーティストパワーだと思うんですよ。
だから、初めて聴く曲でもすごく良かったって思ってもらえる表現をしないといけない、甘えちゃいけないっていう想いがずっとあるんですよね。いつもお客さんが満員になって、知ってる曲をやって盛り上がってくれて、っていうのも一つの形としてすごく大好きですけど……今回せっかくこうしてアルバムが出せるんだから、知らない曲・新曲をどれだけのお客さんに伝えることができるかっていうチャレンジの気持ち。この状態で伝わったら、自分たちのアーティストパワーだって誇りを持って言っていいと思うので、今回はそこにチャレンジしようという気持ちでライブをしてます。
——実際、「ヒトリノセカイ」が良い反応があると先ほどおっしゃってましたね。
伊東:そうですね! レコーディングの段階で“もしかして”って思わせる何かはあった曲だったから、アルバムの並び順をセットリストに置き換えて、結構重要な位置に入れたんです。ライブの終盤って、自分の中ですごく大切なんですけど、そこに「ヒトリノセカイ」が入ってるっていうのは、期待の表れでもあるんですよ。
——確かに、ライブのラスト2〜3曲なんてとにかくアンセミックな曲を入れたいですからね。
伊東:そうなんですよね! 一番みんなの印象に残るところだから、ガツっとやりたいし。
——展開もコーラスもスケールもすごく大きくて、コーラスワークなんかも参加型でやれる曲ですし。
宮田:みんなで歌うイメージ、ビジョンはなんとなくありました。
伊東:描いてる世界自体は、本当に小さい世界なんです。「半径10メーターの世界」との並びは意図的で……「半径10メーターの世界」は自分の手の届く範囲から世界へっていうすごく大きな視点で描いたものなんですけど、「ヒトリノセカイ」は半径なんてない、自分の内面だけになってしまう瞬間を描いたんです。周りに目を向けられるには、自分が満たされてないといけない、でもそんな時って人間なかなか無くて、実は無理してでも人に優しくしようっていう時の方がすごく多い。その時って本当に他者に目が向いてるかって言うとそんなことなくて、実は一人の世界にいるんだなって。……それを描いた曲がこれなんですよ。確かに、今思うとコーラスとかは壮大なんですけど(笑)。
——確かに、詞に関しては所謂ライブアンセムっぽくはないんですよね。
伊東:そうですね。ただ、この気持ちって全世界の人間が持ってるものだと思うので、僕の中でアンセムなんですよ。万人に当てはまるアンセムだと思ってて。
宮田:最後のコーラスワークに関しては、一人ひとりの集合体だと思ってて。セパレートしたいろんなところで一人ひとりが歌ってるようなイメージというか。いろんなマンションの部屋とか、工事現場とかで歌ってるイメージだったりするんで……自分が一人きりだと思ってしまうことももちろんあると思うんですけど、一人きりだと思ってるのは自分一人じゃないって思えたら、すごく救いになると思って。
伊東:みんな抱えてるんだってことを伝えたいんですよね。僕も実際そうだったから。上手くいかない時っていうのは、本当に一人の世界で、なんで明日があるんだろうなとか、明日のために今日があるという言葉も嫌いだし、“今しか無いじゃん”としか思ってない、そういうことを考えてた時期が、バンド時代にすごくあったんですよね。
逆に、ずっと一人の世界が分からない、満たされてあふれ出たものを他者に向けることができる人って羨ましいですけど、自分はそういう風にはなれないし、なれない人がほとんどなんじゃないのかな、多くの人がそうなんだよっていうことを僕には伝えることができるなと思って、「ヒトリノセカイ」を書き上げました。……言葉にならないから「あぁ」なんですよね。説明できないですもん、あの気持ちは。“悔しい”なんて四文字には当てはまらないし、悲しいでもない。でもそういう気持ちは確かにあるから、どうやって表現したらいいかなと考えた時に、歌詞無し!(笑)
——説明のつかない感情や衝動ってありますもんね。
伊東:僕はそれが芸術だと思います。なんで良いのか?って説明できないんですよね。例えばピカソは何故良いかと聞かれて、ただ一つ説明できるとしたら“伝わってくるから”なんですよ。何故か分からないけど伝わってくる、だからすごいんじゃん!って思うんです。説明できないんですよね、あの感情は。だから、伝わればいいんです。
宮田:言語化できないのは当然ですよね。それをなんとか死ぬ思いで言葉に置き換えていくのが、歌ものであり、アーティストだとも思うんですけど。それでも伝えきれない思いは、歌詞無くていいやって思いますよね(笑)。
——歌詞は無くても目の前でそれを歌ってて、何かを感じるんだろうし、盛り上がるんだろうし。
宮田:それが音楽ですよね。楽しいっていう言葉以上に楽しさを表現するにはどうしたらいいんだろうとか。
伊東:「この歌詞だから伝わる」みたいな評価も、本当?って思う。「この歌詞の言葉の選び方いいよね」とか、そういうことじゃないと思うんだよね。なんでこの歌詞が良いと感じるのかとか、悲しさが伝わるのかとか、根源的なところは説明できないよね。
宮田:90年代の曲とかにも、よくわからない歌詞って結構あるじゃないですか(笑)。よくよく読むと意味わからない歌詞が。
伊東:<夏の星座にぶらさがって>……素敵すぎる! でも説明できない、なんで素敵なのかは。
宮田:きっとそれが芸術なんですよね。
——最後に、ふと思ったことなんですけど、ロックもあればバラードもあり、ストリングスが入ったりテープ逆再生みたいなサウンドも入ってたりとか、今作でもいろんなことをしながら、結果としてポップスに着地をしていますよね。そういうイトヲカシの音楽性を言葉で表現しようとすると、J-POPというジャンルを説明しているのと同じだなって。
伊東:やっぱり僕らはもう、J-POPなんです。ジャパニーズのポップス。……キング・オブ・ポップスじゃないんです!
宮田:マイケル・ジャクソンじゃないんです(笑)。
伊東:で、それが世界に通用すると思ってます。
——そこをこれからも掘り進めるし、目指すところでもあると。
伊東:決して英語では歌わないぞ!
宮田:……いや、<hang in there it’s all right don’t mind!!>(「ドンマイ!!」)って言ってるから。
伊東:それは……メインじゃないからね、いい(笑)。
宮田:ここ(紙資料)にも「スタートライン」って書いてあるから。
伊東:それは、よく見ろ。カタカナだから。
宮田:あはははは(笑)。でも、これまでは王道的なことをやったときに、恥ずかしがっちゃうことがあったんですよ。「これ、なんかイナタいよね〜」「『あなたが好き』のソロ、90年代っぽくてイナタいよね〜」って。そこを、良いんだから良くない?って開き直れた。そういう時代感や世代感……そもそもそこで括る必要なんてないし。歌もののJ-POPにおいては、ムーブメントみたいなことは考えなくていいなと思えたんです。
伊東:歌ものって、過去にもずっと需要や人気があったものだし、これから50年、100年経っても絶対一番人気があると信じてるんですよ。楽器の中で言葉を扱えるものって歌しかないから、やっぱり歌こそがみんなの心に響くものであるという事実は変わらないと思ってるので。歌ものである以上、アレンジというのはあくまで歌とかメロディ、楽曲を表現するひとつの形であって、古いとか新しいって歌ものには無いんじゃないかなって。
宮田:ビートルズ聴いて古いって思わないからね。
伊東:でしょ? 新しい/古いじゃ括れないんじゃないかなとすごく思うんですよ。
宮田:僕らが人生を生きてきた中で、良いなと思った瞬間やインプットしたものが作品になっていて、それを衒いもなく全部出していいんだなって。
伊東:いろんなものを吸収して、出して、一周したってことだよね? 一緒に4年間見てきて、いろんなことを取り入れたけど一周して「ここだ!」ってところにだんだん近づけてるような。編曲に関しては、そういうイメージは持ってます。
宮田:全部が愛すべき作品だし、一つの作品としては正解なんですけど、やっぱり今が一番いいですね。アップデートしていくものなんで。
伊東:僕はもう、いつだって恥ずかしくないですね。1ミリたりとも恥ずかしいと思ったことはない! ボーカリストとして何の衒いもない。
——これが100%やりたくて、好きで。
伊東:そうです!
——もうすぐみなさんの手元に届けられるのは本当にすごく楽しみですね。
伊東:そうですね。どういう風に価値をつけてもらえるかは分からないんですけど、少なくとも僕ら二人は「すごく良い作品になったな」っていう価値をつけることができているので。
宮田:懐かしいなあと思ってくれたり、新しいなと思う人もいるかもしれないですけど、作品が出来た瞬間からリスナーのものなんで……まぁ、同時に僕らもリスナーではあるんで、僕らのものでもあるんですけど!(笑)
伊東:僕らの中では価値をつけてるからね!
宮田:俺らの中では、Amazon五つ星つけて、レビューも書いたんで。
伊東:……あ、実際は書いてないですよ?(一同笑)
取材・文=風間大洋 撮影=菊池貴裕
イトヲカシ サイン入りチェキ
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【人数】2名様
【応募締切】2017年7月24日(月)23:59
2017.06.21 release
CD:
01.スタートライン ※日本工学院2017CMソング
02.カナデアイ ※TVアニメ「双星の陰陽師」オープニングテーマ
03.宿り星 ※TVアニメ「双星の陰陽師」エンディングテーマ
04.あなたが好き
05.はちみつ色の月
06.さいごまで ※“キットカット”受験生応援キャンペーンソング、河合塾2017年度CMタイアップソング
07.ドンマイ!! ※MUSIC B.Bオープニングテーマ、北海道ルスツリゾートCMタイアップソング
08.半径10メーターの世界 ※防衛省「自衛官募集2016」CMタイアップソング
09.ヒトリノセカイ
10.スターダスト
DVD:
「スターダスト」Music Video