真部脩一(ex:相対性理論)の新バンド・集団行動のフロントウーマンは音楽素人!? 齋藤里菜に直撃取材
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集団行動/齋藤里菜(Vo) 撮影=樋口隆宏
匿名性やいわゆるバンドの女性ボーカルというイメージを覆し、2010年代以降のポップミュージックに新たなアートフォームを持ち込んだ存在として今も影響力を誇る相対性理論。そのメインコンポーザーだった真部脩一が立ち上げた新たなプロジェクトが集団行動という、色々勘ぐりたくなるネーミングを持つバンドである。そこで気になるのは音楽性と、バンドの顔であるフロントマンが誰なのか? ということ。その位置には、講談社が主催するアイドルオーディション「ミスiD206」ファイナリストの齋藤里菜が抜擢された。これまで全く音楽とは無縁の青春を過ごしてきたという彼女がなぜこのプロジェクトに飛び込んだのか? そしてセルフネームのデビューアルバムについてはもちろん、今もメンバー募集中という独特のこのバンドの目指すところも聞いてみた。
今は相対性理論との比較や相対性理論の続きみたいな感じで思ってる方がたくさんいると思うんですけど、いずれ全く別物として扱われるようになりたい。
――「ミスiD」のオーディションを受けるまでは、11年間バレーボール少女だったそうですね。
そうです。小学校3年から二十歳までずっとやってましたね。
――大学では救急救命士の勉強をされていたとか。
そうです。最初、大学を決めるときは体育の先生になりたくて。体育の教員免許が取れるところっていう風に決めて、たまたま大学に入ったら救命士の学科で。入ってみたら、多分……学科を間違えちゃった(笑)。
――ここで大きく道が別れた感じがしません?
そうですね。体育の先生になろうと思って大学に入ったんですけど、結局、バレーボールをやめちゃったので、体育の先生だったら部活の顧問とかもしないといけないし、やめちゃったらそんなに子供に説得力を与えられないかなと思って、そこで体育の先生になるのはやめたんです。それで、“何になろう?”って考えたときに、とりあえず救急救命士の免許は取ろうと思って。そのほかに就活もしていました。
――オーディションはなぜ受けようと?
ずっと11年間バレーボールをやってきたから、やめた時に何もやってない自分にすごい違和感があって。で、なんかやろうと思った時に「ミスiD」のオーディションをたまたま見て、“応募してみようかな”って、ほんと思いつきで。
――今、集団行動で活動しているわけですが、発端は真部さんから直接だったんですか?
「ミスiD」の審査委員長と真部さんがお知り合いで、真部さんがボーカルを探しててオーディションとかしてたみたいなんですけど、っていうことでミスiDの中から何人かピックアップして、それでオーディションって形でスタジオに入って、っていう感じで。直接というよりは審査委員長の紹介ですね。
――オーディションそのものはどんな内容だったんですか?
スタジオでオーディションみたいな形でやらせてくれないかって、真部さんからお話がきたんですけど、私は“真部さんって誰?”みたいな感じだったんですよ(笑)。私、相対性理論も知らなくて、音楽を聴く習慣が全くなかったので。まず、“誰だろう?”っていう興味本位でスタジオに入って。で、スタジオに着いたときもなんか、言われるがままにどんどん質問に答えていくっていう感じでしたね。
――どんなことを聞かれました?
「CD持ってる?」とか(笑)。
――20代の人はデータで聴いたりするし、おかしなことではないですね。
でもデータですらほとんど聴いてない、それくらい音楽を聴く習慣がなくて。そのオーディションを受けたのはいいけど、モデルや女優っていう、興味あるものの順位をつけたときに音楽って一番後ろだったんですよ、私(笑)。なので、なんで私のことを呼んでくれたんだろう?ってずっと考えてましたね、そのときは。
――そのときは理由は聞かなかったんですか?
あ、聞きました。他に前から歌をやってきていた方をたくさん見てきたみたいで、その中でなんで私なんですか?って聞いたら「一番僕の書く曲に応えてくれた」というか、「僕の書く曲は独特で、他の人とちょっとメロディが違ったりしてるところがあるけど、二種類の曲を歌ったときに差がなかったのが里菜だったから」って言われました。あと、人柄って言われました(笑)。
――あまり押しが強い人より良かったのかもしれないですね。
そうかもしれない(笑)。
集団行動/齋藤里菜(Vo) 撮影=樋口隆宏
――最初は“歌うの?”みたいな感じ、ありませんでした?
ありました。抵抗がすごいあって。まずそのオーディションのときに真部さんが用意してくださった曲をその場で覚えて、真部さんがピアノを弾いて歌うって感じだったんですけど。私、カラオケでも人の前で歌いたくなくて、マラカス持ってる担当みたいな感じなんです、いつも(笑)。なので“え? 歌うの?”みたいな感じですごい恥ずかしかった覚えがあります。
――いわば齋藤さんは真っ白なキャンバスなわけですね。真部さんは新しいバンドを始めるけど、齋藤さんとしては何かと比べようがない。
そうですね。真部さんのメロディが独特ってすっごい言われてると思うんですけど、私にとってはこれしかやってないので、それが普通というか、“それ”っていう感じ(笑)。
――ところで、話してても声、低いですよね。
ははは(笑)。
――落ち着くというか。
だからすごい声もコンプレックスだったんですよね、歌う前は。真部さんが「いい声、いい声」ってずっと一年間、言ってくださってて、音楽を始めてからだんだん自分の声が好きになってきました。
――逆に音楽を聴いてきた人は“ついに真部さんが動く”という期待感があるし、これまで真部さんがやってきた人とタイプが違うのかな? とかイメージがきっとあったと思うんです。
今まで真部さんがずっと一緒にやってきた方は多分、私とすごい真逆。声も、生活スタイルも真逆というか。私みたいにずっと部活をやって、音楽なんて全く聴かなくて、表現したいって思ったことがあんまりなかったんで、きっとすごい真逆ではありますよね。でもその、なんだろう……、きっと今は、聴いた人はまだ前の相対性理論との比較だったりとか、相対性理論の続きみたいな感じで思ってる方、たくさんいると思うんですけど、いずれ全く別物として扱われるようになりたいですよね。今はやくしまるさんの二代目みたいなところがきっとあると思うんで。それじゃなくて、相対性理論とは別物だよっていう風に早くなりたいです。
――そういう意思が芽生えてるんですね。それにしてもレコーディングをするというのはすごい体験だろうなと思ったんですけど。
はい。マイクの前に立つことすら緊張しました。
――今回、集団行動のデビューアルバムに入っている曲はもう揃っていたわけですか?
そうですね。ほとんどもともとあった曲で。でも全然、オケはなくて。プリプロとかはやってなくて、真部さんとドラムの西浦さんと練習しながら作ってきたので、元々の音源っていうのを作ってない状態でのレコーディングだったんです。その場その場で「じゃ、これやってみよう」「あれやってみよう」みたいな真部さんの一言で、いろんなものが取り入れられたっていうのが多かったですね。
――例えば「ホーミング・ユー」は?
「ホーミング・ユー」は、オーディションのときにもうあったんですよ。オーディションのときに歌ったので、他の方が仮歌で入れてくださっていたので。いつからあるのか私も全然わからないです(笑)。
―― では、一番“これは一体?”みたいな形だった曲はどれですか?
「土星の環」……?
――これ難しそうですね。
でも一番難しかったのは「バイ・バイ・ブラックボード」かな。「土星の環」は一番長く歌ってて。「ホーミング・ユー」はオーディションで歌った曲ではあったんですけど、一番最初に練習したのが「土星の環」で。それは一年間歌ってますね。
――メロディラインもですけど、歌詞の世界も独特というか、“強い女の子”を感じさせるんですけど、どんな印象を持たれました?
まず、ストレートに書いてある詞とは違うじゃないですか。だからまず言葉自体を理解するのが難しいって感じて。で、真部さんと一緒に作業するときは新曲の歌詞が来た時に、主人公を立ててストーリーを作って練習をしてたんです。作った人とは全く違くてもいいから、正解はないから自分なりにストーリーを立ててやってみて、っていう練習はしてますけど、なかなか難しい(苦笑)。真部さんにはきっとあると思うんですけど、絶対教えてくれないんですよ。“どういう気持ちでこういう詞が入って、最後どういう気持ちなんだよ”っていうのは絶対教えてくれなくて。「それが僕と違くても、人の受け取り方によって違うから、里菜は里菜なりのストーリーで」ってことで練習してますけど。難しい(笑)。
――例えばこの「土星の環」の主人公はどんな人なんでしょう。
<弾丸/bang bang>とか歌詞が重なっていくけど、その弾丸はなんなのか? とかいうのを考えて、結構、私は恋に例えちゃってます(笑)。
集団行動/齋藤里菜(Vo) 撮影=樋口隆宏
コンセプトは“青春を取り戻す”です(笑)。
――そういえば「AED」は齋藤さんが救急救命士を目指していたことがヒントになってるのかな?と思いました。
あ、そうですきっと(笑)。これはもともと私が音楽を始めたときはなかった曲なんです。週に2~3回、真部さんとスタジオに入って会ってて、そのときにすっごいたくさん話すんですよ。朝から夜までスタジオに入っても、歌うことはちょっとしかなくて。その間ずっと何時間もしゃべってるんです。そのしゃべってる中で私が、ほんとにノリって言ったらあれなんですけど、「救急救命士っぽい曲欲しいんですけど」って生意気なことを言って(笑)。で、「なんか書いてくださいよ」みたいな感じで冗談で話してたら、次に会った時に作って来てくれてて。「作ったよ」って言われてできた曲です。
――実際にこういう曲になって齋藤さんのイメージと近かったですか?
“さすが!”って思うのは、AEDって救命士の資格だったりお医者さんとかしかほぼ使ったことないし、中身を見るなんてことほぼないじゃないですか? そんな何も触ったことのない状態で、まず詞が書けるんだ!? と思って。で、またそれとプラスして、AEDだけどなんかAEDぽくないというか、そんなAEDばかり見てるわけじゃなくて、きっと恋とかにも例えられるし。AED一つでいろんな切り口で詞が出てくるんだなって、その時はちょっと感動しましたね。
――真部さんは色々調べたんじゃないですか?
そうですよね、やっぱり調べましたよね(笑)。
――“これはなかなかいいネタが”と思ったんじゃないですかね(笑)。
確かに(笑)。AEDってショックする前に音が鳴るんですよ、ピーって。レコーディングのときも、“その音入れようかな”っていろんなところに入れたり、試したりとかして。なので「AED」にも思い入れがありますね。
―― 一年かけて、それまでカラオケすらやらなかった人が歌い始めるって、自分の中で発見はありませんか? “こういうのは得意なんだな”とか。
まず歌う習慣がなかったので、歌うことイコール恥ずかしいとか、ちょっと照れくさいとか、そういうことしか考えたことがなくて。音楽の成績もすごく悪かったんですよ、私(苦笑)。それで音楽はちょっと遠慮しがちだったんです。歌ったり作る工程すら知らなかったので、レコーディングや真部さんのアレンジとか、そういうのを見ていくうちに“あ、音楽ってこういう一音や、ちょっとしたアレンジを重ねていくことで一曲作れるんだな”っていう、なんか感動がありました。今まで音楽を聴いてても、ボーカルだけしか聴いてなかったりとか、後ろの音とか全く聴いたことがない、感覚で聴いてるだけだったんですけど。今は音楽を聴くときに、ベースはどういうラインを追ってて、そこにギターがどう重なってっていう風に、楽器ごとに聴くようにはなりましたね。聴けるようになりました、ていうか“聴こえるようになりました”っていうのが正解なんですかね。
――そうなってくると他の音楽も聴こえてきませんか?
そうですね。真部さんから“これ聴いて”って言われるのが洋楽のことが多いんですけど、その洋楽でもいろんな音が聴こえてくるのは“あ、こんな楽しいんだな”って思います。
――こんな楽しいものなんだ、音楽は、と?
やっと(笑)。23歳で。
集団行動/齋藤里菜(Vo) 撮影=樋口隆宏
――そしてライブ活動も始まりましたが、まだメンバーは固定していなくて。それは今後“どうなっていったらいいね”と話されてるんですか?
まずメンバーで話してるのは、技術どうこうとか上手な人より、一緒にこれからツアーとか行くだろうし、一緒に音楽を作っていく中で、まず友達になれる人がいいよね、なんか学校の教室にいて友達になるような人、っていうのは話してますね。
――それはもしかして真部さんが青春を取り戻したいのかな。
あ、コンセプトは“青春を取り戻す”です(笑)。
――え、ほんとに?
“青春を取り戻そう”って真部さんと西浦さんがずっと言ってます(笑)。「青春っぽい青春、いつのまにか過ぎてたよね」とかずっと二人で言ってて。「里菜はこれからかもしれないけど、僕たちはもう一回過ぎてるからもう一回味わいたいんだよ」みたいな感じで言ってました。
――人間性で繋がりたいということなんですかね。
うん、まずはそこ。
――今までは匿名的な活動をしてきていた人たちですけど、むしろ集団行動は人間を表に出して活動していきたい?
結構、前のバンドと違ってすごいオープンだし、真部さんがずっと言ってるのは、“好きなことをやってるように見せるバンド”というのはずっとお話ししてますね。
――“好きなことをやりたいな”と思うようなバンド?
はい。
――「集団行動の齋藤里菜です」っていう時の気分ってどうですか?(笑)
(笑)。最初、バンド名が決まったとき、真部さんの思いつきだったんですよ。アーティスト写真を撮るときに決めたんですけど、私がメイクしてもらってる時に、隣で「そろそろバンド名決めなきゃ」みたいな感じで言ってて。で、撮影が終わって戻ってきたら、「決まったから、集団行動」とか言ってて、「え? まじ?」と思って(笑)。私はずっと体育学部だったし、ずっと体育をやってきたので集団行動イコール日体大の集団行動、絶対それ勘違いされるし検索で引っかかんないし、いいことないんじゃない? みたいな感じで思ってたんですけど。最近、愛着が湧いてくるぐらいになりました(笑)。
――皮肉でもなんでもなく、ほんとにそうなんだっていう。
なんでこの名前にしたのか、真部さんの考えてることがわかってきた気がします(笑)。
取材・文=石角友香 撮影=樋口隆宏
集団行動
VICL-64801 ¥2,000+税 全7曲収録
1. ホーミング・ユー
2. ぐるぐる巻き
3. 東京ミシュラン24時
4. バイ・バイ・ブラックボード
5. 土星の環
6. AED
7. バックシート・フェアウェル