疎外感を強さに変えた、エイリアンによるエイリアンのためのショー――ウソツキ「惑星X」星跨ぎツアー・ファイナル
-
ポスト -
シェア - 送る
ウソツキ 撮影=山野浩司
「惑星X」星跨ぎツアー 2017.7.7 渋谷さくらホール
学生の頃、ウソツキのボーカル・竹田昌和は、うまく周りと馴染めないでいる自分を感じていた。孤独感や疎外感。どうにも拭い難くそれがあり、もしかしたら自分はこの星の人たちとは何か違うんじゃないか、外にいる人間なんじゃないか、エイリアンなんじゃないかという思いを持つようになった。やがてそれはむしろ音楽表現に向かうモチベーションとなり、ウソツキというバンドを結成し、「転校生はエイリアン」という曲を書いたりもするようになった。
バンドをやるようになり、年齢も重ね、さすがに学生時代レベルの絶対的な疎外感は少しずつ薄らいでいったが、しかし大人になっても“僕のなかのエイリアン”が完全にいなくなることはないんだなと竹田は感じていた。ということは、きっとこういうことなんじゃないかと考えるようにもなった。
「人がたくさん集まる街では、きっと誰もが“自分のなかのエイリアン”を感じることがあるんじゃないか」。
そして彼は前回のインタビューで話したものだった。
「“エイリアン歴で言ったら、オレ、誰にも負けてないな”って。だから“オレもエイリアンなんだよ”ってちゃんと言えるようになりたいと思ったし、自分のなかのエイリアンを感じている人たちに対して、“でもみんな、なんとかそうやって生きてるんだよね”って言いたかった」。
そんな思いから「惑星TOKYO」という曲が誕生した。そしてその曲がそうであるように、竹田とバンドはネガティブをポジティブに反転させ、さらに今度はそんな思いを共有しながらみんなが前向きな気持ちになれるショーを見せたいと考えた。それが即ち『「惑星X」星跨ぎツアー』と題された全国ツアーであり、そのファイナルが七夕に行われた渋谷さくらホール公演だったというわけだ。
ウソツキ 撮影=山野浩司
開演時間となってライトが消えると、2階席の端っこにエイリアンが立っていた。アルバム『惑星TOKYO』のジャケットに写り、物販Tシャツにも大きくデザインされた、あの銀色のエイリアンだ。照明がそこに当たると、“彼”は軽く挨拶してその場を去る。と、今度はそのままステージ上に現れ、「よっ!」と一言。それから「ここはウソのような本当の世界」と言い、律儀にも「あまりにも席が座りやすくて眠くならないように、立って観てね。さあ、お待ちかね。ウソツキの登場だ!」と続けた。すると、派手めの曲が鳴りだし、ドラムの林山拓斗、ベースの藤井浩太、ギターの吉田健二がステージに登場。ステージ中央でさっきまで話していたエイリアンがマスクをとると、それが竹田だった。ウソツキのワンマン・ライブはいつも何らかの演出で観客を驚かせながら始まるが、この日はこのようにして開幕。1曲目は「惑星TOKYO」で、つまりエイリアンの登場が意味合い的にも繋がる演出だったわけだ。
ウソツキ 撮影=山野浩司
4月1日のリキッドルーム同様、今回もまた4人とも黒でまとめた衣装。バンドの音が鳴らされたときにまず思ったのは、「音がいい!」ということだった。竹田の歌がとてもクリアに聴こえるのに加え、低音の鳴りがまた非常によく、とりわけ藤井のベース音がいつも以上にカラダに響いてくる。渋谷さくらホールがロックバンドのライブで使われることはそれほど多くなく、どちらかというとクラシック・コンサートなど生音の響きを重視したものに使われることが多いのだが、ウソツキの音楽性とは思いのほか相性がいいように感じられた。
ウソツキ 撮影=山野浩司
「ようこそ、惑星TOKYOへ。最高の夜にしましょう。ウソツキ、始めます!」。そう竹田が挨拶し、続いて「金星人に恋をした」。そしてアップリフティングな「夢のレシピ」でライブを加速させる。4月のリキッドルーム公演のライブ評にも書いたが、この曲はライブを手早く加速させるのにもってこいで、この日もここで一気に着火した印象があった。さらにこのツアーからライブで演奏されるようになった「地下鉄タイムトラベル」には追い立てられるような切迫感のようなものがあり、吉田のギターが間奏に遊びを加える。始まりからこの4曲目まではハッキリと疾走感と呼べるものがあった。
ウソツキ 撮影=山野浩司
「“惑星X 星跨ぎツアー、ファイナル始まりました。今日は特別な日ってやつにしましょうね、みなさん。愛をこめて次の曲、歌います」という竹田のMCに続き、ウソツキ流のラブソング「一生分のラブレター」。歌い終わった竹田は腕を高くあげてピースする。続く「ボーイミーツガール」のあとは、観客との一体感がわかりやすく表れるお馴染みの「旗揚げ運動」へ。いつものようにギターの吉田が観客にフリを教えてリードする。「コンバンハ! ギターを担当してます吉田健二です。私のもう一つの名前は、“ダンサー・吉田健二”です。今日は星跨ぎツアーの終着点。ついてきてください!」と言って、「右手・左手・両手。フリフリフリフリ・気をつけ・肩!」。リードする吉田に応えて観客全員がそれをやり、会場には笑顔が溢れて和やかなムードに。竹田は「みんな最高だよ」とその様子を見て喜んだ。
ウソツキ 撮影=山野浩司
そのあとはバラードまたはミッドテンポの曲を4曲。視点がユニークな歌詞の「心入居」には吉田のギターに大らかな味わいがあった。この曲は歌部分が終ってからもしばらく演奏が続くのだが、その際の4人の呼吸が実に合っていて、各々の確かな演奏力にも唸らされる。続いてこれも竹田のユニークな歌詞が際立つ「恋学者」。そして、彼はこんな話を。
「小学生のときの将来の夢が、宇宙人になりたいってことだったんですよ。いま思うと、この地球には自分の居場所なんかないのかなって思ってたのかもしれない。で、小学校・中学校は演技をして過ごしてきたんですけど、高校の頃から曲を書くようになって、やがてメンバーがそれをいいねって言ってくれて、僕が僕のままでいれるようになって……。うん、僕が僕のままでいられるのはみなさんのおかげなんです」。
そんな思いを込めてじっくりと歌ったのはバラードの「本当のこと」で、そのとき小さなキャンドル程度のライトがポツンポツンと灯り、アコギの音色は繊細で、竹田の気持ちが痛いほど伝わってきたのだった。そしてこれもバラードの「ハッピーエンドは来なくていい」。それぞれの演奏も歌も丁寧で、気持ちがこもっているのがわかる。因みにこうしてスローまたはミッドテンポの曲を続けて歌った中盤で、竹田は歌い終わると必ず腕をあげてピースをしていた。
ウソツキ 撮影=山野浩司
ここでドラムの林山を中心にして、それぞれがツアーを振り返ってみたりも。「この“星跨ぎツアー”で、いろいろやらかして育ってきたよね」と林山が話をふると、藤井がある公演の途中で尿意をもよおし、どうにも我慢できなくなってベースを置いてトイレに行ったことを告白したり(「あれは焦ったぁ~」と藤井)、吉田がある公演で曲の出だしのフレーズをど忘れし、咄嗟にエフェクターをいじって機材トラブルのせいにしてごまかしたという話をしたり(「あれは単に物忘れです」と吉田)。そして誰かが「反省会じゃないんだから」とつっこめば、誰かが「ニコ生みたいだな」と応え、話がまだまだ続きそうな気配に対しては「(ツアーを)終わりたくないんだよ~」。それは、いろいろやらかしながらもこのツアーが4人にとって非常に楽しく充実したものだったことを如実に伝える、数分の喋りだった。
ウソツキ 撮影=山野浩司
ウソツキ 撮影=山野浩司
そして、「じゃあ、みなさんの恥ずかしい部分も見せてもらおうかな。次の曲はそれを曝け出して楽しんでもらおうと思います」と竹田が言い、たくさんの人が自身のコンプレックスを紙に書いて告白するMVが先頃公開になったばかりの「コンプレクスにキスをして」をここで演奏。ディスコ的なノリに合わせて観客たちはカラダを揺らし、竹田はギターを置いてハンドマイクでこれを歌ったのだった。しかも時々ポーズを決め、かと思えば吉田の肩に肘を乗せ、彼にマイクを差し出して歌わせたりも。さらにはなんとマイケル・ジャクソンよろしくムーンウォークまで披露。それも思いきって堂々と見せるというより、やりながら照れているあたりが、いかにも竹田らしかった。
ウソツキ 撮影=山野浩司
「後半戦、まだまだいけますか?!」と問う竹田に返す観客たちの声を合図に、ここから怒涛の後半戦がスタート。疾走感のある「水の中からソラ見てる」で観客たちは腕をあげて大きく振りだす。林山の叩きだすビートに応えるように吉田がギターソロを弾けば、藤井もベースソロを。曲の終盤では竹田のエッジィなギターもそこに加わり、4人の演奏から火花が散る。ロックバンドとしてのかっこよさが強く表出する場面だ。そして複数のミラーボールがおりてきて、“まわるまわる世界はまわる”と歌われる「時空間旅行代理時計」へ。ミラーボールも合わせて回り、ステージはキレイな星空のように光って見えた。さらにライブにおけるキラー・チューン「過去から届いた光の手紙」を投下すると、その場はいよいよ熱を帯び、汽笛の音を表現する吉田のギターから始まる「新木場発、銀河鉄道」でひとつのピークに達した。いつも感じることだが、この曲の終盤の爆発力は凄まじい。とりわけツアー・ファイナルであるこの日、この場面での4人のプレイはいつにも増して熱かった。「また会いにきてください! どうもありがとう! ウソツキでした」。竹田のその言葉と共に本編が終了した。
ウソツキ 撮影=山野浩司
ウソツキ 撮影=山野浩司
鳴りやまない拍手に応えてのアンコール。まずはいつもと同じように、ここではまるで放課後のような4人の素の会話がしばらく続く。ウソツキのライブ中、もっともリラックスした時間だ。そして10月から12月にかけて、全国7カ所を回る対バンツアーが決定したことを発表。「今日は本当に僕の夢が叶ったような気がしてます」と竹田が言い、「ウソツキの音楽を聴いてるような人はだいたい変わり者ですよ」と続けてから、その言葉に逆説的に繋がる<何故なのだ お前たちは変わり者を拒絶する 我々は宇宙人だ 誰も変わりはしないだろ>という歌詞が印象的な「転校生はエイリアン」へ。そう、のちに「惑星TOKYO」にも繋がることになるエイリアンに託した思い――テーマは、この曲から始まったのであり、そういう意味ではこのツアーにアンコールに相応しい。そして「ハローヒーロー」へ。2ndアルバムの中でも特に強い存在感を放っていた1曲だが、こうしてライブで聴くと尚更歌詞が突き刺さってくる。この曲が、特にバンド仲間に評判がいいというのも、わかる気がした。
ウソツキ 撮影=山野浩司
そして本当のラストは、ちょっと意外だったが「人生イージーモード」。藤井がファンキーなフレーズを繰り返すと、竹田が観客たちに「最後はみんなで一緒に歌って終わりませんか?」と問いかける。で、<イージーイージー きっとイージー 考えなくていい>のところをコール&レスポンス。「ハローヒーロー」でかっこよくキメて終わることもできるのに、やはりウソツキはこうして楽しく終わるほうを選ぶバンドなのだ。
2ヶ月に亘った『「惑星X」星跨ぎツアー』はこうして幕を閉じた。林山が言う通り、いろいろ“やらかした”ところもあったかもしれないが、バンドはこのツアーで間違いなくまたひとまわり大きくなった。小っちゃいことは気にしないで、バーンといこう。それぞれがそういうモードになってきていることが観ていて伝わった。確実にタフさを身につけているのだ。それはきっと、行く先々でその場所の人たちと思いを共有できていることを強く実感したからに違いない。かつて竹田が感じていた疎外感や孤独感は、いまこのようにグルっと回転してバンドの個性や強さに昇華された。秋から始まる対バンツアーが楽しみだ。
取材・文=内本順一 撮影=山野浩司
ウソツキ 撮影=山野浩司
1. 惑星TOKYO
2. 金星人に恋をした
3. 夢のレシピ
4. 地下鉄タイムトラベル
5. 一生分のラブレター
6. ボーイミーツガール
7. 旗揚げ運動
8. 心入居
9. 恋学者
10. 本当のこと
11. ハッピーエンドは来なくていい
12. コンプレクスにキスをして
13. 水の中からソラ見てる
14. 時空間旅行代理時計
15. 過去から届いた光の手紙
16. 新木場発、銀河鉄道
[ENCORE]
17. 転校生はエイリアン
18. ハローヒーロー
19. 人生イージーモード