夏のはじまりを告げたSHISHAMO3度目の日比谷野音ワンマン
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SHISHAMO 撮影=岡田貴之
SHISHAMO NO YAON!!! 2017 EAST 2017.07.17 日比谷野外大音楽堂
晴れバンドの本領を発揮してか、空は晴れ渡り、気温はぐんぐん上昇して、都内は猛暑日を迎えていた。梅雨明け宣言が出ないまま、ほとんど雨が降らず蒸し暑い日々が続いてきた東京に、夏がやってきたことをはっきり宣言するかのように、エネルギッシュで、熱くて、爽快で、切なくて、圧倒的に楽しいステージだった(気象庁の正式な梅雨明け宣言はライブの翌々日)。2015年、2016年に続いて、今年で3年目となるSHISHAMOの日比谷野外音楽堂でのステージ。彼女達は既にこの会場を自分たちのホームグラウンドとしているのではないかと思ってしまうほど馴染んでいた。SHISHAMOには夏の野音がよく似合う。
意表を付いた始まり方だった。ステージの下手奥の通路からメンバー3人が登場して、観客とハイタッチしながら客席の間の通路を軽く走り抜けて、客席のセンターに設置されたステージに上がって着席した。アコースティック編成でのオープニングなのだ。こうしたフットワークの軽い演出をさらりと実行できてしまうところもホームグラウンドっぽい。下手側には松岡彩(Ba)が座っている。その目の前には小さな鉄琴とピアニカがある。センターはアコースティックギターを抱えた宮崎朝子(Gt/Vo)がいる。そして上手側では吉川美冴貴(Dr)がカホンに座っている。そしてその目の前にはカホン用のシンバルとスタンドがある。
宮崎がアカペラで歌い出したオープニングナンバーは「恋」だった。その歌声に観客が耳をそばだたせて聴き入っている。松岡の繊細な鉄琴と宮崎の柔らかなタッチのアコギが加わり、松岡がハモリ、さらに吉川のカホンが入ってくる。切なくてやるせない恋心を3人の息の合った演奏が見事に表現していく。後半では吉川もコーラスに参加。前列の観客は後ろ向きになって見ているので、後列からは彼女たちが演奏する様子とともに、その演奏を聴いて、感動している観客の表情も確認できる。SHISHAMOの歌によって、最初から会場内がひとつになっている。宮崎のアコギで始まったのは「行きたくない」。アコギ、鉄琴、カホンとシンバルというシンプルな編成だからこそ、歌がまっすぐ届いてくる。歌や演奏の微妙なニュアンスもしっかり堪能できる。
「びっくりした? してない?」と宮崎がオープニングの演出について観客に問いかける。「えっ、泣いてるの? なんかあったの?」と涙を流している目の前の観客に聞いている。クールな対応のように見せかけつつも、そうではないだろう。「ぐるーっと人がいて、いろんな方向から見られていると、ドキドキするね」とは松岡。「確かにね」と吉川。3人がぐるりと客席を見ながら手を振ると、客席からも手を振り返してくる。フレンドリーな空気が漂い、観客がなごんでいく。宮崎の歌とギターで始まったのは「音楽室は秘密基地」。松岡のピアニカが入ってくると、音楽堂が音楽室になったかのようだった。つまりここはSHISHAMOの音楽を楽しむ秘密基地。松岡も吉川も口ずさみながら演奏している。ついでにセミも一緒に鳴いている。そうした自然の音が混ざり合っていくのも悪くない。宮崎のアコギのストロークと吉川のカホンとシンバルの生み出すグルーヴがこの曲にアクセントを与えていく。曲のフィニッシュは鉄琴、そしてアコギのつまびき。余韻の残る終わり方がいい。続いて演奏されたのは吉川のカホンとカウントで始まった「みんなのうた」だった。ホーンが入ったにぎやかな曲を逆転の発想でアコースティック編成で演るのは、グッドなアイディアだ。ピアニカ、アコギ、そして観客のハンドクラップが一体となって、気持ちのいい一体感を生み出していく。これこそまさに「みんなのうた」。しかも一体となっていたのは観客だけじゃない。彼女たちの素晴らしい歌と演奏に誘われたのか、日比谷公園に生息する虫までもがずっと3人の目の前で聴き入っていたのだ(ちなみにこの虫の正体はのちのMCで判明)。演奏が終わった瞬間に、松岡が恐れおののき、飛び退いていた。そのまま3人は通路を通って、ハイタッチしながらステージへ移動。ここからは通常のステージでの演奏だ。
宮崎朝子
エレクトリック編成で最初に演奏されたのはこの季節とこのシチュエーションにぴったりな「君と夏フェス」だ。エネルギッシュな演奏に会場が一気にはじけていく。この曲でも観客がハンドクラップで参加。さらに「恋に落ちる音が聞こえたら」へ。宮崎の伸びやかな歌声が夏空に高く響き渡っていくかのようだった。続けて「バンドマン」へ。この曲の起伏のある展開を、メリハリの効いた演奏で絶妙に表現していた。静で始まり動へ。宮崎が激情をほとばしらせるように歌い、演奏がダイナミックに炸裂し、そしてまた静へと向かっていく。さらにバンドのライブ感が際立っていると感じた。SHISHAMOは3月18日から6月22日にかけて、『ワンマンツアー2017春「明日メトロですれちがうのは、魔法のような恋」』で武道館、ホール、ライブハウスなど19公演を行ってきている。さらに先日、大阪野外音楽堂で『SHISHAMO NO YAON!!! 2017 WEST』も開催している。たくさんのステージを経験することによって、バンドはさらにパワーアップしているということだろう。
松岡彩
「さっきすごい虫がいたよね。でも私は虫よりも、虫にビビった朝子の表情にビビった」と吉川。「だってあんな気持ち悪い虫、初めて見た」と宮崎が言うと、客席からすかさず「カミキリムシ!」という答えが返ってきた。ググるよりも早い客席のレスポンスだ。「そいつがずっと足元にいて、ずっと触覚を動かしていて。見るたびにぞわぞわした。野音は大好きなのね、虫さえいなければ……。野音、今年3年目なんですよ。うしろのでかいの(バックドロップ)も3年目です。今年もこうやってできて、とてもうれしいです」と宮崎が言うと、客席から同意の拍手が起こった。
吉川美冴貴
「すれちがいのデート」のイントロですれちがいがあったのか、やり直す場面もあったが、曲が始まると会場内にハッピーな空気が漂っていく。さらに「彼女の日曜日」へ。歌の世界と連動しているかのように表情豊かな演奏が楽しい。人間味あふれるベースとドラムで始まったのは「ともだち」だ。つくづくいい歌だなあと思う瞬間の連続。歌をしっかり支えながら、バンドのスリルも堪能できるところがSHISHAMOを特別な存在にしている。バンドの切れ味のいいアンサンブルが見事だったのは「きっとあの漫画のせい」だ。間奏で3人が向き合っている時のそのたたずまいからは3人の絆の強さも見えてくるようだった。キュートさもシャープさも備えた宮崎のボーカルが夏の野外で解き放たれていく。夏の風がすーっと吹き抜けていく中で始まったのは「終わり」だった。せつなさも喪失感も切迫感も痛みも飲み込んで、疾走し、炸裂していく。悲しい曲なのに、爽快感があるのはなぜだろうか。血がたぎっていくのはなぜだろう。3人の気迫あふれる演奏が「終わり」のその先にある景色を予感させるからかもしれない。
「急なんですが、私、趣味がありまして、ドラマを観ること、映画を観ること、本を読むことなんですが、ドラマ、今期始まりましたね」という、松岡の世間話的なゆるいMCを挟んで始まったのは「夏の恋人」だった。この曲の“蝉の声”というフレーズと野音のセミの鳴き声がシンクロして、一瞬、これは天然のSEか!と思ってしまった。夏の野外でこの曲を聴くのは格別な体験だ。宮崎のエモーショナルな歌声が体の奥に届いてくるよう。夏はまだ始まったばかりなのだが、夏の終わりの切なさをひと足早く体験してしまった気分になった。さらにこの季節にぴったりな「熱帯夜」へ。赤いライトが照らされる中で、アンニュイなムードが漂う演奏が展開されていく。ラテン風味も交えつつの大人なグルーヴに体が揺れる。
宮崎朝子
恒例となっている「吉川美冴貴の本当にあった○○な話」のコーナーでは、休みにひとりで西表島に行ってシュノーケリングをやったこと、自分以外はカップルだったこと、周囲の人間がじろじろ見るので、もしやと思ったら、ウエットスーツを裏返しに着ていたことなどをトーク。しっかりオチもついて、笑いに包まれたコーナーに続いての終盤は「好き好き!」、「笑顔のおまじない」と会場内が一体となって盛りあがる曲が連なる展開。極めつけは「タオル」。灰色のコンクリートのステージ、緑たっぷりの日比谷の森、そして頭上に広がる青空のもとで、赤と白のタオルが回る景色がきれいだ。「僕に彼女ができたんだ」が始まると、歓声とハンドクラップが起こっていく。バンドの演奏がどんどん白熱して、会場内の熱気をさらに過熱させていく。本編の最後は「明日も」だった。この曲が始まった瞬間から、歌の世界をさらに深く共有していくような濃密な一体感が漂っていった。歌を聴くというよりも、刻みつけているという感じ。おそらくこの曲はライブを重ねる中で、さらに大きな歌へと成長を遂げてきているのではないだろうか。この日は三連休の最終日だった。次の日からの平日の日常を乗り切っていくためのエネルギーを観客全員がチャージしていくようなエンディングだ。
松岡彩
青かった空にオレンジ色が混じり、さらにその色が紫色に変化して、パープルの中のブルーの含有率がどんどん増えていく。夕暮れの空はすでにそれ自体が魔法みたいだ。アンコールの1曲目は「魔法のように」。「この曲はみんなで歌うところがたくさんありまして、もし良かったら、今日、野音に来てくれた女子と一緒に歌いたいと思います」と宮崎が言うと、「えーっ?」と男子からクレームの嵐。「歌いたい? でもこの曲は女の子の気持ちを歌った歌だから、心の底から女の子の気持ちになって歌ってくれるなら、許可する」ということで、会場に来た女子全員と、女子の心になりきった何割かの男子がともに歌う中での演奏となった。宮崎のギターに合わせてのシンガロング。女子力全開のハーモニーがうるわしい。一緒に歌うことをメンバーも観客もかけがえのないことだと感じていることまでもが伝わってきた。歌詞の<キラキラキラキラ>と連動してミラーボールが輝いていて、その光景そのものも魔法のようだった。この日のステージ、ここまでも効果的に照明が使われてきたが、自然光の中だったので、照明はあくまでも絵の具のように、ステージ上をカラフルに彩るという感じだったのだが、この瞬間に初めて光を放って輝いていた。このタイミングで照明のピークを持ってくる演出も鮮やかだった。
吉川美冴貴
「あんなに(空が)青かったのに、真っ暗になったね。すごいね。今日はどうでしたか?」と宮崎がふたりに聞くと、それぞれこんな答えが返ってきた。
「まずは暑かった。でも私も今日一日楽しめました。みなさんも笑ってくれたり、口ずさんでくれたりして、いいな、みんな、楽しんでくれたのかなって思えて、私もさらに楽しかったです」(松岡)
「ここに集まってきてくれたみなさんにもそれぞれの生活があって、楽しいことばかりではなくて、うまくいかないこと、しんどいこともあると思います。私自身も日々の中でそういうことが多くて。でもそういう生活を送っている中で、野音のステージに立って、たくさんのみなさんと出会うことが出来て、みなさんが歌っている声も聴けて、幸せだなと思いました。私も今日のことを忘れずに明日から頑張っていきますので、みなさんもつらいことがあった時に、今日のライブが頑張れる力になれたらと思っています」(吉川)
「私も今日は幸福を感じました。楽しかったという意味です。野音、3年目になりますが、本当に好きなんです。SHISHAMOをやる意味はこうやって、みんなの楽しそうな顔を見れること。またやりたいなと思いました。楽しかったです。終わっちゃうのさびしいですが、また明日から頑張りましょう」(宮崎)
宮崎朝子
アンコールの2曲目には8月2日にシングルとしてリリースされる新曲「BYE BYE」が演奏された。骨太なベースのリフから始まって、ソリッドなギターが加わって、ドラムがシャープにリズムを刻んでいく。ヒリヒリとした感触を備えたナンバーなのだが、クールでありつつ、切なさもあり、ハードでありながらしなやかさもあって、多面的な魅力を備えるという、背反する要素の共存がクセになりそう。この歌も夏の終わりが描かれていて、この季節にふさわしい曲と言えそうだ。アンコールの最後は「恋する」。カラフルなテープが発射されて、会場内が一体となって、盛りあがっていく。「恋」で始まって、「恋する」で終わったステージ。この野音の開放的な空間を最初から最後まで支配していたのは歌の数々だった。歌をしっかり届けること、観客を楽しませること、その2点においてまったくブレないところも素晴らしい。
笑ったり、泣いたり、切なくなったり、熱くなったり。SHISHAMOのライブを体験することは恋愛することにも似ている。「恋する」の歌詞に“イレギュラー”という言葉が出てくるのだが、この日の野音も参加した人にとってはイレギュラーで特別な体験となったのではないだろうか。恋と違うのは相思相愛の確率が高いこと、その関係が簡単に壊れたりしないことだろう。SHISHAMOの夏の野音、虫が増えすぎない限り、これから先も定着していきそうな予感がする夜だった。
取材・文=長谷川誠 撮影=岡田貴之
1. 恋
2. 行きたくない
3. 音楽室は秘密基地
4. みんなのうた
5. 君と夏フェス
6. 恋に落ちる音が聞こえたら
7. バンドマン
8. ともだち
9. 彼女の日曜日
10. すれちがいのデート
11. きっとあの漫画のせい
12. 終わり
13. 夏の恋人
14. 熱帯夜
15. 好き好き!
16. 笑顔のおまじない
17. タオル
18. 僕に彼女ができたんだ
19. 明日も
[ENCORE]
20. 魔法のように
21. BYE BYE
22. 恋する
UMXK-1050 ¥5,940(税込)
01. 好き好き!
02. すれちがいのデート
03. 恋に落ちる音が聞こえたら
04. 中庭の少女たち
05. きっとあの漫画のせい
06. 終わり
07. 音楽室は秘密基地
08. 恋
09. 夏の恋人
10. 熱帯夜
11. 明日も
12. 量産型彼氏
13. 僕に彼女ができたんだ
14. タオル
15. 君と夏フェス
16. メトロ
17. 魔法のように
18. みんなのうた
19. 生きるガール
20. 恋する
21. さよならの季節
「明日メトロですれちがうのは、魔法のような恋」
好き好き! 篇
音楽室は秘密基地 篇
明日も 篇
メトロ 篇
「メトロ」SHORT FILMS Ver.
UPCM-1416 ¥1,000(税込)
01. BYE BYE
02. 笑顔のおまじない