『交響曲第一番』から『交響曲第二番』へ~くるり・岸田繁が新境地を語る
-
ポスト -
シェア - 送る
『交響曲第一番』を発表して人脈も広がった、岸田繁
オルタナティブ・ロックバンド、くるりのフロントマン・岸田繁の長大なクラシック『交響曲第一番』のCDが5月に発売された。故郷・京都の京都市交響楽団の依頼に、約1年半かけて作曲。昨年12月にロームシアター京都で、広上淳一指揮で初演録音されたものだ。反響は上々の様子で、早くも『交響曲第二番』の構想を錬り始めているという。
『交響曲第一番』は5楽章構成で、演奏時間は50分超。どの楽章も音色が豊かで、まるで物語のようにさまざまな情景が展開し続ける。「交響絵巻」と呼びたくなる作品だ。
「クラシックのリスナーじゃない人の中には、長尺のサウンドの構築に驚いた人もいたようですが、いろいろ想像しながら繰り返し聴いてくれてるみたいです。自分としては新たなチャレンジではあるけれど、くるりもずっとそうして来たので、今までと違ったのは一人でやり抜いたことです。くるりでは、ベースの佐藤征史(まさし)と約20年パートナーでやって来て、彼はこちらが出したものに対していつも瞬時に対応してくれますから」
驚いたことに、楽譜制作ソフトは使わず、MIDIに音を打ち込んで作り上げたという。
「もともと譜面を書くの苦手で、かといって打ち込む操作が特別早いわけでもないんですけど、以前、指をケガしてギターが弾けないときに、MIDIに音を置いて曲を作るうち、五線譜に書いてるみたいやなと思えて…。今回も一音一音打ちこむたびに、いろんな楽器が頭の中で響いてました(笑)。第四楽章はギターを少し弾いてみたりもしましたけど」
出来上がったデータからオーケストレーションを調整しつつ記譜してもらい、オケ譜を完成させた。
感動のお披露目でスタンディングオベーションに応える。指揮者の広上と岸田(最前列) 昨年12月、ロームシアター京都メインホールで。pics by 井上嘉和
専門教育は受けていないが、岸田は子供の頃からクラシックをよく聴いていた。
「父が好きだったこともあって、レコードがたくさんありました。ベートーヴェンの交響曲第9番や第7番、ピアノ曲もよく聴いたし、チャイコフスキーのピアノ協奏曲のようにロマンチックな曲もいろいろ……。京響の定期演奏会にも行きました。それらが耳に残ってますし、音楽の仕事を始めてから本格的に触れた世界各地の音楽、例えば1930年代の黒人音楽やヴィラ=ロボスをはじめとするブラジル音楽などの惹かれる部分が見え隠れしてると思います」
くるりは98年のメジャーデビュー以来、従来のロックの枠にはまらない自由な発想で、幅広い音楽要素の息づいた柔軟な音楽作りを続けてきた。その源には「聴く」「感じる」「反芻する」などを自然に身につけた、岸田の「原風景」があるのだった。
クラシカルアレンジを生かした07年のアルバム『ワルツを踊れ』で新たな扉を開いたときも、前年に訪ねたウィーンでの音楽体験が刺激となった。
「それまではグリーグやビゼーなど旋律の分かりやすい作品が好きで、モーツァルトやバッハは今ひとつでしたが、古楽なども試しに聴いてみたら、すっかりハマって、旋律に対する考え方、捉え方が変化したというか…。以来、現代曲も楽しめるようになりました。指揮者ではニコラウス・アーノンクールさんのパフォーマンスが素晴らしかったなあ…」
翌年、ウィーンで『ワルツを踊れ』をレコーディング。その約10年後に初めて交響曲を発表した格好になる。指揮者の広上淳一や京響の奏者をはじめ、クラシック畑のプロとの初仕事は、勉強になり触発されることだらけで、人の輪も広がったようだ。
ライヴ音源のミックス編集での、国崎裕プロデューサーとの出会いもそのひとつ。
「楽曲の理解が素晴らしく、僕がなぜこの楽器を使い、どこを聴かせたいのかとか、説明するまでもなく把握してディレクションしてくれるんです。仕事もスピーディーで、ライヴをやってるようないい響きに仕上がっていくのが心地よく、僕は頭の中がずっと広がったままで快感でした」
国崎プロデューサーは、コロムビアレコードのクラシック部門で、足かけ20余年制作を担当。故・冨田勲、福田進一、田部京子らベテランから、1966カルテット、新進の反田恭平まで幅広くプロデュースした後、独立。心に響く音楽を丁寧に作る人だ。コメントを求めたら、真摯に回答してくれた。
「まず岸田さんの楽曲が素晴らしく、クラシック曲への純粋な愛情がてらいなく表現され、粗削りであっても彼にしか書けない魅力あふれるオリジナリティーを感じました。どのように仕上がるべきなのかが明確にスコアに示されていたので、迷うことなく仕事ができ、スコアを通じて作品作りのキャッチボールをしたような感覚があります。
例えば、ここでヴィオラが活躍することを期待しているんだなとか、金管がステージ奥から遠く響く感じでとか、確信をもって作曲したのだと、スコアから手に取るようにわかりました。また『ホールで聴くような自然な響き』というブレない目標があったので、スタジオで彼の微妙で繊細なリクエストに応えつつ、アルバム全体が一貫した主張を持った作品に仕上げられたと思います」
岸田にとって、本格的なオーケストラ作品を書くことは夢の一つだったが「実現性はないと思っていた」という。ところが、劇伴音楽を作ったりするうち、新たなクラシック音楽を模索する京響の柴田智靖チーフマネージャーから打診を受けたのだった。
「現代音楽ではなく、メロディーのあるものがいいと仰った。例えば、僕の好きな交響詩『我が祖国』の『モルダウ』みたいな…。結果はどうだったでしょう(笑)」
夢中で作り上げた第一番は、「シゲ1」(=岸田シゲルの交響曲第イチ番)の愛称で呼ばれ始めている。しかも、すでに「シゲ2」のオファーも。
「ええ、第二番のお話をいただいてて、構想を練り始めています。まだ何も決め込んではいませんが、今作に散らばっている要素を、一方向にまとめたような作品を作ってもいいかなと思ったりもしています。いつか四重奏とかも作ってみたいなあ。僕はゲーマーでもあるので、すぎやまこういちさんみたいになれたら…」
くるり 左から、佐藤、岸田、ファンファン
ファミコンゲーム『ドラゴンクエスト』のすべての音楽を作り続けるすぎやまのように、ポップスからシンフォニーまで幅広く作曲することが、今後の目標のよう。順調に進めば、来秋あたりに「シゲ2」が聴けるかも? 各地での「シゲ1」演奏も待たれるところだ。
9月23日には京都梅小路公園芝生広場で、くるり恒例の『京都音楽博覧会』を開催する。
文=原納暢子
くるり主催の野外イベント、11回目の開催
■日時:2017年9月23日(土) 開場10:30 開演 12:00 (いずれも予定) ※雨天決行・荒天中止
■会場:京都・梅小路公園 芝生広場 (JR·近鉄·地下鉄京都駅より徒歩15分 / 阪急大宮駅より徒歩25分)
■出演者:くるり / Alexandre Andrés and Rafael Martini / UA / Gotch(ASIAN KUNG-FU GENERATION) /
田島貴男(ORIGINAL LOVE) / Dhira Bong / Tomi Lebrero / 二階堂和美 / 布施 明
京都音博フィルハーモニー管弦楽団 / ハウスバンド:佐橋佳幸(Gt.)、Dr.kyOn (Key.)、高桑 圭(Ba.)、屋敷豪太(Dr.)
■京都音楽博覧会公式サイト:http://kyotoonpaku.net/2017/
■くるり公式サイト:http://www.quruli.net/