米津真浩「アレンジ版を通して音楽をより身近に」 ひとつの音楽から広がる世界へ
-
ポスト -
シェア - 送る
米津真浩(ピアノ) 撮影=岩間辰徳
あっという間の30分間 米津真浩 “サンデー・ブランチ・クラシック” 2017.8.6. ライブレポート
「クラシック音楽をもっと身近に」というコンセプトで、日曜日の昼のひと時を、音楽を聴きながら過ごす『サンデー・ブランチ・クラシック』。8月6日に登場したのは、すでにこのイベントでもおなじみのピアニスト・米津真浩だ。イタリアの名門・イモラ音楽院で学んだ後に日本で活動を開始し、テレビなどメディアにも積極的に出演しながら演奏活動を行っている。実に5度目の登場となった米津のライブの模様をレポートする。
まるで4つの小さなドラマ。疾走感あふれる30分
米津真浩 撮影=岩間辰徳
あっという間の30分だった。いきなり結論になってしまい恐縮だが、今回演奏された4曲はそれぞれに物語が感じられるような、曲の表情が豊か。まるで小さなドラマストーリーを4本見終えたかのように抒情性あふれる音色だったのだ。
1曲目はショパン「スケルツォ 第2番 変ロ短調」。主題、転調、主題とクライマックスの華やかなコーダへの流れは起承転結が感じられる。歌うような転調部分が美しく、そこへ「転」を感じさせる重厚感のある主題がなんとも効果的に響く。そしてリリカルに晴れ晴れしくハッピーエンドを迎えるような、そんな世界観が奏でられる。
米津真浩 撮影=岩間辰徳
続いてチャイコフスキーのバレエ音楽の、2人の音楽家によるそれぞれのアレンジ版が2曲続けて披露される。まずはローゼンブラット編曲の『白鳥の湖』より、もっとも有名な曲「情景」。これがジャジーなテイストも含んだ都会的なセンスが感じられる、モダンなアレンジなのだ。昼間の渋谷のファッションビルもいいが、都市の夜景を眼下にしながらしっとりとカクテルを傾けゆっくりと聴きたい気分にもなる「大人の味わい」なのである。
米津真浩 撮影=岩間辰徳
さらにプレトニョフ編曲『くるみ割り人形』より2幕「金平糖の精と王子のパ・ド・ドゥ」のアダージョへと続く。このバレエ作品のなかでは姫と王子がいよいよ登場する場面で奏でられる曲だ。こちらは原曲に忠実で、オーケストラをピアノにアレンジした際の技巧的な見事さが際立つ。しかし米津が弾くと、確かに技巧も見事だがやはりこれもまた、夢物語のクライマックスを盛り上げるロマンチックな世界が感じられ、ため息が出るような透明さを伴って響きわたる。この2曲、どちらもダンサーと共演してもらいたい味わいだ。
米津真浩 撮影=岩間辰徳
そしてこの日4曲目はショパンの「バラード第4番ヘ短調」。ショパンの最も円熟期にあった頃に書かれた最後のバラードで、演奏者にとっては非常に難物とも言われるものだが「一番好きな曲なので、大事に弾きたい」と米津。そしてその言葉通り、ていねいな一音一音が繊細に響く。これまでの3曲が都会の物語とすれば、このバラードは木漏れ日がキラキラと輝く田園風景のような世界。音から醸される世界に引き込まれる。
満場の拍手のなか、アンコールは一転して圧巻かつスピーディーな超絶技巧曲、リムスキー=コルサコフ「熊蜂の飛行」。あっという間に熊蜂の群れが飛び過ぎて行ったかのように、30分を締めくくった。
終演後には交流も 撮影=岩間辰徳
今後はアレンジ音楽を中心としたコンサートも
演奏を終えた米津に、この日の演奏や今後の予定などについて話を聞いた。
――全力で疾走したかのような30分でしたね。
そうなんですよ、ノってくる前に終わってしまった感じです(笑)。
――今回の『サンデー・ブランチ・クラシック』での演奏はいかがでしたか?
毎回緊張します。この会場はお客さんとの距離が近いので、ちゃんと演奏が伝わっているのかな、と心配になりますし。今回はこういう場で弾くのは重い選曲かな、と思いましたがこちらの緊張感を察して聴いていただけて良かったです。
――今日はチャイコフスキーの有名なバレエ音楽の、ピアノのアレンジ版を演奏されましたね。この曲を選んだのはなぜでしょう?
僕が音楽活動をするにあたっての最終的な目標のひとつに「クラシックをもっと身近に聴いてほしい」というのがあるんです。その一環として、実は秋頃にアレンジ版を中心としたコンサートを考えているんです。今回はそのコンサートも念頭に置いて選んでみました。
今日弾いたチャイコフスキーにしても、ほかの作曲家にしても、名曲だからこそアレンジ版ができるわけですよね。プレトニョフ編曲のチャイコフスキーは6曲、ローゼンブラット編曲のものは5曲ある。ストラビンスキーの「火の鳥」もピアノのアレンジ版があります。そうしたアレンジ版を通して、お客さんに楽しんでいただきながら自分も楽しみ、でも演奏する曲のクオリティはきちんと伝えながら、ピアノの可能性も提示していきたいなと。ピアノのアレンジ版を聴いたのをきっかけに、原曲を聴いてみようと思う人もいるかもしれませんしね。
インタビューに答える米津 撮影=岩間辰徳
――アレンジ版のみの演奏会、興味津々です。同じアレンジ版にしても今日のローゼンブラット『白鳥の湖』とプレトニョフ『くるみ割り人形』は個性が全然違いましたね。
アレンジする人によってテイストがまったく違うのも面白いですよね。ただピアノにアレンジする人はピアニストの方が多いので、超絶技巧に寄りがちかもしれません。プレトニョフは技巧系ですね。ローゼンブラットのものは今日の演奏の中で一番落ち着いた曲でした。これからも少しずつレパートリーを増やして行きたいです。
――今日のバレエ音楽のアレンジ版を聴いていたら、コンテンポラリーバレエなどダンサーと共演で観てみたいとも思いました。
そうなんです。僕は高校に入るまでダンスをやっていたので、ダンサーとのコラボレーションもいつかやってみたいんです。音楽を通していろいろやってみたい。僕はクラシックが好きなので、あくまでもベースはクラシックに置きながら、どんどん世界を広げたいなと思います。
米津真浩(ピアノ) 撮影=岩間辰徳
取材・文=西原朋未 撮影=岩間辰徳
会場:ティアラこうとう 大ホール
出演:斎藤雅広(構成・演出・ピアノ)、加羽沢美濃(ピアノ)、伊熊啓輔(オーボエ・イングリッシュホルン)、古川はるな(フルート)、1966カルテット(ピアノ・カルテット)、山田姉妹(ソプラノ・デュオ)、米津真浩(ピアノ)
日時:2017年9月23日(土) 16:00~
会場:かくだ田園ホール(角田市市民センター)
公式サイト:http://www.city.kakuda.lg.jp/syogai/page00279.shtml
真実のディーリアス ~小町 碧 出版記念リサイタル~
会場:銀座・王子ホール
出演:小町碧(ヴァイオリン)、米津真浩(ピアノ)
公式サイト:http://www.t-artists.com/artists/concert2.asp?uid=18&id=1046
1966カルテット
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円
藤原功次郎/トロンボーン&原田恭子/ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円
高橋洋介/バリトン
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円
千葉清加/ヴァイオリン&須藤千晴/ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円
福原彰美/ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円
10月15日
鈴木舞/ヴァイオリン&實川風/ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円
■会場:eplus LIVING ROOM CAFE & DINING
東京都渋谷区道玄坂2-29-5 渋谷プライム5F
■お問い合わせ:03-6452-5424
■営業時間 11:30~24:00(LO 23:00)、日祝日 11:30~22:00(LO 21:00)
※祝前日は通常営業
■公式サイト:http://eplus.jp/sys/web/s/sbc/index.html