宮澤エマが”ワケあり”ヒロインの魅力をたっぷり語る! ~屋良朝幸主演の切ない純愛ミュージカル『ドッグファイト』再演
-
ポスト -
シェア - 送る
『ドッグファイト』合同インタビューにて(撮影/石橋法子)
2015年、屋良朝幸主演で上演されたミュージカル『ドッグファイト』が一部キャストも新たに再演される。2012年にオフ・ブロードウェイで初演。リバー・フェニックス主演の映画でも知られる、ほろ苦い青春ストーリーだ。ベトナム戦争出征前夜のアメリカ、サンフランシスコ。エディ・バードレイス(屋良朝幸)は仲間たちと「ドッグファイト」に興じていた。これは、パーティーに一番イケてない女の子を連れてきた者が賞金を得るという海兵隊に伝わるゲームだ。そんなエディーと最悪の出会いを果たすヒロインのローズ・フェニー役には、初演に引き続き宮澤エマ。大阪の合同インタビューで再演への思いを語ってくれた。
「”人間の尊厳”という大きなテーマが歌の力で届く、ミュージカルの魅力です!」
ーー物語は「女の子を見つけにいくぞ!」という海兵隊ボーイズたちの軽快な歌とダンスに始まります。
オフ・ブロードウェイ版はダンスパーティーシーンで少し踊るぐらいで、ストレートプレイに近い演出ですが、日本版は振付家の方がいらしてしっかりとダンスを踊っています。屋良さんも「こんなに踊るの!?」というぐらい、クラシカルなシアタージャズから屋良さんが得意とするヒップホップ要素が入ったものまで。楽曲のハモりも複雑なので、あれだけ激しく踊りながら歌うのは大変だろうなと、他人ごとのように見ていました(笑)。
宮澤エマ
でも本当に、男の子たちが最後の夜を過ごす興奮や高揚感は引き込まれるほど迫力があって、物語の導入部分としてとても素敵です。男の子たちが”動”だとしたら、私が演じるローズは、ウェイトレスとして働くダイナーから出たことがない”静”の存在なので、その対比が冒頭で描かれているのもいいなと思います。
ーー初演で印象に残っているエピソードは?
ティーンの主人公とヒロインがすごくカワイイんですよね。でも恋愛的な要素は映画版の方が強くて、舞台では台本の冒頭に「これはボーイミーツガールの物語ではあるけど、恋愛の話ではない」としっかりと書いてある。主軸は、相容れない考え方をもっている人間がどのように一晩を通して距離を縮めていけるか。恋愛ものを期待していた方からは、「エンディングが消化不良」という声も聞かれました。
ーー確かに戦争の前後を描く1幕と2幕とでは、ストーリーの質感もガラリと変わります。
もちろん受け取り方は様々で良いと思いますし、二人が惹かれ合うビタースウィートな部分も描かれるんですけど。戦争を乗り越えた大恋愛ものというよりは、「人間の尊厳ってなんだろう」という大きなテーマがある。2幕でエディの姿を見たローズが彼にある一言を投げ掛ける、それがすべてなのかなと思います。人として信じるものや考え方に違いはあっても、心と心が触れあえば通じ合うことができる。
今はSNSなどで情報のスピードが速く表面的な所ばかりを見がちですが、たった一晩でも相手の話をじっくりと聞いて「分かろう」と歩み寄ることで、思いもよらない共通点が見つかることもあるよと。そんなシンプルなメッセージが押し付けることなくすっと届くのは、歌の力で伝えるミュージカルの魅力だなと改めて思いました。
ーーローズはどういう女性だと?
フォークシンガーになりたい夢があってダイナーの片隅で練習はしているんだけど、とても人前では披露できないと思っている。そんな時、エディにダンスパーティーに誘われて、外の世界へ飛び出てはみるものの、『とても笑えるわ』という切ないナンバーを歌うほど傷つくことにもなるんですけど。普通なら次にエディがデートに誘いに来たら「帰ってよ!」て言うと思うんです。でもローズは「いま断れば、私はただのデブでブスで悲しい女の子で終わっていた。でも私は強い人間になる。私が自分でデートに行くと決めるの。あなたに私の価値を決めさせない!」と言う。優しさの中に強さを秘めている、素敵な役だなと思います。
「ある意味みんなにバカにされる存在だったローズに、みんなが教わる瞬間がある」
ーーローズはビジュアル面での作り込みにも、試行錯誤があったそうですね。
映画だとクローズアップもできるので、表面的なものと内面的な美しさの対比は見せやすいと思うんですが、舞台だと最前列の方以外は難しい。美しくないことを誇張する必要もないけど説得力も持たせたいし、そのバランスが難しいです。肉襦袢の大きさは基本的に1、2幕では変えていませんでしたが、「ローズがどんどん綺麗になっていった」という声をたくさん頂けて嬉しかったですね。この作品はエディの回想録でもあると思うので、みなさん自然と感情移入できたんだろうなと。
宮澤エマ
ーーローズの歌声にも聞き惚れました。
『ビューティフル アンド ストレンジ<終わる前に♪より>』は、ローズの魅力が一番詰まった要の曲です。エディに何でデートのやり直しに応えてくれたの?と聞かれて、世の中は可能性に満ち溢れていて、それを自分のものにするのは自分次第だからと歌うナンバー。彼女がこれまで生きてきた中で、辛く惨めに思うこともあったけど、自分のことをもっと愛して信じてあげようと思えたら、きっと色んなことが可能になるはずだと。あの曲ほど色んな方に「勇気を貰った!」と言って頂ける曲はないですね。
特に女の子に対してはポジティブなメッセージだなと。初演では客席の98%くらいが若い女性で、ローズの曲を通して「きっともっとできるはず!と、背中を押されたような気がします」「見た目や第一印象は大事だけど、それ以外の美しさを持つローズに私も教えられました」と、たくさんの声を頂きました。ある意味みんなにバカにされる存在だったローズに、みんなが教わる瞬間がある。すごい力を持った素敵な曲だと思います。
ーー作詞・作曲はベンジ・パセック&ジャスティン・ポール。今年アカデミー賞に輝いたミュージカル映画『ラ・ラ・ランド』で大半の作詞を手掛けた、85年生まれの若手コンビです。
彼らが作詞・作曲を手掛けたミュージカル『ディア・エヴァン・ハンセン』ではトニー賞オリジナル楽曲賞を獲られています。今のアメリカで若者の気持ちを代弁させたら右に出るものはいない。お二人とも男性なのに言葉選びが繊細で、ローズという女性の気持ちを丁寧に描いていて凄いなと思います。いまアルバムを聞き直しているんですが、海兵隊の歌も悔しいぐらいにキャッチーなんです。言ってることは最低だしノリたくないんだけど、軍隊のグループ心理というか「俺たちやったるで!」という高揚感の中、疑問を持つことも許されないまま、男の子たちが良くない方向性に向かって行く。その感覚をお客さんにも感じ取って頂けると思います。
宮澤エマ
ーー印象的なナンバーは?
『ホームタウン ヒーローズ<地元のヒーローの凱旋パレード♪より>』は、第二次世界大戦から帰還した祖父たちのように、自分たちもヒーローになるんだ!と無邪気に歌うナンバー。男としてベトナムに行きたいからと娼婦に無理強いしようとする場面では、まわりに「やれやれ!」と言われて、よく分からないまま行動に移してしまう若い男の子たちのメンタリティーが、力ずくで戦争に向かって行く当時のアメリカの機運とも重なって…。ボンボンボンと駆り立てるような行進のリズムもすごく上手くて、何のトレーニングも受けていない子供みたいな男の子たちが、戦地に送られて行ったんだなというのが見てとれる。物語を通して、自分で考えて行動することの大切さも感じました。
ーー改めてお客様へメッセージを。
初演では「こんなストーリーだと思っていなかった」という驚きと同時に、思いがけず「これは自分たちのストーリーだ!」と感じた方も多かったと思います。女性なら痛いほどローズの気持ちが分かるだろうし、男性も共感する部分があったと思う。ティーンの頃は、誰もが他人によく見られたいと思うもの。ローズやエディにまた会いに行きたいと思って貰えたら嬉しいですね。
■脚本:ピーター・ドゥシャン
■演出:山田和也
■出演:屋良朝幸、宮澤エマ、中河内雅貴、矢田悠祐、浜中文一(関西ジャニーズJr.)、末澤誠也(関西ジャニーズJr.)、木内健人、七瀬りりこ、春風ひとみ、ひのあらた、保坂知寿
■公式サイト:http://www.tohostage.com/dogfight/
■日程:2017年12月8日(金)~11日(月)
■会場:サンケイホールブリーゼ
■日程:2017年12月14日(木)~30日(土)
■会場:シアタークリエ
■日程:2018年1月6日(土)
■会場:愛知県芸術劇場 大ホール