EGOIST 静かに壁を崩しゆく「革命家の音楽」 ライブレポート
-
ポスト -
シェア - 送る
2017.07.21(Fri) Zepp Diver City EGOIST「Greeting Tour 2017「E/A」
全く先入観を持たずに、EGOISTの世界を見て欲しい。編集部の依頼を受け、7月21日のZepp Diver City、『EGOIST「Greeting Tour 2017「E/A」』を体験した。ポップス/ロックの分野でのライティングが多い筆者にとって、ryo (supercell)のプロデュースする楽曲は耳にしていたし、『ギルティクラウン』の世界から飛び出し、活動のフィールドを拡げていることも知ってはいたが、予備知識はそれだけ。一般的な音楽リスナーと同じ条件で、目に映るものをしっかり見よう。ぎっしりと埋まったフロアと、暗いステージに浮かび上がる「E/A」のロゴ。19時15分、照明が落とされ、カラフルなペンライトが一斉に灯される。いよいよ開演だ。
1曲目、イントロと共に暗闇に光が弾け、背後のスクリーンにアニメーションが映し出される。と、何もない空間にいきなり現れる少女の姿。楪いのりだ。鮮やかなピンクの髪、胸元と背中の大きく開いた緋色のドレス。幻影のようでいて、しっかりと肉体感のあるその姿、これはヴァーチャル・リアリティ、3Dホログラムというのか、手に触れられるように生々しい。
そして、それを歌うのがchelly。静と動が激しく入れ替わる、EGOIST特有のドラマチックな曲調を、独特の湿り気を帯びた低音、エアリー成分の多いボイスを駆使して歌い上げる。「名前のない怪物」から「KABANERI OF THE IRON FORTRESS」へ、一瞬で和服にミニスカートの衣装に変身する、ヴァーチャルならではの早変わりに目を瞠る。さらに、ジャズ・バラードの香り高い「Door」と、3曲続けてタイアップが異なり、背後に映されるアニメが変わるため、視覚的にも飽きさせない。フロアを埋めたブルーのペンライトが、波のように揺れる。歓声、拍手、ジャンプ。ファンの熱狂は、他のアニソン、アイドル系のライブに勝るとも劣らない。主役がVRであることは、ここではまったく問題にならない。
「みなさんこんばんは。EGOISTのボーカル、chellyです。今日、めっちゃ暑かったね。暑い中お越しいただき、ありがとうございます」
楪いのりの姿を借りた、chellyによる、柔らかくてちょっとゆるめなMC。彼女自身はステージにはいないが、おそらくモーションキャプチャーのシステムを使って、リアルタイムで歌い、話している。「お水を飲みます」と、飲むポーズは取るものの、そこに水はない。VRならではの、ちょっとした奇妙な動きが面白い。
曲は「英雄 運命の詩」。今回のツアーの核となる、TVアニメ『Fate/Apocrypha』オープニングテーマのこの曲。オルゴールのような抒情的な音が、暴走するハードコアテクノへと変貌し、オペラ風多重コーラスが重厚に鳴り響く。スクリーンでは、剣と魔術による、生死を賭けた戦いが果てしなく続く。楪いのりが身にまとうのは、ジャンヌダルクの甲冑。EGOISTが関わる作品は、戦いをテーマにしたものが多く、ryoの作る楽曲にもあえてバイオレントな要素がある。それに対して、chellyが体現するのは、力に対抗する愛と平和。なんとも危うい、絶妙なバランス。
chellyが呼びかけ、男子と女子に分けた“点呼”では、女子ファンの声の大きさに驚かされた。いわゆるアニソン枠を超える、普遍的な魅力がEGOISTにはあるのだろう。さらに強力なハードコア・ハウス・チューン「Fallen」から、ヒップホップ・マナーの「Welcome to the *fam」へ。ゴスロリ風の衣装で“Say,Ho!”と、コール&レスポンスを仕掛ける姿がとてもキュート。会場の熱気は更にヒートアップ、ボディコンシャスな黒服に黒タイツで歌う、強力な四つ打ちチューン「リローデッド」では、オーディエンスからの掛け声の音量がハンパない。凄い盛り上がりだ。
「この並び、鬼畜じゃないですか(笑)。自分で考えて、首を絞めました」
続いては、落ちついた曲を。そう言って歌い始めたのは、美しいピアノの音色がリードするバラード「Ghost of a smile」。スクリーンに映る、青空、花、海など、美しい自然の風景と、せつない愛の言葉とが優しく絡み合う。「All Alone With You」も荘重なピアノから始まり、サビでは猛烈なロックビートが炸裂する、へヴィ・ロックバラード。さらに、EDMとロックを融合させたドラマチックな「永遠」へと、スロー/ミディアムでありながら、圧倒的なパワーで迫る曲が続く。chellyの声は、一見するとはかなげだが、猛烈な音圧に負けていない。ウィスパー成分が多いにも関わらず、不思議に力強い声だ。
「名残り惜しいのですが、次で最後の曲です。(アンコール!という掛け声に)それはみなさん次第ではないですかね(笑)」
ラスト・チューンは、エレクトリック・ピアノの柔らかい音と、シンプルなバンドサウンドが生み出すバラード「Departures~あなたにおくるアイのうた~」。EGOISTを世に送り出した“ノイタミナ”アニメ『ギルティクラウン』エンディングテーマのこの曲、6年後の今も、悲しい美しさは変わらない。七色のペンライトが輝く中、ハイトーンのフェイクを鮮やかに決めるchelly。熱い拍手が、会場全体を包み込む。
みなさん次第のアンコールは、もちろんある。ツアーTシャツ、ミニスカートで再登場した楪いのり、chellyが歌うのは、このツアー恒例となっている日替わりカバー。この日選ばれたのは、Kalafinaの「満天」だった。弦とピアノとバンドが織り成す、クラシカルで壮大なバラード。歌い終えたchellyが、「すごく好きな曲で、歌わせていただいて幸せです」と頭を下げる。そしていよいよ、この日のラスト・チューン。「ファンのみなさんが、いつも好きだと言ってくれるこの曲を」と言って歌ったのは、「キミソラキセキ」。スクリーンの中のブルーのイルミネーションが、そのままフロアの青いペンライトの波につながって見える。なんとも幻想的な美しいシーン。
「バイバイ。また会いましょう」
chellyのMCによると、「Greeting Tour」というのは、新しいファンのための自己紹介のようなもので、EGOISTの代表曲がまとめて聴ける代わりに、通常のツアーよりも時間は短めらしい。そのぶん
ただ一つ、違っていたのは、彼女の姿が消えたあとの、夢から覚めたような儚さとせつなさ。通常のライブ/コンサート以上に、何か不思議なものを見たという余韻がいつまでも残る。それをまた確かめたくなる。それとは知らぬ間に、中毒性と常習性を秘めたEGOSITの世界。ヴァーチャル・リアリティと、リアル・リアリティとの境界を静かに崩してゆく、EGOISTは何よりも革命家なのかもしれない。
レポート・文:宮本英夫
01.名前のない怪物
02.KABANERI OF THE IRON FORTRESS
03.Door
04.英雄 運命の詩
05.Fallen
06.Welcome to the *fam
07.リローデッド
08.Ghost of a smile
09.All Alone With You
10.永遠
11.Departures~あなたにおくるアイのうた~
<Encore>
En1.満天(Kalafinaカバー)
En2.キミソラキセキ