東京演劇大学連盟、5年目の共同制作は“即興演劇ライブショー”シアタースポーツ™に挑戦

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舞台
2017.8.23

 東京演劇大学連盟(演大連)という団体があるのを初めて知った。桜美林大学、玉川大学、多摩美術大学、桐朋学園芸術短期大学、日本大学という演劇を学べる5大学が、「演劇の実技教育および舞台芸術創造の体系化構築」「演劇大学と公共文化施設との連携」「演劇大学の教育力また人材育成力を広く社会に還元する」などなどいくつものミッションを掲げて結成した団体だそう。20年以上も前からそれへの期待は高まっていたものの、「文化芸術振興基本法」制定、「劇場法」公布が後押しになり、一気に展開が進んだ。

 注目したいのは結成初年度からスタートした共同制作公演。毎年1校が主幹校となり、スタッフ・出演者として、ふだんは接点のない学生たちが集まっての公演が行われている事実はすごい。これまでにソーントン・ワイルダーの『わが町』、永井愛の『見よ、飛行機の高く飛べるを』、野田秀樹の『カノン』、山本卓卓の『昔々日本』を上演してきた。『カノン』の特別サイトを見たら、演出の野上絹代のほかに、戯曲を書いた野田秀樹(多摩美大教授)のワークショップも行われている、なんて贅沢なのだろう。そして今年は一転、「Theatresports™」にチャレンジする。

即興で劇をつくり、その成果をスポーツのように競うライブショー

「Theatresports™」お稽古の様子  写真提供:東京演劇大学連盟事務局

「Theatresports™」お稽古の様子  写真提供:東京演劇大学連盟事務局

 皆さんは「Theatresports™(シアタースポーツ™)」をご存知だろうか。これは即興演劇のジャンルのひとつ。即興はインプロ(Improvisation=インプロヴィゼーション)と呼ばれるが、それは演劇はもちろん音楽やダンスなどの芸術における創作・表現手段だ。即興演劇には、打ち合わせや台本はなく、提示されたテーマに対して、役者だけではなく音響や照明などスタッフまでもが協力しながら、それぞれの中にある感性や人生経験をその瞬間瞬間にぶつけ合い、何が起こるかわからないストーリーを構築していくというもの。

 その一つのジャンルであるシアタースポーツ™は、チームごとに即興で劇をつくり、その成果をスポーツのように競い合うライブショーなのだ。観客などが出したお題に従って、たとえば自分では動けない人形役と動きをつける操り役で物語を進めていく「パペット」、スター役とスタントマン役に分かれてスターが演じたくないシーンをスタントに任せる「スタントマン」などなどさまざまなルールの中で演じていく。審査員はスキルやエンターテインメント性などを考慮して点数をつけ、最高得点を獲得したチームが優勝となる。僕も審査員を務めたことがあるが、緊迫した空気、俳優の必死さ(困り具合とも言う)、客席に伝播するハラハラドキドキの臨場感、ありえないところで起こる笑いなどが渾然一体となって、完成度の高い作品ができ上がったときには、どんな脚本にも負けない、いや脚本をもとにしている演劇では生まれえないカタルシスに魅了される。僕自身その感動にハマった一人でもある。そこには人生経験の豊富さ、発想力や機転、訓練などから培われる周囲を置いていきぼりにしないキャッチボールなどが大事になってくるのだけれど。

「Theatresports™」お稽古の様子  写真提供:東京演劇大学連盟事務局

「Theatresports™」お稽古の様子  写真提供:東京演劇大学連盟事務局

「Theatresports™」お稽古の様子  写真提供:東京演劇大学連盟事務局

「Theatresports™」お稽古の様子  写真提供:東京演劇大学連盟事務局

「Theatresports™」お稽古の様子  写真提供:東京演劇大学連盟事務局

「Theatresports™」お稽古の様子  写真提供:東京演劇大学連盟事務局

   ではなぜ今回、シアタースポーツ™を演大連の演目として選んだのか、玉川大学の多和田真太良助教(演大連事務局)にうかがった。

 「まず日本大学が現代演劇の幕開けともいうべき『わが町』を取り上げ、次に“新劇”の伝統を継承する桐朋学園芸術短期大学が『見よ、飛行機の高く飛べるを』、さらに小劇場演劇の隆盛期を担った野田秀樹さんが教授を務める多摩美術大学が『カノン』に挑み、そして日本の現代演劇に多数のホープを送り出している桜美林大学は、山本卓卓が『昔々日本』を書き下ろしました。“戯曲を上演する”という演劇の一つの形式に対して、極めて筋の通った形で演劇実践系大学の一定の姿勢を見せることができたのではないかと思います。

 主幹校を務める大学が、それぞれに特色を出したことで、日本の演劇の裾野の広さと、大学演劇の多様性、その中でも共通する舞台芸術の魅力を提示してきたのが東京演劇大学連盟の5年だったのかもしれませんね。大学間の“異文化交流”が、各大学の創作活動に還元されているのも大きな成果だと思います。

 そして5年目の担当が玉川大学。残り物には福があるといいますが、こういう場合だんだんと選択肢が狭まって、後になるほど正直やりにくいですよね。似たような作品はできない雰囲気です(笑)。そこで本学では4年間で扱ってこなかったものに目を向けてみました。それが“本”のない即興劇の世界。玉川大学では2015年と2016年に学内の実習公演でシアタースポーツ™を上演しています。日本の大学でシアタースポーツ™の上演ライセンスを保持しているのは玉川大学だけです。この強みを生かし、また日本の俳優たちに限らず、私たち日本人全体に言えることかもしれませんが、特に苦手としている即応力を伸ばし、若くてエネルギッシュな公演が打てないかと考えました。共同制作5年の節目に、華やかな祝祭的ムードのある公演にしたいと考えています。これまでの5年を振り返るとともに、これからの5年を見据えた公演にしていきたいと思います」

「Theatresports™」お稽古の様子  写真提供:東京演劇大学連盟事務局

「Theatresports™」お稽古の様子  写真提供:東京演劇大学連盟事務局

学生たちが協働的でクリエイエィブな冒険家になっていく

 8月に入って、学生たちは一堂に会しての稽古を開始した。指導者の一人は、演出を務める俳優の絹川友梨(インプロ・ワークス代表)。玉川大学と桜美林大学非常勤講師でもある。絹川は今回の公演でジャッジを務める奈良橋陽子(9/18)の紹介でシアタースポーツ™に出合い、のめり込み、日本の初演(1994) からずっと出演し続け、ドイツの世界大会(2006)や海外のカンパニーのそれにも出演してきた日本の即興演劇の第一人者。この春から、即興演劇を独自の視点から解析するために、東京大学大学院学際情報学府博士課程で研究を重ねている。その話は別途インタビューしたので後日あらためて。

「シアタースポーツ™は西欧で生まれたものなので、日本人には違和感があるところも確かにあります。今回は、日本の演劇人や学生さんとのコラボによって、そこがかなり現代日本流になっています。面白いです。即興という環境装置はすごいもので“即興で演劇を創る。しかもエチュードではなく、作品として観客の前に提示できるレベルのものを”という心臓が飛び出そうにハイリスクな環境に学生が飛び込むことで、彼らは協働的でクリエイエィブな冒険家になっていくのです。すでに稽古中の学生はめちゃくちゃ面白くて。怖いもの知らずというか、突拍子もない発想を堂々とやってのける子が数人います。指示待ちの学生も、もう逃げられません。次第に自分から動くようになっていきますね。

 このシアタースポーツ™という即興環境装置は、学生たちのポテンシャルを引き出し、チームワークによって化学反応が起こり、彼らをさらに高みへと押し上げてくれることでしょう。ぜひ見にいらしてください」

演出の絹川友梨  写真提供:東京演劇大学連盟事務局

演出の絹川友梨  写真提供:東京演劇大学連盟事務局

 さて、大学生のインプロはどうなることか。今回は、大学をシャッフルした混成チームが8つつくられ、4チームごとにAプロ、Bプロを構成。出演しないプログラムでは「アスリート」としてテニスのボールボーイのように、シアタースポーツ™を進行するアシスタントを務める。また即興ミュージシャンが、プレイヤーと観客が一体となって楽しめるエンターテインメント空間を演出する。学生たちのパフォーマンスをつなぐMC役の山田宏平も、きっと笑いも駆使して会場を大いに盛り上げてくれるだろう。ラウンドガールもいたらうれしいなあ。2時間休憩なしの息もつかせない白熱の即興対決が繰り広げられる。

 即興演劇は日本では一般的ではないけれど、エチュードとして演劇の稽古に組み込まれているのは有名だ。けれど、そもそも人生が即興の連続であることを僕らはつい忘れている。

公演情報
演劇系大学共同制作vol.5『 Theatresports™ 』
 
■日時:2017年9月15日(金)~9月18日(月・祝)
■会場:東京芸術劇場シアターイースト
■演出:絹川友梨 太宰久夫
■ムーブメント:木佐貫邦子
■出演(共同制作公演オーディション合格者):
青木みなみ 阿部樹里亜 阿部百衣子 石田彩乃 岩見聡文 上杉 颯 
大西 薫 小畑水芙 加來梨夏子 金子美紗 金田紗季 金森朱音 河内宏大 河野こころ 
河野まとい 小林華子 城あすか 下川原裕香 神保玲奈 
鈴木天優 武市都生実 丹野武蔵 地福海也乃 富山華佳 中村 泉 
畑中瀬音 長谷川亜弓 林 夏生 福井詩織 福岡悠莉  
昌本尚輝 森本野々花 山賀季輝 薮田 凜 由井みなみ 芳田 遥
■MC:山田宏平
■即興ミュージシャン:磯村由紀子 柴崎仁志
■ジャッジ:
15日:ペーター・ゲスナー 四大海 中野成樹
16日昼:野上絹代 鈴木聡 四大海
16日夜:西山水木 四大海 園田英樹
17日:鐘下辰男 松浦佐知子 今井敦
18日: 西岡德馬 四大海 奈良橋陽子
(全席自由・日時指定):
一般2,000円 / 大学生1,500円 / 高校生以下500円
2回セット券(一般のみ)3,500円 ※未就学児入場不可
■開演時間:15日19:00、16日13:00 / 18:00、17・18日13:00 
※Aプロ:15日・16日昼/Bプロ:16日夜、17日/優勝決定戦:18日
■問合せ:演大連 Tel.090-7012-8544、endairen.ts2017@gmail.com
また9月17日(日)には、東京演劇大学連盟 設立5周年記念シンポジウム「『演大連』の5年」(仮)を東京芸術劇場シアターイーストで開催する。第1部は15:30、第2部は18:00より。参加無料(シンポジウムへは別途要予約、公演の半券での入場は不可)。

演劇系大学共同制作vol.5『 Theatresports™ 』 http://www.endairen.net/theatresports/index.html
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