桑田佳祐 約6年半ぶりオリジナルアルバム『がらくた』にある“我々の聴きたい以上の桑田佳祐”
桑田佳祐
桑田佳祐『がらくた』ディスクレビュー 文=兵庫慎司
ルーツミュージックに直結したブギーチューンに乗せて、今の自分の姿を自虐的かつ戯画的に勢いよく歌う「過ぎ去りし日々(ゴーイング・ダウン)」。
オールディーズやドゥワップの要素がふんだんに盛り込まれている感じがひたすら心地いい(朝ドラで聴いている時以上にそう感じる)「若い広場」。
80’sテイストのシンセの音色も、ドラム&ベースの打ち込みのしかたも懐かしい、そしてその懐かしさがサビのドラマチックさをいっそう際立てる「大河の一滴」。
ピアノ弾き語りで始まり、ストリングスやホーンをうっすらとまとって美しいメロディが連なっていく「簪 / かんざし」。
せつなさと明るさ、虚無と楽しさが同居するビーチボーイズ的ポップチューン「愛のプレリュード」。
言葉数過剰気味に、字余り感満載でメロディに押し込んでいく桑田の得意技であるブルースナンバー、「愛のささくれ~Nobody loves me」。
内村光良監督・主演映画のために書き下ろしたら、もう感涙するしかない王道桑田メロディと王道桑田リリックが炸裂する、という最上の結果になった「君への手紙」。
現在の世情・現在の言葉・現在の音楽に、桑田流のアプローチで向き合った「サイテーのワル」。
って書いていくと、このままラストの15曲目「春まだ遠く」まで行ってしまいそうなので、このへんでやめます。
とにかく。基本的に、桑田佳祐が新しいアルバムを出す、という時点で“そもそも作って出してくれること自体が幸福”という厳然たる事実があるし、“でもスベったものになるくらいなら出さない人だからすばらしいに決まってる”という安心感も持っているのが桑田ファンという人種ではあるが、にしても、だとしても、ここまでか!? というくらい、聴き手を幸せにしてくれるアルバムである、これは。
サザンオールスターズのことまで含めるとテーマがでかくなりすぎて収拾がつかないのでソロ桑田佳祐にしぼるが、でもほんとはサザンまで含めて言及したい気持ちもあるのだが、特に「大河の一滴」を『人気者でいこう』とからめて書いたりしたい、ああっ、したいのだが、そんな気持ちをぐっと押えて書きます。
最初のソロアルバム『Keisuke Kuwata』(1988年)の打ち込み感・密室感がある。セカンド『孤独の太陽』(1994年)のパーソナルな独白感がある。サード『ROCK AND ROLL HERO』(2002年)のブルース/ロックンロールへのルーツ回帰感がある。『MUSICMAN』(2011年)のシリアスなメッセージ性がある。サードの前に出たけどアルバムには収録されなかった「波乗りジョニー」や「白い恋人たち」の、言わば“国民的ポップス作家桑田全開”なトーンに通じる曲もある。
要は全部があるのだ、我々の聴きたい桑田佳祐の。いや、パーソナルな感触が強いあまり、狂気的なトーンにちょっと手がかかっている部分まである、という点では、“我々の聴きたい以上の桑田佳祐すらある”と、言い足してもよいかもしれない。
桑田ってすげえ。なんてこたあ10歳で「勝手にシンドバッド」でファンになってから39年にわたって痛感し続けてことだが、サザン休止して、病気と療養があって、サザン復活して、その次にまだこんなにソロでもすげえってどういうことだ、と言いたくなる。
物心ついてから(つまり大人になったら憶えてないくらい幼くはない時に)桑田に出会えてよかった、そのデビューをリアルタイムで知ることができた世代でよかった、その後もずっと桑田を聴きながら暮らしてこれてよかった、と、本当に思う。
あとひとつ。「ヨシ子さん」の<エロ本(エロ本) エロ本(エロ本)エロ本>のところ、なんで“エロホン”じゃなくて“エロボン”と桑田は歌っているのかに関して、自分なりの結論が出たので、近いうちにどこかで書きたいと思っています。
けっこう前にシングルで出た曲なのに、今さら?というのはありますが、8月6日の『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2017』出演時、ステージを観ていて、急に“あ、そうか”と気がついたのでした。滂沱の涙を流しながら観ていたのにそんなことに気がつくなよ。と自分でも思う。
文=兵庫慎司
桑田佳祐『がらくた』
・初回生産限定盤A (CD+Blu-ray+特製ブックレット)VIZL-1700 4,800円(+税)
・初回生産限定盤B (CD+DVD+特製ブックレット) VIZL-1701 4,500円(+税)
・初回生産限定盤C (CD+特製ブックレット)VIZL-1702 3,500円(+税)
・通常盤 VICL-65000 3,300円(+税)
・アナログ盤(重量盤2LP/オリジナル特典「オリジナルB2ジャケットポスター」付/完全生産限定)
VIJL-61800〜1 4,300円(+税)
[収録楽曲]
1. 過ぎ去りし日々 (ゴーイング・ダウン)
2. 若い広場(平成29年度前期・NHK連続テレビ小説「ひよっこ」主題歌)
3. 大河の一滴(UCC BLACK無糖TVCMソング)
4. 簪 / かんざし
5. 愛のプレリュード(JTB 2016 TVCMソング)
6. 愛のささくれ~Nobody loves me(WOWOW 2017 TVCMソング)
7. 君への手紙(映画「金メダル男」主題歌/WOWOW開局25周年CMソング)
8. サイテーのワル
9. 百万本の赤い薔薇(フジテレビ系列 全国26局ネット「ユアタイム~あなたの時間~」テーマソング)
10. ほととぎす [杜鵑草]
11. オアシスと果樹園(JTB 2017 TVCMソング)
12. ヨシ子さん(WOWOW開局25周年CMソング)
13. Yin Yang(イヤン)(2013年 フジテレビ系木曜劇場「最高の離婚」主題歌)
14. あなたの夢を見ています
15. 春まだ遠く
10月17日(火)・18日(水)朱鷺メッセ・新潟コンベンションセンター
10月28日(土)・29日(日)広島グリーンアリーナ
11月11日(土)・12日(日)東京ドーム
11月18日(土)・19日(日)ナゴヤドーム
11月25日(土)福岡 ヤフオク!ドーム
11月30日(木)・12月1日(金)宮城セキスイハイムスーパーアリーナ
12月9日(土)・10日(日)アスティとくしま
12月16日(土)・17日(日)京セラドーム大阪
12月23日(土・祝)札幌ドーム
12月30日(土)・31日(日)横浜アリーナ