SPICE音楽担当の超私的ディスクレビュー 2:Nothing's Carved In Stone『MAZE』
「何も刻まれていない」4人が、今作で刻んだものは。
全編通して、ひたすら生き生きと、真っ正面からロックしているアルバムだ。
生形(G)をはじめ、もともと個々の技術や表現力に関して文句の付け所のない4人が集まって活動しているNCISなわけだが、今作は一曲一曲のロックナンバーに個々のやりたいことや持ち味を存分に突っ込んで、ヘヴィあり、メロディックあり、ファンクあり。それが絶妙なバランスで楽曲を成立させている、というか、一つも過不足がない、「これが正解!」という仕上がりで、いよいよバンドとして極まってきた感がすごい。
音楽的に見ても90’sオルタナ〜エモ〜00’sガレージリバイバルといったあたりの要素がふんだんに散りばめられていて、それらがきちんとNCISの音として鳴っているのが素晴らしい。歌のメロディや演奏の構成もすごく洋楽的……というか、今日の日本には他にこういう音楽をやっているバンドがほとんどいない、といった方が良いかもしれない。
再生ボタンを押した直後から、M1「YOUTH City」でいきなり疾走するギターロックをぶち込んできたその勢いで、ハードなギターリフとうねるベース、スケール感のある歌メロがレッチリを彷彿とさせるようなM2「The Poison Bloom」、イントロで繰り返されるアコギの高速アルペジオと終始動き回るベースライン、開放感あるサビで畳み掛けるM3「Milestone」と続き、そして一際キャッチーなサビのメロとコーラスが印象的なM4「Perfect Sound」まで一気に突っ走る。
その後もM6「MAZE**」では、ギター2本が奏でる静かなイントロを裂いて日向(B)が「これがスラップです」というお手本のようなファンキーなベースを聴かせてくれ、遊び心と勢いに満ちたM7「Discover, You Have to」では村松(Vo,G)が、ドラムが刻むタイトなリズムに合わせてフリーキーなボーカルを響かせてくれたりと、個々の持ち味が良い意味でぶつかりまくっている。
タイトルからして最高なM9「Go My Punks!!!!」はUKガレージ調の一曲。低音のボーカルとひたすら繰り返されるフレーズが心地よいAメロと、シンプルな8ビートでキラキラしたサビ、2コーラス目にはオシャレ極まるウォーキングベースという構成が秀逸だ。シングル曲のアルバムVerとなるM10「Gravity」は、このアルバム中のエッセンスを集約したようなクオリティの高さで、派手に動き回る各パートが実は緻密に組まれたアンサンブルを成している。
ラストナンバーとなるM11「Thief」は唯一のバラードと呼べるナンバーとなっており、ひたすら美しい前半は「この曲で終わるのは少し寂しいかも」と思って聴いていたのだが、ラストに繰り返されるフレーズのリフレイン、そのドラマティックさにはもう完全に脱帽。「Coldplayかな?」というくらい美しい。
実際、決して長いアルバムではないのだが、それ以上に聴き終えたときに「もう終わり?」「もう少し聴いていたい」と思わせてくれる作品で、しかし中身は相当濃い。これこそがアルバムという形態でリリースするにあたって、その演奏と同様に過不足のない最高のバランスではないだろうか。
正当にロックしている作品に飢えている方に、本当にお勧めである。
発売中
Dynamord/GUDY-2016
¥2,500+tax
1. YOUTH City
2. The Poison Bloom
3. Milestone
4. Perfect Sound
5. デロリアンを探して
6. MAZE**
7. Discover, You Have To
8. Calling Behavior
9. Go My Punks!!!!
10. Gravity (Album Mix)
11. Thief