作曲家・伊藤靖浩「一人芝居ミュージカル短編集」で、日本におけるロングランシステムへの挑戦

インタビュー
舞台
2017.8.31
伊藤靖浩

伊藤靖浩


伊藤靖浩と言えば、これまで15本のオリジナル・ミュージカルを手がけている、いま注目の若手作曲家だ。役者、歌手としても活動しつつ、裏方としてはミュージカルや音楽劇のボイストレーナー、歌唱指導、音楽監督なども務めている。そんな彼が「一人芝居ミュージカル短編集」というシリーズを立ち上げ、2016年11月からスタート、この9月に第3弾を実施する。これは、実在した人物を題材にしたオリジナル・ミュージカルを5年で100本製作しようという試み。そこには日本における新たなロングランスシテムを確立させることなど、伊藤のさまざまな思いが秘められている。ニコニコ、淡々とした語り口ではあるものの、核心をついたコメントは刺激的だ。

『Color of Life』ニューヨーク公演より。左が伊藤。

『Color of Life』ニューヨーク公演より。左が伊藤。

『天使にラブ・ソングを2』のローリン・ヒルを見て歌いたい、芝居をやりたいと思った

ーーまずはミュージカルの作詞・作曲を手がけるようになったきっかけから教えてください。

僕は俳優志望だったんですが、ある時期から、小劇場で音楽監督、歌唱指導や稽古ピアノなどの仕事をするようになったんです。当初からミュージカルが多かったかな。プロとして初めてミュージカルの作曲をしたのが2009年、谷賢一さん率いるDULL-COLORED POPの『エリクシールの味わい』でした。この作品を演出家の石丸さち子さんが見てくださって、2011年にTheatre Polyphonic第3回公演として音楽冒険活劇『ペール・ギュント』の作曲のオファーをいただきました。石丸さんとはその後、オフオフブロードウェイで初演した『Color of Life』につながっていくわけですけど。さかのぼると大学在学中から歌唱指導をしていた早稲田系学生劇団から、オリジナル・ミュージカルをつくりたいということで作曲したこともあります。大学を卒業してすぐくらいのことですね。

ーーちなみに伊藤さんはどんなミュージカルがお好きなんでしょう?

『ファンタスティックス』ですね。けっこう王道でしょ(笑)。初めて歌ったのは『レント』でした。それから『マンマ・ミーア!』も好きですね。あんまり日本のオリジナル・ミュージカルでグッときたことはなくて。なぜうまくいかないのかなと考えると、聞きなじみのよい曲がないのと、ポップではないからだと思うんです。日本語歌曲(声楽曲、独唱の小曲)や器楽曲的で、もう少しエンターテインメント性があってもいいのにと思いますね。クラシックの流れを組む人が多いから、音楽は大抵そっちに寄ってしまうんでしょうね。

ーー感激した、伊藤さんの人生に影響を与えた舞台とかは?

僕は何かの舞台を見て人生が変わったみたいなことは一回もないんです。ただ『天使にラブ・ソングを2』のローリン・ヒルを見て歌いたい、芝居をやりたいと思いました。でもストレートプレイとミュージカルを分けて考えているわけでもなく、アートの手段がどれかなくらいな感じなんですよ。ミュージカルが大好きなわけではない。アートが好き、楽しいことが好き。

ーー松尾スズキ作・演出『女教師は二度抱かれた』は僕も現場に携わっていたんですけど、稽古ピアノをされていたとか。それ以前に20代前半で宮本亜門さん、蜷川幸雄さんの稽古場にもスタッフとして出入りされていたそうです。

とある大きな作品では稽古ピアノとして参加していたのですが、ベタで1カ月半ついても数万円でした。そのときは作曲家から毎日送られてくる曲を1秒でも早く譜面に起こしたり、プレスコ録りもしていましたね、これが稽古ピアノの仕事なのかなあ?と思いながらやっていました。

一人芝居ミュージカル短編集vol.1 ジュディシル

一人芝居ミュージカル短編集vol.1 ジュディシル

一人芝居ミュージカル短編集vol.1 竹久夢二

一人芝居ミュージカル短編集vol.1 竹久夢二

ーーもしかしたら、そのへんの悔しい経験が「一人芝居ミュージカル短編集」につながっていくわけですか?

……それもありますね、払うべきものはちゃんと払おうよみたいな(笑)。ですから「一人芝居ミュージカル短編集」では企画書段階でかかわる方々への出演料や謝礼についてはすべて明らかにしています。クリアじゃないところは一つもない状態にしたかった。それぞれの仕事に対して、報酬の額を想定して、4,000円のチケット単価の中で、何に何パーセント払うか、その数値で僕のやりたいことができる分岐点を計算して探っていきました。

作品の2次使用時に、オリジナルキャストにも上演料が分配される仕組み

 この記事を読んでくださる方には、おそらくイメージが伝わらないだろう。具体的に紹介してみようーー。

 「一人芝居ミュージカル短編集」の公演は、1ステージにつき3人のキャストが、それぞれ30分程度の物語を、3人のミュージシャンの生演奏で上演するというスタイル。男女各5名の俳優が希望出演回数を申告し、18ステージの中にさまざまな組み合わせで割り振られている。1ステージの集客は約60人で、チケット代金は4,000円(プレビュー、アンダーキャストのステージは割引)。演出家、脚本家、作曲家(すべて伊藤が担当)には1作品あたりの、俳優、音楽家には1ステージあたりの金額を設定し、それ以外のスタッフには正規の料金が支払われる。これが基本の仕組み。俳優にはノルマはないがチケットバックがあったり、キャリアによって金額交渉の余地があったりする。そして初演以降に上演希望があれば作品使用料をチケット売上の9パーセントで誰にでも許可を出し、脚本家&作曲家ばかりではなくオリジナルキャストにも3パーセントが分配されるという。

ーー実際やってみた手応えはいかがですか?

思ったよりも企画への反響と、観劇された方の反響が大きくて、いい方向に進んでいます。第4弾は大阪公演になります。そして次に行うオーディションで第5弾、第6弾のためのものになります。

ーー収支に関しては予定通りですか?

予定通りです。各回(全18公演)で20万円くらい黒字にしたかったんですが、それは実現できたので第3弾以降はもう少し増やしたいんです。そのお金には手をつけず、少し溜まったところでまた新たな企画展開も考えられるかなと思っています。実は絶対にチラシはつくらないと決めているんです。基本的に役者さんが呼んでくれるお客さんだけで席がうまるので、口コミでさらに広がっていってくれるほうがうれしいです。チラシは費用対効果を考えると必要ないということもあるんですが、公演を売りにしているように見えてしまうのが嫌なんです。「一人芝居ミュージカル短編集」に関してはコンセプトと考え方が売りだから。

一人芝居ミュージカル短編集vol.1 オーヘンリー

一人芝居ミュージカル短編集vol.1 オーヘンリー

一人芝居ミュージカル短編集vol.1 チェーホフ

一人芝居ミュージカル短編集vol.1 チェーホフ

ーーお金の面ばかりをうかがいました。もちろんお金は重要ではあるんですが、このシステムを考えた理由として、伊藤さんには別の思いがあるんですよね?

発端は誰もやったことがないことに挑戦しようと思ったことですね。最初は10本だけやろうと考えていたんです。再演は誰でもできる状態にすることで、安いけれども収入が得られ、ロングランするためには1人ミュージカルでいこうと。ただ第1弾の段階で仮に100本つくってみたらどうかと計算をしてみたら、10本ならシステム中のロングランが成立するけれど、100本つくれば作品数と採算的に5年以上のロングランがしっかり回っていくことがわかったんです。それから今はアトリエ的な空間で上演していますが、近々劇場に近い空間に移ろうと思っています。照明の仕込みがあるんですけど、誰かの手を借りずにやれるようにしないと。ちょっとずつ人を巻き込むことに力を注がなければいけない状況は嫌なので。

ーー作品に関する条件はどうなっていますか?

実在する人物であること、その人物が歌い出す理由を脚本家がつくり出せることですね。今は芸術家が多い。取り上げる人物については、オーディション段階で役者さんがこんな人をやってみたいという場合と、脚本家の方がアイデアを持っている場合がありますけど、僕はどちらでもいいんです。脚本家が興味を持っている人のほうが知識もあるし資料集めがやりやすいかもしれませんね。役者の希望を聞きつつ、脚本家の興味が高いものを書いていただければなあと思います。本と演じる方のマッチングは、僕が主観で決めています。俳優と脚本家、演出家は誰でもいい。脚本は書いていただきたい方にオファーも出しています。かかわる人が多ければ多いほど知り合いも広がるし面白くなるでしょう。

ーー作曲はすべて伊藤さんが担当されているんですね。伊藤さんは曲を書くのはすごく早いと聞いたことがあります。

はい、歩きながら悩んだりはしますけど。1本のお芝居の上演時間が30分で5~7曲、だいたい2、3時間でつくります。長く時間をかけると飽きてしまう質なので、すごく集中して短時間でつくるようにしています。

一人芝居ミュージカル短編集vol.1 バルバラ

一人芝居ミュージカル短編集vol.1 バルバラ


一人芝居ミュージカル短編集vol.1 トスカニーニ

一人芝居ミュージカル短編集vol.1 トスカニーニ

30代のうちにニューヨークへわたり、ロングラン作品をひとつつくりたい

ーーシステムの手応え以外に感じたことはありますか? 

出演者はすべてオーディションで決めるんです。最初は10、20代の役者さんを想定していたのですが、初回から名前のある方も来てくださいました。年齢やキャリアにかかわらず、みんな主演をやりたいんですよね。でも若くてすごく歌える人には出会えなかったのは残念です。そしてキャリアのある方のほうが圧倒的に実力も才能もある。100人くらい会えば僕の人生が変わるくらい奇跡の才能に出会えるかと期待していたんですけど……。役者さんはうまい方から取るんですけど、確実に若い子の実力が落ちる。なぜでしょうね。役者というのが目指したいと思うようなキラキラした職業ではなくなっているんでしょうか。才能を持った方が演劇を目指さなくなっているんでしょうね。

ーー終わった作品はだれでも上演できるシステムなんですよね?

もうご自由にです。アンダーだった子が地方でイベントがあるからこの作品をやりたいと言ってくれたり、第2弾に出演してくださった三矢直生さんがご自分のライブでやりたいと言ってくださったり、年内に何人かで集まって再演するとか、いろいろ動きがあります。

ーー話は変わりますが、石丸さんと製作した『Color of Life』は今年3月に博品館劇場で再演されました。

僕は基本的には日本版のクリエイティブスタッフではなくて、つくった曲の使用許可を出すというような関係です。ニューヨーク版の権利は持ちたいけれど、日本語版は自由にやっていただいて。でもニューヨークでやりたいなぁ。

ーー作品への思い入れは相当あるわけですよね。

もちろんそうです。あの時の熱量は特別でした。このまま日本で活動していても作曲では食べられないし、いい曲をつくっても認められない、という思いが強かったんです。いい曲だと世界が言ってくれないと日本人が信じてくれないのなら海外で挑戦しようと。『Color of Life』はオフオフブロードウェイ初演で作品賞をいただいたことで、日本での作曲の仕事がぐんと増えました。

ーー今後やりたいことはありますか?

僕は「短編集」がロングラン化して、誰かにお金の管理をしてもらえる状況になったら、日本を出ようと思っているんですよ。もう興味がないのでニューヨークに行きたいなと、それも30代のうちに。そしてブロードウェイでひとつロングランができたらいいなあと思います。ひとつでいいんです。向こうではひとつロングランができれば一生食えるので、あとは楽しく。何か楽しいことが見つかったら、それを頑張るし、見つからなかったら楽しくお酒を飲めればいいかなって。それとも100本つくったら、100本もってアメリカに行っちゃおうかな。かかわった人に3パーセントの収益を配分するというスタイルをいろんな場所でやってほしいんです。各オリジナルキャストでも数年間かければけっこう儲かるはずなんで。そして人が真似してくれればしてくれるほど、日本の演劇界の考え方が変わるかもしれない、それが大事だと思っています。

《伊藤靖浩》山形県出身。幼少より歌、芝居の基礎を学ぶ。11歳からピアノ、ソルフェージュ、13歳からマリンバと打楽器、高校入学後に作曲を始める。2003年、大阪での全日本マリンバコンクール・ジュニアクラスで3位および奨励賞を受賞。2004年、自作の詩と曲の弾き語りで高校生音楽祭東北大会優勝、全国大会に出場。これを機に本格的に作詞作曲をはじめ、現在のストックは300を超える。昭和音楽大学に特待生として入学、学内外の演奏会に多数出演。卒業後は、歌、打楽器、ピアノ、作曲、指導、俳優など、多方面で活動を開始。 2013年、作曲・音楽監督・主演『Color of Life』ニューヨーク公演がMidtown International Theater Festival AWARDSで最優秀ミュージカル作品賞、最優秀ミュージカル作曲賞を受賞。2017年「FEEL IT & SING♪アカペラコンテスト」でグランプリ受賞。最近の作品に、『TARO URASHIMA』(音楽)、『Finding Mr.DESTINY -あなたの初恋探します-』(歌唱指導)など。また、11月に上演される新作オリジナル・ミュージカル『デパート!』で作曲を担当。

取材・文=いまいこういち

公演情報
「一人芝居ミュージカル短編集vol.3」

■日程:2017年9月2日(土)~9月12日(火)
会場:新井薬師 Special Colors
企画・作曲:伊藤靖浩
 
《女性ver》 
演出:伊藤靖浩 
照明:松本永(eimatsumoto Co.Ltd.)
演奏:伊藤靖浩(Pf.) 佐藤ドンドコ(per.) 宮里豊(Gt.)
出演/脚本:
 楢崎龍「龍馬のコレ」
  主演:飯野めぐみ/脚本:池田テツヒロ
 アン・サリヴァン「愛への距離」
  主演:高橋エマ/脚本:海老原邦希
 クサインティッぺ「悪妻の弁明」
  主演:生井みづき/脚本:黒田勇樹
 キャサリン・ライト「キャサリン先生、最後の授業」
  主演:若林えり/脚本:一色洋平
 春日野八千代「嵐に咲く白薔薇」
  主演:脇領真央/脚本:日下諭
 
 アンダーキャスト:伊藤紫央里、村田実紗
 スタンバイキャスト:楡井華津稀
 
《男性ver》 
演出:赤澤ムック
照明:松本永(eimatsumoto Co.Ltd.)
演奏:岩崎なおみ(Bs.) 鈴木和美(Fl.) furani(Pf.)
出演/脚本:
 吉村達也「Himalayan Breeze ミステリー作家、最後の事件」
  主演:稲垣干城/脚本:猫宮さくら
 アーサー・コナン・ドイル「わが友ホームズ」
  主演:西村俊彦/脚本:舘亜里沙
 マルク・シャガール「The Color of Marc Chagall」
  主演:宮島朋宏/脚本:早坂彩
 宮沢賢治「注文の多い宮沢賢治」
  主演:森田学/脚本:モスクワカヌ(劇団劇作家)
 ジェイムズ・M・バリ「ピーター・パンは口笛を吹く」
  主演:山田瑛瑠/脚本:赤澤ムック
 
 アンダーキャスト :浦田大地、須加崎幸憲
 スタンバイキャスト:藤井海成
 
《特別公演》
 Mother Teresa「In The Beginning」
  主演:Shino Frances/脚本:西森英行
 
《リバイバル公演》 
 マレーネ・ディートリッヒ「over the wall」
  主演:エスムラルダ/脚本:エスムラルダ
 オー・ヘンリー「The Last Leaf for Henry」
  主演:海老原恒和/脚本:モスクワカヌ(劇団劇作家)
 竹久夢二「ひとくち、アイスクリン」
  主演:柳内佑介/脚本:今井夢子(椿組/Manhattan96)
 
料金:
全席自由・税込4,000円
プレビュー(9月2日)・アンダーキャスト2,500円
アンダー&リバイバル3,000円(土、日曜12:00)
 
開演時間:
 9/2(土)
   15:00(西村俊彦 / 宮島朋宏 / 山田瑛瑠)※プレビュー
   19:00(飯野めぐみ / 生井みづき / 脇領真央)※プレビュー
 9/7(木)
   19:00(高橋エマ / 若林えり / & Shino Frances)
 9/8(金)
   19:00(稲垣干城 / 森田学 / &エスムラルダ)
 9/9(土)
   12:00(伊藤紫央里 / 村田実紗 / & エスムラルダ)※女性アンダー&リバイバル公演
   15:00(飯野めぐみ / 生井みづき / Shino Frances)
   18:30(稲垣干城 / 宮島朋宏 / 森田学)伊藤紫央里(アンダー追加)
 9/10(日)
   12:00(浦田大地 / 須加崎幸憲 / &海老原恒和)※男性アンダー&リバイバル公演
   15:00(西村俊彦 / 山田瑛瑠 / 海老原恒和)+村田実紗(アンダー追加)
   18:30(高橋エマ / 若林えり / 脇領真央)
 9/11(月)
   15:00(飯野めぐみ / 脇領真央 / & Shino Frances)
   19:00(飯野めぐみ / 高橋エマ / 生井みづき / 若林えり)
 9/12(火)
   15:00(森田学 / 山田瑛瑠 / & 柳内佑介)
   19:00(稲垣干城 / 西村俊彦 / 宮島朋宏 / &柳内佑介)
問合せ:メール rickytickyasu@gmail.com
■公式サイト:https://note.mu/rickytickyasu/n/n20940454c468
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