こまつ座『円生と志ん生』開幕直前会見、ラサール石井「志ん生を演じるために頭を剃ったら百田尚樹さんに近づいてしまった(笑)」
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こまつ座『円生と志ん生』会見 2017/9/7
こまつ座 第119回公演『円生と志ん生』が2017年9月8日(金)より東京・新宿の紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAで開幕する(同月24日まで)。公演に先立ち前日7日に、劇団代表・演出家・出演者たちによる会見が劇場でおこなわれた。登壇者は、井上麻矢(こまつ座代表)、鵜山仁(演出)、そして俳優陣の大森博史・ラサール石井、大空ゆうひ・池谷のぶえ、前田亜季・太田緑ロランス。
まず井上麻矢代表から挨拶。「円生と志ん生はいまから12年前の2005年に初演されました。終戦時、満州から引き揚げに際して、引き揚げの時に苦労して途中で命が途切れてしまった人や現地に取り残された人もいました。その取り残された中に今回の噺家2人、三遊亭円生と古今亭志ん生がいました。今回、ラサール石井さん、大森博史さんはじめ出演の皆さん、やっと念願かなって出演していただけました。また、今日はラサールさんが鎌倉の井上ひさしのお墓参りに行ってくださいました。今回の劇に登場する女性達4人は当時の大連そのものを表わしています。こういう歴史が過去あって、それでもめげずに名人になった2人。この2人を通してきちんと歴史を再現することが大事だと生前井上ひさしも話していました。演出の鵜山仁さんの力を借りて形になってお届けできることを嬉しく思います」
続いて、演出家・鵜山仁がコメント。「敗戦体験、終戦体験をしたおかげで2人は落語がうまくなったと言われています。だからこの芝居をやると芝居がうまくなるはず(笑)。そして生きることが上手になります。乞うご期待」
続いて出演者たちが話す。
大森博史(六代目三遊亭円生役)「円生の魅力に引き込まれています。人間が好きだったんだな、というのをとても感じます。それがこの本の中にも書き込まれていると思います。紆余曲折があって現地で所帯を持ってしまったり、志ん生とぶつかったりしながら、そういうところに人間性がありますね。この役は役者冥利につきます。史実に基づいて作られているんです。鵜山さんが仕上げてくださりいい感じに仕上がっています」
ラサール石井(五代目古今亭志ん生役)「志ん生を演じるのは芸人のはしくれとして畏れ多い。頭を剃ってみたけど、頭の形が違うので百田尚樹さんに近くなってしまいました(笑)。学生時代から井上作品には憧れていました。これほど初日がこわいのは初めてです。ちょっとでも見守ってほしいと思って今日鎌倉の井上ひさし先生のお墓に参りにいきました。明日は志ん生師匠のお墓参りに行こうかな。ちょっとでも見守ってほしくて(笑)」
大空ゆうひ「こまつ座作品初めての参加です。ずっと憧がれていて、稽古場から幸せをかみしめていました。素敵な言葉がたくさん出て来るので、心と言葉を大切にして、毎日を愛おしみながらがんばります」
池谷のぶえ「女性4人で20人分を演じる、その重みを感じています。その時代の女性たちをリスペクトして演じたいです。こまつ座は初めてなので、どんなお客様なのか楽しみです。早く観ていただきたいです」
前田亜季「(劇に描かれている時代は)大変な時代、大変な生活でした。でも師匠たちのまわりにはいつも笑いがありました。女性達はその笑いに助けてもらい、元気づけてもらっていました。笑いの力を信じて精いっぱい勤めたいです」。
太田緑ロランス「本当に大変な時代を、笑いの力を借りて生き延びたんですね。その女性達に0.1ミリくらいは近づけたらいいな。稽古場では力いっぱい1ヶ月間かけて作ってきたので、これからの本番は力みすぎずに演じられたらいいと思います」
この後に、質疑応答が行われた。
--ラサールさん、志ん生師匠の魅力とは?
ラサール「破天荒さ。あまり構築されていない『その場』感。稽古が大好きだったそうです。人間として大きい。ふっと、ビートたけしさん、師匠の杉兵助、勘三郎さんにも似ていると感じます。そういうエッセンスが出せたらいいと思います」
--大森さん、円生師匠の魅力は?
大森「なめくじ長屋にいらしてて、貧乏を笑い飛ばすという感覚、笑いの力はすごい」
--鵜山さん、新生『円生と志ん生』稽古場で発見したことは何かありましたか?
鵜山「10年振りの上演になります。井上ひさしさんとは30年以上一緒にやっていました。当時は親父に聞かされた戦争の話という感覚だったのが、その世代が井上さん以外にもいなくなってきました。そういう時代、人は異様に優しかったり残酷だったりします。今回の座組で僕は最年長です。当事者にならざるをえない。前回は弟気分だったが、これから僕らはどう体現していくのだろうと、いい経験をさせてもらいました」
--みなさんお一人ずつ、井上ひさし作品の印象をお聞かせください。
太田緑ロランス「憲法に関する本を読んで感銘を受けました。憲法は助けてくれる仕組みなんだと受け取りました。そんな自分が、まさか井上作品に出演できると思っていませんでした。素敵な先生という印象です。この作品は演劇リレーのようで、演劇の仕組みが好きだったんだな、と思いました。
池谷のぶえ「『道元の冒険』が初めての出演作でした。出身劇団(猫ニャー)がナンセンス・コメディだったので、どう読んだらいいのかしら?と身構えましたが、読み進めていくうちに「これは壮大なナンセンス・コメディ」だと気づいたんです。良い意味でぶっとんでいる。言葉のたたずまいがとても刺激的でした。言葉の丸みがすばらしいなと」
大空ゆうひ「言葉になにか魔法があるのではないかとずっと感じていました。役者がそれを言葉にするとどこかに連れて行ってくれる飛躍感。不思議な力を持っています。本の中で知らないうちにしごかれているような。この作品を通して、タイムスリップさせられるような感覚をおぼえています。リアルにその当時の空気を感じます。時がそこで残されているような不思議な感覚です」
前田亜季「『私はだれでしょう』が最初の井上作品でした。初日が延びた作品だったので余裕もなく始まってしまったのですが、今回はゆっくり本を読む時間もあったので、リズムが心地よく、こんなに素敵な日本語だったんだなと改めて思う事ができました。普段自分が話している言葉を少し反省しました(笑)」
大森博史「自由劇場時代には翻訳ものの上演が多く、動きを重視することが多かったんです。でも井上作品においては、言葉に大きなウェイトがあると実感しました。『言葉がまっすぐそのまま届いてほしい』という劇中歌の歌詞に、これはとても大切だぞと思いました。言葉をきちんと持って伝えていくことはとても大事だと再確認しながら今回進めています」
ラサール石井「井上先生の作品は学生時代から憧れています。鹿児島から上京して、テアトルエコー養成所の「講師:井上ひさし」に飛びついて1期生に応募して、受かって入ってみたら、その時にはもう養成所にいなくて(笑)、すれ違いでした。先生が作品を命を削って書いているのは知っているから、一字一句間違えずに話さねばと試行錯誤しています。コント赤信号としてストリップ劇場に入ったとき、何の抵抗もなく「井上ひさしや渥美清になれるんだ」と思いました。この作品の洗濯物のシーンもストリップシーンみたい。井上先生がいた孤児院も“ラサール”。僕の出身校と同じ系列なんです。モッキンポッド師のモデルになった人が、自分の寮の先生だったというつながりもあるんです。井上先生にはラサール高校の同窓の集いに講演にきていただいた時に、自分が司会をしていたので挨拶をしたのですけど、先生には響いていなかったようでした(笑)。『芝居は趣向だ。趣向があれば拠り所にやっていける』という言葉をずっと励みにしています」
鵜山仁「ご一緒するようになってからいい人ばっかり劇に出てくるようになった。なんでいい人ばっかり出てくるんだ?と斜にみていました。でも、その頃から『周りの状況が厳しいから、逆に明るさ、良さにあこがれて書くようになった』と聞きました。明るい方に向かって、すがらないとやっていられない、正気を保っていられないかもしれない、というリアリティを感じています。明るい方を向くエネルギーをよほど大事にしていかなくては、と思っています」
こまつ座『円生と志ん生』は、東京公演ののち、兵庫、宮城、山形を巡演予定だ。
2017年9月30日(土)・10月1日(日)兵庫県 兵庫県立芸術文化センター
■演出:鵜山仁
■出演:大森博史、大空ゆうひ、前田亜季、太田緑ロランス、池谷のぶえ、ラサール石井 / 朴勝哲(ピアノ演奏)
★9月11日(月)1:30公演後 樋口陽一(比較憲法学者)― 井上ひさしにとっての笑い ―
★9月14日(木)1:30公演後 大空ゆうひ・前田亜季・太田緑ロランス・池谷のぶえ
★9月17日(日)1:30公演後 大森博史・ラサール石井
★9月21日(木)1:30公演後 雲田はるこ(漫画家)―『昭和元禄落語心中』ができるまで ―
※アフタートークショーは、開催日以外の『円生と志ん生』の
※出演者は都合により変更の可能性がございます。