話題の「金属恵比須」が開催した「猟奇爛漫FEST」をレポ!

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「金属恵比須」木魚を片手にぶら提げ歌う稲益宏美 撮影:飯盛 大

「金属恵比須」木魚を片手にぶら提げ歌う稲益宏美 撮影:飯盛 大

進撃の和製プログレッシヴ・ロック・バンド

和製プログレッシヴ・ロック・バンド「金属恵比須」が、ここに来て更なる快進撃を続けている。

金属恵比須『ハリガネムシ』ジャケット

金属恵比須『ハリガネムシ』ジャケット

明らかにイエスをパクった意識したロジャー・ディーン風のバンド・ロゴ。キングクリムゾンやジェネシスなど、どこかで聴き憶えのあるサウンドやメロディ。それでいて大正~昭和初期の「新青年」あたりの探偵小説を髣髴とさせる和風懐古趣味が、「新月」「筋肉少女帯」「人間椅子」などの系譜にも連なる文学的遺伝子を垣間見せる。そんなバックボーンや嗜好を予め堂々と開示したうえで、彼らは自らの独創性を高度の完成度を伴って開花してみせた。迸る演奏テクニックと聴きやすい楽曲&サウンドの共存、溢れる先達へのオマージュ感。それが今年(2015年)2月に発表したサード・アルバムにして、初のメジャー流通アルバムとなった『ハリガネムシ』であった。当初は好事家達の間で火が点き、瞬く間に評判が流布して、遂にはディスクユニオン「日本のロック」週間チャート1位まで駈け上る快挙を果たした。プログレ畑のバンドがそこまで行くというのは近頃では極めて異例であり、ちょっとしたセンセーションを巻き起こした。今春の出来事である。

ところが今度は9月21日、NHK-FMで丸一日放送された“放送界の一大奇祭”「今日は一日プログレ三昧」において、「金属恵比須」の名曲「紅葉狩」が流れるや、番組に出演していたスターレス高嶋(高嶋政宏)や山田五郎が絶賛。ほどなくしてアマゾンに『ハリガネムシ』注文が殺到し、ついには在庫切れの事態に至ったのだった。

その翌日9月22日には「金属恵比須」の主催する「猟奇爛漫FEST Vol.1」が高円寺Highにて開催された。前日の「三昧」影響もあってか小さなライブハウスに多数の観客が詰めかけた。ただし今回は「FEST」と名付けられている通り「フェスティヴァル」だから、あくまで複数バンドが順に出演するプログラムであった。

ということで、先ずは4人組ガールズパンクバンド「FALSETTOS(ファルセッツ)」でフェスが開幕。“パンクバンド”と自称してはいるが、彼女らはギターを単調に激しく掻き鳴らすタイプに非ず。総じて、小粋なフィンガー・ピッキングを多用した、キュートで聴きやすい曲が目立った(ヴォーカリスト=ミウコの絶叫こそ時折挿入されたりもするが)。終盤にキーボード奏者=ゆっきーがトランペットを吹き始めると不思議と胸が熱くなった。様式としてのパンクさは稀薄なれど、内に秘めたる少女チックなアナーキーさは健在で、これはひょっとして“猟奇的な彼女”なのであろうか?…と思わせるあたりで今回の「猟奇爛漫FEST Vol.1」のトップを飾るに相応しかったのかもしれぬ。

次いで2組目の登場は「NUDGE’EM ALL」という男性4人組バンド(うち中年3名)。編集子は耳が悪く最初「マッチングモール」と聴こえてしまったので「プログレ?」と早トチリしたが、正しくは「ナッヂ・エム・オール」で、実のところ相当にポップ感全開の爽快なバンドだった。1996年から活動する、ちょっとした老舗で、職人的な余裕というか貫録をも漂わせていた。青臭いガツガツさがないのが好感を持てるところ。即売用のCDを詰めた段ボール箱を誰も持ってきた憶えがないことがMC途中で判明。そういうところもガツガツさがなくて結構(後に件の箱は見つかったようだが)。ただ、そこに「猟奇」はあるのかい?と問われれば、一言「皆無」と喝破するだろう。この人たちは何故に今回のフェスに出場しているのか、素朴な疑問として知りたいところだ。

さて「猟奇爛漫FEST」のトリを勤めるのが、本日の主役「金属恵比須」だ。前日にNHK-FM「プログレ三昧」で紹介されたことは彼らを大いに奮起させたらしく、予め配布されるミニパンフレットには番組内で彼らについて語られた部分を書き起こした文章が早速「号外」として挿し挟められていたほどだ。後でメンバーに聞いた話では、番組で紹介されたことでメンバー達は悦びのあまり手の震えが止まらなくなり、リハーサルが不可能になったという。夜も全く眠れなかったそうだ。

話をステージに戻そう。照明が暗転し、映画「八墓村」サントラから芥川也寸志作曲の荘重な楽曲「呪われた血の終焉(落武者のテーマ)」が流れ始めると、メンバーたちが一人づつ次第にステージに現れる。彼らにとって定番化した登場スタイルであるが、これはストラヴィンスキー「火の鳥」がかかる中をメンバーたちが入って来るイエスの流儀を彼らなりに踏襲したものだろう。そういえば「金属恵比須」リーダーの高木大地は、かつて「内核の波」というバンドに在籍していた折に、演奏中に豚丼を食べるという「食」パフォーマンスを繰り返していたが、これなどもイエスのライヴで、キーボードのリック・ウェイクマンが「海洋地形学の物語」という大曲に飽き、演奏中にも係わらずカレーを食べていたという逸話に基づくアクションだった。そんな高木が率いる「金属恵比須」も自ずから、そのような説話の磁場となって随所にトリヴィアルなこだわりをユーモラスに散りばめる。

「金属恵比須」の構成メンバーは、稲益宏美(vo、per)、後藤マスヒロ(dr、vo)、高木大地(g、vo)、多良洋祐(b)、宮嶋健一(key)の5人組。本来ならばドラムに諸石和馬もいるはずだが、現在はShiggy Jr. の活動に専念している模様。そんなこともあってか、これまで“期間限定”加入していた後藤マスヒロが9月22日より“正式”加入した。後藤はかつて「頭脳警察」や「人間椅子」にも在籍していた伝説的な凄腕ドラマーだが、高木からの五年越しの口説きに陥落して遂に「金属恵比須」のメンバーとなったのだ。必ず漢字だけの名のついたバンドに入ってしまうらしい。そして、1965年8月29日生まれの彼にとって、今回は50歳代になってからの初ライヴにもなった。とにかく彼の存在感は圧倒的で、バンド全体のサウンドに確かな重厚感と疾走感を同時にもたらしていることがすぐわかる。ただ、妙な「おやじギャグ」をしつこく発するので、他のメンバーたちが些か苦慮している様子も窺えた(笑)。

プログレ音楽で、しかも猟奇趣味を掲げていることで背負わざるをえない「暗い」「重い」「長い」という負の要素を気にするリーダー高木は、MCで自分達のことを「ノリの悪いバンド」と紹介していたが、いやいや編集子の見る限り、ノリはむしろいいほうなのではないか。「おやじギャグ」を頻繁に挿し込んでくる後藤のC調感もさることながら、やはり稲益宏美の明朗快活さが非常に大きい。顔の丸みといい髪型といい着ているものといい小柄さといい、見た目は可愛らしい日本人形そのもの。それが魂を吹き込まれて、髪を振り乱しながら木魚を激しく打ち鳴らす狂乱ぶりには思いがけずゾクゾク来る。しかし何よりも、伸びやかにクリアーに抜けるハイトーン・ヴォイスが魅力的だ。前述のFM番組でスターレス高嶋も「(ルネサンスの)アニー・ハズラムみたい」と言っていた。プログレの、特にシンフォニックなサウンドには、そういう声こそがマッチするのである。そんな彼女、MCでは気さくな人柄が全開で、プログレ感の殆ど漂っていない風情が微笑ましい。彼女は高木の高校時代の同級生で、3年前にバンドに加入した。私生活では新婚真っ只中。彼女愛用の木魚は7月のライヴでパックリと割れてしまったため、今回は真新しい木魚を用意した、との情報も得た。

「金属恵比須」左から高木大地、後藤マスヒロ、稲益宏美、多良洋祐、宮嶋健一 撮影:飯盛 大

「金属恵比須」左から高木大地、後藤マスヒロ、稲益宏美、多良洋祐、宮嶋健一 撮影:飯盛 大

さて、今回のライヴ、奏者達が概ねカジュアルな普段着で登場したことが新機軸だった。これまで稲益は着物、高木も和服の長着+白塗り、多良は何故か忍者装束、宮嶋に至っては往年のリック・ウェイクマンばりの金襴マント、という全体的に統合感の失調気味なコスプレを着用していたので、観客に余計な雑念をもたらし、せっかくの素晴らしい演奏の集中的聴取を邪魔してきた面もあった。それが今回はそういうのをやめてスッキリさせ、純粋に演奏を前面に押し出した。

おかげで多良のベースプレイ、宮嶋のキーボードプレイのそれぞれの巧みさをストレートに味わうことが出来たのは大きな収穫だった。この二人は、今までの安っぽいコスプレでは絶対に損な役回りを引き受けて来たはずだ。宮嶋などは「自称ミュージシャン」と呼ばれ、犯罪者の疑いさえかけられていたというが、変なコスプレをやめればそういう苦労も今後減じてゆくに違いない。一方、リーダーの高木。所謂スッピン素顔のままステージ前方に進み出て、スティーヴ・ハウ的な仕草でギタープレイを客席に誇示する時の「どや顔」の表情が渡部篤郎に似るのは、なかなかの見ものであった。稲益だけは柄入りの真っ紅な着物モドキのワンピースで華やかな印象を与えたが、彼女は文字通り紅一点のヒロインだからそれで許される、というか、むしろそれで良かった。

今回のセットリストは、「箱男」からの抜粋(「破戒」「みつしり」)、「紅葉狩」(第三部・第四部)、「光の雪」(ダイジェスト版)、「真珠郎」(新曲)、「ハリガネムシ」、「阿修羅のごとく」、「猟奇爛漫」、「イタコ」(アンコール/ディープパープルVer.)。いずれも名曲揃い。前日「三昧」の効能なのか、演奏のキレの良さが一段とよくなっており、ステージ・パフォーマンスにもひと際アブラが乗って、或る種の“風格”すら感じさせた。終盤では高木が考案したという「猟奇爛漫体操」に全観客が付き合わされる場面も。両手を病的に痙攣させるだけの、健康にはあまりよろしくなさそうな体操だったが、会場全体が一時的に「前衛舞踏集団」的光景を呈したことは可笑しかった。

「金属恵比須」左から後藤マスヒロ、高木大地、多良洋祐、宮嶋健一 撮影:飯盛 大

「金属恵比須」左から後藤マスヒロ、高木大地、多良洋祐、宮嶋健一 撮影:飯盛 大

また、この日ライヴに合わせて、彼らの新しいDVD『都会のハリガネムシの童話~LIVE2014』も発売になった。昨年の吉祥寺シルバーエレファントでのワンマンライヴの模様を、なんと8台ものカメラを駆使して収めたものという。音質も良いそうなので、この時のライヴに行けなかった身としては非常に有難い限りだ。

「金属恵比須」メンバーの大半は日頃サラリーマンとして多忙な日々を送っており、頻繁に活動することは難しいようだ。まあ、会場の聴衆を見渡しても、さすがプログレだけあって(編集子も含め)年齢層が高く、年に1・2回程度ライヴを開いてくれるくらいが丁度いいのではないかと思えた。22日は、山形、和歌山・広島といった遠方からの来客もあったが、その人たちにとっても、たまにあるくらいがモチベーションを持続させやすいだろう。ライヴ不足分はyoutubeなどで補完されればよいのだ。

あえて欲をいえば、4時間近い長丁場で、高齢ファンも多いのだから、椅子をもっと出して欲しかった。物理的に厳しいのであればゴザを敷いて、座って聴かせるというのでも良かった(ライヴの内容にも合うはずだ)。…というか、現在よりももっと売れるようになって、相当数の椅子席を設置可能な会場でやってくれるのが聴く側も演奏する側も一番いいはずである。実はこのバンド、高木が始めて19年目になり、来年には20周年を迎えるという(高木以外は加入して3年に満たない者ばかり)。ここに来て、ようやく光明が差し込んで来たのである。こんなチャンスの到来は滅多にあるものではない。そろそろ次なる飛躍の戦略を真剣に考えるべき時ではないだろうか。

公演データ

「Ryouki-World Records presents 猟奇爛漫 FEST Vol. 1」

日時:2015年9月22日(火)18:00~
会場:高円寺高円寺High
出演:金属恵比須、NUDGE’EM ALL、FALSETTOS

※次回ライヴは、2016年4月16日(土)20周年記念ワンマン@吉祥寺シルバーエレファント

金属恵比須公式サイト:http://yebis-jp.com/

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