ペトレンコ登場! 伝統と実力を誇るバイエルン国立歌劇場の来日記者会見レポート
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(左から)ニコラウス・バッハラー、エレーナ・パンクラトヴァ、クラウス・フロリアン・フォークト、キリル・ペトレンコ、アンネッテ・ダッシュ、マティアス・ゲルネ (撮影=Naoko Nagasawa)
ドイツの名門歌劇場、バイエルン国立歌劇場が日本公演のために来日中だ。1974年の初来日から数えて今回は7回目となる。ベルリン・フィルの次期首席指揮者に指名され話題沸騰のキリル・ペトレンコに当代随一のキャストを揃えたワーグナー作曲『タンホイザー』、歌劇場を代表する伝統美の舞台を堪能出来るモーツァルト作曲『魔笛』が上演される。9月17日(日)には東京文化会館で開幕に向けた記者会見が開かれた。
当日は歌劇場総裁ニコラウス・バッハラー、音楽総監督で『タンホイザー』を指揮するキリル・ペトレンコ、そして『タンホイザー』のメイン・キャストのクラウス・フロリアン・フォークト(タンホイザー役)、アンネッテ・ダッシュ(エリーザベト役)、エレーナ・パンクラトヴァ(ヴェーヌス役)、マティアス・ゲルネ(ヴォルフラム役)が会見に出席した。
バッハラー総裁は「私どもの歌劇場が初めて日本に招聘されたのは1974年、それからもう40年以上が経ちました。前回は6年前の2011年、東日本大震災から約半年後の、日本が大変な状況での来日でした。しかしその時に、日本の皆様がとても理性的に、集中して、本当に私どもの音楽に感動してくださったのを見ました。音楽が人間にとってどんなにポジティブな力があるかを皆様と一緒に体験する事が出来たのです」と挨拶。
ニコラウス・バッハラー総裁
注目の指揮者キリル・ペトレンコが会見に登場!
今回の記者会見の注目は音楽総監督のペトレンコだ。ヨーロッパでもインタビューはいっさい受けないというマエストロだが、歌劇場の来日公演ということで特別に会見に参加した。
ペトレンコ「今日、この会見の席に座る事が出来てとても嬉しく思っています。私の人生で初めて日本を訪れました。来日して今日で4日目ですが、本当に素晴らしい国だと思います。町も、東京の人々も。それに食事が最高においしいです。今回はオペラに加えてコンサートもあり、バイエルン国立歌劇場の幅広いレパートリーに接していただく事が出来ます。超一流の歌手たちと一緒ですから、皆様の期待を裏切ることの無い日本公演になると確信しております。バイエルン国立歌劇場の日本公演の長い歴史の一部として、今回の来日公演を私の在任期間中に実現出来たことは大変名誉であり、とても嬉しいことです」
キリル・ペトレンコ
日本で公演する演目は、1978年の初演以来、40年近く上演され続けている人気プロダクションの『魔笛』(アウグスト・エヴァーディング演出、ユルゲン・ローゼ美術・衣裳)と、今年の5月に新演出で発表になったばかりの『タンホイザー』(ロメオ・カステルッチ演出・美術・衣裳・照明)だ。伝統的な舞台と、先鋭的な演出の舞台という二つの対照的なプロダクションである。この日集まった『タンホイザー』のキャストは、ワーグナー歌唱では世界のトップと目されているスター歌手たちだ。
タンホイザー役のフォークト以下、最高のキャストが実現
タイトルロールのタンホイザー役を歌うフォークトはこれまでも来日を重ね人気のある歌手だ。5月にミュンヘンでこの役にデビューした。
フォークト「今回はタンホイザー役で、しかもバイエルン国立歌劇場の日本公演の一環として再び来日出来たことをとても名誉に思っています。私のこの役への日本デビューを皆様に聴いて頂けることを楽しみにしております」
クラウス・フロリアン・フォークト
エリーザベト役のダッシュはこれまでレハールの『メリー・ウィドウ』やコンサート等で来日している。ワーグナーではバイロイト音楽祭他で『ローエングリン』のエルザを歌い高く評価された。
ダッシュ「前回日本に来た時には、皆様に手拍子をして頂けるような楽しい役での出演でした。今回は全く違うエリーザベト役を日本で歌えることを楽しみにしています」
アンネッテ・ダッシュ
タンホイザーを誘惑するヴェーヌス役はロシア人ソプラノ歌手、エレーナ・パンクラトヴァが演じる。
パンクラトヴァ「今回は三度目の来日です。日本の皆様が音楽に感動してくださること、そしてまた音楽への造詣が深いことにいつも感動しています。新しい役で皆さんにお会い出来るのを楽しみにしております」
エレーナ・パンクラトヴァ
美しいアリア「夕星の歌」で知られるヴォルフラム役を歌うのは、来日回数が多く著名なバリトン歌手マティアス・ゲルネだ。ヴォルフラムはこれまで数多く歌って来たが、カステルッチ演出のプロダクションは日本で初めて歌う。
ゲルネ「また日本に来られて嬉しく思っています。日本の観客の皆さんは、私どもの音楽に対してとてもオープンで、最初からあら探しすることもなく、喜びを持って、静かに聴いてくださる素晴らしい聴衆です。日本の皆様の前でこのプロダクションのヴォルフラム役を歌えることを楽しみにしております」
マティアス・ゲルネ
ペトレンコ「音楽と向き合う上での信条は〈リハーサル〉」
質疑応答では、初来日で次期ベルリン・フィル首席指揮者、しかも通常はインタビューを受けない、というペトレンコに質問が集中した。
ペトレンコによるとインタビューを受けない理由は「色々ありますが、一番大きな理由は、指揮者という仕事は指揮台から出る音楽を通じて皆様に語るものであって、私は自分の仕事について出来るだけ語らない方がいいと思っているからです。私の仕事は出来るだけ秘密がある方がいいのです」とのこと。
名声の割に録音が少ないことについては、「録音よりもライブでの演奏の方がより重要で価値があると思っているからです。ライブは音楽の生き生きした所が出るし、その場にしかない音楽が作り出される。音楽はライブであるべきで、確実すぎる状態でするべきものではないと思っています。」
音楽と向き合う上での信条は〈リハーサル〉だという。「私は本番でもリハーサルでも、とにかく音楽と真摯に向き合い、時間をかけて十分な準備をして、十分なリハーサルをしてその作品に取り組むことにしています」「私が大事にしているのは、準備段階であるリハーサルの時にオーケストラと一体になるということ。その準備が出来上がれば、本番の指揮者はすることが少なければ少ない程いいのです」
ペトレンコについて聞かれた歌手達は、フォークト「リハーサルには二つの種類があると思うのです。一つは誰の為にもならないリハーサル、もう一つは大変為になるリハーサル。ペトレンコさんのリハーサルは、本当に多くを学ぶことが出来るリハーサルであるだけでなく、リハーサルしたことが実際の本番につながっていくのです」、ゲルネ「楽譜やテキストをここまで忠実に正確に読む指揮者は他に知りません。特に『タンホイザー』では合唱とソリストが一緒に歌う所がたくさんありますが、その調整も本当に素晴らしいのです」などと絶賛だった。
クラウス・フロリアン・フォークト
アンネッテ・ダッシュ
エレーナ・パンクラトヴァ
マティアス・ゲルネ
9月21日(木)からのNHKホールにおける『タンホイザー』、そして23日(土・祝)からの東京文化会館での『魔笛』、どちらもバイエルン国立歌劇場ならではの舞台が繰り広げられることになりそうだ。
(左から)クラウス・フロリアン・フォークト、アンネッテ・ダッシュ、ニコラウス・バッハラー、キリル・ペトレンコ、エレーナ・パンクラトヴァ、マティアス・ゲルネ
取材・文=井内美香 撮影=Naoko Nagasawa
『タンホイザー』全3幕
■作曲:リヒャルト・ワーグナー
■指揮:キリル・ペトレンコ
■演出:ロメオ・カステルッチ
■会場:NHKホール
■公演日時:
9月21日(木)3:00p.m.
9月25日(月)3:00p.m.
9月28日(木)3:00p.m.
■予定される主な配役
領主ヘルマン:ゲオルク・ツェッペンフェルト
タンホイザー:クラウス・フロリアン・フォークト
ウォルフラム・フォン・エッシェンバッハ:マティアス・ゲルネ
エリーザベト:アンネッテ・ダッシュ
ヴェーヌス:エレーナ・パンクラトヴァ
『魔笛』全2幕
■作曲:ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
■指揮:アッシャー・フィッシュ
■演出:アウグスト・エヴァーディング
■会場:東京文化会館
■公演日時:
9月23日(土・祝)3:00p.m.
9月24日(日)3:00p.m.
9月27日(水)6:00p.m.
9月29日(金)3:00p.m.
■予定される主な配役
ザラストロ:マッティ・サルミネン
タミーノ:ダニエル・ベーレ
夜の女王:ブレンダ・ラエ
パミーナ:ハンナ=エリザベス・ミュラー
パパゲーノ:ミヒャエル・ナジ
パパゲーナ:エルザ・ベノワ