たとえ2日目しか参加できなくても、群馬から向かうことになっても、参加せずにはいられない『中津川ソーラー』の魔力

2017.10.5
レポート
音楽

中津川 THE SOLAR BUDOKAN 2017

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温泉しかり、ラーメンしかり、ビールしかり。一度その魅力を分かってしまったが最後、病み付きになってしまうことが世の中には結構ある。フェスにおいてもそうだ。

今年は日程的にどうしても1日目の参加が難しく、しかもライブ自体のレポートは某メディアさんでがっつりと行っているので、SPICEとしても個人としても、本来であれば取材を見送らせていただくところであった。本来であれば。でも初参加した昨年、あのフェスの魅力を肌で感じてしまった僕としては、どうしても行きたかった。いや、行かないという選択肢はなかった。あの会場の空気を吸いたい。音に触れたい。ビールを飲みたい。

ということで、今年も『中津川 THE SOLAR BUDOKAN 2017』に行ってきた。

すっかりトレードマークのソーラーパネルと気球

だが、太陽光で電力をまかなうというフェスの根幹部分はいまさら語るまでもないし、ライブレポートは余所でその日のうちに公開済み。しかもお店まわりやキャンプエリアなどフェスそのもの魅力や環境面の紹介は、他でもない去年の僕が文章にしてしまっている。せっかく呼んでいただけたからには微力ながら何かしら記事にしたいとは思いつつも、「これだ」という切り口を見つけられないまま会場へと向かったのであった。なので、ここから書き進めていく文章は「ブログにでも書いておけよ」というような、パーソナルで薄口の、大変ヘルシーな内容になっていく可能性が大。ドラマティックな内容や臨場感あふれるライブレポを期待している方、たぶんそういう内容は含まれてきません。

1日目のハイライトシーン 筆者はこの頃前橋で別のフェスに

さて。まず、なぜ今年は1日目の参加ができなかったのか。それは群馬県の前橋で行われた某フェスと日程かぶりをしていたためだ。僕はそちらのクイックレポ業務にあたらなければならず、それが朝から晩までかかるため、どうシミュレーションしても1日目のヘッドライナー・吉川晃司には間に合わず、深夜の目玉として名高い(?)「スナックよしこ」にも行けそうになかった。それでも2日目なら行ける。よし、せっかくなら2日目のなるべく早い段階から参加したい。
そういう経緯で、群馬県から帰京せずそのまま中津川に向かうという強行軍かつ普段とは違ったルートでの行程となった。折角だからそのあたりも記しておきたい。昨年は、(参考になったかどうかは定かではないが)東京在住の方のために行き方や所要時間にも触れていたので、今年はその“群馬から行ってみたバージョン”ということになる。
余談だが、2日目の出演者・フォーリミやヤバT、ロットン、10-FEET、TOSHI-LOWといった面々も僕と同様に群馬からの移動組だったので、勝手に「同志よ……!」的な親近感を感じたとか、感じなかったとか。

こんなほのぼのとした光景が場内いたるところで見られるのも、好きなところだ

AM6:00、起床。シャワーを浴びて、「ターボ」と書いてあるところにスイッチを合わせてもそよ風しか出てこないドライヤーで髪を乾かしたら、レトロな風合いのビジネスホテルをチェックアウト。出発地点は高崎駅だ。そこから7:49発の長野・金沢方面行き新幹線に乗ると50分ほどで長野駅。長野駅で9:00発の「特急しなの」に乗り換えればあとはもう乗りっぱなしである。
こう書くとだいぶ近いんじゃね?という雰囲気が出ているが、実際、思ったより時間はかからなかったし、電車の指定席もスムーズにとれたので、のんびり小旅行気分であった。ただ、要注意なのは長野駅から中津川間の特急しなの号。これ、1時間に1本とかそういうレベルのため、ちゃんと狙いすませていかないと長野駅で予期せぬティータイムが訪れる。
この特急しなのは、篠ノ井線と中央本線の区間を長野~松本~塩尻~木曽福島と、長野県を縦断しながら走るとてもローカルな路線なので、車窓からの景色は緑にあふれてとても目に良い感じ。終始非常にのどかなのでちょっと飽きがくるくらいだが、乗車後20分くらいで通過する「姥捨」駅付近の区間が「日本三大車窓」に選ばれていたり、木曽福島から中津川の間は渓谷の間を走り抜けたりと景勝ポイントも備えていて、テンションが上がる。なお、高崎からここまでで缶ビールを1リットル摂取。今年も絶好調だ。

緑色で高い演奏スキルを持つ熊・ゼロノミクマがいるのも個人的なアゲポイント

中津川駅に到着したのは、11:00ちょっと過ぎ。乗り換えも含めトータル3時間ちょっとで着いたので、都内在住者が品川駅から名古屋経由で向かうのとほぼ変わらなかった。むしろ、自宅から品川への移動も含めれば、高崎からの方が早い場合すらありそう。ということで、群馬や長野にお住まいの方にはこのルートを推奨したい。
約15分ほど送迎バスに揺られたら、いよいよ会場入りだ。ちょうど各ステージでライブも始まったタイミングだったが、風に乗ってくる音を楽しみつつひとまず会場をウロウロすることにする。たっぷり1日目から楽しんでいやがった総合編集長による、「いかに吉川晃司が素晴らしかったか」「スナックよしこで朝方まで飲み倒してやったぜ」などという僕にとっては嫌味にしかならない感想の類を華麗に聞き流しながら、オフィシャル及び各アーティストのグッズをみたり、アパレル系のショップゾーンをまわったり、フードエリアをチェックしつつおビールを嗜んだり。

ドリンクショップには気さくなナイスガイが

こういう細部の意匠が光るフェスでもある

基本的には昨年と同じような会場設計となっているため、場内を巡りながらどこか懐かしさを覚える僕。これ、フジロックなんかにも言えることだけれど、苗場スキー場にしろ中津川運動公園にしろ、普段は全然フェス会場とは違う本来の姿をしているのに、1年のうちにそのタイミングしか訪れる機会のない我々にとっては、まるで常にその姿で存在しているような気がしてしまう。その架空の街に1年ぶりに訪れた感じ近い錯覚すら覚えるのだ。そんな音楽と音楽好きにあふれた“街”は今年も両日で3万人の“住民”でにぎわっていた。

今年も将来有望そうなお子さまが多数

今年の中津川ソーラーのテーマは“Family Forever Family”。人類の未来がひとつひとつの家族の延長線上にあると位置づけ、さらにこれまで以上に家族で楽しめるフェスを目指す、というメッセージが込められている。その一環としてキッズエリアがパワーアップを果たし、専用のステージを備えた「こどもソーラーブドウカン」エリアとして、ワークショップやスペシャルライブ(2日目にはダイノジやRONZI、ナカヤマシンペイなども登場していた)が開催され、大いに盛り上がっていた。

専用のゲートも備える「こどもソーラーブドウカン」

専用のTシャツも!

キッズエリア以外にもちびっこ歓喜の仕掛けが豊富にある

そういった取り組みの甲斐あってか、場内を見渡すと家族連れが非常に多く目につく。暑すぎず寒すぎない開催時期、人里を離れすぎない環境、キャンプエリアの存在、大人から子供まで楽しめるバラエティに富んだ出演陣……考えてみればファミリー向けフェスとしての中津川ソーラーは完璧に近いわけだが、家族連れに限らず、元気なライブキッズから初老のご夫婦、ちょっと見た目が怖そうな大人までバランスよく楽しんでいるという、いわばオーディエンスの多様性もとても印象的だ。オーガナイザー・佐藤タイジがこのフェスを通して提案し続けてきた、未来における社会のかたち、その縮図がこの景色であるとすれば、とても興味深く、意義深いことだなぁとも思う。

2日間精力的に動き続けたオーガナイザー・佐藤タイジ

ときにはこんなすごいことにもなるオーガナイザー

その佐藤タイジはといえば、今年も1日目のシアターブルックをはじめ、2日目のインディーズ電力、The SunPaulo、CHABOのライブなどなど精力的に色々なステージに出没していたのだが、個人的に一番不意打ちを食らったのは、「阿波踊 太閤連」による阿波踊りのパフォーマンスへの登場であった。昼下がりのフードエリア奥のある小さなステージに現れた佐藤タイジの姿に、周囲からも驚きの声が上がり、瞬く間に人だかりができていく。実はこの阿波踊りパフォーマンスを中津川の地で実現することは、本場・徳島出身である佐藤タイジの宿願だったのだそうだが、たしかに、徳島県人にはDNAレベルで刻まれているのだという祭り囃子のリズム感、そして「踊る阿呆に見る阿呆  同じ阿呆なら踊らにゃ損損」という精神は、ロックフェスという環境や来場者の心持ちと驚くほどリンクする。そして阿波踊り衣装姿の女子は、驚くほど可愛かった。こんなん盛り上がらないはずがないじゃないか。

女子はかわいいし、

男子はたくましいし、

子どもは微笑ましい、阿波踊り「阿波踊 太閤連」のみなさん

場内をひとしきり見回ったあと、もう少し取材っぽいことをしておこうと思案する。昨年は“中津川でキャンプ体験してみた”という大義名分のもと満喫しまくったわけだが、今年も何か体験ものは抑えておきたいなぁ、でも高所恐怖症だから“気球に乗ってみた”は不可能だしなぁ、心は永遠にキッズとはいえ35才男子ではキッズエリアの体験も難しいし……と迷っていた僕の目に飛び込んできた文字。「Tシャツライブプリント」。ようするにTシャツ作り体験だ。

Tシャツ作りコーナーにて。よく見るとイラストがクセになる

はい、そこ。地味とか言わない。

フェスに参加している感を手っ取り早く味わう方法、醍醐味。それはフェスTを着ることである。その年のオリジナルはもちろん、あえて過去開催のTシャツを引っ張り出して着たり、別のフェスの思い出のTシャツでもなんでもいいが、とにかくフェスTを着て会場をウロウロするだけで、当事者感がグッと増してくる。楽しさはもはや無限大だ。それにどうせ汗もかくから、途中で着替えたくなったときもTシャツはすこぶる便利だし、ロック界隈におけるTシャツのチョイスは着る人のセンスや精神のアピールでさえあるのだ。そんな中でちょっとでも違いを出していきたいのなら、売っているTシャツがいまいち好みに合わなかったのなら、シルクスクリーンに滅法目がないのなら、そう、オリジナルのTシャツを着て歩いちゃえばいいじゃない。

そのガタイゆえTシャツをピチッと着こなすことにかけては右に出る者のいないSPICE総合編集長

色とサイズをチョイスしたら慎重にセットする

模様がくり抜かれたパネルの上から圧着して色をつけていく

果たして綺麗にプリントできているか、緊張の瞬間

完成! 既製品と遜色ないクオリティなのでオススメ。なお2500円というリーズナブルな価格

僕及び総合編集長が体験したブースでは、3デザイン、生地が9色、プリント色が3色ということで3×9×3=81パターンにも及ぶ(計算方法あってますかね?)Tシャツを作成することが可能であった。そこにSから2XLまであるサイズまで加味したら、もはや組み合わせも無限大だ。ということで、総合編集長はグレーに松明柄という見た目通りなチョイスで、僕は紺色に太陽と熊のキャラクターをオレンジ色で、という可愛さ全振りのTシャツを作成。後ろに並んでいた女子2人組から「かわいい」って言ってもらえて嬉しかったです。

後藤正文&喜多建介

Nothing's Carved In Stone

ライブについても触れておく。今年は5周年に相応しくこれまでの集大成といってもいいメンツが揃っていた印象で観たいアクトが目白押しだったのだが、個人的にタイムスケジュール上で特に厳しかった局面は、15:00から一斉にTHE GROOVERS、アジカン・後藤&喜多、そしてNCISのライブがスタートしたときであった。だが、そこは適度にコンパクトな会場サイズを誇る中津川。およそ2曲ずつではあったが、全てのアクトを堪能することができた。
そこからは午後の涼風が吹くRESPECT STAGEでハナレグミ、沈みゆく夕陽と相対しながらほぼノンストップのライブを繰り広げたストレイテナー、初登場ながら自分たちのライブを全うしていた忘れらんねえよと場内をすみやかに周回しながらライブを楽しんでいく。

ストレイテナー

Kj

スペシャルなコラボの連続に沸いた、中津川とも深く通ずる理念のもと錚々たるアーティストが集う東北ライブハウス大作戦ステージを堪能した後、2日間のトリを飾ったのは仲井戸“CHABO”麗市 SOLAR JAMだった。
この時間になると遠方からの参加者が会場を後にせざるを得ない点だけは残念なのだが、それでもREVOLUTION STAGEに集結した決して少なくない熱きロック馬鹿達に向け、渋みと衝動とが同居したロックンロールを叩きつけていくレジェンド・CHABO。3月に亡くなったチャック・ベリーへと捧げられた「Rock & Roll Music」やRCサクセション「雨上がりの夜空に」……疲れた体と一抹の寂しさ、そして充足感ともに聴くこれらの楽曲は、なんとも最高だった。

TOSHI-LOW、山口洋

細美武士、ホリエアツシ、ウエノコウジ、ナカヤマシンペイ

とここまで観ていたということは、今年は後先考えずにオーラスまで堪能してしまったということなのだが、これにばっかりは東京や、もしかするといるかもしれないこの原稿を参考に来年群馬方面から参加する方は気をつけなければならないところ。21:00過ぎまで会場にいた場合、帰れないのである。中津川発・名古屋方面の電車はフェスに合わせ増発していたが、それでも名古屋から先の最終新幹線には間に合わない。中津川近辺の宿はなかなか抑えられないので、ラストまで楽しむ場合、名古屋や多治見など周辺都市も視野に入れ宿泊場所を確保しておこう。それだけする価値はありますので。

仲井戸“CHABO”麗市

仲井戸“CHABO”麗市、佐藤タイジ

中津川で開催するようになって5年目、節目の中津川ソーラーはこうして幕を閉じた。直前まで危ぶまれた天気も、“太陽の人”佐藤タイジや自称“太陽神”の総合編集長、名前が“タイヨウ”な僕など、様々な要素が絡み合った結果、見事に2日間ともソーラーにふさわしい晴天に恵まれた。そして両日で3万人という動員は過去最多。回を重ねるごとにその存在が着実に浸透し、同時にフェスが掲げるフィロソフィーに賛同する人の輪が広がっているということだろう。

何故か。
それは今年も僕がずっと感じていた「この居心地の良さは何だろう」という疑問に対する答えとイコールであるはずだ。中津川ソーラーの居心地の良さの秘密――もちろん色々な要素があると思うが、一番には“ブレの無さ”だと思っている。出演者の選定から出展ブースの中身、会場内の装飾や動線にいたるまで、フェスのいたるところから見えてくる「こういうフェスにしたい」「こういう人に楽しんでほしい」という作り手側の意図が一貫しているため、自ずとそれを求める層が遊びに来るという、好循環のサイクルが完成しているのだ。言い換えれば、需給のバランスが高次元でとれているということでもある。あんまり夢のない話だが、現実問題としてフェスには興業的な側面がついてまわるにもかかわらず、そこをブレずに徹底できているのは本当にすごいと思う。

山に囲まれた傾斜地に陽光が降り注ぐ、つくづく絶好のロケーション

自然と調和し、愛と平和を謳い、音楽にあふれる世界を願うのは決して絵空事ではない――そう信じさせてくれるフェス。しかもその理念や信念を独りよがりでは終わらせず、主催もアーティストもバイトスタッフも一丸となってちゃんと来場者が楽しめるような「形」にできているフェスは、フェスが飽和気味の時代にあってもきっとここくらいだ。あんなに強行軍でヘロヘロでフィニッシュしたのに、帰り道にはもう来年のことを考えながらワクワクしてしまうのだから。

……というキレイな流れで締めるのはなんだか気恥ずかしいので、個人的なメッセージを叫んで終わろうと思う。

「来年こそ、待ってろよ。よしこ!!」

こんなレポートを書いている人間に来年があるのかは、甚だ疑問ではある。


取材・文=風間“太陽”

ありがとう、中津川ソーラー。また来年!!

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