鳳蘭&実咲凜音、母娘役で初共演! ~日本初演50周年記念公演ミュージカル『屋根の上のヴァイオリン弾き』大阪で会見
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ミュージカル『屋根の上のヴァイオリン弾き』合同取材会にて(撮影/石橋法子)
結婚に必要なのは「愛」か「金」かーーー。帝政ロシア時代に、5人の娘たちと暮らすユダヤ人夫婦の悲喜こもごもを描いたミュージカル『屋根の上のヴァイオリン弾き』。1964年にブロードウェイで初演、日本初演から50周年を迎えた本作が、年末年始に全国6都市で記念公演を上演する。思想、宗教、人種問題など様々なテーマを内包しつつ、軽妙な台詞回しと耳に残る音楽、心踊るダンスシーンで彩るエンターテインメント大作だ。肝っ玉母さんゴールデ役としっかりものの長女ツァイテル役で初共演を果たす鳳蘭と実咲凜音。宝塚歌劇団出身の大先輩と後輩でもある二人が、大阪公演の合同取材会で作品への思いを語った。
ミュージカル『屋根の上のヴァイオリン弾き』合同取材会にて
「3年ぶりに台本を読み返し、嗚咽を漏らすほど泣いてしまった」(鳳)
ーー鳳蘭さんと実咲凜音さんは、ともに宝塚歌劇団のご出身です。
鳳蘭(以下、鳳) 同じといっても、私の下の娘が33歳で(実咲さんは)それよりもまだ若いですし、光栄です。
実咲凜音(以下、実咲) 鳳蘭さんといえば、宝塚出身ならみなさん誰もが憧れる存在です。そんな方と共演させて頂ける、しかも私にとっては退団後初の作品になります。こうやって取材をご一緒させて頂ける時間ですら幸せです。
右から、鳳蘭、実咲凜音
鳳 本作には3年ぶり3回目の出演ですが、うち2回は長女ツァイテル役が元宝塚の男役の方だったので、5姉妹のなかでもツァイテルはボーイッシュな印象でした。今回ははじめて女の子という気がします(笑)。
ーー今回は50周年記念公演です。本作がここまで愛される理由はどこにあるとお感じですか?
鳳 移動中の新幹線で台本を読み返していて、前回これほど感じ入ったかな?と思うくらい、心の深い部分に染みてくるものがありました。歌は歌うほどに感じ入るものがあると思っていましたが、今さらながら、お芝居もそうなんだなと、車中で嗚咽するほど泣いてしまいました。世界三大ミュージカルと言われているくらい、深い作品です。
実咲 これまで舞台を拝見したことがなく、映画を観させて頂きました。映画でもユダヤ人が直面する時代背景の重々しさはありつつも、クスッと笑ったり感動する部分もある。そこが、お客さまにも同じように感動を与えている作品なんだなと思いました。50周年という区切りの年に参加させて頂けて光栄です。
ーー鳳さんが、嗚咽するほど心を突かれた部分とは?
鳳 アメリカにいる叔父を訪ねていこうとする場面です。まだ叔父に確認もしていない段階から馬車に荷物を積んで、アナテフカ村を追い出される。そのあと無事にアメリカに着いたのか、着いても叔父は受け入れてくれるのか。何も分からない。とにかく村を追い出されるという悲しみの中、このドラマはクエスチョンのまま終わりなんですよね。幸せになるのか、またロシアに捕まって殺されるのか…。これまでユダヤ人の迫害に関しては、ガス室に送られる映画やメディアなどで見聞きしてきましたが、今回はその事実に思いを馳せ、もっと敏感に感じるようになりました。
ーー鳳さんは日本でお産まれになり国籍も日本ですが、ご両親は上海から渡って来られました。本作は民族と家族の物語ですが、ご自身のバックグラウンドと重ね合わせて思うところはありますか。
鳳 そうですね。小さな頃から父には「目立つな」と言われて育ちました。こんな派手な顔に産んでおいてね(笑)。とにかく目立たず見本となるような良い人でいろと。父に内緒で受けた宝塚歌劇団も辞めろと言われ、父は日本で目立たなく地味に生きてきたんだなと。母からは塩屋(神戸)の海を見ながら、「海のように広い心をもった女性になれ」と言われました。
右から、鳳蘭、実咲凜音
ーーご実家は、洋服店を営まれていました。
鳳 世間にはオートクチュールと言っていましたが、仕立て屋です。(長女が恋する)モーテルと同じですね。母親のゴールデは、娘にはお金の心配はさせたくないので、金持ちの肉屋と結婚させたい。なのに、ツァイテルは貧乏な仕立て屋さんと結婚するんです。未だに反対です。実の娘にも「結婚するならお金持ちと」と言い続けてきましたが、ダメでした(笑)。
右から、鳳蘭、実咲凜音
ーー鳳蘭さんは、実生活では2人の娘さんとそれぞれお孫さんもいらっしゃいます。
鳳 最近、文学座にいる下の娘に男の子が産まれましたので、孫が4人になりました。そういう部分もあって、今回は今までになく家族の物語に感じ入ったのかもしれませんね。ただ、私が子育て中の頃は、よく実家に娘たちを連れていくと両親が2時間ぐらいで「帰れー!」と言っていましたが、その気持ちが今ならよく分かる。私も孫が無条件で可愛いのは、2時間ぐらいです(笑)。
ーー(笑)。実咲さんは現時点でツァイテルをどんな女性だとお感じですか。
実咲 長女ということで、面倒見の良い責任感のある女性なんだろうなとイメージしています。5人姉妹の中でメリハリよく個性を見せられたら良いなと。また、ツァイテルは母ゴールデと一緒の場面が多いので、嬉しいなと思います。お稽古が楽しみです。
実咲凜音
鳳 次女は流れ者の革命家と恋をしてシベリアへ行き、三女はロシア人と恋をして家出をしてしまう。四女、五女はまだ幼いので結局、ツァイテルが子供を産んで家を継いでいる。やっぱり長女が一番母の近くにいますね。
ーー母親のゴールデ役についてはいかがでしょう。
鳳 市村(正親)さん演じる夫テヴィエを手のひらの上で転がしていると思いつつ、じつは夫に転がされている。娘の結婚相手も絶対にお金持ちと思っているのに、うまいこと市村さん(テヴィエ)に説得されて、長女のときは「それでいい」と。次女のときは市村さん(テヴィエ)に愛していると言われて、最終的に「私も!」となったり、情感豊かな役ですね。そういうキャラクターは得意です。逆に(感情を)出しすぎて「抑えろ」ってよく言われます(笑)。
鳳蘭
ーー5年ぶり5回目となる一家の大黒柱、テヴィエ役を演じる市村正親さんの印象は?
鳳 台本を読むとかかあ天下で私がぐいぐいリードしているように見えるんですけど、じつは市村テヴィエの大きな壁に守られているなというのをすごく感じます。演技にしても例えば私が5ぐらいで怒っても、彼は10ぐらいで怒られているような芝居をしてくれる。私のかかあ天下が目立つように、そういう気配りが出来る方です。彼は自分だけではなく、周りを全部見ながら芝居をしているんだなと思いますね。
右から、鳳蘭、実咲凜音
実咲 いまお話を伺っていて市村さんのお人柄が、どの作品からもにじみ出ていたなと思います。朗らかで面白くてというのが、作品を通しても伝わって来ていたので。今回は共演という形で近くでお芝居を見せさせて頂ける、勉強になる経験だなと思います。
「退団して、改めて自分は舞台が好きなんだと再確認できました」(実咲)
ーー実咲さんは、退団から半年ほど経ちました。どんな日々を過ごされていますか。
実咲 退団するとこんなに自分の時間があるのかと、すごく衝撃でした。とにかくどれだけ眠られるのかというくらい、寝ていました(笑)。舞台を観る時間もたくさんでき、改めて自分は舞台が好きなんだということも再確認できました。在団中は目の前に課題がずっとあったので、諦めずそこに立ち向かっていけばずっと成長していける。ありがたい環境だったんだなとつくづく感じています。
実咲凜音
鳳 私の上というと越路吹雪さん、上月晃さんがお亡くなりになって、ひょっとして私がいま宝塚出身の女優としては先頭を歩いているのではないかという気がします。振り向くと大地真央さん、黒木瞳さん、天海祐希さん、真矢みきさん、檀れいさん、そのずーっと後ろの方にやっと実咲さんが歩いている。私は結婚、出産、色々な苦労も経験してきたので、今みんなが何で悩んでいるのかがすべて分かる。歩いて来る下級生たちが全員かわいいですね。
ーー歩き始めた実咲さんに、一言声をかけるなら?
鳳 騙されるなよと。宝塚出身の方は“無菌者”なんですよ。人生はいばらの道と言われるけど、宝塚ではバラのトゲは全部歌劇団が取ってくれるんですよ。でも退団した瞬間からバラのトゲで血だらけになる。宝塚のひとは人を疑わないから「99%騙される」とか、怖いことばっかり吹き込んでます(笑)。
右から、鳳蘭、実咲凜音
実咲 こうやって色んなお話をして下さってすごく勉強になります。鳳さんがお話されると大変なことすら楽しまれているような気がして、未来が明るく見えてしまう。色々気を付けて肝に命じていきたいと思います。
ーー最後に、本作のテーマでもある家族愛についてお聞かせください。
右から、鳳蘭、実咲凜音
鳳 私は両親が亡くなっているので、自分の娘、家族たちのことですよね。やっぱり子供の苦しみは身を切るように痛いです。転んでも自分が痛いし、代わってやりたいと思う。自分が母親やおばあちゃんになって、やっと両親たちの気持ちが分かりました。日本でこの作品を上演するとき、まるで当事者のように深い所で感じて貰えるように、宗教や人種問題について伝わるように演じなければならない。日本の人にもユダヤ人の悲劇を届けたい。私はこの世に産まれたた人は誰もが幸せに生きる権利があると思っています。これから日本にも難民が入ってくると言われる時代に、もっとこの作品が提示する問題が日本の方にも親身に感じて頂けるのではないかと思います。笑ったり泣いたりする感動的な世界三大ミュージカルのひとつです、ぜひご覧ください。
実咲凜音
実咲 宝塚歌劇団にいるときから家族のサポートはありましたし、悩んでいる時は母が相談相手で支えて貰っていました。渦中にいた時は必死すぎてそこまで分からなかったものが、家族の時間を持てている今だから感じることができました。兄も弟も家族が増えてみんな一緒に集まって食事をする、そんな当たり前のことがすごく幸せなことなんだなと。関西出身者としては、梅田芸術劇場で公演させて頂けることをとても嬉しく思います。たくさんの方に感動して頂けるように舞台を作っていけたらなと思います。
右から、鳳蘭、実咲凜音
取材・文・撮影=石橋法子
■音楽:ジェリー・ボック
■作詞:シェルドン・ハーニック
■オリジナルプロダクション演出・振付:ジェローム・ロビンス
■日本版振付:真島茂樹
■日本版演出:寺﨑秀臣
■日程:2017年12月5日(火)~12月29日(金)
■会場:日生劇場
■日程:2018年1月3日(水)~8日(月・祝)
■会場:梅田芸術劇場メインホール
■日程:2018年1月13日(土)~14日(日)
■会場:静岡市清水文化会館(マリナート)
■日程:2018年1月19日(金)~21日(日)
■会場:愛知県芸術劇場大ホール
■日程:2018年1月24日(水)~28日(日)
■会場:博多座
■日程:2018年2月10日(土)~12日(月・祝)
■会場:ウェスタ川越大ホール