バンドの新たなるスタンダード確立へ、SHE'Sが初のホールツアーでみせた姿
SHE'S 撮影=Atsushi Ito
SHE’S Hall Tour 2017 with Strings ~after awakening~ 2017.9.29 草月ホール
SHE’S初となるホールツアーは、ツアータイトルからも察せられるように、ストリングスを迎えた構成での演奏に挑戦。バンドの武器をまた一つ増やすような、意義深いツアーとなった。
SHE'S 撮影=Atsushi Ito
SHE'Sの持ち味といえば壮大なスケールを感じさせるサウンドだが、CD音源では彼ら4人のサウンドに加え、弦楽器のサウンドを大胆に組み込んだものも多い。この編成でライブを行うことが発表になったのは前回のツアーファイナルの時だが、この半年弱の間、音源だけでしか知りえなかったあの世界を体感できる日のことを楽しみに待っていた人も多かったのではないだろうか。
SHE'S 撮影=Atsushi Ito
SHE'S 撮影=Atsushi Ito
東名阪をまわるツアーの冒頭2日間の会場は草月ホール。東京都港区に位置する、総席数530の多目的ホールだ。喩えるならTSUTAYA O-EASTをもう少し小さくした感じ、といったところだろうか。3階建てになっていて、縦と横はまあまあ広いが奥行きはそれほどなく、どの席からでもステージが結構近い。開演を待っていると続々と席が埋まっていくが、普段のライブとは一味違うクラシカルな装いをした人が多く、そんなところからも特別感を読み取ることができた。すると影アナが開演間近であることを知らせ、ライブの注意事項などをアナウンスしはじめるが、最後の最後、声の主がHalo at 四畳半の渡井翔汰(Vo/Gt)であることが明かされ、場内がざわつく。どうやらメンバーに頼まれ収録したようなのだが、他の3日間でもSHE'Sと縁の深いバンドマンがそれぞれアナウンスを担当したとのこと。後のMCで本人たちも言っていたように、メンバー4人自身もまた、このツアーを心待ちにして準備を重ねてきたのだ。
SHE'S 撮影=Atsushi Ito
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井上竜馬(Vo/Pf)、服部栞汰(Gt)、広瀬臣吾(Ba)、木村雅人(Dr)、そしてバイオリン2本+ビオラ+チェロという編成のストリングスカルテットがステージ上にスタンバイ。「『SHE’S Hall Tour 2017 with Strings ~after awakening~』へようこそ! みなさん、元気?」と井上が語りかけ、1曲目「Over You」を始めた。ストリングスの流麗なフレーズと4人が鳴らすバンドサウンドが絡み合うと、そこにオーディエンスの歌声が加勢し華を添える。先述の通り、客席からステージが近いため、総勢8+530名でのサウンドは響きわたるよりもまず先に、ダイレクトに聴き手の耳にへ飛び込んでくる。「Un-science」の旋律をどこまでもドラマティックに聴かせると、続く「Someone New」ではストリングス隊が一旦退場。このように、ストリングスを迎えて演奏したり、バンドのみで演奏したり、4人は曲に合わせた編成で以って演奏に臨んでいた。
SHE'S 撮影=Atsushi Ito
SHE'S 撮影=Atsushi Ito
心地よくスウィングする「Beautiful Day」。フォークテイストの曲調にオレンジ色の照明がよく似合う「In the Middle」。ソロ回しでつなげる間奏が楽しい「グッド・ウェディング」。メタリックに掻き鳴らす、一見異質だがこのバンドに欠かせない服部の存在感。音の鳴らし方だけではなく“止め方”でもリズムを生み出すような広瀬の奏法。バンドの背を支えることを一番に考え、ポイントを絞って熱を爆発させる木村のビート。バンドのみで届けられる曲では各メンバーの個性がより一層映えていたが、この辺りは間違いなく「よりライブバンドであるために」と作られ今年1月にリリースされたアルバム『プルーストと花束』と、その曲たちを一つずつ自分たちのものにしていった全国ツアーの中で培ったものであろう。輪郭がはっきり見えるようになったバンドサウンドの上を行く井上の鍵盤とボーカルにも気合いが滲んでいるし、互いに互いを鼓舞しあうような、能動的な空気がバンド内に流れていることがよく分かる。聴いていて爽快な気分になることのできる、気持ちの良い音。ストリングスを迎えた曲においても、サウンドを飾りつけてもらっている感じは一切せず、むしろ弦楽器やオーディエンスの歌声を従えていくような頼もしささえ感じたのは、そういうバンドの生身の部分がしっかりと見えたからだ。
SHE'S 撮影=Atsushi Ito
SHE'S 撮影=Atsushi Ito
いつも通りフランクな調子のMCを挟み、ライブも中盤。大切な人が亡くなったことをキッカケに“残った自分にできること”を考えながら作った曲なのだと井上が語った「Long Goodbye」、そして「Ghost」ではバンドの音とストリングス隊の音が激しくぶつかり合いながら、ひとつのハイライトを描いていった。直後、井上は「夏フェスで楽しい曲やってたから久々やわ~、この感じ! 闇の世界にいたわ」と笑っていたが、バンドの纏う緊張感を察知し、静かに集中していたオーディエンスの反応を見る限り、SHE’Sにそういう表情を求めているのはどうやらバンド側だけではない。演奏に手応えを感じてか、井上、「っしゃー! いくでいくでいくで!と勢いづくも、「ただ次、そんな感じの曲やない(笑)」と自らツッコミを入れ、「Voice」へ。<君の声が聞こえるように/耳を澄ましてここにいるから>とバンドが改めて伝えると、客席から湧き上がるのは温かなシンガロング。「今日一大きい声出せるか!」というの投げかけに応えたその一つひとつを前に、井上はピースサインを掲げたのだった。
SHE'S 撮影=Atsushi Ito
そして「aru hikari」で本編は終了。井上の指揮に合わせ音がスッと静まっていく演出は鮮烈なものだったが、アンコールで再登場するや否や「過去最高にクールな終わり方やったな! 決まってた?」とか言ってしまうのがこの人の性格である。また、ツアー初日のこの日は“「aru hikari」でオーディエンスにスマホのライトを点灯してもらおうと思っていたのにそれをすっかり忘れていた”ことを白状し、かなり悔しそうにしていたが、井上のTwitterアカウントにアップされていた動画を見る限り、翌30日には無事成功したようだ。ここで重大なお知らせとして、12月6日に2ndアルバム『Wandering』をリリースすること、それに伴い来年2月から全国ツアーを行うことを発表。さらにアルバム収録予定の曲だと紹介し、ストリングス隊とともに「The World Lost You」を演奏した。イントロが始まった途端、客席の中には崩れ落ちるように喜び合う人たちもいたが、それもそのはず。後に井上から説明があったように、この「The World Lost You」は彼らが自主制作時代に作ったCDの1曲目の曲であり、『閃光ライオット2012』出演時にも披露された、特別な一曲なのだ。
SHE'S 撮影=Atsushi Ito
SHE'S 撮影=Atsushi Ito
4人編成に戻って演奏した「Curtain Call」でこの日のライブは幕を閉じた。振り返ってみると、ストリングスを迎えた編成で演奏したのが10曲、4人のみで演奏したのが8曲。特に前者の方は、“音源再現”にとどまるような感じは決してなく、自分たちの新たなスタンダードを確立せんとする、バンドの前のめりな温度を読み取ることができたのが良かった。初めての試みであるためまだ荒削りな部分もあるにはあったが、バンドが歳と経験を重ねるにつれ、この響きはもっと豊かになることだろう。ぜひライフワークとしてこの形式でのライブを続けてほしいと思わせられるような、初のホールツアーであった。
取材・文=蜂須賀ちなみ 撮影=Atsushi Ito
SHE'S 撮影=Atsushi Ito
1.Over You
2.Un-science
3.Someone New
4.Beautiful Day
5.In the Middle
6.グッド・ウェディング
7.Isolation
8.信じた光
9.Night Owl
10.Don’t Let Me Down
11.Long Goodbye
12.Ghost
13.Voice
14.Freedom
15.遠くまで
16.aru hikari
[ENCORE]
17.The World Lost You
18.Curtain Call
『Wandering』初回盤
『Wandering』通常盤
All My Life
Blinking Lights
Flare
Getting Mad
Remember Me
White
Beautiful Day ※TBS系テレビ「王様のブランチ」6月度エンディングテーマ
C.K.C.S.
Over You ※TBS系テレビ「CDTV」6月度エンディングテーマ
The World Lost You ※「閃光ライオット2012」出演時の楽曲のリアレンジを初収録!
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<2F指定席>¥4,000(税込) ※ドリンク代別
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