キャンプしながらのんびり楽しむウィルコ・ジョンソン、カール・クレイグなどなど――今年の朝霧JAMを振り返る・その1
-
ポスト -
シェア - 送る
撮影=風間大洋
Camp in 朝霧Jam It’s a beautiful day 2017.10.7~8 富士山麓 朝霧アリーナ・ふもとっぱら
フジロックは2年目の1998年(豊洲にて開催)から毎年全日行っている。もう20年行き続けたことになる。じゃあ朝霧JAMには自分は何年行っているのだろう。そう思っていま調べてみたら、初めて行ったのは2004年開催の第4回目。14年行ってるわけだ。今年出演したEGO-WRAPPIN’のよっちゃんこと中納良恵さんは、ステージで「13年ぶりの朝霧JAM!」と叫び、「前に出たときはテレヴィジョンを観ました」とも話していたが、それは正しくは2003年の第3回目のことだから残念ながら自分は観ていない。因みにその年の1日目のRAINBOW STAGE、ヘッドライナーはケミカル・ブラザーズ (DJ SET)だった。さらに遡って第2回目には忌野清志郎も出演している。観たかったなぁ、朝霧での清志郎。
フジロックと朝霧JAM。「どっちが好き?」と訊かれたら「いや、どっちも」と答える。それぞれにそれぞれのよさがある。無理だ、ひとつを選ぶのは。どっちもフェスそのものとその場所自体に魅力がある。誰が出るから行くとかじゃない。誰々を観に行く、ということではない。というか、退屈なラインナップになどなるはずがないとわかっている。それは両フェスを主催するSMASHに対しての信頼であって、これまで裏切られた気持ちになどなったことがない。ほかのフェスはどうかわからないが、フジロックと朝霧JAMは、何か体調によほどの異変でも起こらない限り、これからもずっと行き続けるだろう。
撮影=風間大洋
どちらにも共通してあるのが、ザックリ言うならフリー・スピリットというようなもの。ガチガチのルールなどそこにはなく、のびのび過ごせる。この「のびのび過ごす」という感覚は重要で、環境がよくないとそうはできない。ライブを観て最高。ライブを観てないときも最高。それがいいフェスというものだが、夏のフジと秋の朝霧はその最たるものだ。
当然、違いもある。じゃあ何が違うのか。一番の違いは、朝霧JAMがキャンプフェスであることだ。フジは「キャンプをするのもOK」なフェスだが、朝霧はキャンプをする以外に選択肢がない。そもそも正式名称は『Camp in 朝霧Jam It’s a beautiful day』である。「Camp in」なのである。SMASHの大将、日高正博さんはよくインタビューなどで話している。なんならライブを観なくてもいいから、キャンプを楽しんでほしい。そうして日常では気づけない何か大事なことに気づいたり発見したりしてほしい、と。それがどういうことかは、行けばわかる。まあ、どうにも潔癖な人とか虫がダメな人とかはアレだけど、そうじゃなくて、行って後悔したという人を、自分はあまり知らない。
撮影=風間大洋
フジも朝霧も雄大な自然を感じながら過ごせるフェスだが、フジになくて朝霧にある(見える)その代表的なものは何かといえば富士山だ。見えないときもそりゃあるけど、見えたらそれだけで嬉しくなる。とりわけ夕暮れ時の赤富士の美しさたるや。あれが見れたら超ラッキー。昨年の2日目の夕方、スカタライツで踊りながら、ふと振り返るとそれはもう見事な赤富士で。忘れられませんね、あの美しさは。そんなだからミュージシャンも運がよければ富士山を見ながら演奏できるわけで。たまにいますよ、海外アーティストで間違って「フジロォ~ック!」と叫んじゃう人が。今年はガーランド・ジェフリーズさんがそうでした(笑)。
それから富士山と言えば、これも朝霧名物、ダイヤモンド富士。早起きして神々しさすら感じられるそれを拝むことを朝霧JAMの主目的にしている人もいるぐらい、あれは感動的。寒さにブルブル震えながら日の出を待ち、日が昇った途端に温度が上がってカラダがあったかくなるあの感じ。朝霧に行きながらまだそれを味わったことがないという人は損してるんじゃないか。いや、損ってこたぁないけれど。
撮影=風間大洋
フジになくて朝霧にあるものといえば、わりと大きいんじゃないかと思うひとつが、そう、犬の存在だ。フジは注意事項に会場内のペットの持ち込み禁止が謳われているが(但しドッグランや犬参加OKエリアはある)、朝霧はどこでも自由で、犬を連れてる人がとても多い(もちろん「どん吉PARK」というドッグランもある)。犬を抱えてライブを観ている人がいたり、小さな子供(親子連れで来ている人もフジより遥かに多く、朝霧は子供たちがみんなのびのびして見える)と犬が遊んでいたり。それ、見ていてとても和むのだ。実にこうピースフルで、ニッコリしてしまう。犬が好きで、ライブを観るのが好き。そういう人なら行かない理由のないフェスだと思う。
撮影=風間大洋
では、フジやほかのいくつかの大型フェスにあって、朝霧にないもの、なくて嬉しいものは何かというと、それは入場規制と移動時の渋滞だ。これまで人が多すぎるというストレスを感じたことがない。ステージからステージへの移動もいつだってラク。改めて考えてみると、これが一番の朝霧JAMの優位性かもしれない。朝霧は「ユルさ」がいいとはよく言われることだが、そのように人を入れすぎないことが、いい意味での「ユルさ」に繋がっているわけだ。
ところで例年は出演者の発表が大体9月で、つまり
撮影=風間大洋
というわけで、10月7日から8日にかけて開催された、第17回目となる朝霧JAM。東京では前日の金曜日からけっこうな量の雨が降り出し、予報によれば静岡は開催当日の午前中まで雨とのことだったので覚悟して臨んだのだが、家を出る早朝には既に降り止み、ツアーバス(自分は毎年それを利用している)が会場に到着する少し前には太陽も。結局、1日目の夕方だけ少し降られたものの、それ以外はずっと晴れていて、2日目の昼などは真夏並みの暑さで日焼けしたほど。夜も朝もいつもみたいに寒くなく、実に過ごしやすかった。今年はフジでもライジングでもサマソニでもがっつり降られたものだが、自分にとっての2017年の野外フェス締めがいい天気だったのは本当によかった。
さて、自分が観たライブは、以下の通り。
1日目。マーサ・ハイ with オーサカ=モノレール → LOGIC SYSTEM → ガーランド・ジェフリーズ → ウィルコ・ジョンソン → EGO-WRAPPIN’ → マウント・キンビー → カール・クレイグ。
マーサ・ハイ with オーサカ=モノレール 撮影=風間大洋
10時過ぎに会場に着き、いつもの場所にテントを設営してから3時間半ほどビールなど飲んで友達とユルり。テント設営が終わったあとの乾杯はいつものことながら最高だ。
ライブの初っ端は、RAINBOW STAGEのマーサ・ハイwith オーサカ=モノレール。世界をまたにかける浪速のファンクバンド・オーサカ=モノレールが、結成25周年を迎えて送る特別プロジェクト=「JB歌姫コラボレーション第2弾」である。JB歌姫、つまりジェイムズ・ブラウンのバックシンガーとして活躍した歌姫ということで、モノレールはまず2006年にそのひとりマーヴァ・ホイットニーとコラボ。一緒にツアーして、モノレールが全面バックアップしたアルバムも発表された(それはマーヴァにとって36年ぶりの新作だった。が、マーヴァは2012年に68歳で死去。そのアルバムが遺作となった)。
続いてJB歌姫コラボ第2弾としてモノレールがマーサ・ハイを初めに日本に呼んだのは2015年。これはマーサにとって初の単独来日で、モノレールがバックを務めてツアー。つまり今回は大好評だったその2015年公演に続く再来日・再共演だ。朝霧前々夜の代官山UNIT公演には、自分は別件が入って行けなかったのだが、その熱い盛り上がりの様は田島貴男やTHE BAWDIESのROYが熱くツイートしていたので、朝霧で観れるのを楽しみにしていた。果たして朝霧で観る浪速ファンクバンドとワシントンD.C.出身ファンキー・ディーバの真っ昼間の共演は、そりゃあゴキゲンなものだった。なんたってマーサ・ハイの若々しいこと。映像で観た比較的最近のマーサはもう少し髪が長かったが、(モノレールの)中田亮さんに呼ばれてステージに登場した彼女は刈り込まれた金髪で、思いのほかタイト。そしてこう、凛とした感じでありながらも笑顔があったかく、ひとたび歌えばその声はパワフルとしか言いようがなくて、高原の向こうまで広がる広がる。ザッツ・ソウルパワー! 以前ほどハイトーンが目立つわけではないが、その分、ぶっとい芯の通った声とでも言いましょうか。30年以上もジェイムズ・ブラウン・レビューに在籍して歌っていた彼女の現在の声の豊かさに自分は深く感じ入ってしまったのだった。
とりわけ印象に残ったのはJBについての話から入ったJBプロデュース曲「He’s My Ding Dong Man」。“Ding Dong、Ding Dong、Ding Dong、Ding Dong”と主旋律を繰り返す歌声と、“Ring my bell~~~”というコーラス部分を歌う女性声との重なり合い。あれ、よかったなぁ。そんなマーサ・ハイとオーサカ=モノレールは共演アルバム『TRIBUTE TO MY SOUL SISTERS』(オーサカ=モノレールが演奏と全面プロデュースを担当)も完成させたのだが、なるほどそれを録音してからのこの日本ツアーということもあって、最後まであんなにも息がピッタリだったのだろう。終わったあと自分のそばを歩いていた若者ふたりが「やべえな。あんなかっけぇファンクバンドが日本にいたなんてなぁ」などと話していたのも、かれこれ10数年間モノレールのライブを観続けている自分には嬉しかった。
LOGIC SYSTEM (c)Yasuyuki Kasagi
そのあとMOON SHINE STAGEでLOGIC SYSTEMを観る。1981年に結成された松武秀樹と入江純によるテクノポップ・ユニットで、自分がライブを観るのはこれが初めて。ステージにいるのは松武さんだけで、ステージにどんと置かれたモーグ・シンセサイザーに向き合い、観客には背中を向ける形で黙々と操作して音を出す。その操作の手つき、ツマミを回す様を間近で観たいファンたちがステージのすぐ近くまで行ってジッと凝視していたのも印象的だった。そのあり方を言葉にするなら、ひとりYMO。そんなザックリした譬え方は失礼にあたるのかもしれないが、やはりテクノというよりテクノポップであり、ある種のグルーヴを感じられる場面もあって、YMO(因みにYMOの多くの作品やツアーに参加していた松武さんは、当時“4人目のYMO”と呼ばれていた)が好きだった人たちの胸には特別な思いが去来したのではなかろうか。
ガーランド・ジェフリーズ (c)Yasuyuki Kasagi
RAINBOW STAGEでの2組目は、ガーランド・ジェフリーズ。2014年のフジロック以来、3年ぶりの来日だ。フジのヘヴンもそうだったが、ステージ前に集まっている観客の数は残念なことに多くない。ブルース・スプリングスティーンと並んでニューヨークを象徴する詩情溢れるベテラン・アーティストであっても、日本で聴かれる機会がこれまで少なすぎたのだ。が、ファンにとってはフジから3年でまた来てくれたことが嬉しいし、ステージに近い距離で観ることができるのも嬉しいもの。故に熱心なファンたちの前のほうでの盛り上がり方はなかなかのものがあった。なんたって1曲目から盟友ルー・リード(ヴェルヴェット・アンダーグラウンド)の「I’m Waiting For The Man」なのだ! 「シング・ウィズ・ミー」と観客に呼びかけながら、ガーランドは自然体な感じで楽しそうに歌っていた。
そんな彼は今年の春に新作『14 Steps To Harlem』を発表。自分は行きのバスのなかでSpotifyで聴いていたのだが、そのアルバムの1曲目「When You Call My Name」がライブにおいてもとてもよかった。サビのそのフレーズはファルセットで歌われるのだが、そこもキレイに出ていて、とても74歳とは思えない。キレとコクの両方を感じさせる4人組バンドとの息もピッタリだ。「ジョン・レノンに捧げる」と言って歌われたスロウなアレンジの「ヘルプ」も実にガーランドなりの「ヘルプ」になっていてよかった。思いのほかゆったりしたレゲエのリズムの曲が多かったが、そういう曲でも動きに落ち着きがなく、パンクの性分がそこから顔をのぞかせてもいた。老い知らず。そして滲み出るエモーション。自分のなかで、敬愛する加奈崎芳太郎さん(元・古井戸)の姿がふとガーランドに重なった。
ウィルコ・ジョンソン 撮影=風間大洋
そのままRAINBOW STAGEでこちらも大ベテラン、ウィルコ・ジョンソン。2015年のフジロック以来だから観るのは2年ぶりであって、そんなに間があいたわけではないのに、ウィルコをまた観れるのがとても嬉しい。そう思った人はたくさんいたはずだ。この時間に限って雨が降っていたのだが、そんなこたぁ関係ない……というか、むしろドラマチック。ウィルコもノーマン・ワットロイ(ベース)もディラン・ハウ(ドラム)も全身黒で、見映えも演奏もビシっと引き締まっている。ウィルコはとても元気そうだった。4年前にすい臓がんと診断され、延命治療を拒否してステージに立ったりしていたものだが、「そんなこともあったよねえ」というくらい復活していて、パワフルにギターを弾いて歌っている。まさに不屈。そんなウィルコがカクカクとロボットみたいに動きながらステージの右に行ったり左に行ったりすればそれだけでファンたちは興奮し、ギターをマシンガンのように構えればまた興奮する。「そのマシンガンをオレに向けて撃ってくれ」と、自分も観ていてそう思った。「Going Back Home」に「Roxette」に「Sneakin' Suspicion」にとドクター・フィールグッドの曲が続けば、その思いはますます高まる。
ウィルコ・ジョンソン 撮影=風間大洋
ときどきウィルコは気持ちが先走るように演奏も先走って、1フレーズ抜いて先に行ったりもしてしまうのだが、そうするとノーマンとディランは瞬時に笑顔でそれに合わせる。さすがの対応力だ。そして盛り上がりっぱなしで雪崩れ込むように迎えたラストは「She Does It Right」。最高潮。ファンの熱はすぐに引くはずがなく、3人がステージを去ってもウィルコ・コールが鳴りやまない。と、なんとそれに応えて再登場したのだ、3人が。そしてすぐさま「Bye Bye Johnny」。ウィルコはダックウォークで今年3月に死去したチャック・ベリーへの想いも表現する。サビでは“バーイ・バーイ・バーイ・バイ”とみんなで大きく手を振りながらシンガロング。チャックにサヨナラするかのように。そのとき自分の目から流れ出てきた、雨とは別の水分。感動的だった。2年前のフジのヘブンでも「Bye Bye Johnny」でグッときたのだが、それともまたちょっと違う感動だった。
因みにウィルコ・ジョンソンは1947年生まれ。ガーランド・ジェフリーズは1943年生まれで、マーサ・ハイは1945年生まれ。揃って70代である。が、3人ともタフで、パワフルで、こんなにも意気盛ん。「お前も胸張ってしっかり生きろ」と、その3人からそんなふうに叱咤激励されている気持ちにもなったのだった。
EGO-WRAPPIN’ 撮影=風間大洋
EGO-WRAPPIN’ 撮影=風間大洋
続いてEGO-WRAPPIN’。いままで本当に様々なフェスでEGO-WRAPPIN’を観てきたが、今回観ていて「朝霧ほどこのバンドに似合う場所はないんじゃないか」と思った。ド頭のインストでも、歌ものでも、強くそう感じた。なんだろうか、そのドンピシャのハマリ具合は。中納良恵の歌声のノビが高原に合っているのだろうか。わからないが、音響的にも素晴らしかったそのステージの前には、ビックリするくらい大勢の人が集まっていた。「前に出たときはテレヴィジョンを観ましたが、今年はウィルコ・ジョンソンを観てロックスピリットをいただきました」と、よっちゃん。もしかすると、その効能もあったのかもしれない。できればそのまま最後まで観たかったのだが、またすぐに観れるだろうと自分に言い聞かせ、この日特に楽しみにしていたマウント・キンビーを観るため後ろ髪を引かれる思いでMOON SHINEへと移動。
マウント・キンビー (c)Yasuyuki Kasagi
ポスト・ダブステップの中心的な存在として知られるマウント・キンビーのふたりだが、先頃出た4念ぶりの新作『Love What Survives』はポスト・パンク的な衝動の表れた音がある種の風通しのよさにも繋がっていた作品で、だからライブも絶対にいいはずだと自分はふんでいた。が、ライブはそのアルバムから聴こえていた音とも(もちろんいい意味で)全然違っていて、新作を聴いたとき以上に驚いてしまった。まず、現マウント・キンビーは4人体制で、フロントに立つドミニク・メイカーとカイ・カンポスに加えて、ドラマーと女性鍵盤奏者がいる。但しドラマーは暗いステージ上でほぼ隠れた状態で、音を認識するまで自分は3人編成かと思っていたほど。ドミニクとカイは曲ごとにシンセ、ドラム・パッド、ギター、ベースなど、機材と楽器を柔軟に持ち替え、その度に持ち場もチェンジ。また女性鍵盤奏者も曲によっては大きくフィーチャーされ、リード・ヴォーカルをとった曲もあったのだが、ザ・レインコーツとかああいう70年代後期に登場した女性ニューウェイブバンドみたいな空気感がその歌にはあって、けっこう惹かれてしまった。なにしろドミニクとカイとその女性は曲ごとにステージを動き、そうして“ライブの音”を鳴らしていく。そこに彼らのライブに対するこだわり、または生演奏へのこだわりを強く感じることとなったのだった。つまりいまの彼らは、紛れもなく「バンド」であったということだ。
それにしても、日の暮れた朝霧のMOON SHINEに響く彼らの音は気持ちがよかった。わけてもメロウだったりドリーミーだったりする曲の、MOON SHINEとの相性のよさたるや。切なさやらなんやらが入り混じって溶けそうでしたよ、僕はもう。9日の渋谷WWWも相当よかったようだが、雨上がりの夜のMOON SHINEでヒンヤリした空気と共に彼らのいまの音を浴びることができたのは、なかなか得難い体験だったとそう思う。
カール・クレイグ (c)Yasuyuki Kasagi
1日目のラスト、RAINBOW STAGEではベル・アンド・セバスチャンが大勢の観客を集めていたようだが、自分はそのままMOON SHINEに残ってデトロイト・テクノの巨匠カール・カレイグを観た。それはもう、貫禄を感じさせる1時間半。いや、アンコールも20分くらいあったから、もしかしたらもっとやっていたかもしれないが、かなり入り込んで聴いて踊っていたからか、まったく長さを感じなかった。そこにドラマ性があったからだろう。例えば始まりは荘厳とも言える音。そこからビートが刻まれ始めると、それは延々と続いていくようでありながら、要所要所でカールは「ツァラトゥストラはかく語りき」(『2001年宇宙の旅』のあれですね)や「トッカータとフーガ ニ短調」(この題でピンとこない人には、“チャラリ~ン、鼻から牛乳~”と歌えばわかりますかね)といったクラシック曲の有名な一部分を挿入し、そうして変化~抑揚をつけたらまたアグレッシブなビートの刻みに戻る、というやり方を繰り返していたのだ。そうして昂揚に昂揚が重なり、やがてその場にいたみんなが手を挙げて歓声を送り、アンコールが起きた前後、あのカールがとても嬉しそうに笑っていた。それどころかステージをおりて観客のなかに分け入ったりまでしていた。大勢の人々の歓声とハンズアップがよほど嬉しかったのだろう。いやもう、実に素晴らしかった。そして確かにカール・クレイグはちょっと神々しくさえ見えた。クラブじゃ味わえないあの感じ。朝霧の魔法、なんて言いたくなったりも。その後、テントの外で3~4時間ほど友人たちと飲んで喋って、1日目が終了。
(c)Yasuyuki Kasagi
明けて2日目。観たのは次の通り。チャランゴ → 思い出野郎Aチーム → UA → CHON(初めの数曲) → ロード・エコー(終盤少しだけ) → Suchmos(前半3曲ほど)。
チャランゴ (c)Yasuyuki Kasagi
快晴のこの日はRAINBOW STAGEのチャランゴからスタート。今年の朝霧はわかりやすく飛び跳ねて陽気に盛り上がる種類のバンドがほかになく、唯一のそれがスペインはバルセロナの国民的バンドであるこのチャランゴだったからか、自分が行ったときには既に大勢の人たちが飛び跳ねまくり。2年前のフジロックではカフェ・ド・パリで汗ビッショリになりながら観たものだが、広々としたRAINBOWのステージは彼らの開放的な音楽によくマッチして、10人もの大所帯バンドでありながらそれぞれが好きなようにステージを動き回って演奏していた。スカにレゲエにラテンにサルサ、クンビアにパチャンカにルンバカタラーナまでをミックスしたその音楽スタイルは、とにかくゴキゲン。リズムの種類に対する知識があろうがなかろうが、子供も大人も楽しく盛り上がれる。「カタルーニャは独立宣言を前に困難な状態にあるけど、オレたちは闘うよ。フリーダム、カタルーニャ!」と叫び、ホーンを高らかに鳴らして、「そうだ、大事なのは自由なのだ」と踊っている僕たちの心とカラダにさらに火を着ける。「ヴェリー、ヴェリー、ナイス・エナジー。ウイ・ラブ・ユー!」「マタネ、アサギリ!」。そう言ってステージを去った彼らのライブは、楽しすぎただけにあっという間に感じたが、向こうでは6万人規模のフェスを主催するほど力のあるバンドであることも改めて強く実感した。ぜひまたフジか朝霧に帰ってきてほしい。
思い出野郎Aチーム (c)Yasuyuki Kasagi
そのあとMOON SHINEに動いて観たのは、思い出野郎Aチーム。揃いのジャージを着用した彼らは、8月にリリースした2年半ぶりの2ndアルバム『夜のすべて』からの曲をたっぷり演奏した。例えばレゲエのゆったりしたリズム。例えば揺れずにいられないディスコノリ、またはウットリするようなメロウグルーヴ。例えばヴォーカル高橋一の酒焼けしたしゃがれた声。例えばホーンの昂揚。そうしたものが混ざり合ったステキさのなか、日本語がハッキリ耳に届くのもこのバンドのよさだよなと、観ながら実感。MCも洒落っ気ありで、「Magic Number」という曲を始める前には、「次の曲はYogee New Waves(←ちょうど同じ時間にRAINBOW STAGEでやっていた)に捧げます。Magic Number。音楽なんてなんだっていいぜ!」と、わかる人にはわかる例の“魔法”話へのアンサーを口にしたりも。いいぜいいぜ。
また、日本語がハッキリ届くのがよさだと書いたが、「ダンスには間に合う」では歌詞の一部を変えて「まだ~、音楽は鳴ってる~。僕のところでも~、朝霧Jamでも~」と歌ったり。ほかの曲でもヴォーカルの高橋は何度も「朝霧Jam」というワードを盛り込んでいたが、極めつけは「週末はソウルバンド」という名曲で、ここでは「家賃を滞納してるのに~、朝霧の2日通し券は買えるのね~」と歌って観客を大いに湧かせていた。うまいなぁ。最高。そんなふうに笑わせたあとに、「続けてもいいから嘘は歌わないで~」とくるんだから、たまらんのです。因みに最後、「TIME IS OVER」というスロー曲でいい感じで締めた……かと思いきや、「まだやっていいって」「じゃあもう1曲やります」と、もう1曲「ミラーボールの神様」を追加で演奏。得した気分。彼らのライブを観終わってRAINBOW STAGEへと歩いている途中、前を歩いていたカップルが「週末はソウルバンド」の歌詞について話していた。「あの曲に出てくる彼女、すげぇいい女じゃね? バンドマンにとって理想だよな」。なんか、ほっこりした。
UA (c)Yasuyuki Kasagi
陽射しが強まり夏みたいに暑くなってきた午後、RAINBOW STAGEにはUAが登場。自分は去年、CircleとグリーンルームとフジでUAのライブを観たのだが、1年経ってセットリストもけっこう大きく変わっていた。因みに朝霧に出るのは10年ぶりだそうだ。蛍光オレンジに白のかぶりを着用したUAの衣装はビョークっぽいとも言えるもの。「かわい~」と観客から声がかかると、「みんなもかわい~。最近かわいいと言われるとどうしていいかわからないんだけど、かわいいノリするぞ~」と応えたり。なんというか、実に自然体。ただでさえそういう人だが、朝霧の環境が尚更そうさせるのかもしれない。一方、歌い始めればグッとその世界のなかに引き込む力があり、一気に空気を濃密にしてしまう。ここ数年の新しめの曲に加え、「雲がちぎれる時」や「悲しみジョニー」といった懐かしい曲もじっくり歌われたのは、昔からのファン(自分を含む)にはことさら嬉しかったことだろう。いやホント、アコースティックでブルージーに始まり、間奏からバンドでロックっぽく展開した「悲しみジョニー」のアレンジは絶品だった。
CHON (c)Yasuyuki Kasagi
そのあとはMOON SHINE STAGEでサンディエゴのバカテク・ロックバンド、CHONの演奏を数曲聴いてからテントの撤収へ。CHONは変態的に転調しながら徐々に上昇していく感覚と意外に爽やかなメロディの取り合わせが面白く、曲によってはずいぶんメロウで、恐らくこのステージで初めて観て彼らのファンになった人も多かったに違いない。どうやらアンコールも起こったようだった。
テントをたたみ、荷物をまとめたところで、またしばらく仲間と飲んだり食べたり。タイムテーブルが発表された時点では、「うわぁ、ロード・エコーとNONAMEが丸かぶりやん。どうしよう」などと悩んだりもしたのだが、そうして飲み始めると「まあ、いっか」という気分にもなってしまうもので、結局NONAMEには間に合わず、ロード・エコーも終盤少しだけしか観れなかった。まあ、それも朝霧。悔いてもしょうがない。
Suchmos (c)Yasuyuki Kasagi
いよいよ2日目の日も暮れ、最後はRAINBOW STAGEでSuchmosを少し観た。彼らのライブは、去年の春、ちょうど大ブレイクし始めた頃にCircleとグリーンルームで観て以来だったが、朝霧の良好な音響も手伝ってメンバーそれぞれの楽器の鳴りがクリアに伝わり、総体としてグッとスケール感が増した印象。さすがに大勢の人たちが集まっていたが、彼らはときどきアドリブも混ぜたりしながら、余裕すら感じさせる演奏と歌を聴かせていた。帰りのツアー・バスの集合時間となったので、残念ながら3曲ほどしか聴くことができなかったのだが、ちょうどバスに乗り込もうとしたそのとき、遠くから「STAY TUNE」が聴こえてきた。疲れているはずの自分のカラダが少し軽くなり、東京に向かう帰りのバスの走りもどこか軽やかに感じられたのは、そのおかげもあったかもしれない。
取材・文=内本順一 撮影=風間大洋、Yasuyuki Kasagi