不気味な同調圧力に違和感を発する、高橋優のもう一つの持ち味が生きる「ルポルタージュ」が生まれた理由
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高橋 優 撮影=北岡一浩
日本の少子高齢化を斜め上行く視点でコミカルに描く、三浦春馬主演のドラマ『オトナ高校』。その主題歌として書き下ろした「ルポルタージュ」を表題とするニューシングルをリリースする高橋優。スピーディに連射される問いかけとソリッドなバンドサウンドは、疑念を抱えて爆発寸前の表現を行なっていたデビュー当時の彼を彷彿させる。もちろん、サウンドや言葉を更新しながらのそれは、より遠くに届く可能性も秘めた作品へ成長している。久々の異なるモード、そして野性爆弾のくっきーによる“激しい”イラストのジャケットまで、いま高橋優がどこに向かいつつあるのか訊いた。
――今回のドラマ『オトナ高校』の主題歌のお話が来た時の率直な感想は?
なんか、“久しぶりにまた違う自分が出せるかも?”っていう意味でワクワクしてました。どれもほんとなんだけど、わりかしにこやかな自分というか、少し、微笑みとか友情とか繋がりみたいなことがテーマになっている楽曲をここ2年ぐらい続けてリリースして来てたので。ちょっと違うデビュー当時の感じとか、インディーズの頃の自分とか、時々、体からはみ出るように出ちゃう時があるので、それをまた出せるきっかけになるかもと思っていたところでお話をいただいたので、こういった曲になったような気がします。
――実際、ドラマの脚本をご覧になっていかがでした?
1回目は結構クスクスと笑いながら読んでいたんですけど、あのドラマの中での日本の現状って事実らしいんですね。いま30過ぎた独身の人は全人口の割合の何パーセントで、結婚する意味を見出してない人たちがものすごく多くて、子供を作ろうとしない人がすごく増えてる、みたいな。『オトナ高校』はコミカルな内容ですけど、前提が割と社会派な話をしている。じゃあ大人になること、子供であることってどういうことだろう?っていうテーマが、読みながら見えて来た感じです。
――男女の経験がないと大人じゃないというドラマの中の“オトナ”の定義はなかなかシニカルですよね。しかもイケメンや美女がオトナじゃないという。
今回、楽曲の中のことでもそうなんですけど、ドラマだから面白かったり、テレビだから許容できたりするものって、前はしっかり境目があった気がするんですね。例えば、いまおっしゃられたみたいに“童貞だけどめちゃめちゃイケメンじゃん”みたいなツッコミどころが成立するのはテレビやメディアの文化の上でのことで。それが、いまは全員評論家みたいになっちゃって、過度な表現をするとめちゃくちゃ注釈がついたり、“過度な表現”っていう言葉自体がもう現代チックだと思うんですけど。“わー、そうかぁ”と思ってみるんじゃなくて“ん? こういう表現をするとうちの家庭に影響が及ぶぞ!”みたいなことをみんなでクレームつけるのがかっこいい、言える方がいい、みたいになってて。どんどんどんどんやれることが少なくなっていて、やったらはみ出て叩かれる、みたいな。なんかすごく空虚な、心みたいなものが少ない、意味と根拠だけがそこにある、干からびた表現がすごく多くなってる気がしたんですね。
――確かに息苦しい。
“いいものはいい、悪いものは悪い”って自分で判断して、受け取ったり受け取らなかったりする人がいる前提でメディアがあるはずなのに、その判断がつかなくなった人が増えて、ただ責任の話だけをする人がとっても増えたと思うんです。その中で“何が表現されるのか?”っていう、すごく軟弱で不気味なムードが漂ってる気がしていて。僕が今回「ルポルタージュ」という曲を書こうとしたのは、そういう、はみ出たら“はみ出た、格好悪い、みんなで指差して笑え!”みたいな、そのすごく不気味な感じ。でも真っ当なことをやっていてもすごく肩が凝る、ストレスが溜まる、どこに転んでもいいことがない状態で。もっと心が通ってて、自分がいいと思う方法、自分がやりたい、それで笑われるかもしれないし、叩かれるかもしれないし、時代とずれてるかもしれないけど、俺はこれをやりたいんだ!っていう人が、いまこの世の中どれぐらいいるんだろうか? っていう。抗って、戦って夢に向かって歩んで行こうとしてる人とか。これは2曲目の「羅針盤」にも、ちょっと陰に同じテーマがあるんです。前回の「虹」っていう曲でもそれを表現しようとしてて、心の中では繋がってるんですけど。今回の『オトナ高校』のお話をいただいてから、割とそういうモードになっていったんですよ、僕の中で。
高橋 優 撮影=北岡一浩
――歌も久しぶりにマシンガンボーカルというか。
ははは(笑)。なんて素敵な表現。
――こういうことを歌おうと思ったら、このスピード感は必要なのかも知れないですね。
そうですね。なんか、割とバンドバージョンがかっこいい曲って、ソロシンガーからしたらすごく切ないんですよね。もともとバンドじゃないから。弾き語りでやった時に最終的に聴いてもらえるものは、詞だったり、僕が作ったメロディラインだったりするので、それが聴こえるために必要な言葉選びとか、発音やメロディラインを考える。だから、一緒に編曲してくれる池窪浩一くんが派手なかっこいいバンドサウンドにしてくれるんですけど、それに埋もれてしまっては元も子もない。だからレコーディングもバンドバージョンを録った後に歌詞を書き換えたんですよ。“これじゃ歌詞がちょっと埋もれちゃうかも知れない”っていう危機感を感じて、レコーディングスタジオ飛び出して、3時間ぐらい帰ってこないという。その模様が、黄色い(ジャケットの)方の期間限定生産盤にドキュメントとして入ってます(笑)。
――バンドアレンジですけど、アコギのカッティングがザクザク聴こえるところがポイントかなと。
そう。今回は僕がそこはそうさせてくださいって言いましたね。バンドバージョンにすればするほど、やっぱりアコギの音が愛おしくなってくるというか。音だけ聴いても中心に一人の男がギターを抱えて何かを叫んでるっていう構図は少し出したいなって感じがしていたので。アコギの音ってライブでやると結構かき消されがちなんですけど、ライブでもレコーディングでもちょっと上げ目で、みたいな風にやってます。
高橋 優 撮影=北岡一浩
――このドラマに紐づけてお聞きするんですが、高橋さんがティーンエイジャーの頃に想像してた大人と、いま実際30代になって感じる大人に違いはありますか?
僕が10代の頃は、大人っていうものはもう悪口みたいな、一つの偏見で言ってたんですね、“ああ、大人の人が言いそうだね”みたいなニュアンスの。で、大人びてしまうことへの恐怖があったんですけど、そのまんま33歳まできちゃてる感じ(笑)。いまもそういうことを思うんですよ。“なんか大人の人がそういうこと言いそう”とか、自分がなんかちょっとかしこまってものを言っても“あ、いまちょっと大人のふりしたんじゃね?”みたいな気持ちがまだ残ってるというか、ありありとそこにあるっていう(笑)。だから僕が“大人のくせになんなんだよ、この人”とか思ってたタイプの大人に自分もなっているかも知れないけど。でもいま僕が思う大人っていうのは、案外そういう子供の気持ちとか大人の気持ちとかじゃなくて、自分がやりたいことにまっすぐ向き合ってる人の方が、大人か子供かわかんないけどかっこいいっていう、そっちの方が素晴らしく見えるっていうことぐらいなんですよね。
――大人とか子供じゃない、人としての魅力なんだと思いつつ、一方で、“なんか大人って……”っていう気持ちも共存していると。
僕の場合はですよ。曲を書く人間として、僕はなんかいつもちょっとものを卑屈に見たり、斜めから見たり、自分が思ってることの真逆のこと考えたりする癖があるので、もしかしたらそいつが言い続けているのかも知れないです(笑)。“いまおまえ大人っぽいこと言ったぞ、何カッコつけてんだ、マジだせぇ”みたいなことを言ってる奴がここらへん(自身の頭の横を指さすジェスチャー)にいるっていうのはあるんですけど。でもなんか、それと共存し続けることが果たしていいことなのかどうか僕はわからない。ただ、人として大きくなっていくっていうのは、誰かを許せたりとか、ほんとの意味で誰かとわかり合うとか、手を取り合うとかっていうことに対して許容範囲が広がっていく、要は大人になるっていうことなのかなぁ、という風に思うんですよね。
――ものを作る人にはそうした二面性はずっとあるんでしょうね。
それが果たして幸せなことなのか、いまも僕はわからないんですよ。ただ、僕が所属させてもらってるレコード会社のA&Rの人は、僕が失敗したりくじけそうになるとほんとに嬉しそうな顔して僕のことを見るんです。“曲書けるんじゃねえか”って思ってるんじゃないですかね(苦笑)。今回のジャケットのことに関しても、高橋優のことを大事に見せたい人なのか?って、本人が疑問に思えるぐらい、パンクなことを提案してきたりする人がいるんですよ。僕を困惑させるためにこの人はいるのか? と思うような人が何人かいるんです。それでたまに口論になったりするんですけど、でも、そういう人たちからすると僕の二面性ってすごく大事そうにしていて。多分、僕が真に幸せな気持ちになって、幸せについての曲をたくさん書き出しちゃったら、多分その人たちはげんなりするんでしょうね(笑)。
――その人だけじゃないと思いますよ。
うん。“やった! 超嬉しい~”ってやってる最中に、“わ、喜んでる自分、マジきもい”っていう自分がいる。で、いろんな人に“俺なんて最低だから”とか言いながら、“前向きな自分、必要だよ? ダメだよあんな悪いこと言っちゃって”って言ってる自分がいる。そのバランスがちょっと崩れてるぐらいが、多分レコード会社の人は嬉しい(笑)。
高橋 優 撮影=北岡一浩
――(笑)。で、本当にジャケットは衝撃的ですね。くっきーさんとの出会いは今年の夏とかなんですね?
そうです。直接出会わせてもらったのは今年の夏の、僕のファンクラブの会報DVDがあって、それのゲストで来て頂いて。くっきーさんから絵を学ぶ、みたいな企画をやらせてもらったんです。僕、野性爆弾がずーっと好きで、盆地で一位っていうバンドをくっきーさんが組まれていた時からずーっと見てたんです。なので今回ご一緒させていただくのは嬉しいし、僕はくっきーさんの絵が大好きだし、次のジャケットどうする? 誰かのイラストで行こうか? ってなった時に“くっきーさんで行きたい”って言ったのは僕なんですけど。でもまぁ、これをほんとに世に出そうと最終ジャッジしたのは僕ではなくて、おそらくレコード会社だったり、事務所の人だったりするので、改めてあの、パンクなのは僕なのではなくて、僕のスタッフなのだなという気持ちにもなりました(笑)。
通常盤
初回盤
――でも、くっきーさんの描く絵にしてはちゃんと髪の毛もあるし。
それ(赤色)はこっちからのリクエストなんですよ。 “高橋優の似顔絵を描いてください”とお願いして、最初に出てきたものはこれ(黄色)だったんですよ(笑)。
――(笑)。でも、もっと宇宙人みたいな場合も多いじゃないですか?
そのご期待にも沿えるものが、盤を手にとってもらえると中にあるので(笑)。ぜひそっちも見ていただければ。
――開けてのお楽しみですね。そしてカップリングの「羅針盤」は、先ほども少しお話に出ましたが、テーマ的には「ルポルタージュ」と近い、若い世代に向けられているのかな? という印象を持ったんですけども。
僕自身が今、再出発というか、また一から歩き出そうみたいなモードになっていて。この曲のテーマは“心のコンパス”みたいなことになってるんですけど。全く言葉が通じず、誰も自分のことを知らない環境下にあなたがポツンと立たされた時、どうする? っていう。多分、絵描きは絵を描いて職にして生きていこうとするだろうし、通訳の人は言葉をすぐ覚えて話し出すだろうし、登山家は山に登るだろうし、そういう中で“どうする?”っていうのが心のコンパスだと思うんですね。でもいま、一番恐ろしいのはコンパスがあるかどうか無関心っていう人がすごく増えてる、“別にどうでもよくない?” “なんかのたれ死ぬぐらい大丈夫じゃね?”みたいなことを言いそうな人がすごく多そうな気がして。恐る恐る、そうではなくて、心のコンパスっていうテーマを掲げたいっていう思いから始まったんですよね。なんか“熱い話とかもういい”みたいなことを言う人がとても多いとしたら、結構危険な気がしていて。やっぱりどっかにしがみつく感じとか、何かに向かう夢を持っていたり、親に反対されてるけどほんとは美容師さんなりたいとか、アイドルなりたいとか、なんでも、その人がなりたいものが、遅かれ早かれあってほしいなと。それが恋愛でもなんでもいいから。それが<あなたは今どっちを向いてる?>っていう曲を書きたかった理由なんですよね。
――確かに、すごくパリッとしたいま流行りの格好をした男の子が自分のことを社畜っていうようなムードがありますね、クールなふりをしているだけなのかもしれないけど。
うんうん。いま僕が危惧していることって、本当の寂しさとか本当の悲しみすらも一個フィルターを通しちゃってる感じ。それも全部ネタ化しちゃおうとしている感じ。自分の人生もネタにしちゃってる感じなのが一番怖くて。それは全てにおいて無関心になってることに等しい気がするんですよね。だから本気で寂しがる、本気で恐ろしがる、そういうのがあってこその本気で喜ぶ、本気で感動するんだと思う。で、多分、僕とかの世代はギリギリそういうことに対しての頓着が深いんですけど、さとり世代とかって呼ばれてる人たちって、仕事ができたり立派だけど、その辺の人たちに向けてっていうのがあるから、聴こえ方が“若い人たちに”っておっしゃられたのかなと、いま話しながら思いました。
――偽悪的に振舞っている人の本心はどこにあるのかな? と。
そうですね。便利になっちゃったから。携帯とかあるから、すっごい好きな人と半年会えなくてもFaceTimeで毎日会ってるような気持ちになれるし、SNSで毎日会話することができたりするから、みんなあんまり寂しくないと思うんですよ、この時代。それでいて、だんだん誰とも繋がっていない構図があるような気が、個人的に勝手にしていて。便利な機能に頼りすぎるんじゃなく、真っ当に寂しがる、みたいな。そういうふうにする方が意外と羅針盤が見えてきたりすることもあるのかなっていうのがあって。なんか「ルポルタージュ」の話に戻っちゃうんですけど、「羅針盤」も「ルポルタージュ」も割と自分の中で、最近、世の中のちょっと疑問に思ってることを言葉にしている気がします。
高橋 優 撮影=北岡一浩
――12月からはまた新たにツアーが始まります。しかも年をまたぐ長いツアーですね。
はい。とっても幸せなことだなと思ってます。2017年、2018年をまたいで、全国を回れる。で、2018年の4分の1をこのツアーで終わらせることになりますから。今回はかなり久しぶりにアルバムのツアーではなく、初めての地域もたくさん回らせてもらうんですけど、“改めまして高橋優という人間です”と。こういう歌を歌って、こういうライブをしていますっていうのを知ってもらえるようなツアーっていうのが一つありつつ、今年リリースさせてもらったシングル3枚があって、カップリング曲とか、最近作ってる曲を織り交ぜながらの“自分はこういう者です”というのをみなさんに見てもらえるようなツアーになるかなと。あとは去年から秋田で『CARAVAN MUSIC FES』というのをやらせてもらっていて、そのフェスに全国からいらっしゃってくださった方達に、今度はこちらから会いに生きますよっていう感謝の気持ちも込められるようなツアーにしたいと思ってます。
取材・文=石角友香 撮影=北岡一浩
2017年11月22日発売
【通常盤】 WPCL-12806 ¥1,200(税別)
通常盤
2.羅針盤 ※アクサCMソング
3.シーユーアゲイン ~ピアノバージョン~
4.ゴーグル / メガネツインズ(高橋 優&亀田誠治)
【期間生産限定盤 】WPZL-31401 ¥1,500(税別)
初回盤
特典DVD:1.「ルポルタージュ」MV/2.「ルポルタージュ」レコーディング&MVメイキング
12月7日(木)埼玉県・三郷市文化会館 大ホール 【FC限定販売公演】
12月14日(木)千葉県・森のホール21 大ホール
12月19日(火)茨城県・ひたちなか市文化会館 大ホール
12月24日(日)新潟県・新潟テルサ
1月7日(日)宮城県・東京エレクトロンホール宮城
1月8日(月・祝)山形県・やまぎんホール
1月10日(水)秋田県・秋田県民会館
1月12日(金)岩手県・盛岡市民文化ホール 大ホール
1月13日(土)青森県・リンクモア平安閣市民ホール
1月20日(土)福井県・福井市文化会館
1月21日(日)富山県・富山県民会館
1月25日(木)愛媛県・松山市総合コミュニティセンター キャメリアホール
1月27日(土)和歌山県・和歌山市民会館 大ホール
1月28日(日)奈良県・なら100年会館 大ホール
2月1日(木)岐阜県・長良川国際会議場 メインホール
2月3日(土)京都府・ロームシアター京都 メインホール
2月4日(日)兵庫県・神戸国際会館 こくさいホール
2月6日(火)熊本県・熊本市民会館
2月9日(金)高知県・高知県立県民文化ホール オレンジホール
2月10日(土)徳島県・鳴門市文化会館
2月12日(月・祝)山口県・山口市民会館 大ホール
2月15日(木)大阪府・フェスティバルホール
2月17日(土)岡山県・倉敷市民会館
2月18日(日)島根県・島根県民会館
2月24日(土)佐賀県・鳥栖市民文化会館 大ホール
2月25日(日)長崎県・長崎ブリックホール 大ホール
3月3日(土)北海道・ニトリ文化ホール
3月4日(日)北海道・帯広市民文化ホール 大ホール
3月9日(金)愛知県・名古屋センチュリーホール
3月10 日(土)三重県・三重県文化会館 大ホール
3月16日(金)山梨県・東京エレクトロン韮崎文化ホール 大ホール
3月17日(土)静岡県・静岡市清水文化会館マリナート 大ホール
3月21日(水・祝)宮崎県・都城市総合文化ホール 大ホール
3月24日(土)福岡県・福岡サンパレス ホテル&ホール
3月26日(月)広島県・上野学園ホール
3月29日(木)神奈川県・パシフィコ横浜 国立大ホール
3月30日(金)神奈川県・パシフィコ横浜 国立大ホール
<
6,500円(税込) ※全席指定
<一般発売日>
【12月・1月公演】10月28日(土)AM10:00〜
【2月・3月公演】11月25日(土)AM10:00〜