凝縮の手塚ワールドで西島数博が少年に!?『MANGA Performance W3(ワンダースリー)』開幕レポート
「W3(ワンダースリー)」オフィシャル提供画像
手塚治虫の誕生日である11月3日に、手塚治虫生誕90周年記念プロジェクト『MANGA Performance W3(ワンダースリー)』が初日の幕を開けた。会場は、東京渋谷のDDD青山クロスシアター。手塚治虫初期の漫画『ワンダースリー』を舞台化したもので、構成・演出を手掛けるのはウォーリー木下。出演陣は5名×3チームのトリプルキャストで、世界の舞台でキャリアをもつバレエダンサー西島数博の他、シルク・ドゥ・ソレイユでクラウンを演じたフィリップ・エマール、映像作品や2.5次元舞台で活躍する川原一馬らが名を連ねる。
左から吉田尚記(ニッポン放送、トークショーに登壇)、構成・演出のウォーリー木下、初回公演終了後の西島数博。 「W3(ワンダースリー)」
バラエティに富んだキャストと並び注目したいのは、ノンバーバルパフォーマンスによる演出だ。コンパクトなステージには仕掛けと遊び心が詰め込まれている。そんな舞台『W3(ワンダースリー)』の見どころを、木下、西島、そしてニッポン放送アナウンサー・吉田尚記による初日のトークショーでのコメントとともに紹介する。
銀河連盟に集まった優れた生物たちが、戦争ばかりしている野蛮な星「地球」を、救うか反陽子爆弾で消してしまうかの評決をすることになった。そこで銀河パトロール第4分隊所属のW3の3人が、ウサギ、カモ、馬の姿に変身して「地球人が良い人間かどうか」を調べることになる。3人が到着したのは日本の漫画家星真一のアパートメント。星が描いた漫画のせいで、彼らは想像もしない事件に巻き込まれることになる。
DDD青山クロスシアターの入口に続く階段。すでに手塚ワールドがはじまっている
※以下、演出に関するネタバレを含みます。
ノンバーバルで魅せる凝縮の70分
舞台は日本語と英語による注意事項の説明から始まるが、幕が開けば台詞によるやりとりがない(あっても、ジャズのスキャットのような宇宙語)。5人のキャストはストレートプレイとは一味違うテンションの高さで、パントマイムやアクロバット等を披露する。全体がひとつの物語なのはもちろん、場面ひとつひとつにも個性がある。サイレント映画のドタバタ喜劇の一幕や、コンテンポラリーダンスのような一幕、お客さん参加型のマジックショーとなる一幕など、そこだけを切り出してみても短編作品として満足してしまうほどだ。
「W3(ワンダースリー)」オフィシャル提供画像
「動きだけの表現なので、やってみないと分からない。やってみて『今のがおもしろかったからこれにしよう』『今度はこうやってみよう』の積み重ねです。ひとつのワードに対し動きのバージョンが10くらいある感じで『この前の方がおもしろかったからあっちに』と言われたら、それをすぐに出せないといけない」
木下も「段どりの数は1000くらいあるのでは?」と言う。楽しそうにうなずく西島に対し吉田が「戸惑いませんでしたか?」「大変じゃないですか?」と問うと、西島は「戸惑いしかありませんでした」と笑顔で切り出した。
「日々戸惑いの旅に出かける気持ちです。でも、そういうところにきっとある『知らないもの』に興味をひかれるんです。大変なのは、僕らよりもスタッフさん! このセットの裏は人が1人通れるか通れないかのスペースしかない。そこを2人同時に通ろうとするから、舞台裏にも不思議な世界が広がっています(一同、爆笑)」
「W3(ワンダースリー)」オフィシャル提供画像
50年前の作品と現代の技術
ステージには、ベッド、流し、テレビや冷蔵庫が配置され、アパートメントの1室となっている。全200席程度の会場で客席と役者との距離は近い。大きな劇場ではないが照明や音響システムに恵まれているらしく、透明感のある青いライティングや、浮遊感のあるサウンドが効果的に使われていた。
「W3(ワンダースリー)」オフィシャル提供画像
アナログな身体表現がフル活用されているからこそ、プロジェクションマッピングによる演出も引き立つ。部屋の柱や壁の枠が漫画のコマのように活用され、物語は現実の世界と漫画の中を行き来する。窓の外で雨が降れば、窓ガラスに「ザーッ」という文字が映し出されたり、何か思いついた人物にパッと閃いたようにライトがついたり。生身の人間と現代の技術で、MANGA Performanceと名付けるにふさわしい世界が生まれていた。
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家具や日用品で宇宙も表現
トークショーに登壇した吉田は、7月のトライアウト公演や稽古場も観ている。そこで注目していたのが、セット内の家具や日用品の使い方だ。テーブルを車やピアノに見立てたり、日用品で宇宙人のシルエットを表現したり、冷蔵庫からは人が登場、ベッドの布団で空飛ぶ雲を表現するなど、部屋中に仕掛けが詰め込まれていた。観劇中は作品に夢中で意識することもなかったが、SF大冒険の全シーンを舞台転換をせず、その場にいるメンバー、あるもの、そして映像で創り出していたのだから驚かされる。
稽古期間中は「部屋にあるもので何を表現できるか」という宿題(吉田は「ものボケ」と表現)があったのだそう。西島が「自宅の日用品を色々持ち出したので、うちのキッチンで料理ができなくなりました」と明かした。その時の家族(妻は真矢ミキさん)の反応を尋ねられると「ぽかーん……と(笑)」と説明。会場は笑いに包まれた。
「W3(ワンダースリー)」オフィシャル提供画像
進化していくW3
公開初日この日は、舞台終了後に、1965年に放送されたアニメ版も上映された。アニメ版でも原作でも、たとえば3人の宇宙人『W3』がなぜ動物に姿を変えたのか一切説明しない等、シュールな展開が続く。木村はその点に触れた上で、次のように思いを語った。
「原作でも物語はシンプルで、地球を偵察にきた3人の宇宙人が少年と出会い最終的に地球を助けようという話です。そこだけ押さえ、シュールなところはそのまま受け入れていただき、あとは手拍子したり一緒にリズムにのっていただいたり、自由に楽しんでいただけたらうれしいです」
「100回を超える長期公演を前提に作っているので、パフォーマーは今日出演した5人の他にも2チーム(10名)あります。同じメンバーでもブラシュアップされていきますし、チームによりコメディ色が強くなったり、動きが中心の演出になったり、作品の雰囲気も変わります。ぜひ色々なパターンをお楽しみください!」
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西島は漫画を読む習慣がなかったことから、本作へのオファーがあった時には不安も感じたという。しかし自身がつづけてきたバレエダンサーとしての経験を振り返り「バレエはファンタジーの世界をみせるものです。漫画というファンタジーに入っていく主人公の星真一君と、近い感覚があるのではと気づいてからは楽しくなっていきました」「漫画でみても真一君はかわいいですよね。今46歳なので(客席どよめく!)少年になりきっちゃわないとできないと思いました。でもそうなろうとすると劇中のようなおかしなテンションに……」と照れ笑い。「今までにないジャンルの舞台を皆さんに楽しんでいただければ」と締めくくった。
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原作ファンはもちろん、ダンスパフォーマンスに興味がある方、現代アートのインスタレーションが好きな方、楽しいことや新しいことが好きな方におすすめだ。『MANGA Performance W3(ワンダースリー)』は11月3日より12月22日までの上演。
「W3(ワンダースリー)」初日公演後のトークショー
MANGA Performance『W3(ワンダースリー)』
■公演:2017年11月3日(金・祝)~12月22日(金)
■会場:DDD青山クロスシアター
■出演者
西島数博、フィリップ・エマール、川原一馬、椎原夕加里、石井咲、藍実成、坂口修一、梅澤裕介、松本ユキ子、関口満紀枝、伊藤壮太郎、鈴木秀城、坂口涼太郎、廣瀬水美、手代木花野(うち、5名1組が出演)
■公式サイト
http://www.manga-p-w3.com/