SHISHAMOインタビュー 映画『ミックス。』に書き下ろした2曲と史上初の等々力陸上競技場ライブを語る
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SHISHAMO 撮影=上山陽介
SHISHAMOのニューシングル「ほら、笑ってる」は新垣結衣と瑛太が主演している映画『ミックス。』の主題歌に、カップリングの「サボテン」は挿入歌になっている。「ほら、笑ってる」は憂いを帯びたミディアム・ナンバーなのだが、主人公のせつなさ、やるせなさと同時に、前に進んでいこうとする前向きさや健気さも伝わってくる、深みのある名曲だ。カップリングの「サボテン」は表情豊かな歌声とポップで疾走感あふれるみずみずしいバンド・サウンドから、ひたむきに生きる主人公の姿が目に浮かんできそうだった。映画の主人公の心模様と重なる曲であると同時に、聴いた人たちの気持ちを代弁するような普遍性を備えているところも素晴らしい。この新作について、そして来年夏に開催される等々力陸上競技場でのライブについても、ギター&ボーカルの宮崎朝子に聞いていく。
——映画の主題歌と挿入歌ということですが、映画の話が来て、作り始めた曲なのですか?
そうです。映画の台本をいただいて、映像もいただいたので、台本を読み、映像を何回も観ながら作りました。
——もともとSHISHAMOの歌って、主人公がいてストーリー性があるというのが基本なので、ある意味、どれも映画の主題歌的でもあります。作る上で、得意ジャンルという感覚は?
不安はなかったですね。作っているうちにだんだん不安になってきたりはしましたけど。
——それはたくさんの期待を背負っていると感じたからですか?
今までだったら、SHISHAMOとしてのいい曲を作れば良かったんですが、映画の曲になるということは、私たちだけのものではなくなるということでもあるので、普段なら、これだけの人間が納得出来るものになれば出せるというところを、より多くの人に納得してもらえないと出せないなって。ある種、ハードルが高くなったところがあったので、そのプレッシャーはありました。
——作ったのはいつ頃ですか?
5〜6月かな。春のツアーの終わりぐらいから作り始めました。
——春の全国ツアーでは、ショートムービーとライブがシンクロするような演出になっていました。映画と音楽の相乗効果という意味では、何か共通するところはありましたか?
いえ、そこはあまり一緒に考えてなかったですね。あの時は演出であって、あくまでもライブのための映像だったんですが、今回は映画のための曲という感じだったので。あのときのツアーは、それぞれの曲をいかにみんなに感情移入して聴いてもらうか、という目的があって、10分ぐらいの曲にまつわる映像を流して、そこから曲を始めることで、観客の中に歌のストーリーを呼び覚ます——的なやり方が前提にあったんですが、今回はホントに映画のために作ったので。
——台本を読んで、映像を観たことによって、曲作りに何か変化はありましたか?
元々、SHISHAMOの曲はどれも主人公が存在していて、その主人公の心情を描いていくという手法でやっているので、そこは変わらないですね。いつもは自分の頭の中で主人公を作るんですよ。こういうところに住んでて、こういう性格の女の子で、こういう服を着ていて……って。その手間が省けたバージョンみたいな(笑)、そこからスタートできるという点以外はいつもと特に変わらず、でした。映画でストーリーのイメージが既にできているので、その気持ちを追いかけるような意識で書いていきました。
——最初のほうで出てくる<一人じゃないこと 知ってしまったから>というフレーズがとても印象的でした。
映画の主人公の多満子もそんなに強い人間ではなくて、まわりの人がいるから、ここまでやる気になれるんだってことがすごく伝わる映画だったので、そこをちゃんと描けたらいいなと思って、書いていきました。SHISHAMOの曲は基本的に恋愛の曲が多いので、そういう意味ではいつもと違う部分もありました。多満子って、うまくいかないことばかりで、うまくいくことのほうが少ないタイプなんですよ。なので、いいところばかりじゃなく、そういうところも描けたらと思っていました。映画が終わったあとに聴く曲なので、映画の中の良かった場面を思い出すというよりも、つまずいたところを思い出せる曲になったらいいなって。
——<奇跡なんて起きない>というフレーズもいいですよね。他力本願ではなくて、自力でいくしかないという。
その言葉が映画の中でキーワードみたいに使われていて、何回か出てくるところがあったので、そこから取りました。ちょっと悩んだところではあったんですけどね。ちょっと暗いかなと思ったんですが、みんなが「いい」と言ってくれたので、良かったなと。
——映画の中で流れるということに関してはどうでしたか?
エンドロールで流れるんですけど、曲が流れる場面の映像をいただいていて、あとはSHISHAMOの曲が入るだけという状態だったので、その映像を何度も繰り返し観ながら作りました。どうやったら、映画をちゃんと完結させられるかなってことは考えていました。映画の中でこの曲も大きな役割を担っていると思ったので。
——あとは<空も笑ってる>というフレーズもいいなあと思いました。
これはそんなに大したフレーズではなくて(笑)。映画の曲ではあるんですが、特別な人が主人公というわけではないですし、聴いた時に、“これは自分の曲だ”って、たくさんの人が思える曲にしたいと思っていて。空って、みんなが見るものじゃないですか。あまり限定したくなかったので、こういう言葉になったんじゃないかと思います。映画の主人公は限定されていますが、聴く人によっては、主人公が見えない曲になったらいいなと思いました。映画の曲であると同時に、SHISHAMOの曲でもあるので。
——この歌の主人公と宮崎さんとで重なるところはありますか? これまでの人生の中での自分の経験が反映しているとか?
いや、それはないかな(笑)。
——一人じゃないからこそ頑張れるという多満子と通じるところもないですか?
ないですね(笑)。多満子はまわりのために何かしようと思える人だと思うんですが、私はまわりのためというよりも、自分のために、ということが多いですから。
——映画の製作サイドから何かリクエストはありましたか?
リクエストというか、打合せをしたんですけど、作ってるうちにかなり変わりましたね。主題歌用にほかにも何曲も作っていったんですが、作っていくうちにいろいろ変わっていって。最初はもうちょっと明るい元気なイメージで作っていたんですが、いろいろ話していくうちに“そうじゃないかも”と思うようになり、この形に落ち着きました。
——話し合って作るのはどうでしたか?
楽しかったですね。私は曲を作るときに縛りがあるほうが楽しめるほうなので。“こういう条件の曲”とか何かルールがあると楽しいんですよ。何もないと、自分の好きなようにできるんですけど、いくらでもできてしまうので、それって逆にあまり楽しくないというか(笑)。
——縛りがある中で工夫を凝らすほうが、より創造性が発揮されるという面はありそうですね。単純に、縛りがあったほうが燃えるというのは?
あるかもしれませんね(笑)。
——広がりのあるバンド・サウンドが気持ち良く響いてきました。レコーディングはどんな感じでしたか?
いつもどおりです(笑)。SHISHAMOのレコーディングって、ホントに特に言うこともないレコーディングなんですよ。リリース時期になると、いろんな人から「レコーディング時のエピソードは?」って聞かれたりするんですが、何事もなく終わるという。朝、スタジオに来て、録って、終わったら帰る、みたいな(笑)。
——そのなかでも全員が歌の世界に向かって演奏していると感じました。
この曲は歌を聞かせることを意識して、3人で演奏しました。曲によってそこは違っていて、夏に出した「BYE BYE」というシングルでは“バンドを見せよう”という演奏を心がけたんですが、今回は真逆で歌を見せるための演奏ですね。ここのベースがかっこいいとか、このギターがかっこいいとかいうのはナシで、歌をしっかり聴いてほしいというアレンジをしました。
——でもギターもニュアンス豊かで、歌とともにハモっていくかのようでした。
ありがとうございます。
——ハーモニーも効果的にも入っています。
コーラスはライブで頑張らないといけないんですけどね。ああいうコーラスにしちゃうと、練習が大変になります(笑)。
——映画の挿入歌になっている「サボテン」はポップな曲ですが、これはどんなとっかかりから?
これは映画のどの場面で流れるのかが決まっていたので、映像をいただいていて、作りました。多満子がちょっと挫折して、立ち直って前を向いて頑張るぞっていう場面での曲なので、背中を押すような感じで、多満子が走ってる姿を思い浮かべながら作りました。ここからここまでっていう、曲の長さも決まっていたので、ピッタリ合わせるために調整するのが難しかったです。
——サボテンというタイトル、モチーフはどこから出てきたのですか?
曲名はあとから決めたんですが、歌詞に偶然、“サボテン”って出てきたので「サボテン」にしました。サボテンは歌詞をするっと書いた時に、たまたま出てきた感じですね。SHISHAMOの曲にはあまり物の名前がドンとくるものがないので、新鮮でした。
——3人が演奏する様子、表情までもが見えてきそうだなと感じました。
曲自体がSHISHAMOの得意分野のほうなので、「ほら、笑ってる」よりも、演奏していてしっくりくる感じはありました。
——映画の中で流れるのを実際に観て、どんなことを感じましたか?
完成して良かったなと思いました(笑)。何曲も書いたので。
——高校生限定の映画試写会では映画の終演後、生演奏されたとのことですが、反応はどうでしたか?
あの試写会はちょっと変わった感じでしたね。あんまり普段ない感じで、とにかく緊張しました。映画を観た後ということもあったし、「サボテン」自体が初披露だったし、「ほら、笑ってる」もフルで演奏するのは初めてで、しかも普段はあまりライブをするようなところではない場所での演奏だったので、様々な要素が重なって、かなり緊張しました。
——映画出演者や関係者の方々からのこの2曲に関する感想で、印象に残った言葉はありますか?
新垣結衣さんも瑛太さんも試写会で演奏してるのを観ていてくれて、いろいろ言葉をかけてもらいました。新垣さんは「家で夜、聴いて泣いてます」って言ってくださって、瑛太さんは「生でバンドで聴けてうれしかった」って言ってくださって。3人のグルーヴのこと、ギターのことなども話してくださいました。
——映画を観て、この曲を聴く人に向けて、言葉をいただくとしたら?
SHISHAMOの意思は関係ないのかなと思っています。映画の最後に流れるんですけど、映画の一部になっているものだと思うので、SHISHAMOの曲というよりも、最後の曲までが映画というふうに聴いてもらえたら、うれしいですね。
——11月6日からライブハウスツアーが始まります。こんなステージにしたいというイメージはありますか?
新曲をやろうかなって思ってます。まだ見ぬヤツ。
——今回のシングルよりもさらに新しい曲ですか?
そうです。もっと新しいのをやろうかなと思ったり。あとは映画で知った人とか、今回初めてSHISHAMOのライブにくる人も多いと思うので、そういう人にも伝わるようなライブをしたいです。なんというのかな、より広い気持ちでできたらいいなって。
——もともと広いですが、さらに間口の広いライブということですね。
最近、ライブに来るお客さんの層も変わっていて。以前はバンド好きの高校生や大学生が多かったんですけど、今は小中学生とか、ご夫婦とか、ご家族で来る人もいるので、そういう人にとっても、また来たいなと思えるライブをしたいです。今回、ライブハウスなんで、お客さんとの距離が近いのが楽しみですね。お客さんも喜んでくれるし、私たちもすごくうれいしいことなので、その距離感を大事にして、演奏できたらと思います。
——ライブハウスでのツアーがある一方、来年夏には等々力陸上競技場でのライブも決定しました。この場所でライブが行われるのは初めてなのではないですか?
SHISHAMOのライブが初めてということになりますね。私は生まれも育ちも川崎で、小中高すべて川崎で、今も川崎に住んでいるんですけど、あまりライブをやっていないので、川崎でライブをやりたいという気持ちを前から持っていたんですよ。そんな中で「明日も」という曲ができた場所が等々力陸上競技場ということもあり。
——以前のインタビューで、「明日も」は川崎フロンターレの試合を観に行って、サポーターの存在を知ったことがきっかけで作った曲と言ってましたもんね。
それまで個人的にあまり趣味がなかったんですよ。趣味がある人って、そのおかげで仕事を頑張れたり、学校に行くのを頑張れたりすると思うんですが、私はあんまりそういうのがなくて。川崎フロンターレを応援するようになって、等々力に行くようになってから、私自身、サポーターの皆さんと同じように頑張れる気持ちにさせてもらったこともあり、その場所でライブができたらうれしいなと思って。等々力ではミュージック・ビデオを撮影させてもらったりもしていて、それもSHISHAMOが初めてだったんですけど、そういうつながりもあって、いつも試合で人がたくさん入っているところを観ているし、大変だろうけど、ここでライブができたらいいなって思うようになりました。
——前回のインタビューの時に、「明日も」はいつものSHISHAMOの曲とはちょっと作り方が違うので、どう受けとめられるのか、不安だと発言されてましたよね。
作ったときはアルバムに入れるのも悩んでたぐらいで、SHISHAMOの曲として出していいのか、迷っていたんですけど、ライブをやっていく中で、この曲に対する意識が変わっていきました。私はライブ中に、端から端までお客さんを見ながら歌ってるんですが、「明日も」を歌い始めると泣く人がたくさんいて。そういう光景を観ていると、その人にとっての大事な曲になっていたり、明日から頑張るための曲になっていたりするんだなと気付かされて、お客さんのおかげで好きになった曲でもあるんですよ。
——ある意味ではこの曲に導かれて、等々力陸上競技場でのライブを開催することになったとも言えそうですよね。曲が生まれた場所で、「明日も」をやるって、すごいことになりそうです。
それ以上のことはなかなかないですね。不安もあるんですが、まだ時間がたくさんあるのでいろいろ考えていて。みんなでワクワクできること、今までやったことがないこと、いろいろ出来たらいいなと思っています。
取材・文=長谷川誠 撮影=上山陽介
「ほら、笑ってる」
01. ほら、笑ってる(映画『ミックス。』主題歌)
02. サボテン(映画『ミックス。』挿入歌)
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